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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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異世界うるるん滞在記~子連れJKが、新大陸にやって来た~(8)

「フッ、フォフォフォッ!!」


 みんなが銀星の発言に呆気に取られる中、不意にさも楽しげな明陽さんの笑い声が、ベッドサイドから響いてくる。


「目的の為に、よもや儂等だけで無くユニコーン共までも利用しようとはのぉ!面白い!!」

「ど、どうも…」


 快活に笑いながら明陽さんは、キメ顔で銀星に対しそう告げる。その一方で、言われた側の彼女は、まさかこの世界の護り手である守護者に、そんな風に言われると思っていなかったんだろう。


 それ以上に、そのキメ顔とはまるで裏腹な彼女の滑稽な恰好の所為で、あからさまに戸惑った反応を見せる銀星。ま~ね、何時の間にか抱っこされた状態で、この人キメ顔してんだもん。


 多分、どんなに足掻いても譲羽さんの拘束が解けないもんだから、開き直っちゃった結果なんだろうけどさ。だからって、完全ぬいぐるみ扱いされてて、よくキメ顔なんて出来んなこの人…


「気に入ったよ御主。ユニコーン共には、儂等が話を付けてやろう。」

「「えぇっ!?」」


 ともあれ、明陽さん達のとんちきな恰好はひとまず置いといて…続いたその言葉に、みんなが驚きに声を上げる。


 まぁ無理も無いわよね。銀星のトンデモ提案を、無礼講として受け取って笑い飛ばすだけでも懐深いのに、まさか率先して実践しようってんだからね。


 明陽さんの破天荒っぷりは、解っていたつもりだけど、まさかここまでとはね。ってか、それよりも…


「そんな事して平気ですか?」

「Than that!そもそも、どうやって話を取り付けるというのです?ユニコーンを引き入れるなんて、それこそ不可能に思うのですが…」


 あたしが口を開くと同時、ミリアが尤もな疑問を明陽さんに投げかける。確かに、平気かどうか以前に、話してどうこうなるような相手なんだろうか?


 守護獣達は、知能が高いって言う話だし、会話自体は成立するんだろう。だし、銀星もその辺りの事はちゃんと考えて、実行可能だと思ったからこそこうして提案してくれた筈だ。


 だからきっと、肉体言語を駆使して力ずくで従わせる、なんて事に成らない…よね?いやでも、明陽さん達なら或いは…


「それは…実際の所、可能ですわね。」


 そんな風にあたしが考えていた所、明陽さんでは無くシフォンが、その疑問に対する答えを口にする。その声に視線を向けると彼女は、何とも険しい表情をしていた。


 その様子からして、実行可能だからこそ困りものって言う事なんだろうなぁ~


「えぇ。ユニコーン様方は、別名『乙女の守護獣』とも呼ばれていますし、メアリーさんの事情を話せば、恐らく協力して下さると思います。」


 次いで隣に座るエイミーが、何時もの困ったような表情で後を続ける。地球のユニコーン伝承でも、確か処女の女の人しか背中に乗せないって話を、聞いた気がするわね。


 他にも確か、気性が荒く獰猛だけど、処女の懐に抱かれるとすんなり大人しくなるとか。ユニコーンが描かれてる絵画も、大抵女性と描かれたりしてるわね。


 そう考えるとユニコーンって、ただの女好…ゲフン!ゲフン!!


 直近で知り合った、某狼な守護者を彷彿とさせる情報だわね…ってかそれ、男だったらどうなん?とは、決して言うまい。


「別に、引き入れる必要なんてありませんよ。ただ少し、森から出て暫くお散歩して下されば、それで十分なんですから。」


 怖っ!銀星冷笑浮かべて、なんか怖い事言ってる!!


「ちゅ~訳じゃよ。」


 ふと、可笑しそうにそう呟く明陽さんの声を聞き、再び視線をそちらへと向ける。


「何、彼奴等とは顔馴染みじゃしのぉ。御主等が行くよりも、儂等が行った方が話も早かろうて。」


 すると明陽さんは、譲羽さんに抱っこされたまま、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべそんな事を口にする。それを目にしてあたしは、思わず苦笑しながら嘆息した。


 全く、明陽さんも困った人ね。仮にもこの世界の守護者なのに、世界を混乱に陥れるかもしんない事態を、進んで起こそうってのに愉しんでるんだから。


 愉しんでるって言うよりも、悪戯好きが新しい悪戯思い付いて、喜んでるって方が正解かもしんない。ともあれ、さしものあたしもその悪癖は、流石に見習いたく無いものだわ。


「それに、一度彼奴等の背中に跨がって、流鏑馬をしてみたいとも思っておった所じゃ。」

「いや、そんな取って付けたみたいな理由、でっち上げんでも良いですって…」


 そんなあたしの様子を見てか、今にも高笑いしそうな笑みを浮かべて彼女は、そんなしょうも無い冗談を口にする。でっち上げるんだったら、もっとマシな事言って欲しいものだわ。


