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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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異世界うるるん滞在記~子連れJKが、新大陸にやって来た~(5)

………

……


 ――10分後


「ぜぇ~…ぜぇ~…」

「はいっ!っとまぁそんな訳で、あたしが変装して明陽さんとギルドの船に乗船すれば、問題無くルアナに上陸出来るって訳ですよ。」


 騒ぐだけ騒いでぐったりしている明陽さんを余所に、爽やかな笑顔と共に何事も無かったかの様に、無理矢理話を再開するあたし。


「…あれ、放って置いて宜しいんですの?」

「んん~…まぁ概ねあんな感じなので慣れて下さい。」


 それを見て、ドン引きした様子のシフォンが、隣に座るエイミーへと耳打ちする。それに彼女は、何時もの困った表情で苦笑しながら、言い難そうに諦めの言葉を口になされた。


 コメントに困らせちゃって、ごめ~んね。けどしょうがないじゃん?


 譲羽さんに羽交い締めにされて、反撃されない安全な位置にいるんだもの。そりゃ怒らせるだけ怒らせて、さっさと疲れさせて大人しくした方が、手っ取り早いって思っちゃうでしょうよ(ぁ


 まぁ、あのままシフォンを矢面に立たせ場を収めて、変に遺恨を残したくなかったってのもあったしね。これから協力し合おうって言うのに、こんなつまんない事で彼女に苦手意識持って貰いたくなしね。


 その点あたしなら、普段から憎まれ口叩きまくってるからね。今更あたしがズケズケ言った所で、普段とそう大差無いからね。


 なんだかんだ身内に対して、根に持つ様なタイプじゃ無い――


「…後で覚えとれよ小娘…」


 ――あっあぁ~聞っこえなぁ~い。


「とは言っても、別に船を使用してルアナに渡るだけなら、別に変装する必要は無いんだけどね~2人共、オリジナル眷属を所持してるからさ。」

「何だい?じゃぁ何か別に思惑があるって訳かい。」

「勿論。それについては、直接発案者に説明して貰いましょう。」

「あん?」


 地の底から響く様な明陽さんの呻きを無視して続けたあたしの言葉に、直ぐさまリンダが疑問の声を口にする。その言葉を聞いて、苦笑しながら肩を竦めそう返した後、不意に胸に抱きかかえる銀星へと視線を落とした。


「ねぇ銀星?」

「マスターがそう言うのなら。」


 そう言って彼女は、態とらしく咳払いを一つ吐いた後、あたしから受け取った話の主導権を握りしめて語り出した。


「…まず、ルアナに渡る上で、船を利用するのが1番安全で確実なのは、皆さんご存じなので説明を割愛しますね。そして、バージナル旗下の船は勿論、ギルドが所有する船で渡航する場合も、渡航者の情報が逐一軍国に送られると言うのも、冒険者の皆さんならご存じですよね?」


 あたしに抱っこされた状態の見た目幼稚園児ぐらいの女の子が、真面目な表情で何やら小難しい話を始めた上、それを全員当たり前の様受け入れ真剣に耳を傾けているというこの状況。話を振っといてなんだけど、シュールだわぁ~


 と言うか、先におちゃらけながら発表した2つの案からの、真面目に本命C案発表しといて、実はあたし発案じゃ無いんですって、しれっと告白したんだけど、華麗にスルーされちゃった。悲しひ…


 もっとこう『おまえじゃ無いんかーい!』って反応期待してたのに…逆にあたしが、みんなに対して『コレジャナイ!』って、思わず言いそうになっちゃったわよ。


 何て、言ったら怒られるから我慢しました。褒めて(ぁ


「それは当然、白金等級である守護者の方々も同様です。ですから敢えて、船での渡航を提案しました。」

「回りくどいねぇ、だからどういう事なんだい?」


 あたしのしょうも無い独白はさて置きとして、抱きかかえた銀星の説明が更に続く。その最中、短気を起こしたリンダが、怪訝そうな表情で答えをせっつき始めた。


「なる程…」

「あん?どういう事か解ったのかい大将??」


 そんなリンダとは、まるで対照的な反応を示したのは、誰在ろう彼女の相棒であるシフォンだった。彼女は、その呟きを耳にするや、答えを求めそちらへと視線を向ける。


「えぇ至って単純な話ですわ。要するに、白金等級の御2人を利用し、バージナルの目を御2人に向けさせて、他に向くべき警戒を薄めようとそう言う事ですわ。そうでしょう、銀星さん?」

