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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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間章・異世界NTR案件。ポンコツ精霊の逆襲(3)

 そんな折――


「――言~ってやろぉ、言ってやろぉ~」


 深い森の中とは言え、仮にも天下の往来で周囲も気にせず、熱い抱擁を続ける2人。そんな彼女達に向け、リズミカルに冷やかす様な声が突如として投げかけられた。


 その囃し立てる声を聞き、ハッとなって我に返ったアクアが、慌ててエイミーの胸元から顔を離し、直ぐさま声のする方へと顔を向ける。するとそこには――


「マ~スタ~に、言ってやろぉ~」

「や、夜天ちゃん!?」


 ――頬を染めあげ、恥ずかしげに顔を逸らしているメアリーと、そんな彼女に抱きかかえられながら、ニヤニヤしている夜天の姿が在った。


 夜天が浮かべる、まるで人を食ったような笑みで見られ、恥ずかしさから頬を真っ赤に染め上げるアクア。その一方で、大人の余裕なのかエイミーは、少し照れた様子で苦笑している。


「ぜぇ~んぜん着いてこないから、2人で何やってるんだと思えば、まさか抱き合ってるとはねぇ~」


 そんな2人の反応を楽しんだ後、ようやく自分達の存在を思い出したかと言いたげに、鼻で笑いながら夜天が告げる。その台詞を受け、アクアの顔全体が真っ赤に染まる。


 茹で蛸のようにと言うべきか。それとも、火の精霊に鞍替えしたのかと、勘違いしそうになる程にと言うべきか。


「いやぁ~アクアちんも命知らずだなぁ~と思って。マスターが居ないのを良い事に、随分大胆になたじゃん?」

「そ、そんなつもりは…」


 ここぞとばかりに続く、その意地の悪い言葉責めに、顔を真っ赤にしたまましどろもどろになって狼狽えるアクア。しかしてその反応が面白いようで、夜天の人を食ったような笑みが更に深まる。


 しかしその反応も一瞬。次の瞬間に夜天は、突如その笑みを消しさると、真顔に戻りアクアを見据える。


「アクアちん。」

「な、なんですか改まって…」

「1つだけ、これだけはどうしてもハッキリさせておきたい事があるんだけど――」


 そこまで告げて夜天は、至って真剣な表情でエイミーを――正確には、その下半身を不意に指さし――


「エイミーの太ももは、絶っっっ対に譲らないよ?」

「…はぁ?」


 ――次の瞬間その口から発せられたのは、つい最近どこぞ出来たような台詞だった。


 何を言われるのかと、緊張した面持ちで身構えていたアクアは、一瞬何を言われたのか理解出来なかったようで、なんとも言えない間抜けずらを皆の前に晒していた。


「や、夜天ちゃん…この間もそんな事を言って、優姫と張り合ってましたけど、私の太ももは誰の物――」


 そんなアクアの反応はさておき。その夜天の物言いに、さしものエイミーも苦言を呈す。


 ただ名指しされるだけならまだしも、自分の身体の1部位を、他人に使用を主張されたのだから当然だろう。これまた、いつぞや聞いたような台詞を口にして――


「エイミーのぷにぷに太ももはわたしの物だよ!」

「――いやその言い方!!それじゃまるで私が太ってるみたいに聞こえるじゃ無いですか!?って、なんでそんなしたり顔するの夜天ちゃん!!」


 ――しかしその言葉を全力で遮った夜天が、グッと拳を握り込み力説する。


 彼女のそのよく解らない力説に、珍しく取り乱したかのように声を荒らげ、目一杯抗議し出すエイミー。


 そのやり取りの直ぐ後、ようやく間抜けずらから脱したアクアが、突如鋭い目付きで夜天を睨む。


「そうですよ!酷いです夜天ちゃん!!」

「マ、マリー?」


 そのまま、エイミーを背に庇うようにして前に出て、まるで自分の事のように憤る。さっきまで間抜けずらを晒していた人物とは、とても思えない気迫だ。


 …こんな、ギャグパートで見せるような気迫では、決して無いと思うのだが。


 ともあれ。そんな風に庇われたのなら、例え同性同士だとしても、思わずドキッとしてしまいそうなシチュエーションだろう。


 しかし何故だろう…アクアがこんなにも意気込んでいる姿を見ていると、それだけで何故だかとても不安になってくる。


 エイミーもそれは同じ様で、彼女に庇われながら、とても不安そうな表情をしていた。しかして次の瞬間、感じていた不安は現実の物となる――


「――エイミーは、可愛いお洋服を着る為に、体型維持にすっっっごい気を遣ってるんですからね!!そんな言い方失礼ですよ!!」


 何を思ってかアクアは、いきなりそんな事を大声で口走る。すると、それを耳にした瞬間エイミーが、今までに見た事の無い表情となって凍り付く。


「あ、あの…マリー、何を言い出すのかしら?」


 しかし彼女がそんな表情を浮かべたのも一瞬。次の瞬間には、取って付けたような笑みを顔面に貼り付け、自身の前に仁王立ちするアクアへと呼び掛けた。


 するとアクアは、肩越しに背後を振り返り、自信たっぷりな笑顔を彼女へと向ける。見ていて気持ちの良い程に清々しいアクアの笑顔だが、しかしエイミーにとってそれは、ただただ不安にさせる要素でしか無い。


