改編期に向け、新番組制作中(2)
「いえ…まさか貴女方が、彼女達と行動を共にして居られるなんて、思いもしませんでしたので。」
それはそれとして、怪訝そうな表情でこちらを見返してくる明陽さんに、苦笑を漏らしながらシフォンがそう言って返す。すると、その言葉を聞いた途端ニヤリと人の悪い笑みを浮かべた彼女は、そのまま視線をあたしへと向けてくる。
「何、単なる気まぐれじゃよ。そこの娘が、なんぞ厄介事に進んで首を突っ込もうとしとったんでな。見物がてら着いてったら、困窮した様でも拝めるかと思ってのぉ。」
「趣味悪!そこは、嘘でもあたしが心配で、力に成りたくってって言って下さいよ…」
直後、ヘラヘラ笑いながら顎であたしを差し示し、おちょくる言葉を口にする明陽さん。それに対しあたしがすかさず文句を口にすると、まるで小馬鹿にするような感じで鼻を鳴らす。
「…戯けが。何甘えた事言うとるんじゃ?儂が心配しとんのは、御主で無く姫華の方じゃよ、のう?」
「え?う、う~ん…」
そして、さも当然とばかりにそんな事を口にした挙げ句、急にオヒメへ同意を求めだす彼女を見てあたしは、呆れながらに深い溜息を漏らした。これが照れ隠しや冗談じゃ無く、割とガチで言ってるって解るから参っちゃうわよ。
要は、自分で言い出したんだから、着いてってあげるけど基本頼ろうとするんじゃ無く、自分で始末を付けろよってそう言いたんだろう。余りにもどうしょうも無くなって、見てられなくなったら手を貸してあげると。
その手を貸してくれる基準は、きっとあたしが捕まりそうに成るとか、命の危険が迫ってるとか言う、逼迫した状況なんだろうな~それまでは、生暖か~く見守ったげるってんでしょうね。
…そういや、10歳に成るか成らないかの頃、夏休みに本家からお呼ばれして行ったら、同世代の親戚の子と3人位で、熊が出るって深い森の中に連れてかれて、一週間置き去――もとい、キャンプさせられたな~あん時も、遠~くで本家の大人が生暖か~く見守ってくれてたっけ、アハハ~(遠い目
一族の親交を深める為の、毎年恒例の行事って説明受けて軽い気持ちで参加したら、着の身着のまま現地で手渡されたのナイフ1本のみ。それで本家の大人は、笑顔でこう言う訳ですよ『3人で協力し合って頑張ろう!』
装備ワンピースとナイフだけの10歳女子に、それで深い森の中で何しろってのよ?3人で組ませるに当たって、1人必ず前の年にも参加した子を加えてるんだけど、その子だって11歳の女の子だからね。
いやぁ~、今思い返しても無いわぁ~千尋の谷の逸話じゃ無かろうに、血族の者に厳しいったらないのよね、うちの家系って。
ちな、あたしよりオヒメの方が心配ってのは、100%ガチでしょうね。年齢で言えば、あたしだってひ孫玄孫の世代なのに、この扱いの差と来たらね…
まぁそれは良いとして、そんな答えに困るような事オヒメにしないで欲しいわね。唐突に巻き込まれて、どう答えて良いか困ってるじゃない。
「…それはまぁそれとしてじゃ。」
話を振られて困るオヒメの姿を、暫く苦笑しながら愛でていた明陽さんが、不意にそう漏らして顔をこちらへと向けてくる。
「こうしてちゃんと面と向かって話すのは、これが初めてになるかのぉ?」
「そうですわね。お互い、以前から顔は知ってましたのに、何だか不思議な気分ですわ。」
そのまま視線をシフォンで固定した明陽さんは、僅かに口元を弛めてそう切り出した。それに対し彼女も、口元を弛めて返事を返した。
やっぱ2人共、既に面識在りか。まぁ、明陽さん達の同僚であるキサラさんが、元々シフォンの弟子だって話だから、まぁ不思議じゃ無いんだけど。
それにしても、起き抜けに明陽さん達を目にした時の、彼女の驚きっぷりったら面白かったわ~リンダとジョンに2人紹介した時だって、そこまで驚かなかったって位驚いてたからね。
因みに、シフォン達にみんなの事は、まだ自己紹介程度しか教えてません。今後どうするか決める上で、彼女達の出来事聞くのが先だからね。
「しかし、御主等も災難じゃったのぉ。まさかあの島津が、自ら出張ってくるとは…あやつ、将軍としての自覚無いんじゃ無いのかぇ?」
「えぇ、本当に。迂闊でしたわ…」
そんな顔見知り同士の挨拶(?)もそこそこに、次いで苦笑を浮かべた明陽さんは、リンダ達が先程話してくれた説明の中でも、特に重要な人物の名を話題に持ち出す。それに対しシフォンは、眉間に深い皺を刻んで、大きな溜息を吐き出した。
興味無さげに、暇を持て余しているように見えたけど、明陽さんもなんだかんだちゃっかり聞いてたのね。まぁそれはそれとして――
「――島津って言うと、やっぱあの『鬼島津』の人だったりするんですか?」
その人物の名が話題に持ち上がるのと同時、失礼を承知で2人の会話に割り込んだ。だって、始めてその名を聞いてからと言うもの、ずっと確認したくてタイミング見計らってたんだもん!
