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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
241/398

改編期に向け、新番組制作中(5)

「十分よ。ね、エイミー?」

「えぇ、ありがとうございました。」


 自分の話で、場の雰囲気が重くなったから、急に雰囲気を変えたんだろう。そんな彼女に対し、あたしとエイミーがそれぞれ笑顔で返事を返す。


 あたし達が聞きたいってせがんだのに、なんだか気を遣わせちゃって申し訳なかったわね。


「それなら良かったですわ。」


 あたし達の返事を受けて、柔らかく微笑みながら返すシフォン。しかし何故だろう、なんだか明陽さんを気にしてるような…?


「大将?アタイでも知ってるような、有名なシマズ将軍の話が抜けてるじゃ無いか。」

「…え?」


 彼女の様子を見てそんな風に思っていると、不意にリンダがそんな事を言い出した。その声にあたしが視線をそちらに向けると、不思議そうな表情を浮かべシフォンに顔を向けている姿が目に飛び込んでくる。


「ちょッ!?リンダ、お待ちな――」


 そんなリンダに対し、今までに見た事も無い位に慌てた様子で、シフォンが勢いよく顔を彼女へと向ける。そしてそのまま、静止の声を上げるも――


「そこの『希望のスメラギ』と引き分けたって話、聞かせてやらなくて良いのかい?丁度本人が居るんだしさ。」

「――さいって言うのにこのお馬鹿!!」


 ――しかしまるで聞こえていない様子で、あっけらかんとそんな事を口にする。直後、シフォンの怒鳴り声が部屋の中に響き渡った。


「な、なんだよ?何が駄目なんだい??」


 そんなシフォンの怒鳴り声に、彼女の倍近い体格のリンダが怯む姿は、なんだか見ていてほっこりする。まぁそれは良いとして、リンダの上げた抗議の声も尤もだ。


 んだけどね~この場合、目の前に居るその相手ってのが、明陽さんなのが問題なのよね~


 嫌な予感を覚えつつ、横目でチラッと明陽さんの姿を確認してみる。案の定というか何と言うか、子供みたいに頬を膨らませ、またも不機嫌面になっている彼女の姿を見て思わず溜息。


 間違い無い。この人が島津家の人毛嫌いしてんの、その話が原因だわ。


「あ、あれ?」


 遅ればせながらリンダも、彼女の拗ねた様子を目撃し困惑の表情を浮かべる。彼女からしたら、何となく聞いてみただけの発言で、理不尽に怒られたり、訳も解らず拗ねられてるんだから、その反応も仕方無い。


「…とらんもん。」

「…ん?え、何ですか?」


 不意に、よく聞き取れないような小さな声で、急に彼女がぼそりと呟く。運悪くそれが聞こえてしまったあたしは、関わり合うと面倒くさそうだなぁ~けど、無視すると更に面倒なんだろうなぁ~と思いつつ、恐る恐る聞き返してみる。


 するとその直後――


「引き分けとらんもん!!」

「うえぇっ!?も、もん!?」


 ――ムスッとした表情で、突然そんな事を口走り始める明陽さん。彼女の主張は、更に続く…


「周囲の連中が勝手にそう言っとるだけじゃもんね!!手心加えてやって途中で剣を納めてやったの儂の方じゃし!そのまま続けてたら儂がキッチリ勝っておったし!!まぁ…少々油断して一太刀受けたが…じゃが儂が彼奴に負わせた手傷の方が断然多いもんね!!勝手な事ばっか吹聴しおってあの阿呆王!!その所為でどれだけ辛酸舐めた事か!死ね!!」

「お、おぉう…」


 癇癪を起こした子供がまるで当たり散らすかのように、むくれっ面で一気に捲し立てる明陽さん。何がどうしてそうなったのか知らないけど、本人にとって余程気に入らない話なんだろう。


 ともあれ、面倒くさそうなので、その話に関して深く突っ込むまいと、鼻息荒く肩を上下させる明陽さんの姿を目に焼き付け心に誓う。職務放棄?いやいやこの人のツッコミ担当、あたしじゃ無くて譲羽さんだし。


「じゃがまぁ、そうじゃのぉ…」


 暫く肩で呼吸を整える明陽さんを、誰もが等巻きにドン引きしながら見守っていると、ようやく落ち着きを取り戻したらしい明陽さんが、不意に口を開き語り始める。


「剣の腕は儂の方が断然上じゃが、今まで儂が相手をした中では、間違い無く上位に入る腕の持ち主よ。そして口惜しいが、兵を率いる事に関して言えば、彼奴の方が儂等より数段上なのは、認めざるを得まいて。」


