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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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異世界うるるん滞在記~子連れJKが、みかんのはこを装備した~(4)

 …さて、と。


 安堵したのも束の間。気を取り直してあたしは、眼前にまで迫った軍門を改めて見上げる。


 最初の難関は、どうにかクリア出来たけれども、而してこの後にも難題が山のように控えている。これは、暫く過集中のスイッチを入れっぱなしに、しておいた方が良いわね…


 等と考えた、ちょうどその時――


 ――ワアアアァァァーーーッ!!


 聳え立つ巨大な外壁の向こう側から、割れんばかりの歓声が木霊となって聞こえてくる。その激しさたるは、壁を挟んだこちら側の大気までをも、震えんばかりの勢いだ。


 突然の歓声に、一体何事?と思っていると…


『…今、バージナル王が壇上に上がりましたわ。』

『ってぇ事は、いよいよって訳だねぇ?』

『えぇ。』


 不意に聞こえた通信リング越しのやり取りに、心の中で成る程と呟き納得する。さっき言ってた、激励の言葉を告げる為に王様が壇上に上がると成れば、盛大に盛り上げて迎え入れるのが当然だろうかんね。


 とは言え、出陣を前にしてのこの盛り上がりようは、在る意味異様ね。王直々に激励の言葉を貰えると言えば聞こえが良いけど、敵がわんさか押し寄せる前線にこれから送り出されるなんて、ぶっちゃけ死刑宣告みたいなもんじゃない。


 生きて帰ってこれる保証の無い場所に、半ば強制的に送り出されるってのにさ。それなのに、巨大な壁越しにでもハッキリ伝わってくる、兵達の熱気と士気の高まり様は何なん?


 兵達の愛国心がそれだけ強いのか、それともその現バージナル王のカリスマ性によるところなのか、或いはその両方なのか…


 いずれにしても、戦争なんてものと全く無縁だった日本で暮らしていたあたしからすると、ちょっと理解出来ない感覚だわ。これが仮に戦時中だったら、あたしにも理解出来たのかしらね?


 まぁ、それはそれとして――


 ――ワアアアァァァーーーッ!!


「…始まったか。」

「いよいよだな!」

「よーし!じゃぁこっちも準備始めるぞ!!」

「「おぉっ!!」」


 壁の向こう側から歓声が聞こえ始めた直後より、軍門周辺に集まった見回りの兵達が、途端に活発な動きをし始める。その動きを、なんぞやと思いつつ目で追っていくと、兵士達はどうやら門の両端に向かっているようだ。


 そして、ある一点を起点――たぶん、解放された門扉が開ききった部分でしょうね――にして、向かい合う形で綺麗に一列横隊をしていく兵士達。


 その光景を目の当たりにしてあたしは、ようやくここの兵士達が何の目的で集まったのかを理解した。成る程、要は出陣する同胞達を送り出す為に、花道作ろうってそういう訳ね。


 見張りや警備にしちゃ、随分数が多いなって思ってたんだけど道理で…って、納得してる場合じゃないじゃん、あたし!


 そうと解った以上、さっさと行動しないと!いくら見た目が同じだからって、何時までもボォーッと観察してたら、流石に怪しまれちゃうじゃない!!


 それに何より、潜入するのが1番の目的なんだから、なるべく門扉の側に陣取るのがベストよね。ここで出遅れて、列の最後尾なんかになっちゃったら、とんだ間抜けじゃない。


 そう思うや否や、軍門に向かい小走りで駆け寄っていくあたし。と、ちょうどその時、壁の向こう側からあれだけ騒がしく聞こえていた歓声が、不意にピタリと鳴り止んだ。


 その直後――


 ――我が軍国が誇る忠勇たる兵士諸君…


 壁の向こう側から只1人の声が、独特なエコーを効かせ大音響で鳴り響く。バージナル王の演説が、遂に始まったらしい。


 となれば、軍門が開け放たれるのも時間の問題ね。なら急いで、場所取りしなくっちゃだわ。


 などと考え、動かす足に力を込めて先を急ぐ。その間も、バージナル王の演説は続く――


 ――諸君等も既に承知の事と思うが、ユニコーンがフェミルの湖畔より出陣したとの報せがあった。それも2頭同時にである!


