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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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間章・「フハハハハッ!今暫くのお別れなのである!」(1)

 時間は少し遡り、優姫達をカント港に送った直後のノーチス号――


「待たせたのである!吾輩で――」ゲシッ

「誰もおめぇ~なんて待ってねぇ~デスよ!いい加減にしろやデス!!」

「――蹴って邪魔するのは酷いのである!?」


 ………


「おめぇ~が何時までも訳わかんねぇ~事ばっか叫んでるからデスよ!良いからおめぇ~は、とっとと海に出て、尻尾ロープで繋いで牽引する準備してこいやデスよ!!」

「あれ全部吾輩1人でやるであるか!?流石に人使いが荒いのである!!」

「おめぇ~以外に誰がやるデスか!私はスメラギさん達送るので、魔力の大半使っちまったデスし、結界閉じきるのにだってまだ時間が掛かるデスからね。船員さん達もそれぞれキッチリ仕事が在るデス。ホラ、おめぇ~しかいねぇ~デス。」

「その理屈無茶苦茶ではないか!?呆れて天の声も全然会話に入ってこないのであるが!!」


 …別に呆れていたからでは無い。そして、その呼び名を定着させるのも止めて頂きたい。


「ごちゃごちゃうっせぇ~デスよ!良いからサッサと行けやデス!!」ゲシッ、ゲシッ!

「何故そんなに不機嫌なのであるか!!もしや生理g――」ガンッ!


 レオンが言い終わるよりも早く、顔を真っ赤にさせたキサラが杖を両手に握りしめ、躊躇いなくその頭をぶん殴る。割と思い切り良く殴ったのだが、しかし当の本人はケロリとした様子だった。


「な、なっ!なんて事言いやがるデスかこの淫獣は!!」

「おや、図星であるか?その割には、血の臭いg――」ガンッ!!

「ど、何処の匂い嗅いでやがるデスか、この淫獣!!死ね死ね死ね死ね死ね!!」ガンガンガンガン!!

「フハハハハッ!幾ら殴ってもキサラ嬢の腕力d――」


 ――ブスッ


「――ヌオオォオッ!?目が!!目があああぁぁぁー!!」


 余裕綽々で油断していた所、杖に施された星の飾りの一部がたまたま目に当たり、直ちに患部を押さえ付けて激しく暴れ出すレオン。こんなのが守護者の1人で、この世界は大丈夫だろうかと、そう思う瞬間だった。


「ヌウッ!辛辣!!」


 あ、もう復活した。


「…女を厭らしい目でしか見られねぇ~目なんて、潰れちまえば良かったデス。」


 レオンが痛がる様が見られて、少しは溜飲も下がったらしいキサラが、杖を肩に担ぎ不機嫌そうに鼻を鳴らしてそう告げる。ちょうどその時…


「アハハッ!キミ達って何時もそんな感じなのかい?見ていて飽きないねぇ~」


 ――ヒュゴオオォォォーッ!!


「ッ!?」


 辺りに楽しげな声が響いたかと思うと同時、突如周囲に幾つもの達巻きが巻き起こり、一瞬にして船内が色めき立つ。そんな中、海の様子を確認したキサラが、慌てて声の聞こえた方へと顔を向ける。


 するとそこには、純白のワンピースに身を包んだ、エメラルドグリーンの髪の羽の生えた少女が、上空から満面の笑みで船を見下ろして居る姿があった。キサラが顔を向けると同時、満面の笑みを浮かべるその少女は、ゆっくりとノーチス号へと降りていく。


「げっ…シルフィード様。」

「あれ?今『げっ』て言ったね、キミ。」


 風の大精霊が船に降り立つと同時、キサラがあからさまに嫌そうな表情になって呟く。それを耳にして嫌な顔をする所か、まるで笑顔を崩さずに平然と聞き返すシルフィード。


「ご機嫌麗しゅうお元気デスかシルフィード様~」

「建前言うんなら、もうちょっとそれっぽい顔になろうよ、台詞も棒読みだし。ほんとキミってば相変わらずだね~」


 シルフィードが指摘したとおり、まるで感情の籠もっていない言葉を、ムスッとした表情で視線さえも合わせずにキサラが呟く。そんな態度を前にしても、まるで意に返さず笑顔である辺り、どうやらそれなりに顔馴染みであるらしい。