「うむ。その島津の末裔じゃよ。」
「うわぁ~、酷い偶然…」
「偶然?」
「ご存じなのですか?」
そんなあたしの質問に対し、正しく思った通りであると言う返事を聞いて、ついうっかり心の声が漏れ出てしまう。そのあたしの反応に、直ぐさま明陽さん達が反応を示した。
「ご存じも何も、あたし達が居た国じゃ超有名な武将の家系だからね。うちとも多少因縁があったんですよね?」
「うん?あぁ…まぁ儂等なんかが産まれる、ずっと昔じゃがな。」
それに対しあたしは、己の迂闊さに内心苦笑しながら、パッと思い付いた言い訳を口にして誤魔化した。明陽さん辺り、完璧言い訳だって気が付いてんだろうけど、こう言っとけばこれ以上追求されないだろう。
すんごい個人的な話で、今余談でするような話じゃ無いからね~それに、まるっきり嘘って訳でも無いんだし。
ただあたしの知る『鬼島津』は、戦国時代に名を馳せた薩摩国の猛将、島津義弘の方だけどね。丸に十文字の家紋で知られる、島津家15代当主島津貴久の次男で、16代義久の弟にして自身も17代当主となった人物だ。
岩剣城の合戦で初陣を飾り、その後の蒲生氏との戦で大将首を挙げる。それから、まだ30代という若さで戦に戦を重ね、様々な経験を積んで迎えたのが、九州の命運を分けたとまで言われた、豊後国大友宗麟との大戦、耳川の戦いで大友軍を破る武功を挙げる。
その後、九州全土を制圧する勢いだったものの、あと1歩の所で大友が救援を求めた、豊臣秀吉の登場で流れが変わる事に成る。秀吉率いる九州平定軍との根城坂の戦いで、自ら敵軍に切り込む活躍を見せるも敗北。
本人は最後まで徹底抗戦の構えでいたらしいけど、お兄さんの説得もあって、結局豊臣政権へと下る事になった。その後文禄・慶長の役で朝鮮へ渡海し、当然の様に奮迅の活躍を見せ、この時に朝鮮と民の軍から『鬼石曼子』と呼ばれ恐れられた事から、『鬼島津』の愛称が付いた。
そ・し・て!『鬼島津』を語る上で忘れちゃいけない伝説的な大戦がそう――天下分け目の大戦、関ヶ原の戦いでの撤退戦『島津の退き口』でしょうと!
