異世界うるるん滞在記~子連れJKが、新大陸にやって来たぁ!~(4)
まぁメタな発言で巫山戯るのは、この位にして…あたし達がまったり船の旅を満喫している最中も、エイミーとシフォンを中心にして、救出作戦に向けての行動が開始していた。
そんな中、特に身を粉にして頑張っているのは、あたしが思うにジョンキュ――ジョンだろう。こう言っては何だけれど、今回の救出作戦で足手纏いに成りかねないのは、申し訳ないけれど彼だ。
それは、勿論本人も重々承知の上だった。戦闘経験なんてほとんど無く、まして特殊技能や特殊能力がある訳でも無い、つい先日までエルフの隠れ里で、普通に暮らしていた青年(?)だからね。
そんなジョンが、ベテラン揃いの冒険者達所か、世界守り人たる守護者や精霊達に交じって、今回の作戦に参加するって言うんだ。そりゃ、必死に成って当然でしょうよ。
もしも自分が足を引っ張って、救出作戦が失敗に終わったら…その所為でみんなの身に、何かあったら…
ミッドガルでの出来事を聞いたけど、まだ引き摺ってるようだったし、そんな不安が彼の中で、今も渦巻いているんでしょうね…
きっと、その不安に打ち勝つ為だろう。昨日の話し合いで、それぞれの役割について話し合う際に彼は、自ら進んで危険な役割を買って出たのだ――
………
……
…
――昨夜
「――これでどうにか、囚われた御2人を救出する為の目処が付きましたわね。」
「えぇ、そうですね。」
話し合いも佳境を過ぎ一段落した所で、疲れた表情を浮かべたシフォンが、ため息を漏らしながら呟く。その呟きにエイミーが、お馴染みの困ったような笑顔を浮かべながら、いち早く反応し返事した。
暗に『お疲れ様』と言いたげなそのやり取りに、シフォンを疲れさせた一端を担う者としては、申し訳なさしか無い。なんかあるたんびに、紆余曲折しちゃってたからね~
「で、だ。大将。そろそろ肝心の役割分担に移ろうさね?」
そんな風に考えていると、リンダが横合いから唐突にそう言い出した。視線だけ向けて彼女を見てみれば、こちらはシフォンとまるで対照的に、やる気満々と言った表情をしている。
彼女の中では、きっとここからが話し合いの本番なんだろう。さっきまで口数少なげで、いざ小難しい話になると、途端に退屈そうにしてたからね〜
「…そう急かさなくとも、勿論そのつもりですわよ。」
そんなリンダに対し、呆れ顔でジロリと一瞥し苦言を口にするシフォン。直後に、諦めた様子で深いため息を吐き出した。
その様子からして、今までにもこんなやりとりが何度となくあったのだろう。ともあれ、リンダのその一言によって休む暇を無くし、話し合いは次の段階――それぞれが担う役割分担へと移行した。
とその前に、ギルドの船を使ってルアナに向かう役目だけど…これは話し合うまでも無く、あたしと明陽さん以外に有り得ない役割だ。
同じく、フェミル湖に向かいユニコーン達の協力を取り付けるのも、明陽さん達が買って出てくれたので除外。なので決める事は、基本ルアナに上陸後の役割についてだった。
まず、何を置いても重要なのは、バージナルの出兵に紛れ潜入する役。これは話し合いの結果、あたし1人で試みる事となった。
正確に言うと、あたしがゴリ押しして押し切ったんだけどね。エイミーやリンダが、1人じゃ危険だと最後まで猛反対してたんだけどね〜
けど、人数多くなればその分、見つかるリスクだって高まるし。それにあたし1人だったら、見つかりそうになった瞬間、精霊界に避難も出来るから、かえって安全だと説得してどうにか納得して貰った。
そのやりとりを見てた明陽さんが、横合いからニヤけ顔で『過信し過ぎだ』なんて、また意地の悪い事言うもんだから、納得してもらうのに苦労したわよ。ほんと、妙なフラグ立てるの止めてほしいもんだわ。
…けどまぁ、言ってる事はその通りだから、素直に受け止める事にしたけど。
それはさて置き、続いて決めた役割は、バージナルの監視役についてだ。潜入を試みるタイミングを図るにしても、その後の街中での調査をするにしても、俯瞰で街全体を随時確認出来た方が、何かと都合が良いからね。
城に潜入するタイミングで、街中にあるだろう非合法組織のアジトを破壊し、わざと騒ぎを起こす時だって、リアルタイムで兵達の動きが判れば何よりも心強いし。勝ちをもぎ取る為に情報を制すのは、世の常ってもんじゃない?
