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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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異世界うるるん滞在記~子連れJKが、新大陸にやって来た~(2)

「その見張り台というのが、この辺りになります。」


 そう言ってシフォンが、ぐにゃっとした丸いシミもといフェミル湖から、少し離れた位置を指し示す。しかしそこに、建物らしきイラストは描かれていない。


 その変わりに地図に書き込まれていたのは、恐らく街道を表すのだろう太字の線が、彼女の指し示した地点で重なり合い、ちょうど十字の様になっている様子だった。


「それぞれの港からバージナルに繋がる道は、此処で一度交わりますの。」


 その説明に促される様に、十字になった地点から3方向に視線を向けて、太線の行き着く先を確認しておく。それを済ませあたしが視線を元に戻すと同時、今までその地点を指し示していたシフォンの指が、不意にスッと横移動を始める。


 シフォンが動かす指の先は、あたしから見て左側。今し方視線を向けた十字の残り1方、ルアナ大陸の西に向かって続く、太線の行き着く先だった。


「ここより西に向かった先に、ギルド主導で設置された前線基地がありますの。」


 そう告げてシフォンは、不自然に途切れた地図の端手前で指を止める。本来なら、その先にも大陸が続いている筈だろうに、しかし彼女が示す其処から少し先は、テーブルの木目が続いている。


 不自然に途切れているからと言って、その地図が不完全な代物という訳では決して無い。むしろ、これ以上なくルアナ大陸の現状を、克明に描いていると言って良いだろう。


 何故なら――


「――この前線基地より少し行った先が、侵入不可能エリアとなります。」


 遙か昔、この世界で起こった神代戦争。その最終決戦の折、魔神デモニアとの一騎打ちで深手を負い弱った邪神グラムを追い詰めたイリナスは、その地に空間の牢獄を作り出してかの邪神を封印する事に成功する。


 しかし、いくら負傷していたとは言え、イリナスの上位互換である邪神を、彼女1人の力で完全に封じる事は出来無かった。閉じた筈の空間に歪みが生じ、そこから漏れ出した邪神の力が、大陸中に広まったそうだ。


 それを抑え込む為に、イリナスの施した封印の上からクロノスが力を施し、周囲の時間を停止させたのだという。以来、クロノスが施した結界より先、誰も立ち入れ無い広大なエリアが、大陸西側に広がっている。


 それが、俗に侵入不可能エリアとこの世界の人達に呼ばれている場所の成り立ちだった。この場所で活動出来るのは、封印を施したクロノスの加護を持つ守護獣達か、魔力障壁で結界の効果に干渉出来る蟲人達だけなんだそうだ。


 その為、現在の侵入不可能エリアがどうなっているのか、限られた者以外に知る術が無い。だから、この地図に記されている区域が正しく、『現状人類が踏破出来るルアナ大陸全土』で間違い無いのよ。


 まぁ限られた者達である守護獣達が、親切に測量してくれるんなら話は別だろうけどね。ちなみに、世界地図なんかに記されてるルアナ大陸の全体像は、神代戦争当時の測量がそのまま使われているんだって。


「ギルドの前線基地より少し北上した位置に、バージナルの前線基地があります。」

「それが此処ですわ。」


 ルアナ大陸に関する時代背景やら豆知識なんかは、ひとまず横に置いとくとして…思考を切り換えたあたしは、エイミーの発言を受けシフォンが指差した地点に目を向ける。


 そこには、地図の端に沿って縦長に黒く塗り潰されたている。塗り潰された範囲が、そのまま守備範囲という事なんでしょうね。


 よくよく見ると、先程までシフォンが指し示していた、ギルドの前線基地という辺りも、四角く黒で塗りつぶされていた。それがギルドの受け持ちなら規模の差は、ざっと4~5倍って所かしら。


 流石、邪神の脅威から世界を護る、防波堤と言われる国だけの事はある。けど――


「前線に配置される常備兵の9割が奴隷兵で、バージナルに送られたほぼ全ての奴隷が此処に集められています。収容施設は…確か此処ですわ。」


 ――その前線の維持に駆り出されてるのが、他種族の強制労働者だってんだから、どうにも納得いかないのよね。他種族排斥するんなら、自分とこの力だけでどうにかしなさいよってのよ。


 そりゃね、この世界の種族の中でも下から数えた方が早い序列の人族がね、種族的にも上位の蟲人族を相手にするんだからね、他の種族の力を取り入れないと渡り合えないのは解るんですよ。ただその取り入れ方がね~


