異世界うるるん滞在記~子連れJKが、新大陸にやって来たぁ!~(16)
と、力説してはみたものの…長距離念話の魔道具を手に入れるのって、正直現実的じゃ無いのよね~
その原因は、ハッキリ言ってその高額な値段だ。一応、帝都から支給されたお金の残りを使えば、大金貨1枚――金貨で50枚は、なんとか用意出来る。
けど、それで手に入れられても1つのみ。仲間同士で、密に連絡を取り合うのが目的なら、せめて5つは欲しい所だから、全然資金が足りないわよね。
なので、ここでもヴァルキリーの能力に頼って、その魔道具を眷属化しちゃえば良い――なんて、安易な考えが浮かんだんだけど…
実は、魔道具の眷属化に関して、現段階で解っている範囲で少し問題があるの。どんな問題かって言うと、ぶっちゃけある特定の魔道具に関しては、どうやらあたしの眷属化が、及ばないらしいと言う事が判明してるのよ。
その、ある特定って言うのが、一体どんな条件なのかって事だけど…どうやら魔道具の姿形に、あたしの能力が反応するかどうかって事らしいの。
つまり簡単に言うと、その魔道具が武器や防具、或いは装飾品の形を為しているかってどうかって言う事。人が実際に装備して、使用する魔道具に関しては、問題なく眷属化出来るみたいなの。
例を挙げると、帝都で眷属化した、補助効果が付与されてた装飾品の数々ね。あれもこっちの世界じゃ、魔道具って括りに成るみたいだからね~
次に逆側の例を挙げると…例えば置物や箱、それから日用品の形をした魔道具なんかが、正しくそう言う部類に入るの。
周囲が真っ暗になると光が灯る置物、中に食材を入れると冷気が満ちる箱、魔力を込めると内側に水が満ちる洗面器、等々…
つい先日も、リリに在る明陽さん達の隠れ家で、住居防犯魔道具ってのに触れたじゃ無い?あれにも全く反応しなかったからね~
そう言った、人々の暮らしに密着した魔道具は、ヴァルキリーの眷属としてノーサンキューらしい。そういうの眷属化したら、結構便利だと思うんだけどなぁ~
それはさておき、話を戻して長距離念話の魔道具ついて。あたしがこの目で、しかと実物見た訳じゃ無から、話を聞いた限りなんだけど…
どうやら件の魔道具も、ヴァルキリーの価値観的に、眷属として認められない物のようなのよね~魔道具を制作した作者によって、外見が多少違うそうなんだけど、どれも大体置物っぽい形をしてるらしい。
まぁ、そもそもが高価な代物なんだし、そう頻繁に持ち運びたくも無いわよね。うっかり落として壊しちゃったら、取り替えたくても簡単に出来ないだろうし。
兎にも角にも、長距離念話の魔道具を眷属化するって案は、結構厳しいってのが正直な所。ダメ元で試してみても良いんだけど、失敗する確率が高いって解ってて、それでも試すにゃ支払う金額が高過ぎだわ。
じゃぁどうするか、なんだけど。装飾品や武具の形をしていれば、確実に眷属化する事が出来るんだし、いっその事1から制作する?
それも悪くないわ。と言うより、それ以外に長距離念話の魔道具を、眷属化する方法が無いのよね。
けどぶっちゃけ、1から制作する時間なんて無いし、なにより魔道具作成の知識がある人物もいない。魔法に造詣の深いシフォンでも、魔道具創作の知識までは、流石に無いのよね~
…そんな状況で、よく1から制作するだなんて言えるなって?いやいや、話は最後まで聞きましょうよ。
確かに、商品としてお店で売られているような、ちゃんとした魔道具を製作する知識は、残念ながらあたし達は持ち合わせていない。しかし、この世界で魔道具と呼ばれている便利アイテムは、実はもう一種類在るの。
それが、付与魔法で一時的に魔法効果を、上書きされた道具だ。この世界で魔道具って、『魔法使いで無くても、簡単に魔法を使用出来る道具』の総称なの。
なので、一時的とは言え、付与魔法を施された道具も、正しく『魔道具』のカテゴリに属してるって訳。ただ、それだと混同しちゃうってんで、一部こっちを『魔法器』と呼ぶ人達も居る。
因みに、その一部でそう呼んでる人達ってのは、魔道具を専門にしている職人魔法使いさん達ね。その人達からすると、自分達の作品と一緒にすんなって話なんでしょ。
まぁ、それはさておき…この2つの魔道具、色々と違いがあるんだけど、その最大の違いは、何と言っても使い捨てか恒久的に利用出来るかって言う点だ。
職人の手で1から制作された魔道具は、基本それ自体が壊れない限り、繰り返し何度でも使用する事が可能。その為、道具として長年使い続けて貰えるよう、様々な工夫や試行錯誤が日進月歩で施されていった。
分かり易く、使用される材料に拘って、全体の品質を高めてみたり。研究に研究を重ね、頑丈な工法を編み出したり。
そう言った、長年に渡る弛まぬ努力の結果、職人達の手で丁寧に作成された魔道具は、物によって芸術作品として扱われる物も在るそう。そこまでの代物じゃ無い、広く庶民向けに開発された魔道具でさえ、結構な御値段だったりする。
この世界で一番普及している魔道具って、火種を起こす事の出来る、ライターみたいな物なんだけど。そういった物でも、安くて大銅貨4~5枚するからね。
