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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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間章・異世界NTR案件。ポンコツ精霊の逆襲(2)

 …まぁ経緯はどうあれ、結果としてメアリーに笑顔が戻ったのは、大変喜ばしい事だとエイミーは思う。恐らく…いや、きっと今見せている彼女の表情こそが、本来在るべき『素』なんだろう。


 そうであれば良いなと、楽しそうに会話しながら歩く2人を見守りながら、エイミーは思うのだった。


「そういやさぁ~アクアちん。」


 そうこうして歩いていると、唐突に何か思い出したらしい夜天が、メアリーに抱かれたまま肩越しに振り返り話しかけてくる。


「え、何その呼び方…」


 突然話しかけられた当のアクアは、返事を返すよりも先に、聞き慣れないその呼び方に思わず当惑する。


「いっつも新しい場所に来ると、あれ買ってぇ~これ買ってぇ~って、騒がしいのに今日は大人しいよねぇ~」

「ちょっ!無視しないで――ってかその言い方悪意しか感じませんけど!?」


 しかしその反応を無視するかの様に夜天は、構わずマイペースに話を切り出した。それに対しアクアが、若干大げさなとも思えるリアクションを取りつつ、抗議の声を上げる。


「えぇ~?そんな事ないない。呼び方だって愛嬌あって良いじゃ~ん、ねぇメアリー?」

「え!?う、う~ん…」


 返ってきたアクアの反応が、理解出来ないと言った感じで首を傾げる夜天。続け様、同意を求めてメアリーへと問い掛けるも、しかしどう答えて良い物かと言った様子で、愛想笑いを向けられ返事を濁されてしまう。


「で、なんで今日に限って静かなのぉ~?」


 それに対し夜天は、しかしまるで気にした素振りも無く。所か、なんとも強引に話を元に戻して、再びアクアへと問い掛けた。


「言い方引っかかるなぁ…」


 そんな、夜天のマイペースっぷりを目の当たりにして、ぶつくさと文句を呟いた後アクアは、諦めた様子で深いため息を吐き出した。そうして気を取り直したらしい彼女は、面を上げて問われた事に対する返事を語り出す。


「別に、大した理由じゃ無いですよ。ママがガザ虫少し苦手だから、この辺で食べられてるお料理は、持って行かなくても良いかなぁ~って思ってるだけです。」

「んえ~?どういう事~」

「それはね夜天ちゃん。ここエルブンガルドでは、ガザ虫の養殖がとても盛んなの。だから名物と呼べる様な食べ物のほとんどには、ガザ虫が使用されているのよ。」


 アクアから語られた内容に、不思議そうに首を傾げ問い返す夜天。するとそこへ、それまでニコニコしながらやり取りを眺めていたエイミーが会話に加わった。


「あ~そうなんだ~そういや、マスターも苦手だったよねぇ~ガザ虫。」

「えぇ。だから、今から少し不安なのよね。近いうちに優姫を連れて、レイ様を紹介しなくちゃいけないから。」


 何気ない夜天のその一言に、本当にどうしようかと言った様子で眉を寄せ、ため息を吐き出すエイミー。そんな彼女に向かって、まるで他人事の様に脳天気な笑顔を向ける夜天。


「ねぇ、夜天ちゃん。」


 そこへ、見るからにきょとんとした表情のメアリーが、胸に抱いた夜天へと話しかける。


「なぁ~にぃ~?」

「その…ガザ虫ってどんななの?」

「あぁ~メアリーってば見た事無いのぉ~?」

「う、うん。」


 夜天の何気ないその問い掛けに、若干戸惑い気味にメアリーが頷く。当人に悪気は無いのだろうが、恐らくその言い方から、知らない方が可笑しい事だと感じたんだろう。


「んとねぇ~こぉ~んなおっきな芋虫だよぉ~」


 しかしそうと気付かず夜天は、彼女に抱かれたまま無邪気な様子で説明を行いはじめる。その説明で夜天は、分かり易く両手で大きな円を描いた。


 のだが…これまた当人に、一切悪気が無いのだろう――或いは、本気でその位の大きさだと、思っているのかもしれない。


 ともあれ、彼女の思い描いたガザ虫の大きさというのが、実際の平均的な大きさと比べ、大分巨大に描かれてしまった。実物を見た事の無いメアリーは、当然それを見て真に受けた筈だ。