 ともあれ、キサラとの挨拶(?)を済ませたシルフィードは、笑顔のままでレオンの方へと顔を向ける。


「やぁ!初めましてレオン君!ボクの事は知ってるよね?」

「フハハハハッ!無論であるぞシルフィード嬢!!お会いできて光栄なのである!!」


 シルフィードの笑顔による挨拶に対し、レオンも快活に高笑いを上げながらそう返した。その直後、それまで笑顔だった彼女の表情に、僅かばかり自嘲の色が差し込んだ。


「ボクまでお嬢さん扱いかい?口が上手いんだね~こう見えてもボク、うん千歳のお婆ちゃんなんだけど。」

「何を仰るウサギさん!その様な見目麗しいお姿に、年齢などそれこそ些末!!是非とも一夜を共n――」

「何ナチュラルに大精霊様口説こうとしてるデスか、この腐れ淫獣!」ブスッ


 レオンが言い終わるよりも前に、スッと2人の間に割り込んだキサラが、躊躇無くその目を狙って杖を振るう。どうすればこの馬――レオンを、自分の力で痛めつけられるか覚えたようだ。


 良いぞもっとやれ。


「――目が!目があああぁぁぁー!さっきよりも深く刺さったのであるぞおおおぉぉぉ!?」

「で?シルフィード様が、なんでここに居るデスか?」


 苦悶の声を上げるレオンを、華麗にスルーしてキサラが問い掛ける。その様子を見ていたシルフィードは、声に出して笑うのを必死に堪えている様子だった。


「…何でって、ボクの領域のすぐ目と鼻の先じゃんか。ボクが居たって、なんら不思議じゃ無いでしょ?」

「じゃなくて、なんで今更来たかって事デスよ。ベファゴ討伐は、もうとっくにすんだんデスよ?」

「あぁ、そりゃあれだよ。後片付け位は手伝おうかなって思ってさ。」


 彼女の質問にそう告げたシルフィードは、先程発生させた幾つもの竜巻に向かって、徐にその小さな翳した。その動きにつられて、キサラが視線をそちらへと向けると、ベファゴの切断された尻尾がその竜巻の中に取り込まれているのを確認する。


「スメラギちゃんに来てると思うけど、昨日ボクの領域で蟲人の侵攻があってね、まだ本調子って訳じゃないんだよ。けどまぁ、何かあったらいけないからさ、みんなが闘う様子をずっと観察してたんだよね~」


 そう言いながらシルフィードは、産み出した竜巻を器用に操り、船の方へと手繰り寄せていく。それを見てキサラは、内心で『これで本調子ではないのか』と呆れながらに思うのだった。


「昨日ならず今日までもさ、みんなが頑張ってくれているのに、ずっと心苦しかったんだよねぇ~」

「だから後片付けだけでもって、そう言う訳デス?」

「まぁね~」


 キサラの問い掛けに対し、ニコニコ笑顔でシルフィードがそう返す。直後――


「――因みに、()()()()()()無いからね?」

「え?ッ!!」


 ――ドヴァアアアァァァーンッ!!


 その意味深な呟きにキサラが反応して振り返った瞬間、今度は巨大な水柱が出現して船内が更に湧き上がった。突如現れたそれは、天高く迄一気に伸びるとそこで突然向きを変え、未だ海に張り巡らされた結界の内側目指して伸びていく。


 ――ドドドオオオォォォーッ!


