子連れJK異世界旅~異世界の果てまでイッテQ~(7)
「着いたぞ、ここじゃ。」
「へぇ~」
「わぁっ!!」
森に這入って約5分。辿り着いた場所には、こじんまりとしたログハウスが1軒、木々の切れ目にひっそりと建てられていた。
この森の木々で作られているんだろう、ぱっと見周囲の風景に溶け込んでいて、木のぬくもりを感じさせる素敵な小屋だ。まるで、グリム童話の一節にでも出てきそうな、そんな雰囲気さえ醸し出している。
「どうじゃ?」
ログハウスの在る風景を暫く眺めていると、不意に明陽さんが感想を求めてくる。その問い掛けを耳にし、あたし達は一斉にそちらへと顔を向けた。
「とっても素敵です!」
「可愛いお家だね!ね、ママ!?」
「えぇ、そうね。明陽さんの事だから、もっと責めた感じかと思ってたんだけど。」
「どう言う意味じゃ、ワレェ。」
先に述べた2人の感想をそれぞれ聞いて、満面の笑みで嬉しそう頷く明陽さん。しかしその直後、あたしのおちゃらけた締めの言葉を聞いた途端、半眼でこちらを睨み付け不機嫌そうに呟いた。
「じゃがま、儂の趣味でないのは確かじゃな。誰かさんが、ここじゃ無きゃ嫌じゃ言うてののぉ~」
しかしその表情を見せたのも一瞬、明陽さんが次いで苦笑したかと思えば、親指でその誰かさんを指し示しながら真相を告白する。それに対し、素知らぬ顔でそっぽを向いた譲羽さんが、とても可愛らしく見えて思わず微笑む。
「さて、では早速中に案内しようかのぉ。」
「わぁ~い!」
それはさておき、景観の美しさを十分楽しんだ所で、鶴の一声と共に早速ログハウスへ。明陽さん達を先頭に、その後にあたし達が列を成して続いて、階段を上って扉の前へ。
そのまま明陽さんは、懐から鍵を取り出し扉に鍵穴へと差し込んだ。
――ガチャ、ギイイィィィ…
程なく、解錠を報せる音を確認してから彼女は、ノブに手を掛け扉を開き足を踏み入れた。その瞬間、何の前触れも無く小屋の照明が、一斉に点るのを目の当たりにして驚いた。
室内だけでなく、入り口の扉に備えられた照明まで、計ったように一斉にだ。後ろから見た限り、スイッチらしき物も何も触っていないんだから、そりゃ驚きだってするだろう。
ってかこの家、実はスマートホームかなんか、搭載してるんですかね?もしや異世界、人間のみならずアレ○サさんかOKグ○グル先生迄、既に来ちゃってましたか!?
「ん?どうしたんじゃ?」
突然照明が点いた事に、馬鹿な事考えながら不審がっていると、たまたま視界にあたしを捉えた明陽さんが、怪訝そうに声を掛けてくる。
「あ、いえ。見た感じいきなり照明が付いたから、何でかなぁ~って思って。」
「あぁ、そうか。御主、住居防犯魔具を知らんのか。」
疑問に思っている事を、そのまま素直に口に出して聞いてみた所、聞き慣れない単語が返ってきて更に困惑。もしかしてこっちの世界で、AI○ピーカーってそう言う名称で呼ばれてるの?(しつこい
「登録ついでに説明してやるでな。ともあれ早う這入ってこい。」
「そうですか?それじゃお邪魔します。」
「お邪魔しま~す!」
「失礼します!」
彼女にそう促されたあたしは、ひとまず疑問を脇に退かしログハウスへと足を踏み入れた。その後に続く形で、オヒメとアクアが元気よく挨拶を言いながら入ってくる。
「…へぇ。」
中に這入るなり、お招き頂いて失礼と解りつつも、早速室内をぐるりと見回し観察する。外から見た時は判らなかったけれど、思った以上に奥行きが合った様で、予想していたよりも広々としていた。
