表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
239/398

改編期に向け、新番組制作中(3)

 けど逆に、何故そこまで過剰な反応を示すのかという疑問も残る。なんか、ちょっと拗ねてるみたいだし…


「あの、シフォン?」

「はい、なんですかエイミー。」

「話の腰を折るようで申し訳ないのですが、そのシマズ将軍と言う方の事を、もう少し詳しく教えていただけませんか?何分、私の存じ上げない方なので…」


 明陽さんの反応にあたしが困惑していると、不意にエイミーが申し訳なさそうに話を切り出す。


「あぁ、そうですわね。貴女はずっと里に籠もっていましたし、彼を知らなくて当然ですわね。」

「えぇ…」


 その申し出に、事情を汲み取ったシフォンの返事を聞いて、エイミーが気恥ずかしそうに頷いた。そりゃ、テレビの無い世界で100年も引き籠もってたら、世界情勢に疎くなるってものよね。


「あたしもちゃんと知っておきたいかな。あたしの知ってる『鬼島津』は、その島津将軍って人のご先祖様だし。」


 それに、あたしもその話題にこの後持って行こうと思ってたし、丁度良かった。ここはエイミーに乗っかって、シフォンから色々話を聞くとしよう。


 本当は、それなりに交流が在るだろう明陽さんから、詳しく聞きたかったんだけど、今はあんな調子だしね。


「そうですわね…」


 あたし達の申し出を受けて、しかし何故だかシフォンは、煮え切らない様子で呟きを漏らす。そして、未だムスッとした表情を浮かべる明陽さんを、1度横目でチラリと見やった後、困った様子で軽く嘆息を漏らした。


 おや?その様子もしかしなくても、明陽さんが不機嫌な理由ご存じですね?


 その反応から目聡く、あたしがそんな事を感じ取った直後にシフォンは、明陽さんへと向けていた視線をこちらへと向ける。


「…解りましたわ。(わたくし)の知る範囲でお話します。」


 そして、そう前置きしてから彼女は、真剣な表情で話し始める。


「シマズ将軍――確か本名は、カガヒサ・シマズでしたか――は、長いバージナルの歴史の中で、始めて誕生した異世界人の軍部総司令ですわ。そして…」


 しかし語り始めてすぐ、そこで一旦言葉飲み込み言い淀む。そして、不意に見せる僅かな躊躇い。


 どうやら、何か言い辛い事でも在るのだろう。こちらから声を掛けようかと思ったけど、しかしそれより先に彼女が意を決したようだったので、素直に引き下がって続く言葉を静かに待つ事にする。


「…あの方は、バージナルによって召喚された、異世界人ですわ。」

「「ッ!」」


 そして待つ事一瞬、彼女が意を決し口にした言葉によって、あたし達側の緊張感が一気に高まった。つまりそれって…


「ちょ、ちょっと待ってくれよ大将!その話、本気で言ってんのかい?確かにあの国は、ご禁制の異世界人召喚術を、今も行ってるって噂が絶えないけどさ。それが事実だったら、国際問題だぜ!?」


 シフォンの発言を受けて、あたしとエイミーが少なからず驚いていると、不意にそれまで黙って話を聞いていたリンダが、突然驚きの声を上がて一気に捲し立てる。どうやら彼女も、その話は初耳だったらしい。


 そんな彼女の言葉を受けシフォンは、難しい表情を浮かべため息を吐いた。そしてゆっくりと、その重い口を再び開く。


「勿論、軍国が公に認めた訳ではありませんわ。ですが…それが事実ですのよ。(わたくし)はその事を、あの方の口から直接聞いているんです。」


 次いで聞かされたシフォンの言葉に、驚きの余り言葉を失ってしまった様子のリンダ。彼女がそんな反応をするのも、まぁ無理もないわよね。


 異世界人召喚術――今から約千年前に起きたと言う、大規模な防衛戦の最中に編み出されたという、異世界人を故意にこの世界へと呼び出す魔法。


 この魔法の開発は、蟲人達の脅威からこの世界を護る為と言う大義名分の元、やはり件の軍国バージナル主導で強引に行われた。その甲斐もあってか、当時の大戦に見事勝利を収める事が出来た。


 あたし達の先達にあたる、多くの異世界人達の犠牲を払ってね。まぁ、遙か昔の事を今更とやかく言っても仕方無いか。


 ともあれそれから異世界人召喚術は、大戦終結から100年も経った後に、賢人会議で禁忌とされ使用を禁ずる事が、条約として正式に締結する事になる。元々、反対する声が多かったそうだけど、それにしたって時間が掛かり過ぎよね。