 次いで、壁の向こうから聞こえてきたその言葉に、周囲に居る兵士達の間に、僅かばかりの動揺が走ったように見える。どうやらここに居る兵士達の多くは、その『承知の事』の範囲から漏れた者達らしい。


 まぁ、考えてみればそうよね。なんせ、あたしが明陽さん達と別れてから、まだ6時間位しか経ってないんだもの。


 こんな短時間で進軍の準備を整えた事から見ても、そっちに手一杯で末端の兵にまで、事態を伝える余裕なんて無かったんでしょうね。


 ――それはつまり!近々蟲人共による大規模侵攻が行われる事を、示唆しているに他ならない!!


 尚も続く演説を聞きながら、横に整列する兵士達の真後ろ迄やってきた。と同時にあたしは、辺りを見渡して入り込めそうなスペースを探し始める。


 理想としちゃ、やっぱり門扉の直ぐ側が良いんだけど…順当に考えるなら当然、門扉に近い方が兵士としての階級も高くなるだろうしなぁ~


 その考えが的を得ていると言わんばかりに、この隊列の先頭方向に居る兵士達の装備って、その他大勢の兵士達と少し違う気がするのよね。と言うか、いっちゃん先頭に陣取った兵士に至っては、兜被らず顔晒してるし。


 明らかに、隊長クラスよねアレ…さて、どうしよっかなぁ~


 ――此処に集まった者達の中には、前回起きた大規模侵攻を覚えている者も、数多く居る事だと思う。前回の攻防戦で我が軍国は、甚大な被害を被った…


 …と言うか、むしろ最後尾の方に陣取った方が良いかも?


 だって一度軍門が開けば、兵士達を全て送り出すまで、門が閉じる事はまず無いんだし。そう考えると、そこまで時間を気にする必要は無さそうよね。


 となったら、距離にそこまで拘る必要無いわよね。花道の全長なんて、長くとも精々2~300M程度でしょうし。


 此処に集まった兵士達が全員片側に寄れば、そりゃ5~600M位には成るかもだけど、それにしたってダッシュすれば3~40秒位で、門扉までたどり着けるからね。となれば、距離にあんまり拘らず大人しくしておいた方が得策かも。


 ――その時に英霊となった忠勇達の中には、諸君等の親しき者達が居たであろう。友人は勿論、中には親兄弟あった者も居たであろう…


 よし、決定。したらば下の方に向かって歩いて、空いてるとこに紛れ込もう。


 ――我にとっても、その者達は善き臣民であった!!その英霊達が護りし我らが領地に、今再び邪神の軍勢の脅威が迫ろうとしている!!


 その考えのもと、横列する兵士達の背中側を移動していると、程なく視線の先に人1人分入れるスペースを発見。すかさずあたしは、その場所へと身体をねじ込んだ。


 ここから軍門迄、だいたい100メートル程度って所かしらね。ダッシュしたら10秒と掛からないし、スタート地点としちゃ悪くないわね。


 と言う訳で、この演説が終わるまでここで待機する事にした。続いてあたしは、怪しまれない為にも周りの風景に溶け込もうと考え、周囲の兵士達の動向を探ろうと視線を巡らせる。


 直後――


 ――その事実を!甘んじて受け入れようとする者がこの場に居るであろうか!?答えよ!!


 ――否ッ!!


「「「「否ッ!!」」」」


 不意に壁の向こう側で、コール&レスポンスが起こったらしい。それはまぁ良いのだけれど…


 そのコール&レスポンスに、若干遅れ気味にだけども、こちら側に居る兵士達迄もがまさかの参加。叫び声を上げながら、各々が手にする武器を天に向かって、突然振りかざし始めた。


 お、おぉう…何の心構えも用意してなかったから、流石にちょっとびっくりしたわ…


 改めて思うけど、ほんと士気高いわね~


 ――この国に残す諸君等の家族を!愛すべき者達を!全ての臣民達を!そして、先人達が護り残した我らが領地を!!元神などと嘯く邪神の好き勝手にして、善しと断ずる者がこの場に居るであろうか!?答えよ!!


 ――否ッ!!断じて否ッ!!


「「「「否ッ!!断じて否ッ!!」」」」


 なんて感想抱いた所でのおかわりコールと、それに応えるレスポンス。流石に声は出せなかったけど、今度はちゃんと身振り手振りで対応したよ!


 ――その意気や善し!!そなた達にその熱意がある限り、我らが祖国が蟲人共に侵略される事は、決して起こりえない事である!!そうであろう!?