西軍として参加していた島津軍は、敗北必至となった状況下で、東軍前衛部隊に背中を見せるのでは無く、まさかの突撃を仕掛けこれを突破。徳川家康の居る本陣まで迫った所で転進すると言う、驚きの撤退戦を繰り広げた。
これに対し家康軍は、戦場から離脱する島津軍に対し執拗な追撃を続ける。この時、撤退する島津軍が取った戦法が、『捨てがまり』と呼ばれているものだ。
どんな戦法かというと、ただただシンプルに撤退する本陣を先に行かせ、その場に残った兵達で追っ手を足止めすると言うものだ。言うは易いけれどその残った兵達は、死ぬまでその場に留まり敵を足止めしたんだそうだ。
その部隊が全滅したら次の部隊を残し、それも全滅したらまた更に次の足止め部隊を残す。それを逃げ切る迄繰り返すという、かなり壮絶な戦法なのよね。
これの何が凄いって、自分の命を投げ打ってまで当主を逃すんだって兵達思わせた、島津義弘の求心力よね。元々、人情に厚い性格で臣下にも慕われ、普段から兵達を気遣う姿勢が強かったと言われてる人だからこそ、そんな戦法が成立したんだろう。
…え、随分詳しいねって?えへへ、えっとねぇ~(照
白状しちゃいますと、ちょっと前に放映したアニメですっかり被れちゃって、それ切っ掛けで一時期『鬼島津』について調べてたんですよ。何のアニメかは、察しの言い方ならもうおわかりですよね?
先の説明で触れた、『島津の退き口』で華々しく散った島津豊久さん。こと、妖怪『首置いてけぇ~』が主人公のアレですよ。
ついでに白状しちゃうと、長々しく綴った『鬼島津』に関する情報は、だいたいWi○iから仕入れた付け焼き刃の情報です!テヘペロ☆
寄付もしない癖して、そんな事してサーセン。
まぁそれはそれとして、明陽さんも証言してくれた通り、うちの一族と因縁浅からぬ関係なのよね。歴史の古さで言ったら、武神流も負けない位に古いからね。
それこそ、先程綴った関ヶ原の戦いにだって、うちの一族は参加してるしね。口伝で伝え聞く限り、島津家と同じ西軍だったそうだから、もしかしたらあたしのご先祖様は、島津義弘とお喋り位してたかも知れない。
それから長い年月を経た今、当時から数えて何世代目かになるあたしが、地球ならまだしもこの異世界でその名を耳にするって、どんな確率変動よって話よね。男の子だったら、それを浪漫だなんて格好付けて言うんでしょうけど、流石にあたしはそんな気になれないわ。
ましてや元居た地球でも、個人的に島津家の末裔の子と、知り合いであるあたしからすれば尚更ね。これが嫌なフラグの切っ掛けに、成らないと良いんだけど…
「…優姫?何か心配事でもあるんですか?」
不意に脳裏を過った一抹の不安に、思わず顔が強張っていたんだろう。隣に座るエイミーが心配そうな表情で、あたしの顔を覗き込んで声を掛けてくる。
「ううん何でも無い、大丈夫よ。」
「そうですか?」
それにあたしは、慌てて笑顔を作り誤魔化した。それで彼女を納得させる事が出来たなんて、そんな都合良く思ってないけれど、向こうもそれ以上特に追求してこない。
これは、何時もみたく色々察してくれたのかしらね。あんま心配させたくも無いし、落ち着いたら話しとくかな。
まぁ、それはそれとして…
「それより明陽さん、もしかしてその島津将軍と仲良かったりします?」
気を取り直してあたしは、明陽さんへと向き直ると、そんな問いを彼女にぶつけてみる。先程島津将軍話題が出た際、なんとも親しげな様子で語っていた事に、違和感を覚えたからだ。
そりゃ相手は、実質この世界を蟲人達の脅威から、防波堤となって護るバージナルで将軍なんてやってる様な人だ。立場は違えど、同じくこの世界の守護者を務める明陽さん達と、面識が在っても不思議じゃ無い。
むしろ同じ異世界人で故郷だって一緒の上、更に似た家系の者同士なんだから、これはもう仲良くなる為のお膳立てが、全て整っているとさえ言っても良いだろう。だから全然、そうだったとしても不思議じゃ無い。
…んだけど、なんだろう…あの小馬鹿にした様な明陽さんの物言い。なんか普通に仲いい感じとは、ちょっと違う様な…
「あ゛ぁ゛?儂と彼奴が仲いいじゃと??何言っとんじゃ御主…」
そんな風に思って居ると、しかしてどうやら予想通りだったらしい。あたしの質問に対し明陽さんは、直ぐさま不愉快そうな表情となってそう答えると、腕組みまでして鼻を鳴らし不機嫌さをこれ見よがしにアピールする。
あ、はい、これ照れ隠しでも何でも無く、全然仲良くない反応ですね。見当違いな質問して、不愉快な思いさせたみたいでサーセン。