 真に受けて、そして想像してしまったんだろう。メアリーの顔色が、あからさまに青ざめていく。


 その様子を後ろから眺めてエイミーは、ここがガザ虫の一大養殖地だと説明したら、きっと優姫も同じ反応をするんだろうなと思い、1人苦笑を漏らした。


「けどアクアちん、エルブンガルドの特産品とか、詳しいんだねぇ~」


 メアリーの質問に答えた後、未だ青ざめたままの彼女を放置し、再び夜天がアクアへと質問を投げかけた。相変わらず、マイペースな事だ。


「え、そうかな?」

「うんうん~もしかして、前に来た事あったりしてぇ~?」


 またもや急に、話を振られたアクアが、なんとはなしに答える。それに対しての何気ない一言。


 である筈が…しかし夜天がその一言を口にした途端、アクアの表情が見るからに強張った。


「そ、そそっ!そんな事無いよ!何言ってるの夜天ちゃん。やっだなぁ~!」

「…何そんな焦って、否定してんのぉ~?変なアクアちん~」


 そして突然、しどろもどろになったと思いきや、問い詰められても居ないのに否定し出す。そんなアクアの様子を、怪訝そうにしながらも夜天は、もうその話題に興味が無くなったのか、視線を外しメアリーに話しかけた様だった。


 その2人のやり取りを、ずっと目の当たりにしていたエイミーは、笑いがこみ上げてくるのをずっと堪えていたらしかった。それ程に、今し方の会話が可笑しかったのだろう。


 まず、夜天がマイペースなのは、重々承知していたが。しかし今日に限っては、なんだか何時もよりも度を超している様に思う。


 咎める銀星が居ない影響か、普段寝ている筈が起きてる影響か…恐らくは両方なんだろう。


 ともあれ、新たに発見した夜天の一面が新鮮に感じると同時、普段やり過ぎと思っていた銀星の事を、これからもっと支持しようと決意するエイミーだった。


 次にアクアだ。全く、このポンコツ精霊は――


「ここの特産が何かなんて、世界的にも有名なんですから、知ってても可笑しくないでしょうし。」

「そ、そうですよね!あ、あはははは――」


 彼女の誤魔化す様な笑みを見てエイミーは、()()()()と感じ、ふと口元を緩めた。


「本当に、隠すのが下手なんですから。()()()は…」

「――ッ!?」


 そうして告げられたその一言に、思わず立ち止まったアクアの表情が再び強張る。同時にエイミーも立ち止まると、その場で優雅に回転して彼女へ向き直った。


「えっ…エイミー、さん?今、なんて…」

「隠すのが下手だって、そう言ったんですよ。」

「じゃ無くて!私の事…」


 唖然とするアクアにそう問われエイミーは、不意に柔らかく微笑むと――


「――マリー。」

「ッ!」


 再び、彼女名を口にする。この旅が始まる前、教えてくれなかった筈の愛称で。


「私の事…覚えててくれたんですか?」

「えぇ。」

「いつから…」

「勿論、最初からですよ。」


 呆気に取られているアクアに対し、苦笑交じりにそう返事を返すエイミー。普段、大人びた印象ばかりの彼女にしては珍しく、随分子供っぽく見える笑顔だった。


 しかし、そんな表情を見せたのも一瞬。続け様に彼女は、何処か遠くを見るかの様な視線を、言葉を失い呆然と立つアクアへと向ける。


「久しぶりに貴女と再会したのに、何故か初対面の振りなんてするから、最初マリーが私の事を覚えていないんじゃないかって、そう思って少し悲しかったんですよ?」

「そんな!私がエイミーの事忘れるなんて事無いじゃないですか!!だって、だって…」


 エイミーの言葉を聞くや、ハッと我に返ったアクアが叫ぶ。しかし途中から、凄く苦しそうになったかと思うと、言葉に詰まり視線を彼女から逸らしてしまう。


「えぇ…だから、直ぐに何か事情があるんだなって思って、話に合わせる事に…」


 そんな、苦しそうに佇むアクアを前にしてエイミーは、柔らかい笑みを向けて諭す様な口振りで語りかける。まるで今にも泣き出しそうな子供を、安心させるかの様に…


 その直後だった――


「――ッ!」ダッ!!