 ――オオオォォォーーーッ!!


「「「「オオオォォォーーーッ!!」」」」


 尚も続くそのおかわりコールに、壁の向こう側で直にその演説を聴く兵士達は勿論、こっちで甲斐甲斐しく花道作ってた兵士達の熱意も、最高潮に達したらしい。最初に喩えた時とは打って変わり、今や本当に歓声で大気が振るえている。


 その震える大気を肌で感じながら、身振り手振りを真似するあたしは、心の中で若干の罪悪感に冷や汗をかいていた。


 いやぁ~想像してた以上に大事になったわね…なんて、人事みたいな感想抱いちゃってるけど、この状況引き起こした元凶って、他ならぬあたし等なのよねテヘ☆


 だからこそ、ここまで騒動が大きくなってしまった事に対する、謝罪や悔恨なんて気持ちは微塵も無い。そういった諸々の感情は、もうずっと前に折り合い付けてきているもの。


 ならなんで、今あたし罪悪感を抱いたか?それは、ここに集まったバージナル兵達――より正確には、この世界に住む全ての者達が、邪神や蟲人達に抱いている憎悪の深さを、ちゃんと理解していなかった事に対してだ。


 邪神とその一派が、この世界に住む者達にとって脅威で在り、憎しみの対象である――


 そんな話しを、ここに至る今まで散々耳にしてきた。それはもう、耳にし過ぎてタコが出来る位に。


 話を聞かせてくれる人の全てが、口を揃えてそう言うのだから、きっとそうなんだろう。正直、今までそんな人事みたいな認識だった。


 まぁ実際、あたしにとっては人事だからね。あたし個人には、邪神は勿論その一派を、憎んだり恨んだりする気持ちなんて無いから。


 風の谷で、その一派であるロードと命のやり取りしといて、こんな事言うのも何なんだけど…まぁ、それは横に置いとくとして。


 そんな心構えなもんだから、この世界の住人達がどの位蟲人達を憎んでいるのかって、正直な所あたしには理解出来なかったのよね。だって、聞いた話から想像するしか無かったんだもん。


 そりゃ、ガイアースの記憶に触れたり、蟲人を前に豹変したシルフィーの殺気を肌で感じた事は在るけど…あの2人は、発端となった神代戦争の頃から、ずっと生きてるんだから参考にならないじゃ無い?


 だって今この世界に生きてる大半の人達って、発端となった当時の事は勿論、下手したら蟲人の姿を直に見た事無い人だって居る筈だし。そういった人達の剥き出しの感情を直に見なきゃ、とてもじゃ無いけど理解なんて出来っこない。


 その、今を生きる人達の剥き出しの感情ってやつをあたしは、あたし達の起こした行動が原因で、今正しく目にしてしまっている。なんとも皮肉な話しよね~


 さておき。それでようやく感じた、邪神や蟲人達に兵士達が抱く憎しみの深さは、あたしの想像を絶する位に強いと言う事だった。


 愛国心?カリスマ性?とんでもない。少なくともここに集った兵士達は、下手したら自分の命と引き換えに、蟲人を道連れにする位の覚悟がありそうだわ。


 そりゃ、士気だって高くなるってなもんよね。道理で、あたしに理解出来ない筈だわ…


 そんな彼等の感情を利用して、行動しやすいように事態をここまで動かしてきたんだけど…まさかここまで根が深いとは、想像だにしていなかった。


 だから、何と言うか…知らず知らずの内に、彼等の決死の覚悟を踏みにじってしまった様な感じがして、今更ながらに気が引けちゃったと言うか…


 …ほんと、今更何言ってんだって話しよね。そもそも、目的の為に手段を選ぶ余裕が無いから、こうするって決めた時点で覚悟してたじゃない。


 ――オオオォォォーーーッ!!


「「「「オオオォォォーーーッ!!」」」」


 鳴り止まぬ大歓声の中、周囲に溶け込む演技をしながら、そんな事を考え自嘲気味に苦笑する。


 ここまで来て、そんな事気にした所で計画を中断するなんて、それこそあり得ないっていうのにね。全く、我が事ながら女々しい事だわ…


 続け様にそう考えるや、気持ちを切り替えようと深呼吸を1つ吐く。そしてあたしは、今後の行動等について今の内に考えておこうと、思考を巡らせようとした次の瞬間――

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