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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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異世界うるるん滞在記~子連れJKが、新大陸にやって来たぁ!~(5)

 その為にもあたし達潜入組は、まずそちらに注力するべきだろう。しかし、あたしの我が儘を通すのなら、アジトの特定も同時進行で行わないといけない。


 特に、アジトの正確な位置を知るだろう奴隷の人達には、是が非でも詳しい話を聞き出したい。それも、奴隷蔑視の街中で奉仕活動をする彼等彼女等に、怪しまれる事無く近づいた上でだ。


 それを考慮するとあたし達潜入組は、否が応にも悪目立ちする事請け合いだ。仮に、周囲の目を気にせず近づけたとしても、それで奴隷の人達から話を聞けるか疑問が残る。


 何せ彼等彼女等の立場から見たら、あたし達潜入組だって、周囲のバージナル国民と大差ないからね。馬鹿正直に身分と事情を説明して、協力仰ぐ訳にもいかないもの。


 それに、そんな事して自分たちも助けて欲しいなんて、縋られちゃったらどうして良いか――いや、()()()()()()()()()()と、思ってしまうだろう。


 残念だけど今回は、そういう訳にもいかないのだ。そうでなくても彼等・彼女等の行動は、奴隷魔術によって様々な制約が課せられているらしい。


 下手にあたし達が探りを入れて、それを不審に思われた場合、報告義務の作用が働き通報される事も、十分考えられるとの事だった。つくづく、やっかいな魔法の様ね…


 ともあれ。それを念頭に置いて思案した結果、最終的に導き出された解決策が、先の奴隷に扮しての聞き込みだった。


 それなら奴隷の人達に怪しまれず近づけるし、世間話感覚で情報も聞き出せるもんね。正直、これ以上の良策無いんじゃね?


 …と、言いたい所なんだけどね~ハッキリ言ってあたし、この案にかなり消極的なのよね。


 まず第1に、確かに良策では在るんだけれど…正味な話、この役割に求められる人物の要素は、『人族以外の種族で、且つ一見戦闘に不向きな風貌の持ち主』だ。


 それを考慮し人選すると、あたし達の中でこの役目が出来るのは、エイミーにシフォン、そしてジョンの3名だ。この内シフォンは、既に役割が決まっているので除外する。


 ともあれこの2人に、あたしの我が儘に付き合わせて、一番危険だろう役目を押しつけるのは、流石にちょっとね~兵士や国民に変装して、紛れ込もうとしているあたし達潜入組とは、危険の度合いも意味合いも違うもの。


 ただでさえ、他種族を同じ『人』と見なさず軽視しているのが、バージナルという国なのだ。そんな国で、奴隷が受ける仕打ちなんて想像に難くない。


 着衣は着の身着のまま、身体を洗う事さえ禄に出来ず、最低限の食事しか振る舞われず。時には、暴力だって振るわれるだろう。


 暴力を振るわれる位なら、まだ良い方かもしれない。下世話な事柄だから余り考えたくもないんけれど…奴隷と聞くと、どうしても『性的』な場面が頭を過る。


 所謂、『性奴』っていうね。ギャルゲやエロゲじゃお馴染みの単語だけれど、実際にあり得る話なんだから笑えないわよ。


 ともあれ、エイミーなんか同性のあたしから見ても魅力的だし、嫌が応にもそういった想像が膨らんでしまう。けどまぁ、流石に護身の心得だって当然在るだろうし、襲われたとして後れを取ったりしないだろうけど。


 だから問題は、もう1人――ジョンの方だ。性犯罪の被害者が女性ばかりという風潮は、廃れるべき悪しき傾向と言って良く、彼が目を付けられる可能性も、十分考慮するべきだろう。


 LGBTと言う言葉を、よく耳にするようになった昨今、報道される性犯罪も実に多岐にわたるようになったように思う。Bの末席を汚す者としては、昨今の報道に心を痛めるばかりだ。


 それはさておき、見るからにか弱そうな美少年なんて、その手の趣味が目にしたらと思うと心配でしょうが無い。なんせ彼の場合、エイミーと違って襲われても自衛の手段が無いんだから。


 まぁ、それは度を超して考え過ぎだしても、道行く通行人がほんの気まぐれで、奴隷に手を上げる事ぐらいするだろう。それを軽くあしらう位の力量が無ければ、バージナル国内で奴隷に扮するなんて真似、自殺行為に等しいと言って良い。