足を踏み入れて真っ先に目に付いたのは、何と言っても目の前に広がる、広々としたリビングだろう。天井が所謂吹き抜け構造になっていて、圧迫感がまるで無い上、屋根の骨組みが剥き出しなのがお洒落で素敵だ。
更に、リビング最奥と左手の壁が一面ガラス張りになっていて、見た目以上に広々とした開放的な雰囲気だ。しかもガラス戸の向こう側は、ウッドデッキになっている辺り、ポイントも高い。
続いて向かって小屋の右反面、壁で仕切られている部屋の天井が、そのままロフトのようになっていて、壁伝いに手すりが見える。チラッとベッドが置かれているのが見えたし、ロフトの上が寝室になっているんだろう。
そのロフトに上がる為の階段が、今あたし達の居る場所の右手にある。その階段の裏側に、1階部分の部屋に繋がる出入り口が、扉も無しにぽっかりと空いている。
そこから中が窺えるので確認すると、どうやらその部屋はキッチンらしい。と言う事は恐らく、水回りが全て、あの部屋に集中してるんだろう。
それは兎も角、見た感じ家具が少ない印象だ。リビングにはテーブルとソファーのみだし、収納棚の類いも少ない様だ。
こんな雰囲気の良い場所なのに、ほんと寝泊まりするだけって感じで生活感が無いわね。まぁ拠点って言ってた位だし、ここに居を構えてるって訳じゃないんでしょうけど。
「このログハウスって建て売りですか?」
「そうじゃよ。基本この街は、建築基準がかなり厳しく制限されとるでな。全部を見て回った訳ではないが、規模の大きさで多少の違いはあれど、見た目も内装もほぼ一緒じゃよ。」
室内を一通り見渡しながら、何となく思った事を口に出して聞いてみる。その質問に答えながら明陽さんは、ロフトに上がる階段を上っていく。
その背中を見送りながら、返ってきた返事を頭の中で反芻し軽く目眩を覚える。
ただでさえ道程が天然の迷路なのに、他のログハウスも見た目一緒って…地元民ならまだしも、別荘地としてそれどうなん?
ちょっと散歩がてらに湖まで戻って、湖畔歩いて戻ってこれる自信ないんですけど。ってか、湖までの道順だって、覚えたか全然自信なくて怪しい位だし…
まさか最近流行の脱出ゲームが、もれなく出来るのが売りの別荘地って訳じゃないでしょうね?深い樹海ペンションからの脱出とか、企画の段階で既にありそうなんですけど、だとしたらモロパクりじゃね?
「…まぁエルフ達用やドワーフ達用の住まいは、それぞれの様式に合わせとるらしいがの。」
少し間を空けロフトに向かった筈の明陽さんが、補足しながら階段を降りてこちらへとやってくる。彼女のその手には、ロフトに向かう時には無かった、淡い光を放つ水晶を抱えている。
「明陽さん、それは?」
「さっき言うたろう?これが防犯魔具じゃよ。」
あたしがその水晶を指差し聞いてみると、その手に持った物を軽く掲げながら、彼女がそう答えてくる。どうやらそれを使い、さっき言っていた登録を行うのだろう。
「まずは優姫からじゃ。その水晶に手を置いて触れてみい。」
「こうですか?」
「もっとしっかりとじゃ。」
「こうで…わっ!?」カッ
言われるがまま、その水晶に手を伸ばし軽く触れた後、注意されたので掴むようにしっかりと手を置いた。すると淡い光を放っていた水晶が、突然眩しい位に迄その光量を上げて、驚きに思わず声が漏れる。
「…もう良いぞ。」
けれどその輝きもほんの一瞬、また淡い光に迄収まった所で明陽さんの許可が下り、ゆっくり水晶から手を離した。これで登録って言うのが、もう終わったんだろうか?