 そして、彼女らしい不遜な前置きをしながらだったけれど、ちゃんと島津将軍の実力を認めている様だった。あの太々しい明陽さんが、しおらしくそんな事言うなんて――


「ま、剣の腕は儂の方が断然上じゃし、引き分けじゃ無く儂が見逃してやったんじゃがな。」


 ――大事な事なんで2回言ったんですね、解ります。感心して損したわ。


「それ程の腕の持ち主じゃ。その気じゃったら儂等みたく、こちらに召喚された直後に一暴れして、逃げ出す事も出来た筈じゃろうて…しかしそうせなんだ。何故か解るじゃろう?」


 その問い掛けにあたしは、真剣な表情で静かに頷く。それは勿論、身重だった奥さんとお腹に居た赤ちゃんの身を案じてだろう。


「そう言う奴なんじゃよ。じゃから、儂もつい手心を加えてしまったんじゃ。」


 あたしの頷く姿を見て明陽さんは、さも仕方無かったんだと言いたげな様子で、ぶっきらぼうにそう言い放つ、それを見てあたしは、何だか可笑しくなってクスリと笑う。


「はいはい、解りましたよ。そういう事にしておきますね。」


 そしてからかうようにそう言うと、途端に不機嫌そうな表情となって、これ見よがしに鼻を鳴らすのだった。ほんと、素直じゃ無いんだから――


「――ムッ?」

「…明陽さん?」


 ――なんて、いつもの調子で心の中で軽口を叩いていると、何の前触れも無く急に彼女の表情が険しくなる。そして――


「――ひゃぁっ!?」

「えっ!?」

「な、なんだい?!」

「「ジョンッ(ジョンさん)!?」」

「what!?」


 ――突然、室内にションの黄色い悲鳴が響き渡る。その悲鳴に驚き、その場に居る全員の視線がそちらに向かう。


 すると…


 ――ナデ、ナデ、ナデ、ナデ「あ、あの…」


 何時の間に起きたのか、満面の笑みで彼の頭を撫でまくる譲羽さんの姿があった。彼女の突拍子も無い行為にジョンは、顔を真っ赤にして困惑しているご様子。


 そしてそれを、あたし達も困惑した表情で見つめる。だって、この状況にあたし達の理解が、まるで追い着いていないんだもん。


 そんなあたし達を余所に彼女は、その内抱き着くんじゃ無いかって思う位に、ジョンの事を可愛がっていた。この人の突拍子の無さも大概よね…


「ようやっと起きたか譲羽よ。」


 そんな彼女に、呆れた様子で明陽さんが声を掛ける。すると譲羽さんは真顔に戻り――しかし右手は相変わらずジョンの頭を撫でながら、空いた左手で手話で何やら伝え始める。


「…んな事、御主に言われんでもわかっとるわい。まだ寝ぼけとんのか?戯けめが。」


 それを読み取ったらしい明陽さんが、直ぐさま不愉快そうな表情に成って鼻を鳴らすと、ずけずけと容赦なく悪態を吐く。それを聞いて、一瞬ムッとした表情になったかと思えば、しかしすぐまたニコニコ顔でジョンの事を愛で始める譲羽さん。


 当のジョンきゅんは、混乱と緊張と恥ずかしさから、完璧硬直してされるがままとなっている。助けたてあげたいけど、お姉さんどうする事も出来無いんだ、ごめん…


「っとに、このデカ女は…」

「それより明陽さん、一体何が――ッ!?」


 ひとまずジョンの事は忘れるとして、明陽さんに向き直るなりあたしは、急に様子が変わった事や譲羽さんとのやり取りについて、その真意を確かめようと声を掛ける。しかし、言いかけたその言葉を途中で飲み込んだあたしは、その瞬間ハッとなって慌てて部屋の窓へと視線を向ける。


 正しくは、夜の帳が降りた窓の向こう――階下に広がる街の路地へと意識を向ける。


「…気が付くのが遅いぞ戯けめ。」


 あたしのその様子を見て、呆れた様子で明陽さんが呟いた。直後、この部屋の階下の様子が、急に騒がしくなり始めた。


「大将…」

「えぇ。」


 あたしとほぼ同時に外の様子に気が付いた2人が、険しい表情で短い会話を交わす。その少し後に、ガシャガシャという金属音を響かせて、階段を上がってくる何人もの気配が、部屋のドアの向こう側から伝わってきた。


 どう控えめに聞いても、全身甲冑(プルプレート)で完全武装した兵士の一団で間違い無い。まだ夜更けには早いとは言え、陽も暮れたこんな時間に物々しいにも程がある。


 しかしそんな物々しい集団が、ギルド直営の宿に何の用件だろうか?まさか、身分を偽って凶悪犯がこの宿に潜伏でもしてるのかしらね?