 けど、締結にそれだけの時間が掛かったのにも、やはり軍国がなかなか首を縦に振らなかったのが原因なのよね。その軍国に条約の締結を交わさせる為、ある約定が盛り込まれる事となった。


 その約定とは、各国の軍国への支援物資量の引き上げと、それまで支援に参加していなかった国々への確約。そして、奴隷市場のほぼ半分以上――6割にもなる奴隷達の独占権だ。


 今のルアナ大陸は、作物がほとんど育たない痩せ細った土地だ。その為、バージナルで暮らす人達の生活は、予てより同盟国と他の支援してくれる国々からの援助によって賄われていた。


 黒い噂の絶えない軍国でも、蟲人達の侵攻を防ぐ防波堤を買って出てくれた国なのだ。その位の支援が在って当たり前だろう。


 けれど、幾ら物資を届けた所で、何時攻めてくるかも知れない蟲人達に備えなければいけない。その上一度攻めてくれば、矢面に立つバージナルの人的損耗は激しく、人材は何時だって不足していた。


 つまり異世界人召喚術は、それを解決する為に編み出された魔法なのだ。それを止めさせる為となると、それ相応の条件を提示する必要があったのよね。


 そんな時代背景のある国が、条約締結後に異世界人を召喚し、あまつさえその人物を軍司令官に据えたとなれば、リンダの言う通り国際問題に発展しかねない大問題だ。しかし現在も島津将軍は、何の問題も無く将軍職に就いている。


「リンダが産まれる前の事ですし、あなたが知らなくとも無理は在りませんけれどね…シマズ将軍が軍の総司令になられた時は、それはもう大騒ぎでしたわよ。バージナルが裏で異世界人を召喚しているという噂は、もうずっと以前から在りましたから。」


 そこまで語ってシフォンは、一旦そこで言葉を切ると、当時の事を思い出しているのか、渋い表情を浮かべて嘆息を漏らす。


「…実際賢人会議の席でも、バージナル王への質疑応答が行われたと聞きます。ですが――」

「んな事しても無駄じゃよ。元々あの国は、ルアナの地に訪れた異世界人と思しき冒険者を、半ば強引に取り込んどったんじゃが、島津もそうして引き入れたの一点張り。本人に話を聞くから連れて来いと言われても、前線で軍の指揮を執らせて居るから無理じゃと取り合わん。挙げ句、疑うんじゃったら証拠を出せと、あの阿呆王はそう突っぱねとったよ。」


 そして彼女が再び語り始めたかと思いきや、気配も無くいつの間にか近づいてきた明陽さんが、強引に割り込んで後を引き継ぎ語って聞かせる。さっきまで膨れて知らん顔してたのに、なんの気まぐれなのかしらね。


 ともあれ、近づいてきた明陽さんに、席を譲ろうと立ち上がろうとするエイミーを押し留め、変わりにあたしが席を譲る為立ち上がる。


「その席に同席されてたのですか?」


 その席に遠慮なく座る明陽さんに、少し驚いた表情を見せるシフォンが尋ねる。先程の彼女の言い方は、実際にその場に居合わせた者のそれだったからだ。


 明陽さんの立場や実力から考えると、要人警護かなんかで参加してたって事は、十分に考えられる話だろう。だから、驚いて疑問を口にするよりも何よりも、あんな傍若無人な割り込み方について、先にシフォンは怒るべきだと思うんだ、あたし。


「うん?いや同席っちゅうか、面白そうじゃったから、会場に忍び込んだだけじゃよ。」

「えっ…」


 ともあれ、そのシフォンの問い掛けに対し明陽さんは、悪びれた様子も無くしれっとそんな事を口にする。その答えを聞いて彼女は勿論、リンダやエイミーさえも言葉を失い唖然としている。


 そりゃそうだ。各国の要人が集まる厳重警戒が為された会場に、面白そうなんて理由で忍び込むような人が、この世界を護る守護者の1人だってんだからね。


 だってのに明陽さんは、周りの反応を面白がって笑ってるし。本当にもう…


「…なんか、うちの親戚の人がごめん。」

「なんじゃ、お茶目なだけじゃろ。」


 そんなみんなの反応を前にして、居たたまれなく成ったあたしが謝罪の言葉を口にする。すると間髪入れず、明陽さんからそんな言葉が返ってきた。


 100歳越えのグランマが、何がお茶目かと…


「…ともかくですわ。」


 ふと、明陽さんに受けたダメージから回復したらしいシフォンが、咳払いをして再び話を再開する。


「当時バージナル王は、噂に関しての追求を一切無視しておりました。しかし1年所か半年としない内に、疑惑を追求する動きや噂は、あからさまに怪しいにも関わらず、次第に沈静化していきました。」