「あの、今のって?」
「この小屋を使用する上でのゲスト登録じゃよ。これをせずに長い間この室内に居ると、不審者として管理事務所に通報される仕組みになっとるんじゃ。」
訝しがりながら疑問をぶつけてみた所、なんかパソコンのユーザー切り替えみたいな単語が、明治生まれの人から返ってきた。一周回って結局違和感しか残らなかった感が半端ない。
それはさておき、その水晶について詳しい説明を教えて貰った。それを聞いて、色々不安だった部分とかもアッサリ解決する。
住居防犯魔具とは、要するに防犯センサーの類いの様だった。このログハウス室内は勿論、敷地内にも魔力の糸の様な物が張り巡らされていて、それに触れる者の事を監視してるんだそう。
もしも部外者が、正式なルートを通らずに敷地内に入っただけで、直ぐさまこの街の管理事務所に連絡が行くらしい。正式なルートって言うのは、森に設けられていた木々の間にある、あの柵の内側の事らしい。
ただでさえ狭く迷路みたいな道で、ルート間違えただけで不審者扱いって、セキュリティ厳しくね?って思ったけれど、さっきの登録した人だったら、迷子で他の家に足踏み入れた位なら、すぐに逮捕って事は無いらしい。
ただし、登録されて居ない人だったら、問答無用で拘束されるんだとか。この広大な森の中には、住民用の家の他、警備兵の詰め所が幾つもあって、例え国境付近の森辺りで異変が起きても、5分以内で駆けつけるって言う頼もしさ。
中世レベルの世界観だと思ってた異世界驚きです。まさかのセ○ム入ってました。
ここが貴族に人気の別荘地だって聞いた時、人目忍んでってのは解るけど、一見無防備だからセキュリティー大丈夫かって思ったんだけど成る程ね~そりゃ御貴族様も一安心だわ。
そしてこの住居防犯魔具、セキュリティー機能のみならず、ある種のGPSみたいな機能も有しているらしい。ここまでの道順、覚えられるかずっと不安だったんだけど、登録した人とこの水晶との間で感応作用が働いて、この広大な森の中でも何となく位置が解るんだそうだ。
なので、よっぽどの事が起きない限りは、そもそも森の中で迷子になんて成らないらしい。いやもう、今まで何度思った事か解んないけど、そう言う事は先に言って!あたしの心配返して!!
「まぁしかし、ゲスト登録じゃと1日しか有効期限が無いでな。暇見て管理事務所で手続きせんといかんがのぉ。」
最後の説明を明陽さんから聞いて、成る程と1人納得。今後もここを遣わせて貰うんなら、本登録を済ませないといけないと言う事らしい。
けどまぁ、今すぐってのはちょっと無理かな~なんだかんだ、もう30分もしたら交代の時間だし。
ともあれ、晴れてゲスト登録を終えたあたし達が、エイミー達との交代までの間、まず最初にログハウスで行う事は掃除だった。最後にここを利用したのが2ヶ月も前だって言うし、結構埃溜まってるのよね~
それに、今後ご厚意で使わせて貰う訳だし、この位率先してやらないと体裁が悪いってもんだろう。家具が少ないから、全然大した事無いしね~
せっせと掃除を行っている内に、あっという間に交代の時間が訪れた。と言う訳で、ホウキ片手にエイミーに強制召喚されました。
あたしの出で立ちに目を丸くして驚く2人を連れて、早速明陽さん達のログハウスにご案内。そして明陽さんに2人のゲスト登録して貰って、オヒメ組がバイクの在る場所に移動する。
残されたあたし達で掃除を進める事30分、そろそろ次の交代に備えて仮眠したいと告げて、あたしとミリアがそこから離脱。アクアがうっさいから、次から彼女と組むのよね。
ロフト上の寝室でぐっすり寝る事2時間後、目を覚ますと室内は勿論、ログハウスの周囲まで清掃が行き届いていた。2人に後押しつけちゃって、何だか申し訳ないわ~
ぶっちゃけ申し訳なく感じてるのは、正直エイミーだけに対してだけど。
まぁそれは仕方無いとして、綺麗になったログハウスに転移用のオリジナル眷属飾って、これで当初の目的を果たした。それと同時に、交代の時間を迎えたのでミリアを連れてオヒメの元へ。
そのままバイクを受け取り、3巡目スタート。道知ってるからって事で、ミリアが運転を買って出てくれた。
ふと、カント出発から今まで1度もバイクの運転してない事に気が付き、これじゃ燃料タンクだなとしみじみ思う。なんだろうね、このお荷物感。
おっかしいなぁ、あたし未来の大精霊じゃ無かったっけ?待遇改善って、何処に申告すれば良いんでしょうか。
まぁ、ミリアもハーレー運転したくて仕方無いって感じだから、別に良いんだけどさ~ちょっと位あたしも運転してみたいなと。
それはそれとして街道の状況だけど、やはり予想通り人通りが結構多くて、流石にバイクで走れそうに無いので、現在街道に沿って横の荒野を走行中。土煙を上げながら、人も馬車も全力疾走で追い抜いてる真っ最中。
人の視線?めっっっっちゃ集めて目立ってますが何か??
どうせ人目に着いたら目立つんだし、昼間も走行するって決めた時点で、なんかもう良いかなって☆
どうせメットで顔隠してあるしね。それに時速200㎞オーバーで走り抜ける物体なんて、普通に目で追うの難しいでしょ。
だから、なんかもう色々良いかなって☆(大事な事なので2回言います