いちからはじめるいせかいかんこう(のーまる?)(1)
どうしてこうなった…
日課の筋トレを済ません、朝食を取った後の時間、すでに太陽は燦々と辺りを照らしていた。そんな中あたしは、前方に仁王立ちしている、褐色肌の筋肉お姉さんを、半眼で眺めながら考えていた。
あたしはこの世界に来たときの袴姿に、左手に九字兼定を手に持って。筋肉お姉さんことリンダは、いつものビキニアーマー姿に、彼女の身の丈程はありそうな、愛用の巨大な戦斧を肩に担いで。
まぁ要するに、お互い戦闘態勢な訳ですよ。まぁあたしは、乗り気じゃ無いから髪は纏めず、下ろしたままだけどさ。
けど、向こうは結構やる気満々なのか、戦斧を地面にぶっ刺した状態で、当の本人は悠々と準備体操なんてしおております。やんなるわ~
「…ねぇ、本気でやるつもりなの?
「なんだい、怖じ気づいたのかい?
「いやいや、あたし最初から乗り気じゃなかったじゃない。あなたが無理矢理ここまで連れてきたんじゃない
「あっはっはっはっ!そうだったけかねぇ?」
あたしのぼやきに、リンダは快活に笑いながらも、準備体操を止めようとしない彼女を見て、深くため息を吐いた。マジやんなるわ~
仕方なく、あたしも渋々準備をしようと、下ろしていた髪を1つに纏めて結わえ始める。
「あ、あの…本当に大丈夫ですか?」
ちょうどその時、その場に居合わせたもう1人であるジョンが、不安そうな表情で声を掛けてくる。あたしはそれに、苦笑いを浮かべながら、首を横に振って答えてみせた。
どうしてこうなった…改めて思い出して、またため息を漏らした。
はい!それじゃ若干憂鬱だけど、順を追って説明していきたいと思います。今朝、いつものように日課をこなしていたあたしは、うんざりした表情のリンダと出会った。
リンダは昨夜から、シフォンと一緒に、昨日捕まえた盗賊団の残党達の尋問を、夜通ししていたらしい。なんでうんざりしていたか、気になって聞いてみたけど、それについては思い出したくないと言って、教えてくれなかった。
多分だけど、シフォンの尋問の仕方が、相当エグかったんじゃ無いかしらね?あの人、悪人には容赦無さそうだしね~
まぁそれはさておき、その後リンダを伴って朝食へ…朝食はジョンキュンが用意していてくれました。そして、昨日と同じように3人で朝食を済ませて、一息ついていた時の事だった。
不意に、リンダが昨日の話題を持ちかけてきた。内容は、あたしは思い出したくも無い、あの盗賊団のリーダーとの戦いについてだ。
リンダはあの時、その場に居合わせなかったんだけど、遅れて来た彼女が、リーダーの死体を目の当たりにして、率直に驚いたと言い始めたのが、現在こういう状況に陥っているきっかけだった。
彼女が何に驚いたのかというと、そのリーダーの死体の状況についてだった。両腕と胸から上を両断された彼の死体は、そんな無残な状態にも関わらず、ほとんど流血していなかった。
まるで斬られた事に、相手が全く気付かずに、痛みも何も感じずに、その後も暫く普通に動き続けていた様だと、彼女はそう言い当てて、あたしの技に興味を示したんだった。
事実あの男は、あたしに斬られた後も、暫く行動を続けていた。後の先の極致とは、抜いた事さえ悟られず、音も光も置き去りに、一刀の元に全てを平らにする。
っとまぁ、聞こえは良いけれど、あたしはその極致に至っていないし、今後も至る事はきっと無いと思う。あたしの剣の才能は、一番上の兄や3つ下の妹の足下にも及ばないのよね~
それでも、じいちゃんにあたしが武人一刀居合術の継承者として選ばれたのは、剣の才能以外の才能を認められたからだった。その才能って言うのは、あたしが貪欲なまでに、様々な格闘技やスポーツを習い、その知識や技術を取り込んで、自分の糧にしていたからだ。
あたしは昔から、体を動かす事が好きだったし、好奇心も旺盛だった。興味を持った事には、挑戦せずにはいられない性格で、気が付いたら10を超える習い事を、小学生で進んでやっていた。
それだけでも周りの大人達に驚かれていたけど、それ以上に驚かれたのは、そんな数の習い事をしていたら、全部が中途半端になりそうだけど、あたしはそんな事にはならないどころか、コンクールや競技会に選ばれる位には、それぞれの習い事を体得していた。
それを可能にしたのが、驚異的な集中力にあった。その持って産まれた集中力と性格で、盲目的に色々な事に打ち込め続け、違う意味で周りを驚かせる事も多々ある様な子供だった。
ま、要するに身体を壊す寸前まで、のめり込みすぎて、何度もぶっ倒れる様な事があったのよね~そんな事を何度も続けていて、そのたんびにじいちゃんに怒られたわ。
けど、それが結果として、じいちゃんに継承者として選ばれた最大の理由だった。けどまぁ、単純に他の兄弟達は、継承者とかにあまり興味無いのよね~それはあたしもだけど。
じいちゃんもそこまで熱心に、継承者がどうのとかは思っていないみたいで、興味無ければ継がなくても良いって感じなのよね~それが時代の流れって物なんでしょうけど。
はっきり言って、現代日本において武術って、減衰の一途なのよね。そりゃ昔は、剣だ槍だで切った張ったが戦の主流だったけど、近代兵器に取って代わられて、その存在意義さえ霞んでしまっているのが現実だった。
そして台頭してきたのが『武道』というスポーツだ。武術は武道へと名前を変えて、戦うための術から、心身を鍛える術へと変わってしまい、今や古流武術と言われる流派は、身内のみの細々とした家がほとんどだ。
うちだってその例に漏れず、居合術道場としては、じいちゃんの代ではもはややっていけなくて、剣道場としてやってる位だしね~居合の門下生は、うちに通っててちょっと興味が出たからって人ばっかだし。
話が思いっきり逸れちゃったわね。ええっと、リンダがあたしの技に興味を持ってしまったんだけど、それって彼女の勘違いなのよね~
さっきも触れたけど、あたしの剣の才能は、兄妹に比べたら見劣りしてしまうし、自分でもうちの流派が目指す境地には、きっと辿り着けないだろうと自覚している。そんなあたしが、昨日の戦いでその境地を実践出来たのは、単純にこの世界に来てからの、あたしの身体能力なら可能だと踏んだからだ。
要するに、100%あたしの実力って訳じゃ無くて、ドーピングした結果と言っても良いかもしれない。ほら、よくスポーツ選手や、最悪なのだと国をあげて、試合前にドーピングしたってニュース見るじゃない?あれよあれ。え?そんな頻繁に見ないって?Прости
とは言っても、事実あたしがそんな芸当をやってみせた物だから、リンダの興味を引いてしまい、その結果として、組み手を申し込まれてしまったと、そう言う訳であ~る。無いわ~
何その『おめぇ~強ぇなぁ。オラわくわくしてきたぞ。』的展開。どこの星の戦闘民族なのよ…ほんとそう言うお決まりな展開、あたし必要としてませんけど?
…無いわ~(大事な事なので2度言いました。)
僕もそんな集中力が欲しいですz




