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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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改編期に向け、新番組制作中(8)

 全く、この脳天気娘は…見なさいよ、あんたが間髪入れずにあっけらかんと返事を返したもんだから、何事かと思って頭を上げたメアリーの表情が、絵に描いた様な間抜けずらになっちゃってるじゃない。


 可哀想に…彼女からしたら、心理的な葛藤を押し殺して、意を決して告げたって言うのに、これじゃ台無しじゃ無い。


 それに他のみんなだって、まさかオヒメがそんな簡単に答えると思ってなかったから、呆気にとられてドン引きしてるし。どうすんのよこの空気?


「ねっ!?良いよねママ!!」


 しかしそんな事、まるで気にしていないらしいオヒメが、ニコニコと満面の笑みを浮かべたまま顔をあたしへと向け、そんな風に事後承諾を求めてくる。ここは親として、ビシッと――


「オッケー!」


 ――親指おっ立てて答えてやりますとも(どやぁ


「「軽!!」」

「アッハッハ~さっすが姫ちゃんとマスタ~」


 そんなあたしの反応を見て、固まっていたみんなの中でも、特に長く一緒に居る銀星達やアクアが、なかなか良い感じのリアクションを返してくる。この辺は流石にもう手慣れた感じだわね~


「優姫…」


 しかし一番付き合いの長いエイミーは、珍しく複雑な表情をして低く呻いた。あれあれ?てっきり何時もの困った表情で、笑って済ませてくれるとばかり…


 ハッ!?そうか!!


「あ、ごめんエイミー。もしかしなくてもエイミーも混ざりたかったよね?」

「えっ!?そうなのエイミー!!ご、ごめんね!?」


 これ見よがしに気にしている風を装いながら、エイミーに対し取り繕うようにそう告げる。すると、それを聞いていたオヒメが、直ぐさまオロオロしながら謝罪の言葉を口にした。


「どうしたら私が、のけ者にされて気にしてるみたいに思うんですか!!オヒメちゃんも!真に受けて謝らなくて良いですから!!」

「フッフォッフォッ!!」


 そんなあたし達――まぁ主にあたしにだけど、眉を吊り上げ抗議の声を上げるエイミー。その直後、今のやり取りが余程ツボだったのか、少し離れた明陽さんの笑い声があたし達の元まで届いた。


「ちゃうのん?」

「違いますよ、もう!呆れてるんです!!」

「サーセン。」


 だ、そうです。テヘペロ☆


「全く、あなた達親子ときたら、本当に…」


 普段よりも少し、やり過ぎな位に戯けたあたしの態度を前に、それまで眉を吊り上げていた彼女の表情がふと和らぐ。そして、何時もの困った表情で微笑んだ後、そう呟いて溜息を吐き出した。


 その笑顔にあたしも笑顔を返した後、メアリーへと向き直る。どうやら彼女が醸し出していた重苦しい雰囲気は、あたしが向き直る頃にはもう、シリアスなんぞ真面目にやってられるかと言って、裸足で逃げ出してしまった後の様だった。


「――お待ちなさい。」


 話の中心人物にも関わらず、すっかり放置されて所在なさげに佇むメアリー。そんな彼女に向かって、あたしが声を掛けようとしたその時、それに待ったを掛ける人物が現れた。


「優姫さん。貴女、正気で仰っていますの?」


 その声の主――シフォンへと視線を向ける。すると直ぐさま、真剣な表情をする彼女の口から、そんな言葉が投げかけられる。


「正気かどうかはさておき、あたしもこの子も本気で言ってるわよ?」

「う?うん!」


 そんな彼女へと向き直りながら、側に居るオヒメを抱き寄せはっきりと答える。急に話を振られたオヒメも、満面の笑みではっきりと返事を返した。


「それにしたって、安請け合いし過ぎですわ。相手は山賊とは訳が違うんですのよ?」

「言われなくてもちゃんと解ってるわよ。それに、安請け合いのつもりも無いわよ。だってあたし達、最初から最悪の事態を想定して、あなた達毎彼女をバージナルから助け出すつもりで、ここまで追ってきたんだもの。」


 その言葉に対し、あたしがそう言って切り返した直後、一瞬驚いた表情を浮かべてエイミーへと視線を送るシフォン。その視線を追ってチラリと見てみると、何時もの困った様な表情で首肯する彼女の姿を目撃する。


「…だとしても、わざわざ危険に飛び込む必要はありませんわ。残られた2人が、無事という保証もありませんし。」


 エイミーの返事を受けた後、再びこちらに視線を戻し話を続けるシフォン。その口調は酷く淡々としていて、感情の起伏が感じられない。


 そんな彼女の口から出た後半の言葉は、確かにその通りなのだろう。しかし、同じ助けられた側の人間であるシフォンが、軽はずみに口にしていい類いの言葉で無い事だけは確かだ。


 冷静沈着なイメージが強い彼女らしいと言えばらしいけど、他人の気持ちに配慮出来ない様な人物じゃない筈だ。それに自ら危険に飛びかんだのは、そもそも彼女達の方が先だろう。


 何かしらの打算があったにせよ、殆ど無償でメアリーを助け出す為に尽力した彼女が、何の理由も無しに冷たく事実を突きつけるだろうか?