 まぁ、バージナルって国が他種族排斥する様になった経緯も、解らなくも無いのよ?他の種族が、荒廃していくルアナ大陸から別の大陸に移住していく中、最後まで踏み止まった人族が興した国なんだからね。


 いくら蟲人の侵攻を食い止める為とは言え、一度はルアナ大陸を捨てて出て行った筈の他種族達が、自分達が残って護ってきた土地を、何食わぬ顔で平然と歩ってる所想像してご覧なさいよ。そりゃ誰だって良い気なんてしないし、進んで助力を申し出たりもしたくないわよね。


 だからって、意地になって他種族の協力突っぱねても、バージナルだけで蟲人の侵攻を防ぐのには限界がある。そこで奴隷兵と言う形で、受け入れる事にしたんだろう。


 自分達の自尊心や他国に対する面子を保ちつつ、迫る蟲人の脅威に対応する為に。なんとも器のちっさい話よね~


 ま、それはそれとして、今確認すべき事は…


「そこに全ての奴隷兵が集められるって言う事は、その内2人も送られるって事よね?」

「えぇ。」

「間違い無くそうなりますわね。」


 それまで地図に向けていた視線を上げたあたしは、気になった事を目の前の2人に向かって問い掛ける。そうして返ってきた返事を聞いた後、改めてシフォンが最後に指し示した箇所を、ジッと見つめながら思考を巡らせていく。


 現状、メアリさんとバァートンさんの身柄は、バージナル国内の収容所なんかに収監されている筈だ。けど、詳細な街の地図が存在しないから、何処に収監されたか目星も付けられないのよね~


 観光で訪れる人なんて一切居ない国だから、需要なんて全く無いからね。国の周囲は高い壁で覆われてて、外から街並み見る事だって難しいそうだし。


 まぁ、無い物をねだった所でしょうがないので、この件に関しては早々に諦めました。けど、これから人を助け出そうってのに、どこに居るかの目星も付けられない状況って言うのは、大問題でしかないのよね~


 そう考えると、どこに居るか解ってる分、この施設に送られてから助け出す方が、現実的ではなかろうか?まぁ、ここに送られるまで、捕まってる2人に我慢して貰う事になっちゃうんだけども。


「そこの警備の規模って、解ったりする?」


 実践するかどうかはさて置き、ダメ元で突拍子も無い事を聞いてみる。曲がり形にも、警備の実態なんて軍事機密2人が知る筈無いよね?


「警備自体は、そんなに大した事なかったと思いますよ、100年前から変わらなければですが。」

「と言うより、前線に近い地域で防衛以外に回す兵力なんて、流石に在りませんわよ。」


 と思いきや、なんともあっさり知りたかった情報が返ってきた。しかもあたしの予想に反し、施設の警備がザル以下である可能性さえあると言う。


 あれ~?幾らギルドの防衛線から近いからって、情報ダダ漏れ過ぎやしませんか?


 仮にシフォンの言葉を真に受けたとして、そんな状態でよく奴隷兵達が大人しくしてるわね。反乱とか脱走とか危惧してない訳無いだろうし。


 なんて事を考えながら、眉間に皺を寄せ件の奴隷施設を見つめていると――


「御2人さんや、其奴奴隷魔術の存在を知らんのじゃ無いかのぉ?」

「え、何それ?」

「「あっ」」


 ――そのあたしの表情を見てだろう、横からさも可笑しそうな口調で、明陽さんが会話に割って入ってくる。その言葉を聞いてあたしが振り向くと同時、うっかりしてたと言わんばかりの2人の呟きが聞こえてくる。


 はい出ました~またこの世界の常識ってパターン。あたし知らねーYO!ってやつですね。


 奴隷魔術――というのは所謂蔑称で、正式名称は『契約魔術』と言うらしい。書いて字の如く、術者と対象者の間に、強制力のある誓約を結ばせる魔法だそうだ。


 元々は、商人が取引の際に使用していた魔法なんだって。書面で残すよりも確実だし、魔法効果のお陰で詐欺なんかの抑止にもなったんだそうだ。


 この魔法、契約に対する強制力が働くだけで、基本的にそんな強力な物じゃ無い。けど魔法の性質上、例え術者でも一方的に解除するという事が出来無いんだって。


 解除するには、魔法を使用する際に取り決めた契約を完了するか、契約する際に同意した全員の承諾が必要になってくる。その点に目を付けたのが、奴隷制が始まって間もない頃の奴隷商達だった。