 水の柱が結界の内側まで達した直後、それまで意思を持って蛇のように動いていた水が、そこで急に力を失ったかのようになり、瀑布となって海面に空いた穴を満たしていく。


「…こんな阿呆みたい芸当、出来るってぇ~事は…」


 その様子を、唖然とした表情で見ていたキサラが呆然と呟く。直後…


「誰が阿呆ですか、全く…そこに居る脳天気小娘と一緒にされたみたいで不愉快ですわ。」


 彼女がその言葉に振り向くと、先程突然出現した水柱の前にその人物は居た。腰まで伸びるゆるくウェーブがかったコバルトブルーの髪に、艶めかしいプロポーションをした、一見してマーメイドと思しき女性だった。


 不機嫌そうな表情をする彼女は、髪をかき上げながらスッと片足を前に出す。すると、足場にしていた水が船の方へと伸びていき、その上をしゃなりしゃなりと腰を振って歩いて行く。


「げっ…ウィンディーネ様。」

「貴女今、『げっ』て言いましたわね?」


 その姿を確認したキサラが、再び嫌そうな表情となって呟いた。そしてそれを耳にしたウィンディーネが、眉間に皺を寄せキツい眼差しで睨み付ける。


「いえ~そんな、滅相もねぇ~デスよ。お元気デスか、ウィンディーネ様~」

「…ここまで感情の籠もっていない建前も珍しいですわね。」


 そして再び、一切心の籠もっていない、上っ面の言葉をただ並べるキサラ。そんな彼女の態度に、艶めかしい仕草で、色っぽくため息を吐いた。


「ってか、んな事より…」


 気を取り直したキサラが、ちゃんとウィンディーネと向き合い、そう話を切り出した直後――


「お初にお目に掛かるのであるウィンディーネ嬢!!吾輩レオンと申すm――」

「セット、『アイス・ロック』」

「――ぬおっ!?」バキバキバキッ!!


 ――今までに無い程勢いよく割り込んできたレオンに、何の躊躇いもなく魔術を叩き込む。直後、彼の周囲の温度が一気に氷点下まで下がり、その身体を中心にして空気中の水分が固まっていき、一瞬で氷の塊に変質する。


「だから、ナチュラルに大精霊様口説こうとすんじゃねぇ~デスよ、この腐れ淫獣…」

「ひゃ、ひゃっこいのである、キサラ嬢…」

「知らねぇ~デスよこの駄犬。これでちっとは懲りろやデス。」


 そう言って手に持つ杖を、大きく振りかぶるキサラ。


「ま、待つのである!!いくら何でも――」


 ――ブオンッ!ブスッ


「――目がッ!目があああぁぁぁーッ!!」

「で?ウィンディーネ様まで、何でここに居るデスか?」


 レオンへの折檻を終えたキサラが、苦悶の声を上げるレオンを背にして、改めてウィンディーネに向き直りそう問い掛ける。その様子を、間近で見ていたウィンディーネが、酷く呆れた表情をしてため息を吐く。


「…水の精霊が海の様子を見に現れて、何が可笑しい事でも在りますの?」


 直後、気を取り直したウィンディーネが、ツンと澄ました態度でキサラの質問にそう答える。その答えを受けて、今度はキサラが呆れ顔でため息を吐いた。


「いやだから…悪かねぇ~デスけど、何で今更出てきたかってんデスよ?その様子だと、シルフィード様みたくずっと見てたデスよね?」


 そのキサラの追求に、しかしウィンディーネ答えようとはせず、ツンと取り澄ました表情のままそっぽを向いてしまった。そんな彼女に対し、ニヤニヤ意地の悪い笑みを浮かべて、その横に音も無くスッと現れるシルフィード。


「スメラギちゃん達と一緒にさ、水の上位精霊の子が居たじゃない?」

「え?あぁ、はいそうデスね。」

「ディーネったらさ、その子の事が気になって気になって、遠くからずっとハラハラしながら見守ってたんだよね~」

「あ?あぁ、そう言う訳デスか…」


 ウィンディーネが喋りたがらなかった事を、さも自分の事のように、得意げに語り続けるシルフィード。果たして真実かと言えば、彼女の頬が若干赤みを帯びているのを見れば、答えるまでも無いだろう。


「まったく、心配性だよね~ディーネってばさ。」


 そんな彼女の反応を見て、シルフィードが可笑しそうに微笑みながら呟く。それを受けてウィンディーネは、チラリとそちらを一瞥した後、不機嫌そうに鼻を鳴らした。

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