「それに関しては、そう心配せずともええじゃろう。わざわざ島津が出張ったんじゃ、彼奴が無益な殺生を見過ごす筈無かろうて。」


 そんな風にシフォンの裏を読んでいると、再び明陽さんの声があたし達の元へと届く。見ると彼女は、ニヤニヤと人の悪そうな笑みを浮かべ、だらしなく椅子に座りながらあたし達のやり取りを眺めている様だった。


「それは、魔女殿も良く知るところであろう?」


 続けざまに明陽さんは、浮かべた人の悪そうな笑みを更に深めて、顎でシフォンを差しながらそう断言する。その言葉を受けて視線を元に戻すと、眉一つ動かさずに佇む彼女の姿。


 なる程。確信があったからこそ、冷淡に居られたって訳か…


「例えそうだとしても、あの国から奴隷兵を連れ出すなんて事、現実的に言って不可能ですわ。まだ彼女は、貨物として運ばれている途中でしたから、(わたくし)達もギリギリまで追跡しましたけれど、国壁の向こう側に行かれてしまったら流石に手の出しようがありませんわ。」


 あたしが視線を戻した直後、何事も無かったかの様に彼女の話が再開される。相変わらず感情の起伏が無く、もしかしてロボットなんじゃ無いかと思う位、淡々とした口調だった


「ならシフォンは、彼女を助けるのに手を貸してくれた2人を諦めるべきだと?」

「そんな事言っていませんわ。直接的に動くべきで無いと、そう申したいのです。幸いにもメアリーさんを助け出す事が出来ましたし、彼女の証言と他の大国に協力して交渉すれば…」

「それが上手くいったとして、メアリーとその2人を引き合わすのはいつ頃になりそう?」


 尚も続いたシフォンの言葉を遮って、すかさずあたしがそう指摘した直後、彼女の切れ長の眉根がピクリと上がったかと思うと、すぐに反論出来ずに押し黙ってしまう。


「…すぐに答えられないって言う事は、上手くいったとしても時間が掛かるんでしょ?その間ずっと、メアリーをこっちの世界に引き留めておく訳にもいかないわ。」


 沈黙が答えと悟ったあたしは、彼女にそう告げた後メアリーへと視線を向ける。


「2人を助け出しまで残るか残らないは、そりゃ彼女の自由だけど――」


 恐らくそうなった場合、2人と会えるまでこの世界に残る選択をするだろうけど。と、不安そうに話の行方を伺う彼女を目にして、そう心の中で付け加える。


「――もしもこのまま、2人に引き合わせられずに彼女を元の世界(地球)に還したら…」


 そこまで呟いてあたしは、不意に表情を引き締め再びシフォンへと向き直った。


「きっと心に、生涯消えない傷が出来る。それが解っていて、どうにか出来る立場に居るあたしは――あたし達は、黙って見過ごす事なんて出来無いのよ。」


 巫山戯ている訳でも、調子に乗っている訳でも無い。これでもちゃんと真剣なんだと、そう彼女に伝える為に、その瞳を真っ直ぐと見据えて告げる。


 するとその直後、あたしの視線からまるで逃れるように、シフォンの方から先に視線を外す。


「…魔術で彼女がこちらに来てからの記憶を、封じる事も出来ますのよ。」


 そして言い辛そうに、そんな事を口走るシフォン。しかしその直後――


「消さないで下さい。」


 ――横から割り込んできた声に、あたしとシフォンがそちらへと視線を向ける。見ると思い詰めた表情を浮かべたメアリーが、胸の辺りで両手を強く握りしめて立つ姿があった。


「消さないで…2人の事、忘れさせないで下さい。」


 そんな彼女の口から紡がれた懇願の言葉に、自嘲気味に苦笑しながらシフォンへと視線を戻す。


「だって。そっちの方がよっぽど彼女の傷になりそうだけど、それでもやる?」

「いいえ、気の迷いでしたわ。ごめんなさね、聞かなかった事にして下さいまし。」


 あたしの軽口に対しシフォンは、申し訳なさそうな表情をしながら目を伏せ、素直に謝罪の言葉を口にする。そんな今の彼女に、さっきまでの冷徹な印象は、まるで感じられなかった。


 これ以上冷たい態度で突き放した所で、あたし達の意思が簡単に変わらないと、そう判断したんだろう。進んで嫌な役を買ってくれたのに、なんだか悪い事しちゃったかな。


 シフォンだって本当は、可能ならばバージナルに残った2人も連れて脱出したかった筈だ。しかしそれは、様々な要因が重なってあえなく果たす事が出来無かった。


 人数制限という問題、単純な準備不足、バージナル側からの予想外な動き、思ってもみなかった人物の登場etc.