とするとこれに適任なのは、魔導に精通した者という事になる。なので、必然的にこの役割は、シフォンの担当という事になった。
彼女なら、空間魔術の系統である通信魔術が使えるしね。それにバージナルの外だったら、身バレの心配も無いんだし。
ともあれ後者の理由から、潜入後の情報収集担当は、あたしを筆頭にリンダとミリアに決定。一応潜入後は、認識阻害の魔術を掛けて行動したり、リク港で眷属化するバージナルの武装を着けて行う手筈だ。
けど、何が元で顔バレするか、正直解らないからね~特にエルフな御3方は、顔見られただけでアウトな訳だし。
対して、外見は普通の人種と変わらないオヒメ達精霊組も、例え認識阻害掛けてても、魔術師や精霊種が見たら一発でアウト。身体がそもそも微精霊で出来てるから、内包した魔力量が半端ないのよね。
因みにあたしは、未だエイミーとの間に繋がってるパスのお陰で、膨大な魔力行き来している所為か、精霊化しない限り大丈夫との事。まぁ、これ以上強大になったら、流石に隠し切れんそうだけどね。
なので、ミリア共々バージナルに保護された異世界人って設定で、バージナル内で聞き込みする予定。かの国が、半ば強制的に異世界人保護してるって話、ここぞとばかりに利用してやりますとも!
まぁそれは良いんだけど、ちょっと心配なのがリンダなのよね~ルアナで大立ち回りしたばっかりで、もうミッドガルに手配書が出回ってきた位だからね。
だからこの配役は、半ば賭けに近いのよ。リンダ達が大陸外に逃げた所は、その時その場に居たバージナル兵達によって、しっかり目撃されている。
だからこそ、こちらの想像を遙かに上回る速度で、ミッドガルに手配書が回ってきた筈。なら逆にバージナル本国には、まだ手配書が出回っていない可能性がある。
あくまで可能性の話だから、勿論楽観視出来ない。けど、心理的な事を言う様だけど、仮に自分の手配書が出回ったのなら、人はそれから遠ざかる様に逃走を図ったり、或いは身を隠したりするものだろう。
一概に言い切るのは危険だけど…身の危険を感じて、それから逃れようとするのが、正しく生物としての本能だ。
向こうもそう考える筈だ。だからこそ可能な限り早く、そして遠くに手配書を配ろうとしているんだろう。
どんなに素早く遠くへ逃れようと、それよりも早く捜索の手が広がると、誇示するのが相手の狙いね。そうする事で、精神的に相手を追い詰め、逃れられないと思わせたいんでしょうね。
逃亡者にとって何よりも堪えるのは、気の休まらない時間だからね。すぐ背後まで、捜索の手が伸びてるとなったら、常時神経を張り巡らせてないといけない訳だし。
警察がよくニュースなんかで使ったりする手ね。監視カメラの映像とか、モザイク無しに公開して、情報提供呼び掛けたりしてるけど、アレって犯人に対するメッセージでもあるのよね。
『言い逃れ出来ない証拠があるんだから、これ見たんならとっとと自首しろ』って言うね。割とアレで、観念して自首する犯人って多いらしいからね~
…おっと、話が逸れちゃった。とまぁ、そうした観点から考察するに、相手も昨日の今日でリンダ達が、まさかバージナルに戻ってくるとは思うまいってね。
それが、バージナル本国内に、リンダ達の手配書が出回っていない根拠になっている。出回っていたとして、せいぜいリク港位かしらね?