 不意にアクアが顔を上げたかと思うと、その場からエイミーに向かって思い切り飛びついた。顔をくしゃくしゃにさせて、目尻に涙をたくさん堪えて…


 彼女が取った突然の行動に、まるで動じる気配を見せない無いエイミー。まるでそれが当たり前かの様に、優しく微笑んだまま緩やかに両手を広げて、彼女を受け入れる態勢を取った。


「エイミーッ!!」


 元々、それほど離れて居なかった2人の距離が、どんどんと縮まり限りなくゼロへと至る。そして、互いの両腕が相手の背中を包み込んだその瞬間、アクアはエイミーの胸の中に顔を埋めた。


 まるで、自分の酷い表情を見られたくないと、言わんばかりに…


「…ママやカーラ姉様に言われたんです。千年も前に交わした個人契約の口約束なんて、幾らエイミーだって覚えてる訳が無いって…」

「…そう。」


 抱きついて胸に顔を埋めると同時、そこからアクアのくぐもった声が聞こえてくる。その言葉に耳を傾けながらエイミーは、その頭にそっと手を添えると、何度も優しく撫で続ける。


 まるで、その胸の内に隠しておいた想いの全てを、吐き出させるかの様に…


「エイミーはもう、優姫さんと個人契約を終えた後なんだって。それなのに、そこへ私が出ていっても、2人を困らせるだけだって…何より私が、一番辛くなるだけだって。」

「それで他人の振りをしていたのね。」


 そうして語らせたアクアの言葉を聞く内に、エイミーの表情に陰りが差し込んだ。それと同時、彼女を抱きかかえた腕にも、自然と力が加わっていく。


 彼女の胸の内に広がったのは、アクアに対する罪悪感だった――


 何故アクアが初対面を装っていたのか、実を言うとその大凡の見当は、大分前から既に出来ていた。それなのにエイミーは、今まで黙って知らん顔していた。


 アクアの立場を考えて、と言うのが理由としてあった。しかしそれ以上に、我慢ならなくなってアクアが、その内自分から打ち明けるんじゃ無いかという考えが、エイミーの中であったからに他ならない。


 今までアクアが見せてきた、エイミーの気を引こうとする言動の数々を思えば、そう考えるのも無理は無いだろう。


 だが、エイミーから打ち明けた時のリアクションや、今し方聞かされた話を加味して考えるに…もしかすると自分は、大きな勘違いをしているのでは無いか、そう思ってしまった。


 普段あれだけ、思わせぶりな態度ばかり取っていたアクアに、その気が無かったとしたら?ウィンディーネやカーラの言いつけを、ちゃんと守れている気でいたとしたら?


 必死に悟られまいと意識していて、隠しきれずに溢れた好意の結果が、あんな分かり易い言動をアクアに取らせたんだとしたら…


 だとしたら自分は、なんと酷い仕打ちを彼女に強いてしまったんだろう――


「…そうだったの。ごめんなさいねマリー」


 もっと早くに自分から打ち明ければ良かった…そう想いながら、胸に抱くアクアに謝罪の言葉を口にする。


「そんな!エイミーが謝るような事じゃ無いよ。だって私の事、ちゃんと覚えててくれたんだもの!」

「でも約束が…」


 申し訳なさそうにエイミーが切り出した直後、それを遮るかの様にアクアが、胸に顔を埋めたままいやいやする様に、首を左右に振り乱した。まるで、聞き分けのない赤子のようなその抵抗は、暫く続き――


「…それも平気。まだ小さくて何も知らなかった頃の私が、エイミーの返事も聞かないで、一方的にしたってだけの約束だもん。」


 ――不意にそれが止んだかと思えば、エイミーの背中に回した両腕に、ぎゅっと力を込め強く抱きしめ、囁くように小さく呟く。


 恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに…


 胸に抱いたアクアの温もりと、その素直で正直な気持ちの籠もった言葉を受け、少しだけ罪の意識が軽くなったのだろう。ふとエイミーの表情が、和らいだようだった。

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