 そう言った数々の障害に立ち塞がれて、結果尻尾を巻いて逃げ出すしかなかったんだ。その時味わった苦渋が、まだ鮮明に口の中に残っているのに、何の躊躇いもなく賛成なんか出来る筈がない。


 だからこそシフォンは、敢えて冷たい態度を取って突き放すような事を言ったんだろう。生真面目で慎重な彼女の前で、ちょっとテンション飛ばしすぎたかな~


「大将。」


 そんな風にあたしが思って居ると、シフォンの後ろに控えていたリンダが、不意にそれまでの沈黙を破り声を掛けてくる。その呼び声に、呼ばれた彼女は当然としてあたしも視線を向ける。


「大将の言い分も解るけどさ。けどアタイは、優姫の意見に賛成だよ。」

「リンダ…」

「このままってのは、流石にアタイも納得いかないんだよ。助けられた借りは、キッチリ助けて返したいしねぇ。それに――」


 やられた借りもキッチリ返す――彼女の目の奥にある強い意志の光が、言葉以上に雄弁にそう語っているように、あたしには見えた。


「ボ、ボクも優姫さん達のお手伝いがしたいです。」

「ジョンさんまで…」

「あの時何の役にも立てなかったボクに、何が出来るか解りませんけど…でも、やっぱりこのままじゃいけない気がするんです!」


 逆襲に意欲を見せるリンダに続き、更にその横からジョンにまでそう言われ、思わず困惑の表情を浮かべるシフォン。


「…シフォン。」


 そんなシフォンに対し、この面子の中で一番付き合いが長いだろうエイミーが声を掛ける。その呼び声に振り向くと彼女は、それ以上多くは語らずに、ただ柔らかく微笑みながら盟友を見つめていた。


「…全く、仕方在りませんわね。」


 その穏やかな微笑みを前にやがてシフォンは、不意に大きな溜息を吐き出したかと思うと、仕方無いと言った様子で呟いた。そしてその直後、鋭い眼差しとなってエイミーを睨み付ける。


「しかし納得いきませんわ!何故貴女は何も言ってくれないのですかエイミー!!その方々が大事なら、(わたくし)の擁護をするべきではありませんの!?」


 睨み付けるや否や、今までと打って変わって表情豊かに、エイミーに対し文句を捲し立て始めるシフォン。


「それはそうかも知れないのだけれど…でも優姫もオヒメちゃんも、一度言い出したら聞かないのよね。だから…ね?」


 それに対しエイミーは、何時もの困ったような表情となりおっとり口調で応戦する。ってか、『ね?』ってなんだろう…


 なんか、若干ブラックなエイミーが出てきた気がするんけど、きっと気の所為だよね?


「だとしてもですわよ!貴女、昔っからそういう所ありますわよね!!」

「そうかしら?」

「そうですわよ!」


 急に始まった2人の口論に、周囲の全員どうして良いか解らず困惑。あたしが言うのも何だけど、さっきまでのやり取りとの温度差が、激し過ぎんのよね…


 まぁ、それだけ2人の仲が良いって事なんだろうけどね~


「貴女もですわよ優姫さん!」

「んえ?」


 そんな風に思って居ると、急にシフォンの矛先がこちらに向いて、思わず変な声が出てしまった。一体何事?


「貴女、最初に会った時と随分印象が違うじゃありませんか。もっと思慮深い方だと思っていましたのに…」

「あ、あぁ…そう言う事?」


 どうやら、あたしがちょいちょい見せる軽薄な態度が、お行きに召さないご様子。そんな事言われてもな、これが割と素なあたしだし…


 そんな事を思いながら、苦笑しつつ溜息を軽く吐いたあたしは、ふと思い付いてある物を右手に召喚し、それをサッと顔の前へと持っていく。あたしが召喚した物、それは――


「最初の内は猫被ってました~ごめ~んね☆」


 ――顔に被せた狐面から口元だけを晒して舌を出し、悪びれもせずにそう言って戯けてみせる。直後、シフォンの刺すような冷たい視線に、思わず背中がゾクリ。


「…普通、そう言う事御自分で言いますか?」

「そう言う人なんですよ、優姫って…」


 なんか呆れられてるみたいだけど、気にしたら負けな気がするぅ~とりま、お面外してシフォン見たら精神ダメージ受けそうだから、暫くこのまま隠しとこ。

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