「そんなに早くですか?いくら何でも早過ぎませんか?」


 再開された彼女の説明を聞き、いち早くエイミーが疑問の声を上げる。確かに彼女の指摘通り、沈静化する動きの速度が速すぎる。


 ある種の情報操作でもされたか、或いはもっと大きな問題が起きて、軍国に向けられていた疑惑の目がミスディレクションされたか、或いは――


「その半年間、シマズ将軍指揮を下に行われた、数度の小規模侵攻におけるこちら側の損耗率は、旧体制以前の6割減。中規模侵攻に至っても、4割減らす武勇を示しましたのよ。」

「ま、その手腕は、流石戦上手の島津家と言う所じゃな。」


 ――周囲の疑惑の目なんて、軽く吹き飛ばす位の実績を打ち立てる事。それも、ただの偶然かも知れない1度や2度では無く、その者の実力に寄る所なのだと、みんなが信じて疑わない位に何度もだ。


「それにより情勢が変わり、シマズ将軍を英雄視する声が上がるようになりました。同時に、彼をその役職に就かせた、バージナル王を称える声も聞こえるようになり、大本の問題が有耶無耶になりましたの。」

「ふ~む、なる程ね。」


 彼女の話をそこまで聞き終えたあたしは、相づちを打って会話から身を退くと、情報を整理する為考える仕草を見せる。確かに世論が味方したのなら、そう言う流れになっても仕方無い。


 恐らく軍国の王様は、島津将軍の指揮能力ならばそう言う流れになると踏んでいたからこそ、その地位に据えたんだろう。でなければ、余りにも上手くいき過ぎな気がする。


 けど賢人会議には、イリナスだって参加していた筈だ。彼女なら島津将軍が召喚されたかどうかなんて、解らない訳が無い。


 なら、彼女にとっては軍国に召喚術を止めさせる、またと無いチャンスだった筈なのに…敢えて見逃した?


「…何じゃ?納得いかぬ様子じゃのぉ。」

「まぁ…」


 そんな風に思考を巡らせていると、不意に明陽さんに呼びかけられる。その呼びかけにあたしは、苦笑しつつ肩を竦めて向き直った。


「幾ら軍国が認めないからって、いくら何でも簡単に引き下がりすぎだなって思っただけですよ。」

「なんじゃ、そんな事か――」


 向き直ると同時、考えていた事をそのまま明陽さんに告げてみる。すると彼女は、呆れた表情に成って――


「――んなもん、最初から茶番だからに決まっとろうが。」

「…へ?」


 ――当たり前のように、割ととんでもない事を言い出したのだった。彼女のとんでも発言は、更に続く…


「考えてもみい。小国ならまだしも賢人会議に参列するは、この世界を代表する6大大国の王達じゃ。其奴等が自国の情報網を駆使すれば、噂の真偽ぐらい把握出来ていて然るべきじゃろう。そこのシフォン殿でも知り得ていた情報じゃぞ?」

「ちょっ…ス、スメラギさん?」

「それに、儂と譲羽をこの世界に召喚した国は、バージナルの領国じゃぞ?その事を6大国の王達は、島津の件が在る以前から当然の様に知っとるぞ。それが、本国で在るバージナルの命によるものだともな。島津の件なんぞ『あぁまたか』位にしか思っとらんわ。」

「あの…も、もうその位にしていただけませんか?ここには金等級以下の方々もいらっしゃるので…」


 明陽さんの暴露話に対し、引き攣った表情を見せるシフォンと、やんわり止めようと声を掛けるエイミー。2人以外は、ただただぽかーんと口を開けて呆気にとられるばかり。


「なんじゃエルフ殿、別に良かろう?」

「いえ、流石にそういう訳には…」

「リンダ、ジョンさん。それと、そちらのミリアさんでしたわね?今聞いた事は、他言無用にお願いしますよ。」

「お、おう…」

「は、はい!」

「Yes...」


 直後、エイミーに止められて、ようやく明陽さんの暴露話が止まるや、今の話を無かった事にしようとシフォンが動き出す。2人の落ち着いた対処の仕方と、先程のエイミーの発言からして、恐らく金等級以上のみに公開される秘匿情報なんだろう。


 そんな重大情報を聞いちゃって良かったのかなぁ…まぁ、お陰で疑問は一気に解消されたけどさ。


 その所為で、言いたい事も山住だ。けど、ひとまず――


「――さっき、面白そうだから忍び込んだって言ってましたけど、あれって…」

「あ?じゃから、茶番劇を演じる大根役者共が、どんな笑える小芝居するのか見に言っただけじゃよ。」


 あ、はい。この人本当に質悪ぃってこと再確認…何処がお茶目なのよ!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