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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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異世界うるるん滞在記~子連れJKが、みかんのはこを装備した~(3)

『それはそれとして。ちょいと聞きたい事があんだけど、今良いかねぇ大将?』

『リンダ?改まって、一体どうしましたの?』

『いやさ、ちょいと気になる事があってねぇ。』

『気になる事…ですか?』

『あぁ。』


 なんて事を考えながら軍門に向かって歩いていると、不意にリングを介し仲間達の会話が伝わってくる。既にエリアサイレントの腕輪を発動したあたしは、残念ながらその会話に参加出来ない。


 なので必然的に、聞くに徹するしか他に無かった。同時に、周囲の警戒も怠らないようにしつつ軍門へと向かっていく。


 ここまで来て、会話に気を取られて油断しちゃいましたじゃ、流石に笑い話にもなんないからね。しかしそうと解っていても、向こうの会話が気になって仕方がない。


 と言うのも、口振りや声のトーンこそ、普段のリンダのソレなんだけど…心なしか、僅かながら怒気を含んでいるように感じたからだ。


 あたしが『はて?』と思った、その直後――


『大将の居るそこから、()()()()()()の姿は確認出来るのかい?』


 ――リング越しに聞こえたその台詞に、自分の感性が間違っていなかったのだと確信する。伏せられているけど、ソレが誰を指しているかなんて明白だった。


 チェコロビッチ――今回の騒動の発端である、メアリーを闇ルートで買ったとされる、碌でなしの異世界人。


 正直、リンダ達と合流した直後に経緯を聞いて以降、今の今までその話題に触れてこなかった。理由は単純で、その人物像からして聞くのも語るのも、耐えられそうに無かったから。


 だって明らかにそいつ、女性を性欲のはけ口位にしか、思ってそうに無い女の敵だからね。そんな男尊女卑のお手本みたいな奴、ハッキリ言って生理的に無理、受け付けない。


 ましてそれが、ジェンダーギャップの是正なんかが、先進国で問題視されてる昨今の地球からやって来た、あたしやミリアからすると特にね。


 それに何より、メアリーの事を考えるとなかなか…ね。状況が状況だったら、もしかするとそいつに、弄ばれてたかも知れない訳だし。


 …成る程。だから彼女が戻る前に、その存在を確認しておこうという訳ね。


 在る意味、島津将軍以上に注意しないといけない人物だもんね。所在と動向は、確かに気になる所だわ。


 まぁでも、断片的な情報からしてそのチェコロビッチなる人物も、軍には所属しているらしいし、出兵するとは思うんだけど…


『…少なくとも、ここからでは確認出来ませんわね。』

『そうかい。すまないね大将、手間を取らせちまって。』


 先の質問が為されてより、暫くの沈黙を経てシフォンが答える。随分と時間が掛かった事から察するに、余程丁寧に注視したに違いない。


 群衆の中から1人を見つけ出すとなったら、その位掛かって当然だろうけど…嘘か誠か、その碌でなし異世界人は、島津将軍と立場的に近い位置に居るらしい。


 ならきっと、一般兵が整然と立ち並ぶ軍列から離れた、目立つ場所に居ても良い筈。仮に兜なんかで顔を覆ってたとしても、一目ハッキリと当人を見たシフォンだったら、体格や雰囲気なんかで判別出来そうなものだ。


 にも関わらず、発見出来なかったという事は…まさか、予備戦力として街に駐留するなんて事になったとか?


 だとしたら厄介ね…潜入中、それらしき人物と鉢合わせしたらって考えると、正直少し不安だわ。


 リング越しに伝わってくる様子からして、リンダがそいつに対し腹に据えてる物が在るのは間違いないし。それにあたしだって、正直そいつに思う所が在るもの。


 もしも潜入中に、そのチェコロビッチって奴の事を発見したら、リンダからしたら問答無用で斬り掛かる位の事、思ってても可笑しくないだろう。あたしにしたって、顔面を1発ぶん殴りたい位の事は思ってるからね。


 しかしそうは思ってても、事ここに至ってその感情を優先したりはしない。と言うか、出来ない。


 だって、あたし達の最大の目的は、囚われの身となったメアリーの恩人達を、バージナルから救出する事。その共通認識の元、ここまで色々と準備してきたんだもん。


 そんな個人的な感情を優先するなんて軽率な事、散々協力してきてくれたみんなに対し、申し訳なくって出来やしないわよ。少なくとも、()()()()()()2()()()()()()()()()()()()()()()()()()――ね。