「大丈夫です!エイミーは太ってなんか居ませんからね!!エイミーは、お胸のサイズもう1サイズ下に成らないかなって悩んでるみたいですけど、その位がちょうど――」


 ――と、そこまで口走った所で、穏便に済ますは無理と判断したのだろう。背後から物理的にその口を封印したエイミー。


「マリーッ!!もう黙ってお願い!!」


 直後、聖都エルブンガルドの深い森に、そんな痛ましい絶叫が反響する。見ると彼女は、耳まで真っ赤にして愕然としている。


 無神経にも、個人的な悩みを仲間達の前で暴露されたんだから、その反応も無理ないだろう。それ以上、アクアに余計な事を言わせまいと必死になっているようだ。


 それに対しアクアは、エイミーに突然口を塞がれた事に、訳が解らないと言った様子で目を白黒させている。


 どうやら、自分のしでかした事の重大性に、まるで気が付いていないらしい。所か、エイミーの名誉を守ったとさえ思っていそうだ。


「わぁ~お。それマスターの前で絶対に言っちゃあかんヤツ。」


 そんな対照的な2人の様子を、まるで他人事の様に眺めながら、この騒動の元凶である筈の夜天は、あっけらかんとそんな台詞を口にする。


 引っかき回しておきながら、そんな感想で良いのかという気もするが…しかし確かに、この場に優姫が居たのなら、事態はもっとややこしくなっていただろう。


 それはさておき。彼女達一行の恥ずかしいやり取りは、周囲の目なんてまるでお構いなしに暫く続いた。


 しかし先にも触れた通り、此処は森の中とは言え天下の往来。建物ひしめき合う人の街で言うならば、メインストリートに当たる様な場所だ。


 そんな通りのど真ん中で騒げば、嫌でも悪目立ちするのが当然。いつの間にか彼女達を遠巻きに、エルフやフェアリー達が何事かと様子を伺っている。


 そこでふと我に返ったエイミーが、ようやくこのままではいけないと思い、仲間達を纏めようと思い立った、次の瞬間――


「見つけたぞ!エイミー・スローネ!!」

「えっ!?」


 突然、野太い男性の声で自分の名前を呼ばれた彼女は、驚きに思わず肩をビクリとさせる。そして直ぐさま、声の聞こえた方へと視線を向けると、そこに居た人物に更に驚いて目を見開いた。


「ッ!あ、貴方は――」


………

……


 夕刻・ルアナ大陸――


 紅く染まった不毛の大地に、砂煙を巻き上げながら伸びる影があった。しかしその先頭と思しき部分には、砂煙を巻き上げ進む何者かの姿は見受けられなかった。


 姿だけで無く、激しく砂を巻き上げている筈なのに、その音さえも全く響いてこない。にも関わらず、砂煙が治まるとそこには、この世界では見慣れないだろう、特徴的な1筋の轍の跡が…


 どうやらその轍は、フェミル湖方面へと向かい伸びているようだった。一定の速度を保ちながら、夕暮れ時荒涼としたルアナの大地を、砂煙がひたすら走り抜けていく。


 その様子が暫く続いたが、不意にその何者かのスピードが徐々に減速し始める。それに伴って、巻き起こる砂煙の勢いも小さくなっていく。


 程なくして完全に停止してしまうも、その場にあるのは、大地に刻まれた轍の跡のみ――と思いきや、人が地面を踏みしめたような足跡が、遅れてその場に現れる。


 そして、次の瞬間――


「――本当に此処で良いんですか?」


 それまで、確かに何物の姿も無かったその場所に、突如として黒い大型バイクの輪郭が浮かび上がり、それと同時に重厚な響きのエンジン音も聞こえ始める。姿を現したそれは、名車として名高いハーレー・ダビットソン、VRSCDナイトロッド。


 そのナイトロッドには、3人の姿があった。その内の1人、ハンドルを握っているのは優姫だろう。


 それは間違いないのだが、その装いは普段と若干趣が違う。バイクの運転の為か、顔はフルフェイスメットに覆われているし、今まで着けている所を見た事無いマントまで装着していた。