「はい、その通りです。」


 リンダの質問に対し、真っ直ぐそう答えたシフォンが、直ぐさま銀星に対し向き直り、答え合わせを求め問い掛ける。その質問に対し、あたしの腕の中で真面目な表情して頷く彼女。


 そしてそれを見下ろし、『やっぱシュールだなぁ~』なんて、場違いな感想抱いてる懲りないあたしです。サーセン。


 ま、それはそれとして。シフォンが今言い当てた様に、銀星発案のC案の最大の利点は、『バージナルに欺瞞の目を向けさせる』と言う、その一点に尽きる。


 本来、白金等級である明陽さん達守護者が、ルアナ大陸に渡航する状況というのは、大規模侵攻の兆しがある場合がほとんどなんだって。当然だけどその場合は、バージナル側から緊急招集が世界中に掛けられた状況だ。


 しかし、それ以外――例えば何かしらの任務を受けて渡航する際には、必ず事前にバージナルへの連絡が必須となっている。理由は、そうと知らずに末端の兵士達が、守護者達と揉め事を起こさない様にする為だ。


 現状、白金等級の守護者達は、その殆どがバージナルが忌み嫌う『亜人』によって構成されてる。その所為もあって、バージナルの国民や末端の兵士達の白金等級への見方は、一介の冒険者達とそう大差無い物らしい。


 けど、仮にも守護者と迄呼ばれる者達だ。実力差は勿論、地位や名声だって、一介の冒険者達と比べるべくもない。


 それに加えて、守護者を守護者たらしめている、神々から授かった加護――『不死』の能力。それを持つ者達へ無礼を働くという事は、つまる所天に向かって唾を吐くのと同意だ。


 そんな事をしたら、例えこの世界の防波堤を担う国とは言え、敬虔な信者達が黙っている筈がない。普段の明陽さんなんか見てると、とても信じ難いんだけど…各守護者達は、教団内じゃ枢機卿と同じ地位らしいからね。


 けどそれを抜きにしたって、バージナルが守護者達に対し、慎重にならざるを得ない別の理由が他に在る。もし仮に、白金等級の彼等がその気になれば、冗談抜きでバージナルを壊滅させられるだけの力があるからだ。


 実際、大分昔に魔神教の守護者1人を怒らせて、取り押さえようとした兵士達を次々と殺害。ペアを組んでいた女神教の守護者が、説得してその人物の怒りを静めるまでの間に、実に100人を超える死者と、その倍数の重傷者を出す惨事があったそうだ。


 そんな悲惨な事件が過去に在ったなら、事前申請の徹底が義務付けられるのも納得よね。しかして今回は、その事前申請を直前まで敢えて行わず、渡航しようという魂胆なのだ。


 そうなれば当然、バージナル側は蜂の巣を突いた様な騒ぎに成る筈だ。それに加えて、上陸した傍からその守護者達が、忽然と姿を消したとなったらどうだろう?


 例えるならそれは、何時爆発するかも知れない火薬庫に、足が生えて独りでに動き回ってる様な状況だ。昔を知る者だったら間違い無く、またぞろ誰かが知らずに導火線に火を付けるんじゃ無いかと、気が気じゃ無い筈だ。


 そうなれば必然的に、捜索隊を編成し行方を追う筈。その騒動に上手い事乗じて、第三者に成りすませば、あたし達も何かと動き易くなるだろう。


 あたしが譲羽さんの変装をする理由は、単純に頃合い見計らって明陽さんを精霊界へと運ぶ為だ。2人に同行して船乗ったんじゃ、あれこれ素性探られて面倒だし、かといって所持してる眷属の気配辿って出現して、兵士達とのやり取りの最中に現れちゃったら不味いしね。


 流石に、遠く離れた眷属の周辺状況までは、あたしも感知出来ないからね。無線や携帯みたいな魔道具で、状況を逐一報告出来れば、変装する必要も無いんだけどね~


 まぁそれはさておき、上陸時から全力でバージナルの指揮系統を、全力で滅茶苦茶にする気満々な作戦を、今あたしの胸の内に居る幼女が、涼しい顔して提案してくれたのよね~可愛い見た目に反して、なかなかエグい作戦立てるんだから、全く末恐ろしいわ。


 まぁだからこそ、こうしてこの場に居合わせて貰ってるんだけどね。別に手持ち無沙汰だった訳じゃ無いんだからね!