灯台もと暗しとは、よく言ったものよね~
まぁ何にせよ、実際に潜入して確認してからだけど…今ん所潜入調査のメンバーは、あたし達3人で仮決定。
続いて、最終目標であるバージナル城、並びに軍施設への潜入する人員だ。前線に向けての出兵や、陽動によって兵の数が減っていたとしても、厳重な警備がされている事は想像に難くない。
まして明陽さんの話だと、街の治安維持に関しては、別に組織されているらしい。ならアジト襲撃によって、城の警備が極端に手薄になるとは、安易に考えない方が良いでしょうね。
とするなら、街へ潜入する時と同じくあたし1人の方が、何かと身軽に動けるのよね~今し方、明陽さんに注意されたばっかりで、学習して無いんかーいって話だけどさ。
でも正直、捕まってる2人見つけ出して、そのまま精霊界に送っちゃえば、それで『はい終了!』なんだよn――
「何言ってるんだい?勿論あたいも、そっちに加わるさね。」
そう説明して、みんなを納得させようとした所、間髪入れずリンダから反論の声が上がる。しかもなんだか、あたしの提案に対して若干怒ってるっぽかった。
最初からこの件に関わっていた者として、こればっかりは譲れないと言わんばかり。まぁそりゃそうよね、あたしが逆の立場でも、同じ反応してたに違いないわ。
シフォンを見やると、こちらも同じような様子だ。ただこちらは、自身に課せられた『監視』という、重要な役割が解っているから、反論しなかったんだろう。
けどね~安全を期すなら、やっぱり…
「大体、優姫。あんた囚われてる2人と面識なんて無いだろう?あたいが2人の立場だったら、見ず知らずの異世界人が、急に現れて『助けに来た』なんて言われても、すぐ信用なんて出来ないさね。」
「それは、まぁそうよね…」
次いで、彼女にそう言われて、返答に困り言い淀む。確かにそうなんだけど、正直相手に信用されなくても、別に構わないのよね。
発見しちゃったら、半ば強制的に精霊界に送っちゃえば、それで済む話なんだし。まぁ…身も蓋もないのは、解ってるけどさ。
「それに…まぁ、流石に無いとは思うけどねぇ。他に有翼族の男と黒豹族の女が居たらどうするんだい?あんたに見分け付くのかい。」
更に続けて、かなり強めな口調でリンダにそう問われ、口籠もらざるを得なくなってしまった。そこを突かれてしまうと、流石にぐぅの音も出ない。
彼女自身も前置きした通り、その可能性は極めて低いだろう。けれど、万に一つだってその可能性が無いとは、言い切れないのも事実…
けど、そんな可能性の話よりも重要なのは、ここで互いに主張し合って、仲間内で不和を招きたくもない。そんな状態で作戦遂行したって、上手くなんていきっこないからね。
「…あの――」むぎゅ「――んぐ?」
…だって言うのに銀星が、あたしの提案支持しようとするもんだから、慌ててその口塞ぎましたよ。あっぶなぁ~抱っこしてて良かったわぁ~…
ともあれその思いが強く勝り、全面的に彼女の言い分を受け入れる事に。と言う訳で、城と軍施設への潜入には、あたしとリンダのペアで当たる事になった。
と、ここまで多少の衝突が合ったものの、それぞれが分担する役割が決まっていった。どれも重要で、且つ危険を伴うのは、言うまでも無い。
しかし、次に決めようとしている役割は、或いは一番危険かもしれない。場合によっては、選出を断念した方が良いんじゃないかと、そう思う位に…
その危険な役割とは――『奴隷に扮して、バージナル国内で働く奴隷達から、犯罪組織のアジトを聞き出す事』だ。
先程選出した潜入調査組の主な目的に、犯罪組織のアジトを特定する事も、勿論含まれている。けど、それよりも優先度が高いのは、捕まっている2人の収容場所が、バージナル城か軍施設で間違いない裏付けだ。
現状、期待値が高いのは、間違いなくその2箇所だけど…治安維持組織の中にも、収容施設があるのなら、そちらも無視する訳にはいかない。
それに、もし2人が怪我なんかしていた場合、病院で治療を受けている可能性だってあるからね。メアリーを逃がす際に、2人とも戦闘に参加したって話だし。
例え可能性として低くても、不安が残るのであるならば確認し、可能な限り潰して確率を上げておきたいからね。いざ潜入って成って、隈無く探したんだけど見つかりませんでしたじゃ、流石に格好付かないじゃ済まされない。
今この機を逃したら、正体バラして強引に事を進める以外に、2人を救出する手立てが無くなるからね~
その覚悟も勿論あるけど…あくまでそれは、最後の手段として取っておきたいってのが本心よ。