 だと言うのに、それで得られるのが犯罪組織の手掛かりだけでは、流石に危険と成果の釣り合いが出来ていない。そんな貧乏くじを引かせる様な真似、2人にさせられる訳がないじゃないか。


 そもそもこれは、あたしの我が儘から始まった事なのだ。そのあたしが、人選から外れた時点で、一考の余地さえ無いのよ。


 そうまでして我が儘を通したいなんて事、流石にあたしも考えちゃ居ない。だから、この案は無しにしよう。


 険しい表情となったあたしが、そう結論付けて口を開くよりも早く――


「その役目、僕にやらせてください!!」


 ――意を決した様子のジョンが、その危険な役に自ら名乗りを上げる。彼の思いがけないその一言に、誰もが驚いた様子となり言葉を失う。


 次いで訪れる沈黙。自らの発した言葉で静まりかえる中、更にみんなから注目されては、元来気弱な性格の彼の事だから、きっと…


 しかしそんな邪推とは裏腹に、ジョンの表情は、名乗りを上げた時と変わらず真剣そのものだった。鬼気迫るものと言って、差し支えないかもしれない。


 そんな彼の表情を前に、息を呑むようにしてあたしは、先程喉まで出掛けた言葉を飲み込んだ。その位の気迫が、今のジョンには確かに在った。


「い、いや…いやいやあんた!」


 どれだけそうしていただろう。ともあれ、最初に我に返り口火を切ったのはリンダだった。


 彼女は、あからさまに狼狽えた様子で、ジョンとの距離を詰めていく。


「それがどんだけ危険な事か解って言ってるのかい!?下手すりゃ命がけだよ!!」

「勿論解っています!」


 半ば脅すようなリンダの台詞に対し、まるで怯んだ様子の無いジョンが、ハッキリとした口調で告げる。たった一言の筈なのに、それだけで彼の本気度が伝わってくる。


 リンダもそれを感じ取ったのだろう。脅し文句を告げた彼女の方が、逆に対応に困って言葉に詰まるのが見て取れた。


「…これは、遊びじゃ無いんだよ?」


 一拍置いて、睨み付けるようにジョンを見据え、低い声音でリンダが告げる。ドスが効いてるなんてもんじゃなく、明確に心を挫くつもりだろう、身体に闘気を漲らせてさえいた。


 そこまでせんでも…と思いつつ、黙って状況を見守る事しか出来ないあたし達。声掛けようとしたんだけどさ、シフォンに制止させられたのよね~


 さておき。眼光鋭く睨み付けるリンダを前にして、しかし変わらずジョンは、まっすぐに彼女と向かい合っていた。


 素人も素人だから、リンダの発した気迫が伝わらなかった――なんて、身も蓋もない理由じゃ決して無い。


 だってリンダの発した()()は、そういうレベルの代物じゃ無いからだ。蛇で睨み付けられた蛙宜しく、免疫の無い人が無抵抗で受けたら、思わず腰を抜かしていただろう代物だ。


 そのレベルの気迫を、ジョンが正しく感じ取り防げた筈が無い。にも関わらず、変わらず向き合う事が出来たのは、気持ちで負けなかったからに他ならない。


「それも解っています。」

「厳しい事を言うようだけどねぇ、自衛の術も無い駆け出しに、任せられるような事じゃぁないさね。」

「はい。()()()僕が一番の適任だと思うんです!やらせてください!!」


 堂々とした態度で、受け応えするジョンの姿は、何時になく雄々しい。これは流石に、あたしの中に在った『弱そうな美少年』って認識、改めないといけないわね。


 見てると思わず嗜虐心を借り立たせてくれるもんだから、つい虐めたくなっちゃう男の娘って認識、改めないといけないわね(大事な事なので言い直した


「――ジョンさん。」


 誰も割り込めそうに無かった2人のやり取りに、不意にシフォンが割って入る。同時に、その場に居た全員の意識がそちらへと向かう。


「よもやとは思いますけれど…ミッドガルで戦闘になった事を気にして、その責任を取ろうだなどと、お考えではありませんわよね?」


 みんなの注目が集まるのを待ってから、机上で腕を組み鋭く告げる。こちらもこちらで、見る者が見たら怯んだだろう気迫を、ジョンに向け喋り掛けていた。


 それを向けられた当の人物は、何かを堪えるかのように強く口を結ぶと、シフォンに向けていた視線を外して僅かに俯く。一見して、彼女の凄みに耐えかね怯んだようにも見える。