 当時は、まだ法の整備なんかもしっかりしていなかったし、何よりいきなり始まった奴隷制に、大人しく従う者なんて居なかった。そう言った反抗的な奴隷を、強制的に大人しくさせて言う事を聞かせる為、改良して派生した魔法が奴隷魔術と呼ばれる様になった…と、そう言う事らしい。


 はぁ~ん。その魔法があるお陰で、奴隷兵が脱走も反乱もせず大人しいから、警備の必要も無いのか…


 成る程、成る程。分かり易いわ、あっはっh――


「――駄目じゃん!!」

「What!?」

「な、なんだい急に!?ビックリするねぇ…」


 件の奴隷魔術がどういった物か、その詳細を聞き精査し終えたあたしは、もたらされた情報の不都合さに、思わず声を荒らげ抗議の声を上げる。突然あたしが上げた奇声に、隣に立つリンダ達が直ぐさま驚きの反応を返してくる。


 けれどそれには一切取りあわずに、再び眉間に皺を寄せて思考を巡らせ――


「お~お~慌てとるのぉ。大方、今どこに囚われとるか解らんその者達が、その施設に送られてから助けた方が確実じゃとか思っとったんじゃろ?それが奴隷魔術の存在知って、その魔術掛けられる前に救いださねば!とか、そんな風に考えとる顔じゃのぉ。」


 ――………


「…あの、そこまでハッキリあたしの心情察して下さるんなら、もうちょっと心象の方も考慮して頂けると、とてもありがたいんですが…」


 油の切れたブリキのおもちゃさながら、ギギギと音に聞こえそうな感じで首を横に向けたあたしは、人の悪い笑顔を浮かべてニヤニヤしている明陽さん対し、渋い顔で呻く様に苦言を呈した。そんなあたしの反応を前に、更に気を良くした様子でニヤニヤし始めたこの人、マジで質が悪い…


 けど、実に業腹だけどこのロリババァの言う通りなのよね。正直、1から考え直さないといけない位に、その奴隷魔術の存在は厄介だ。


 例え2人を問題無く助け出せても、その魔法が掛かっている状態だったら、無事救出したとは言い難い。魔法による強制力や制裁効果が働いて、逆に苦しめる事に成りかねないからだ。


 魔法を解除出来れば問題ないんだけど、さっき聞いた説明からして一筋縄って訳にはいかないからね。魔法を使用した術者を捕らえるのは当然として、他に誰か立ち会っていたなら、その全員を捕まえる必要がある。


 はっきり言って、そんな事態になってたらお手上げだ。何か、裏技的に解除する方法でもあれば、話は別なんだけど…


 そんな事を考えながらあたしは、視線をシフォンへと向ける。この世界屈指の魔法使いであり、守護者であるキサラさんの師にして、自身も指折りの魔法使いである彼女へと。


「…強制的に奴隷魔術を解除する方法は、一応あります。」


 その視線に気が付いたシフォンが、神妙な面持ちでため息を一つ吐いた後、あたしが放つ無言の問い掛けに静かにそう答える。


 その言葉は、あたしの望んだ通りの物だった。しかし彼女の浮かべる表情が、余りにも険しい物だった為、手放しに喜べる内容で無い事をすぐに理解した。


「どんな方法か、聞いても良い?」

「えぇ。ですが先に言っておきますわよ?危険を伴いますので、どんなに貴女が頼まれましても、絶対に(わたくし)が手を貸す事はありませんからね。」

「解ったわ。」


 その言葉にあたしが頷くのを確認してシフォンは、目を伏せ深く息を吐き出して、重い口取りで裏技について語り始めた。


「奴隷魔術等と呼ばれていますが、元が『契約魔術』で在る以上、契約の履行が済めば速やかに魔術が解除されます。ですが、例えば突然契約の履行が不可能となる場合だって、十分に有り得ますわよね?」


 そこで彼女が言葉を切った瞬間、その表情から感情の色がスッと抜け落ちた様に、あたしには見えた。


「…例えば、契約者が死亡するとか。」


 そして一旦間を置き、無表情の彼女が告げたその言葉を耳にして、思わずあたしは息を飲み込む。彼女の醸し出す雰囲気に呑まれたのは、何もあたしだけじゃ無い。


 並び立つリンダ達は当然、彼女の隣に座るエイミーでさえ、その雰囲気に圧倒された様子に見えた。重苦しい雰囲気に、誰もが沈黙する中――


「回りくどいのぉ~ちゃっちゃと結論を言わんかい。」


 ――うちの親族が、ほんと空気読まなくてすみません…

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