 そんな珍しい出で立ちの優姫が、燃料タンクの上にちょこんと座る明陽に対し、メット越しのくぐもった声で問い掛ける。


「まだちょっと距離があるみたいですけど…」


 続け様、そう呟きながらシールドを押し上げて優姫は、進行方向に見える森林の影を望む。その言葉の通り、彼女が見据えたその場所までは、まだ2~3キロはありそうだ。


「なぁ~に、此処までで構わんよ。なんせ彼奴等、見掛けによらず臆病じゃからのう。」


 メット越しに遠くを眺める優姫を余所に、先程の問い掛けにそう答えながら明陽は、燃料タンクの上からぴょんと飛び降り地面へ華麗に着地する。


「それ、警戒心が強いって事ですよね。」


 明陽が地に降り立つや、その背後に向かって呆れながらにそう告げる優姫。その彼女の言葉に対し、不機嫌そうにフンッと鼻を鳴らしつつ、その場でくるりと向き直る。


「…どちらでも同じじゃわいそんな事。のぉ?」


 そう言って、後部シートに座る譲羽へと視線を向ける。すると彼女は、その言葉に同意して首肯した後、徐にシートから降り立った。


 そんな2人の様子を前に優姫は、苦笑しながらため息を漏らすと、メットのシールドを下げる。


「そしたらここからは、別行動と言う事で。」

「うむ。」

「2人とも気をつけてくださいね?」


 くぐもった声で発せられた気遣いの台詞に対し明陽は、再び不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「…小娘が、いっちょ前に儂等の心配か?そんな余裕があるんじゃったら、御主は御主の仲間達の心配をせいよ。」


 続け様、そんな風に憎まれ口を叩かれた優姫は、メット越しにふっと口元を緩める。そしてバイクのハンドルを右に切って、アクセルを回してエンジンを吹かせた後――


「――それは勿論。()()()明陽さん達の事を、こうして心配してるんですよ。」


 面と向かってそう言い返して彼女は、明陽の返事を待たずしてバイクを急発進させる。するとその直後、優姫が身に付けたマントが、淡い光を放ち始めたかと思うと、その姿が徐々に薄らいでいく。


 程なく、完全にその姿が見えなくなると、聞こえていたエンジン音さえも、完璧に消失してしまう。後に残されたのは、砂煙を上げて遠ざかっていく何かと、その何かが移動した痕跡を示す轍のみ。


「…小娘が、言い逃げしおってからに。」


 その遠ざかる砂煙を暫く眺め、不意に明陽がぽつりと呟く。すると、その様子を隣で眺めていた譲羽が、手話で『嬉しそうですね』と語りかける。


 すると、三度不機嫌そうに鼻を鳴らした明陽が、お返しとばかりに手話で『お前に言われたくない』と返した後、徐に踵を返して歩き出す。一瞬遅れて、譲羽もその後を追って歩き出した。


 だだっ広い夕暮れの荒野を、会話も無くたった2人きりで歩く。行き交う人の姿など一切無く、聞こえるのは時折吹く風の音くらい。


 そんな物寂しい風景の中に、2人きりで居る所為だろう。お互いここ数日で起きた、うんざりするくらいに賑やかだった出来事を思い返していた。


 賑やかで…そして楽しい日々だった。こんな物寂しい場所に2人で居ても、思い返した余韻で笑顔になれる程度には――


 そうして歩き続ける事暫く。2人は、目的の場所であるフェミル湖、その入り口の森林地帯へと到着する。


 荒廃した死の大地が広がる、ルアナ大陸で唯一の森林地帯。同時に、そこから先が守護獣ユニコーンと、その眷属であるペガサス達の憩いの場であり――聖域だ。


 その聖域をすぐ目の前にして2人は、不意にどちらからとも無く立ち止まる。そして明陽は、ニヤリと意味深な笑みを浮かべて、その聖域から顔を覗かせた者をジッと見据える。


 彼女が見据えた先に居た存在。それは、額に長く鋭い一角を有したとても美しい白馬――守護獣ユニコーン。


「すまんのぉ、御主自ら出迎えさせてしまって。」

『久しいな。それで、何用かな異世界人の守護者よ。』


 姿を現したユニコーンに対し明陽は、まるで長年連れ添った友人にでも、話しかけるかの様な気軽さで語りかける。直後、確かな反応が返ってきたが、しかしユニコーンは、ジッと明陽を見据えたまま微動だにしておらず、口も全く動いた気配が無い。


 どうやら、テレパシーの類いで返事を返してきたのだろう。


 それはさておき。ユニコーンに質問で返された明陽は、本題に入る為口を開いた。


「いやなに、ちと御主等に頼みたい事があってのぉ~」

『頼み事であるか?』

「応とも。主等の好きな生娘で無くてすまんがな、ともあれ事情を聞いてくりゃれ。」


 そう告げて明陽は、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべるのだった。

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