「だと言うのであれば、貴方の申し出を受け入れる訳にはいきませんわね。あの時も申し上げましたが、あぁ成ってしまったのは貴方お一人の責任では、決してありませんわ。」

「そうさね。あんたを気に掛けていなかった、あたい等のミスさね。」


 そこへ、あたかも追い打ちを掛けるかの様な2人の台詞が、順にジョンへと告げられた。けれど、その言葉に対する返事が、すぐに彼の口から返される事は無く、未だ固く結ばれたままだ。


 図星を付かれた――と言う事で、間違いないんだろう。成る程、彼が一見無謀とも思える申し出を、いきなりした理由はソレか…


 2日前の深夜、ここミッドガルで起きた戦闘の概要は、リンダ達と合流した直後に聞いている。しかし話を聞く限りだと、先程2人が告げた通り、ジョン1人が悪いなんて全く思えない。


 まぁだからって、仕方ないなんて無責任な慰めを、言うつもりも無いけどね。起こるべくして起きた、ヒューマンエラーなんだし。


 ともあれ、だからシフォンが口を挟むなと、あたし達を制したのね。これは、自分達の問題だからと。


「…気にするなって言う方が、無理な話ですよ。」


 沈黙を続ける事幾ばくか、固く結ばれていたジョンの口が不意に開く。その声は、消え入りそうな程に小さく、俯いたままの彼の姿と相まって、ともすれば本当に消えてしまいかねないと思う程だった。


 しかし、そう思ったのも一瞬。次の瞬間に彼は、意を決した様子で表情を上げると、そのままシフォンの方へと視線を向ける。


「シフォンさん。あの時、こうも言ってくれましたよね?『失敗を失敗と受け止め次に活かす。』僕にとっての次は、きっと『()』なんです。」

「ジョンさん…」


 そして、先程とは打って変わり、力強いハッキリとした口調でそう断言する。彼のその言葉を受けシフォンは、少し驚いた様子で呟いた。


 彼が発したその言葉は、襲撃に失敗した夜にシフォンが、彼を励ます意味で発したんだろう言葉。それが今、まさか逆手に取られて言い返されるなんて、夢にも思っていなかったに違いない。


 ともあれ、シフォンに思いの丈を口にしたジョンは、そのまま視線をリンダへと移す。


「リンダさん。あの時、あなたに背中を押されたから僕は、立ち止まる事無くここまで来られました。そしてこれからも僕は、立ち止まるつもりはありません。」

「ッ――」


 次いで、強い意志の宿った瞳でリンダを見据え、これまたハッキリとした口調でそう告げる。その言葉を受け彼女は、一瞬何か言い掛けようとし口を開くも、しかしすぐにソレを飲み込んだ。


 掛ける言葉が見つからなかったのか、或いは何か言葉を掛けて、彼の心意気に水を差したくなかったのか…まぁ彼女の性格からして、多分後者ね。


「――フン、言いおるのぉ小僧?」


 それまで、他の誰も口を挟めそうに無いやり取りが続いていたのに、不意に横合いから明陽さんが口を挟む。いつまでも結論が出ない事に、いい加減痺れを切らしたのかと、そう思う様な乱暴な口調だった。


 嫌な予感を覚えつつ、すぐさま視線を彼女へと向ける。またぞろ、不機嫌そうな顔をしているんだろうと思い見てみれば、しかしその予想に反しご満悦顔だった。


「見掛けは…まぁ、なよっちぃが。なかなかどうして、腹に一物でっかく据えとるようじゃな?気に入ったよ。」

「えっ!?あ、ありがとうございます。」


 直後、あの明陽さんの口から、ジョンを褒める言葉が飛び出てびっくり仰天。あたしやオヒメ以外で、ここまで関心を示すなんて…


 あれか!ちょうど背丈が同じ位で、親近k――


 ――ゴンッ!


「――痛いし!?」


 殴られた。いつの間に背後に回り込んだこの人…


 もう、みんなびっくりしちゃってるじゃん…まぁ、今のは流石にあたしの自業自得だわ。サーセン。

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