 なんて、すっとぼけるのもこの位にしておきましょうかね。彼等の目的は言うまでも無い――


「――どうやら(わたくし)達の手配書が、もう回って来たみたいですわね。」


 そう言ってシフォンは、険しい表情で身構える。同じくリンダも険しい表情となって、無意識に空を掴む仕草をするも、しかし彼女の相棒(戦斧)は此処に無い。


 そんな心許ない状況で、しかし部屋の外から聞こえる騒々しい足音は、どんどんこの部屋に近づいてくる。 


「どうするんだい大将?」

「そうですわね…?」


 そんな、この状況をどう対処するかで相談する2人の前にあたしは、軽やかな足取りでスッと進み出る。難しい表情をする彼女達とは、まるで対照的な余裕の笑みを浮かべて。


「大丈夫よ2人共。そんな怖い顔しないでも。」

「優姫さん?」

「なんだってんだい優姫?」


 あたしが興した突然の行動に、思いっきり訝しがるリンダとシフォン。当然だ、彼女達は知らない――あたしの精霊としての能力を。


「何勿体ぶっとんじゃ?御主は…」

「優姫、人が悪いですよ…」

「そうだよママ!意地悪しちゃメッだよ!!」


 そんなあたしの思わせ振りな態度に、此処までの道程を共にした仲間達から非難の声が上がる。フル装備の兵士が、シフォン達を掴まえに現れたって言うのに、あたし同様まるで焦る素振りも見せずに。


 …と言うか譲羽さん、そろそろジョンきゅん解放したげて…


「なによ~ちょっと位格好付けたって良いじゃない。」

「時と場合を選んで下さい。」

「趣味悪いのぉ~」


 あたし達と彼女達、その反応の違いには、かなりの温度差がある。その事に気が付き、訳も解らずに困惑する2人を間に置いて、たわいの無い談笑を続けるあたし達。


 ガチャガチャと響く足音は、いよいよ部屋の前に迄迫ってきていた。


「…何が在るのか知りませんが、そうするのか早く決めて下さいまし。」

「そうだぜ優姫!?打って出るにしろ、逃げるにしろ、サッサと決めようぜ!!」


 そんな差し迫った状況の中痺れを切らした2人が、今にも掴み掛かってきそうな勢いで、あたしに怒鳴り声をぶつけてくる。けどあたしは、それでも余裕の態度を崩さない。


 何故なら――


「――打って出る必要も、逃げる必要も無いわよ。だってもうあなた達は、この世界で指折り安全な場所に匿われてるんだから。」

「え?」

「どう言う意味だい?」


 不敵な笑みで彼女達に対しそう告げた直後、精霊としての能力を解放する。すると、瞬きする程の僅かな時間で、見えていた世界が一変した。


 見えていた世界だけじゃ無い。先程まで確かに聞こえていた、ガチャガチャと騒々しい足音さえも、今は全く聞こえなくなっている。


「「ッ!?」」

「わっ!?わわっ!」


 突然起こった摩訶不思議な出来事に、ここを始めて訪れる3人の目は、その幻想の世界に釘付けになっている様子だ。一面が雲のような絨毯に覆われた、白銀の粒子が天へと昇っていくこの幻想の世界こそ――


「こいつは…」

「まさか…精霊界ですの?」


 ――譫言のように囁かれたその言葉を耳にし、浮かべた笑みを更に深め満足げに頷いてみせる。予想以上の反応が返ってきてくれて、あたしとっても満足です。


「マスター、お帰りなさい。」

「お帰りマスタ~」

「ただいま、2人共。」


 そんな風にリンダ達の反応を楽しんでいると、まるで見計らったかのようなタイミングで、夜天と銀星があたしの目の前に現れる。彼女達の挨拶に返事を返した後、未だ驚きから抜け出せていない3人へと向き直り、そして――


「ようこそ、我等ヴァルキリーの精霊界へ!3人とも歓迎するわよ。」


 ――この世界の主人として、ガラにも無く大げさな挨拶で、初めてここを訪れた客人達を迎え入れたのだった。

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