「…守護者を――それもスメラギ殿を囮に使うなんて大それた事、よく口に出来ましたわね。」


 銀星との短いやり取りを終え、暫く無言で考え込む仕草を見せていたシフォンが、不意に苦笑を浮かべそう漏らす。色々考え巡らせた末の総評がそれって、褒めてんだかけなしてんだかよく解んないわね。


 けどまぁ、シフォンがそう言う気持ちも解らなく無いのよね。少なくともあたしなら、例え思い付いたとしても、明陽さん達を利用するみたいで気が引けて、提案さえしなかっただろうからね。


 けど銀星は――


「――今でこそこんな姿をしていますが、私もそこで寝転がっている夜天も、元々は人の手によって産み出された道具です。道具の存在意義は、所有者が望んだ結果に向かって報いる事です。マスターがソレを望むのなら、私はその目的の為に最善の方法を提示する迄の事ですよ。」

「そ…そうですのね。」


 シフォンからすれば、単なる軽口のつもりで漏らした程度の事だろう。しかしその言葉に対し銀星は、まるで表情を崩さず大真面目な口調で、さも当然の様にそう言い切った。


 見た目幼子の銀星から、まさかそんな台詞が飛び出るとは、まるで思ってもみなかったのだろう。目を剥き驚いた表情を浮かべ、分かり易くドン引きして、戸惑っている様子だった。


 そのやり取りを、1歩退いた視点から見ていたあたしは、途端に困り顔となってため息を吐いた。ふと気になって夜天に視線を向けて見ると、ベッドの上でゴロゴロしながら、呆れ顔で妹の事を眺めていた。


 超が付く程に真面目で、姉妹の中でも特にしっかりしているは、紛れもなく銀星だと思っている。けどその一方で、内面性が1番危ういとも感じてた。


 今し方、己の事を道具と言い切った姿からも、その危うさがハッキリ見て取れる。意思を持ち肉体を得て、その存在を精霊として昇華させて尚、己を道具と割り切る彼女にとって、あたしの役に立つ事こそが、存在理由で在り矜持なのだろう。


 あたしが言うのも何だけど、全く以て危なっかしくて見てらんないわ。だからなのかしらね、まるでバランスでも取るかの様に、夜天がのんびりしてるのは…


 …と、いかんいかん。銀星の危うさについては、いずれ腰を据えてじっくり向き合うとして、とりあえず今はこの場の雰囲気和ませなきゃだわ。


「ま~ね、シフォンの言う事も尤もよね~明陽さん達の事囮に使うなんて、後で何要求されるか解ったもんじゃ無いからさ。」


 そう思うが早いか、何時ものおちゃらけた態度で、明陽さん達に向き直りながら軽口を叩く。


「あ゛ぁ゛?わざわざここまで着いてきたんじゃ。今更んな事でなんぞ要求する程、みみっちくないわ、戯け!」


 それを察してかどうかはさて置き、そんなあたしの軽口に対し、すかさず悪態で以て応える明陽さん。ってか、まだ譲羽さんに羽交い締めにされてるし…


「わぁ!流石大婆様!!太っ腹!!」

「ったく!態とらし――ッ!?」ぷにぷに「こ、こりゃ譲羽!?」


 あたしがそんな事を言った所為だろう。突然譲羽さんが、羽交い締めにする明陽さんの脇腹を、何故だかまさぐり始めた。


「ちょ、止めんかこれ!脇腹触るでないわ!!」


 突然始まった彼女の行為に、勿論明陽さんも逃れようと必死に抵抗する。しかしくすぐられている所為もあってか、思う様に力が出せない様で、結局暫くそのままくすぐられ続ける羽目になった。


 …うん、これは流石に申し訳ないわ。しっかし、ほんと自由だなぁ譲羽さんは…


 いやぁ~それにしても、この2人が居ると場を和ませてくれて便利だわ~アクアの次位に、オチ要因として打って付けよね?

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