『――これに魔力を込めて話せば良いのね?』


 そんな不穏な事を考えていると、不意に新たな人物の声がリング越しに届く。聞き知ったその声の主は、誰在ろう――


『お帰りなさい、エイミー。』

『えぇ、ありがとうシフォン。』


 喋れないあたしの変わりに、真っ先にシフォンがその名を呼んで迎え入れる。それに柔らかな口調で返したかと思うと、次いでため息が漏れ聞こえくる。


『…予想だにしていなかった方と、エルブンガルドでお会いしてしまって、その方の対応で時間を取られてしまいました。』


 そしてその直後、どこか疲れた様子でそう告げるエイミー。きっと今頃、何時もの困った様な苦笑を浮かべ語っているに違いない。


『予想外の方…ですか?』

『えぇ、そうなんです…それが無ければ、もう少し早く戻ってこられたのに…』

『そうでしたの、大変でしたのね。』

『こちらよりも、シフォン達の方が準備を進めたりして色々大変でしたでしょう?少しも手伝えずに、本当にごめんなさい。』

『そんな事、気にする必要は無いさね。なぁ?』

『Sure.全然気にしていません。』

『そ、そうですよ!』


 そして更に発言が続き、ふと謝罪の言葉がエイミーの口から告げられる。きっと、準備に全然参加出来無かった事に対して、申し訳なく思っているんだろう。


 それに、気さくな様子でリンダが返したかと思うと、ミリアとジョンがその後に続いて声を上げる。而して彼女達の言う通り、そんな事エイミーが気にする必要なんて、これっぽっちも無いだろう。


 だって、遅れたくて遅れた訳じゃ無いんだしね。まぁ、エイミーらしいっちゃらしいけどさ。


『けどよぉ、あんた程の相手が対応に追われるなんて、そりゃ一体何処の誰さね?』

『それが…』


 それはそれとして。更に会話が続き、いよいよリンダの口から確信に迫る質問が為された。


 それにエイミーは、聞くからに重い口取りで話し掛けるも、何やら躊躇った様子で言葉を飲み込んだらしかった。


『…いえ。話せば長くなるので、今は止めておきましょう。』


 それから一拍間を置いて、次に彼女が口にした台詞がそれだった。言い掛けておいて、急に止めるなんて意地の悪い事、なんだかエイミーらしくないわね。


 彼女の事だから、態とって訳じゃ無いのは解るけど…ここまで来て、そんな風に焦らされたら余計気になっちゃうわよ。


『おいおい、そりゃ無いさね。余計気になっちまうじゃないかい、なぁ?』

『Yes!私も知りたいです。』


 話しに参加していないあたしでさえそうなんだから、参加してた面々なら尚更そうよね。予想道理というか何と言うか、リンダが先陣切って問い質し、援護射撃をミリアが行う。


 その様子を外野から聞きつつ、堪え性の無い2人に思わず苦笑い。しかしそんな風に嗤ったのも束の間、直ぐさま表情を引き締めたあたしは、周囲の警戒をより一層強める。


 軍門までの距離、残す所50メートルと言った地点にまで差し掛かったからだ。ここから先、行き交う兵士達の合間を縫い軍門へと更に近づかなくちゃいらない。


 ただ近づくだけなら問題ないけど、これからその兵士達に気付かれないようにして、眷属の効果を解除しないといけないかんね。そのタイミングの見極めに、ちょっと集中しなくちゃだから。


 潜入するまで、ずっと姿を消したままで居られたら楽なんだけど、流石に危険だからね。周りから見えていないってだけで、実体はちゃんと在る訳だし。


 今はまだ、見張りの兵士達に気をつけておけば良いけど、軍門が開いたら一気に人手が増えるからね。そんな中、姿消して忍び込もうなんて、キ〇ガイみたいな難易度の弾幕ゲー、ノーミスでクリアするようなもんじゃない。


 あたしにとっての切り札『思考超加速』遣えば、それもまぁ出来なくないけど、初っぱなから神経すり減らす様な事する訳にもいかないからね。


『そう仰るのも解るんですが、少し込み入った話ですし…それにこれから大事な局面を迎えるにあたって、余計な情報を皆さんに与えて、気が逸れてしまっては元も子もないでしょう?』


 なんて事を考えた直後、リング越しに先の催促に対するエイミーの返答が耳に入る。それを聞き、1人心の中でその意見に同意する。


『確かに、その通りですわね。』

『えぇ。ですのでこの件は一旦保留として、今はとにかく目の前の事に集中しましょう。』

『けどねぇ…』


 シフォンの同意を得られ、これ幸いとばかりに話しを一気に畳み掛けようとするエイミー。だがそこへ、まだ納得し切れていない様子のリンダの呟きが聞こえてくる。


 その直後――


『――大丈夫ですよ。この件で直接関係するのって、優姫さんだけですから。』


 あっけらかんとした様子で、突然アクアが会話に参加――ってか、え?