それだけ、価値ある物として世界的に認められ、流通しているって事なんでしょうね。その一方で、『魔法器』と呼ばれる魔道具には、商品価値は一切無い。
元々、特殊効果が備わっていない道具に、一時的に魔法効果を付与するだけなんだから当然と言えば当然ね。因みに、以前説明した武器に属性を付与する魔法も、この付与魔法に属する。
この付与魔法、道具の表層に魔法を施すだけなので、2~3回使用するとその効果が消えてしまう。所か、例え使用しなかったとしても、そのまま魔力を留まらせておく事が出来ないので、時間の経過だけで無力化してしまう。
しかしこの付与魔法なら、材料から用意して制作する手間が掛からないし、状況に応じて魔法効果を選べるというメリットも在る。それに、既に魔力が籠もった状態だから、発動させるのに改めて魔力を込める必要も無い。
更に更に、付与魔法は魔法としてのランクが低いので、扱える魔法使いも非情に多いの。けど、それだけ使用出来ても意味が無くて、他系統の魔法を別に覚える必要がある。
その為、仮にその魔法器を利用して、長距離念話の魔道具を制作するなら、高位とされる空間魔法を、両方習得している魔法使いで無いと、いけない訳だけど…
これに関しては、我らがシフォン先生は、問題なく両方使用出来るとの事。流石、この世界屈指の魔法使いって、呼ばれるだけあるわよね。
ともあれ、この付与魔法を用いた方法によって、確実に眷属化出来る装飾品なんかに、長距離念話の魔法を籠めて貰おうってのが、今回のあたし達の目論見――
…なんて、得意げにここまで説明してきたけどね。白状しちゃうとこの方法、いの一番に思い付いたのは、実の所あたしじゃ無い。
こんな突拍子も無い、裏技みたいな方法。思い付く子と言えば、銀星を置いて他に居ないだろう。
目的の為とは言え、この世界の常識ひっくり返すような事、真っ先に思い付くんだからね。あたしだったら、思い付いたとしても、すぐ提案するか悩んだ筈だ。
だってそうでしょう?今までは、職人が1つ1つ手作業で、丈夫で長持ちする魔道具を作ってきたのよ。
1つ1つ時間を掛ける為に生産性が乏しく、使われている材料も良質な一品物。けどその分、恒久的に使用する事も出来て、市場価値もそれなりに高かった。
なのに、銀星の思い付いたこの方法は、今まで一時的な効果しか無かった『魔法器』が、職人の手掛けた魔道具と、使用回数の制限という部分で差が無くなる。それだけでも、今までの常識からすると十分驚異的な事だ。
それだけでも十分凄いってのに、魔法に精通したシフォンの協力があれば、その気になったら彼女が使用出来る全ての魔法を、魔道具化する事さえ可能。その上、劣化版とは言え、それ等魔道具の大量生産も思いのままとなる。
そんな事が公になったら、この世界で流通している魔道具の市場価値所が、大幅に暴落しかねない事態となる。と言うか、それで済めば良い方で、魔道具その物の存在価値が、根底からひっくり返る事態にも成りかねない。
…なんだろうね。銀星てばあたしに、魔道具専門の魔法使い達から、仕事を奪えとでも言うのかしらね?
ヴァルキリー印の財閥立ち上げて、この世界で産業革命の礎を築けって?無いわぁ~
まぁでも、口じゃそう言いつつ、結局銀星の提案受け入れて、こうして色々動いてるんだけど。なんせ、この方法で入手出来る魔道具こそ、あたし達のもう一つの目的である、犯罪組織のアジトを壊滅させる為に、必須のアイテムでもあるからね。
今更白状するけど…先述の、シフォン班が買い出にプラーダへ向かった、お目当ての物資っていうのは、8割方この『魔法器』作成に必要な武具や装飾品類なの。
基本的に付与魔法って、どんな物にでも――それこそ、その辺の石ころにだって、魔法を施す事が出来る。
けど当然、その施す魔法っていうのが高位になれば成る程、魔法を発動するのに必要な魔力が多くなる。となると当然、その魔法の受け皿となる側の許容が、大きな物で無くちゃいけない。
今回シフォンに作成してもらうのは、どれも高位な魔法ばかりだから、結構な許容量が求められてくる。魔力の許容量って、物体の大きさに比例するんだけど、あんまサイズが大きくなると、今度は眷属化出来るかが心配だ。
サイズ以外だと、使用されている素材の種類によっても、その許容量は変化するの。しかもこっちは、サイズ以上に変化が激しい。
特に、素材自体が魔力を帯びているミスリルや、込めた魔力を増幅させるというオリハルコンは、高位魔法を付与させるのに打って付けなんだそう。異世界ファンタジー物じゃ、お馴染みの素材だね!
お馴染みなだけに、お約束通りお値段が割とお高め。まぁでも、行って宝石より高いって位だから、ちょっとしたアクセサリー位の大きさなら、物によっちゃ金貨出さなくても買える位らしい。
けどその代わり、供給がそこまで多い物じゃないから、流通の要所になっている都市じゃ無いと、取り扱ってる商店がほとんど無いのよね。なもんだから、シフォン達が商業貿易都市プラーダに、向かったって訳――
…え?ここまで引っ張っといて、結局喋るんかいって?
良いのよ。話の流れとは言え、もうほとんど答え言っちゃったようなもんだったし。
それに、この章そろそろ終わりだしね!(ぁ