「…じゃがまぁ、決めるのは御主等じゃ。」


 そう思った次の瞬間、ふと真顔に戻った明陽さんにそう言われ、釣られてあたしも表情を引き締める。けれど、その言葉に即答で返す事が出来無かった。


 その言葉の真意は単純明快だ。『自分達は『共犯者』で在るけれど、あくまで『首謀者』はお前達だ。だからとっとと自分達の意思で引き金を引け』と、そう言いたいんだろう。


 そんな今更な事、こうしてわざわざ釘を刺すみたいに言われるまでも無く、ちゃんと解っているつもりだ。そして、メアリーとの約束を確実に守る為には、銀星の提案を実行するのが1番理に適っている事も。


 しかし、『その為に無関係な人達まで巻き込んで、本当に良いのだろうか?』そんな考えが頭を過って、引き金に掛けた指先を重くする。


 それは、あたし以外のみんなも同じだった。情けないわね、一国を敵に回すと息巻いておきながら、世界を敵に回す可能性を突きつけられた途端に、尻込みするなんて――


「――もしも、私の提案がマスターの意思にそぐわない物でしたら、遠慮せずに言って下さい。」

「…銀星?」


 即答出来ず黙り込んだあたしを見て、銀星が申し訳なさそうにしながら、不意にそう呟いた。


「その場合、他にもっと良い案が無いか、一生懸命考えます。」


 更にそう続ける彼女を見てあたしは、キツく結んだ口元をフッと弛める。そして、テーブルの上に佇む彼女に手を差し伸べ、そのまま彼女の頭をソッと撫でた。


「マ、マスター?」


 その突然の行為に、少しドギマギしている銀星に笑いかけた後、その小さな身体をひょいと持ち上げたあたしは、再び彼女を胸に抱き寄せた。


 折角、銀星があたしの求めに応じて、自信たっぷりにプレゼンしてくれたって言うのに、肝心のあたしが尻込みするなんて、情けないにも程があるわね…


 彼女は言った。あたしが望んだ目的の為に、最善の方法を提示する…と。


 その銀星が、折角こうして道を示してくれたんだ。その道が、あたしの望んだ結末に繋がっているんだと、親であるあたし自信が信じずして、一体全体誰が信じてやれると言うんだろうか?


 あたしを慕ってくれるこの子の為にも、ここでしっかりと腹を括ろう。そもそも――


「――世の為人の為…なんて、そんな殊勝な考えで、事を起こそうと思った訳じゃ無いしね。」

「え?」


 誰に言うでも無く、ポツリと漏れたその言葉を耳にした銀星が、怪訝そうに首を傾げる。それに対しあたしは、悪戯っぽい笑みを浮かべ誤魔化した。


 こうしてあたしがメアリーに肩入れしているのは、彼女との境遇の差に負い目を感じているというのも確かにある。けどそれ以上に、このままじゃ()()()()()()納得出来ないから、今こうしてここに居る。


 事を穏便に済ませるならば、最初にシフォンが提案した、対話による解決が最善なんだろう。誰も危険な目に合う必要なんて無いし、それが正しい大人の対応なんだろう。


 けどそれは、立場が同じかそれ以上であればこそ、最大の効果が発揮される手段だ。あたし達が相手にしようとしているは大国で、この世界の中でも特に強い影響力を持っているのだ。


 そんな相手と交渉しようとするのなら、お膳立ての段階で相当な時間を有するのは確実だ。そこから更に交渉を始めて、すんなり話が纏まるとも限らない。


 何よりも相手は、この世界の防波堤を担う国。たった2人とは言え、貴重な戦力をあっさり手放すとは考えにくい。


 となれば、それ相応の対価を求めてくるのが自然の流れだろう。それに対する譲歩もしていかなくてはならないので、結果時間ばかりが経過していくという訳だ。


 全く以て理不尽な流れだけれど、ある一点に目を瞑ることが出来れば、これ以上なく穏便に済ますことの出来る方法だろう。けどその一点というのが、この場合1番の問題なのだ。


