幕間その1の1
夕暮れ時のとある場所に、1人の女性が窓の側でたたずんでいた。広々とした部屋の中には、様々な調度品が設えられており、それに負けない程豪華なドレスを、その女性は身に纏っていた。
コンコン
不意に、部屋のドアがノックされ、彼女は窓に向けていた視線をドアへと向けた。
『お入りなさい』
そう告げる声が、木霊の様に部屋の中に響きわたる。しかし、肝心の声の主であろう彼女は、口を開いた素ぶりが無かった。
だが、部屋の中には、他に誰もいる気配が無いので、やはり彼女から聞こえてきた音だろう。
ガチャッ「失礼します。」
一言断ってから入室してきたのは、豪華な鎧を身に纏った、髭を生やした初老の男性だった。
『何用ですか?人族の王よ』
再び、部屋に木霊する声が響き、部屋に入ってきた初老の男性を、そう呼んでいた。彼こそ、ダリア大陸の首都、帝都ヤマトの剣王その人だった。
「失礼した女神よ。実は侍女から、昨日より貴女の様子が何時もと違うと、報告を受けまして。」
部屋に入ってずっと、厳格な表情をした彼は、彼女を女神と呼んで、恭しく頭を下げた。
「イリナス様、何か楽しい事でもありましたかな?」
この世界の女神と同じ名で呼ばれた彼女は、その問いに直ぐには応えず、部屋に設えられたソファーに近付いて座ると、手振りで彼に対面に座る様に促した。ヤマト王は、その勧めを素直に受け入れ、女神の対面のソファーへと、その身を沈めた。
『何故そう思われたのですか?』
「貴女とは長い付き合いですからね。機嫌が良いかどうか位は、見れば分かりますよ。」
部屋に響く音が鳴り終わるのを待ってから、ヤマト王はその厳格な表情を少し和らげ、そう答えて微笑んだ様に見えた。そんなヤマト王に、女神も少し顔を緩めて微笑んだ。
『客人を招いたのですよ』
「客人ですか。
『えぇ新たな守護者となるだろう方を』
「それは・・・」
女神の発した音に、驚いた表情を浮かべたヤマト王は、しかしすぐに、厳格な表情に戻ると、真剣な表情で女神を見つめる。
「それはまさ
『早計過ぎですよ人族の王よ』
ヤマト王の言葉を遮る様に、部屋に再び木霊が響くと、彼はきつく目を閉じ、安堵のため息を深く吐く。
『ただ』『いずれ訪れる決戦の日には備えておかねばなりません』
「そうですか・・・」
そう答えた後、2人の間に沈黙が訪れた。女神は未だ微笑み、ヤマト王は何やら深く考え込んでいる様子だった。
『ヤマト王よ』
「ん、何でございましょうか?」
不意に、部屋に木霊する声が、その沈黙を破り、ヤマト王は考えるのを止めて、顔を上げて女神を見つめる。見ると彼女は、いつの間にか微笑みを消していた。
『近いうちに我を訪ねてユウキと言う少女が来るでしょう』『その時はお願いいたしますね』
その音が鳴り止むと同時に、ヤマト王は立ち上がって、腰を折って頭を下げた。
「ハッ。全てはイリナス様の御心のままに。」