 ちょちょっ!なんですと!?何その発言!普通に怖いんですけど!!


 酷くない!?これから敵地のど真ん中に飛び込もうとして、集中力高めてた人に対するこの仕打ち、酷くない!?


 何してくれんのよ!あのダメッ子精霊!!すんごく怖いんですけど!!


 これが済んだら、あたしの身に何が起こるん?ねぇ、何が起こるん??


『こ、こらッ!マリー!!そんな不安を煽るような事、言うんじゃ在りません!!』


 肝心な部分ぼかされたままだから、余計気になるっちゅ~の!ってかそれよりもっと気になる発言キタコレ!!


 いつの間にか、エイミーのアクアに対する愛称が変わってんじゃん!あっぶねぇ~、危うく聞き逃す所だったわ…


 耳聡く聞き逃さんのじゃー!あたし居ない間に何があったんじゃー!!


 …とまぁ、話しの流れで大げさにリアクション取ってみた物の、実の所何が在ったか大体想像ついちゃってんのよね。まぁ、エイミーからちゃんと聞き出した訳じゃないから、あくまでも想像けど…


 前にチラッと聞いた、彼女が昔受けたってウィンディーネの試練で、試験管したって下位精霊がアクアだったとか、どうせそんな所でしょ?


 じゃなかったら、あのエイミーへの異様な懐きようと、あたしに対する敵対心の説明が付けられないからね。だからまぁ、ようやくかって感じ?


 けどそれはそれ、これはこれ。この件が片づいたら、まず真っ先にあのダメッ子精霊をシメよう。


 小姑風情に、あたしのパートナー取られてたまるかいっての。キャットファイトで、きっちり決着着けちゃるけんね!(ぁ


 な~んて馬鹿な事を考えていると…


『…え~っと。あら?所で優姫の声が聞こえないのですが…?』


 ようやく、あたしの声が一切聞こえない事に、気が付いたらしいエイミーが、恐る恐ると言った様子でそう尋ねる。直後、シフォンの物と思しき深いため息が、リングを通し伝わってきた。


『優姫さんでしたら今、1人軍門に向かって忍び寄るという、正しく大事な局面を迎えて居る真っ最中ですわよ。』


 続け様、呆れた様子でそう語るシフォンの声があたしの元に届いた。それを聞き、大事な局面ナゥらしいあたしは、状況も忘れてまたも思わず苦笑い。


『えぇ!?あの、じゃあこの会話は…』

『安心してくださいまし。ちゃんと聞こえておりますわ。』

『だ、大丈夫ですよ優姫!そんなに大した事無いですから!!』


  いやいやいやいや。そんな取り繕うような事言われても、かえって嘘くさく聞こえるし、そもそも何が大丈夫なん?


 と、心の中で返しとく。かしこ。


『ちょっと姫華聞こえてる!?夜天でも良いわ!!マスターの為にもアクアにもう指輪触らせないで頂戴!!』


 お、おぉう、銀星は銀星でマジオコモードだ。大丈夫なんかね、こんなんで…


 と、一頻りギャグパートを楽しんだ所で、気を取り直して気持ちを切り替える。そしてそのまま、過集中のスイッチである深呼吸をくり返す。


 途端に思考がクリアとなって、急速に集中力が高まっていくのを自覚する。続けてあたしは、感覚を全方位に向かって展開し、周囲の兵士達をその範囲内に補足する。


 感覚の領域内に捉えた兵士は、ざっと数えて20名程度。範囲外にも大量に兵士達が居るけど、とりあえずそっちは無視して大丈夫そうね。


 差し当たって今は、感覚の領域内に捉えた兵士達に向け、感覚を更に研ぎ澄ませていく。個々の動き、呼吸のリズム、視線の向く方向…


 それらにのみ注視し神経を研ぎ澄ませ、あたしの立つ場所がその全てから、完全に逸れて空白となる瞬間を、息を押し殺しひたすら待ち続ける。


「――ッ!」


 待つ事数秒。その瞬間は、何の前触れもなく突然訪れた。


 意を決してあたしは、装備していたインビジブルマントと、エリアサイレントの腕輪を精霊界へと送還する。そして――


「――…ん?なぁ、おい。あんなとこに人居たっけ?」

「あん?さぁ…居たんじゃねぇの?」


 直後、直ぐ横から聞こえた兵士達の会話を聞きながら、内心冷や冷やして気が気じゃ無かった。けどその会話以降、取り立ててあたしに注意が向く様な事はない。


 その事に、ホッと胸をなで下ろす。どうやら、問題なく上手くいったらしい。

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