 それが『メアリーの気持ち』だ。彼女が色々な事に見切りを付けられれば、或いはシフォンの提案を受け入れるのも、そんなに悪い選択では無かっただろう。


 しかしメアリーは、深々と頭を下げてお願いしてきた。彼女1人の気持ちと、全世界とを天秤に掛けるべきじゃ、そもそも無いんでしょうね。


 けれど、無垢な少女の想いを蔑ろにするのが、正しい大人の姿だと言うのなら、青臭くも独り善がりな、頭ん中お花畑な子供のまんまであたしは良い。


 そう思ったからこそ、メアリーに契約何て事を言い出したのだ。なんて風に言えば聞こえは良いけど、要するに自身の我が儘を、彼女の気持ちに上乗せしただけに過ぎないのだ。


 だから――


「――あたしは、銀星の提案を支持するわ。」


 みんなに向き直ったあたしは、決意を込めハッキリとそう告げる。


 契約を交わした時、2人を救い出す迄あたし達は、決して諦めないと宣言してしまっている。一度口にした我が儘なら、どんな形にせよ貫くのが筋って物だろう。


 それに、軍国に喧嘩を売ると決めた時点で、どうしたって波風が立つって解りきってたんだもん。どうせ事が荒立てるんなら、世界を巻き込んで盛大にやってやろうじゃ無いのよ。


「気乗りしない人は、ここで降りて構わないわ。」


 しかしそれは、あくまでもあたし個人の事情だ。それにみんなを巻き込んで良い理由にはならない。


「ハッ!今更何言ってんだい。」

「It's all right!ここまで来たんです。最後まで付き合いますよ!」

「ボクも微力ながらお手伝いします!!」


 その思いから、吐いたあたしの言葉に対し、真っ先にリンダが鼻で笑いながら返事を返してくる。それを皮切りに、ミリアとジョンも賛同の声を上げる。


 それらの声に頷いて答えた後あたしは、エイミーへと視線を巡らせる。見ると彼女は、何時もの困ったような表情で、朗らかに笑いながらため息を吐いて見せた。


「本当に貴女は、しょうが無い人ですね。」


 それを賛同の意と受け取ったあたしは、彼女に対し申し訳なさそうにしながら苦笑で返した。次いで視線をシフォンへと向ける。


「…今更、(わたくし)からなにか言うつもりは在りませんわよ。」


 その視線に気が付いた彼女が、呆れたような表情でため息を吐きながらそう返してくる。再会したばかりなのに、心労かけ過ぎちゃってごめ~んね、と心ん中で謝罪しとこう、そうしよう。


「決まりね。」


 ともあれこれで、全員の賛同を得られた。それに満足してニヤリと笑うと、明陽さんへと視線を戻す。


「改めて、協力お願い出来ますか?」


 直後にあたしがそう告げると、(未だ譲羽さんに抱っこされたままの)彼女は、愉快そうにフンッと鼻を鳴らし――


「善かろう。面白くなりそうじゃのぉ~」


 ――と、快く返事を返してくれた。(見た目の頼りなさは、この際置いといて)こんなにも、心強い後ろ盾はきっとないだろう。


「シャッ!したらこれで、バージナルに潜入する手段の目処が立ったって事さね。なら後は、見つけ出して救い出すだけさね。」

「簡単に言いますわね、この脳筋娘は…」


 そんなあたし達のやり取りを見て、リンダが意気揚々と宣言する。けど次の瞬間、手厳しいシフォンのツッコミが入る。


「仮に事が上手く運んで、時間的猶予が伸びたとしても一時的な話ですわよ。ユニコーン達の動きが陽動と知れれば、軍はすぐにとって返すに決まっていますわ。」


 そして続けざまに、彼女の淡々とした考察が始まった。折角、リンダの気分が盛り上がっていたというのに、思い切り水を差されてしまった形となって、見るからにテンションが下がっていく。


 流石に見ててちょっと可哀想だけれども、しかしシフォンの言い分が正しい。結局、確実に潜入する方法と、時間稼ぎの手段が出来たと言うだけで、根本の解決にはまだ幾つもの障害が残っているのだ。


「どれだけ時間が稼げるか怪しいですが、そう長くは保ちませんわよ。対して、(わたくし)達が自由に行動出来るのは、その軍がもぬけの殻の間だけですわ。かなり自由が効くようになるのは、間違いありませんが…囚われている御2人の居場所を、その短時間で見つけ出すのも至難の業ですわよ。」

「シフォンの言う通りですね。せめて、捜索する範囲が絞れれば良いんですけど…」


 更に続いたシフォンの考察に、隣に座るエイミーが難しい表情で同意を示す。確かに、何の手がかりも無しに、当てずっぽうで捜索を始めても、ただ悪戯に時間を浪費する結果になりかねない。


 せめてバージナル国内の、詳細な地図があれば良いんだけど…残念ながらかの国の地図は、国外で流通される事は、万に一つも無いそうだ。


 何かしらの観光資源がある訳でも無く、他種族の入国が自由に許されていない上、商人も商売にならないから寄りつかないんじゃ、そりゃ国外に需要何て出来無いわよね。せめて、国の様子を少しでも知ってる人が、この場に居れば良いんだけど…

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