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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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子連れJK異世界旅~YOUは何しに異世界へ?~(12)

「そんな柔な心臓してないでしょ?ッ!?わっと!」


 そんな明陽さんに対し軽口を叩きつつ、覆い被さっていた女性から身体を離す。直後、のし掛かられるような形で倒れ込んできたので、慌ててその身体を掴んで支える。


「大丈夫ですか?」

「No…こ、腰が抜けました…」


 倒れ込んできた彼女の顔を覗き込みながらそう聞くと、間髪入れず情けない返事が返ってくる。さっきまであたし達に、敵意剥き出しだった人とは思えないわね。


 まぁ明陽さん達の、次元の違う殺気を一身に受けてたんだから、こうなっても仕方無いかもね。あたしだって、自分に向けられた訳でも無いのに、完璧萎縮しちゃったからね。


 ともあれ、彼女が無事で良かったわ。明陽さんがその気だったら、あたしが庇った所で彼女だけを攻撃する事ぐらい、平然とやってのけただろうし。


「優姫!もう、また無茶をして…」


 倒れ込んできた彼女を支えると同時、背後からエイミーのそんな声が聞こえてくる。肩越しに振り返ると、オヒメと共に怒り顔で駆け寄ってくる彼女の姿があった。


「昨日の約束はどうしたんですか?もう…」

「ご、ごめんってば!けど、あの場合仕方無いでしょう?」


 しかめっ面で苦言を呈す彼女に、慌てながらなんとか言い訳する。これからあたしがなんかやると、暫く昨日の事引き合いに出されるんだろうなぁ…


 けど実際、あの状況下では身体を張るしか無かった。何せあたしが明陽さんに気が付いた瞬間には、既に殺す気満々だったんだから。


「して、何故その者を庇ったんじゃ?事情は知らんが、御主等に矢を向けるという事は、其奴は敵じゃろう?」


 エイミーに返事を返した直後、明陽さんが低い声音でそう問い掛けてくる。その言葉を聞いた途端、腰が抜けてもたれ掛かる女性の身体が、一瞬大きくビクリと震えた後強張った。


「事情が解らない内に、いきなり殺そうとしないで下さいよ…物騒なんだから、もう。」


 完全に怯えきっている彼女を、明陽さんの視線から庇う様に遮りつつ、呆れ顔で文句をぶつける。あの人の中には、敵か味方かしか人の区別が無いのだろうか…


「なんじゃ?よもや矢を射掛けられておいて、よもや知り合いと言う訳でも無いじゃろう。」

「まぁ…確かに知り合いじゃ無いですけど、でも知ってる人なんですよ。」

「何?」

「What?」


 訝しがる明陽さんにそう返すと、その言葉を耳にした彼女のみならず、あたしを支えにする女性からも、戸惑いの余りに漏れた呟きが発せられる。その呟きを耳にし、顔を前へと戻して安心させるように笑いかけながら、大きなサングラス越しにその人の目を真っ直ぐ見据える。


「あなた、ミリアさんでしょ?」

「Why?何処で私の名前を…」


 直後にあたしがその名を言い当てると、予想以上に驚いた表情で返してくるミリアさん。その反応を前にして、思わず苦笑しながら肩を竦める。


「帝都で浩太さんに会った時に、あなたのお話も少しだけ。」

「浩太に!?Really?」

「えぇ、本当です。」

「なら、あのJeepは…」


 そう言ってミリアさんは、ジープが置かれている方へと視線を向ける。


「えぇ。あの車は、浩太さんから預かっている物です。」

「Jesus…」

「ですから、私達が盗んだとか、そう言った事は――あっ!?危ない!!」

「ッ!?」


 あたしが言い終えた後を、エイミーが引き継ぐ形で言葉を掛けてくる。その途中で、ミリアさんが急に膝から崩れ落ちそうになり、慌ててその身体に手を回して持ち上げた。


「I'm sorry…I've done something ridiculous.(ごめんなさい…私はとんでもない事をしてしまった)」


 彼女の囁くような謝罪の言葉を耳元で聞きながら、そのままゆっくり地面に座らせる。どうやら、罪の意識に捕らわれて脱力してしまったらしい。


「なんじゃ。早とちりかえ?人騒がせな南蛮人の娘じゃな。」

「まぁ、確かにその通りですけど、あんまり言わないであげて下さいよ。それは本人が、1番身に染みている事でしょうから。」


 そのまま地面に座り込んでしまったミリアさんに対し、まるでオブラートに包む気なんて無い明陽さんの物言いに、苦笑交じりにそう返し宥める。それが気に食わなかったのか、次の瞬間ムスッとした表情になって、不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「…甘いのぉ御主は。勘違いで矢を射掛けられたっちゅうのに。」


 次いで明陽さんがそう言って、それを耳にしたミリアさんの肩が戦慄く。その様子を見てあたしは、震えるその両肩に手を置いた。


 すると彼女は、項垂れていた顔を持ち上げこちらを見上げてくる。それに対しあたしは、なるべく優しく笑いかけながら、黙って首を縦に振った。


「…I'm very sorry.(本当にごめんなさい。)」


 直後にミリアさんは、掛けていたサングラスを外すと、今にも泣きそうな表情で謝罪の言葉を口にする。それに笑って返したあたしは、彼女に対し手を差し伸べた。


 明陽さんの言う通り、確かにあたしは甘いのかもしれない。理由はどうあれ、あたし達に対し敵意を向けるだけで無く、実際に矢を放った相手をこんなあっけなく許そうなんてね。


 けど、既に自責の念で押し潰されそうな人を前にして、追い打ち掛けて追い詰めるような事、あたしには到底出来そうにないのだ。これが演技だったら、軽く人間不信になるって思う位、思い詰めた感じがヒシヒシと伝わって来るんだから。


 それにたらればの話になるけど、もう少し明陽さん達の合流が遅れていれば、ミリアさんもあたしに矢を放つような事は、きっとしなかっただろう。それよりももっと前に、彼女が林に足を踏み入れた段階で、こちらから話掛けてお茶にでも誘っていたら、こんな誰の得にもならない結果にはならなかった筈だ。


 それが楽観視のし過ぎだって言うのも解ってるし、あたし達に敵意が向いているのを目の当たりにして、助けようと動いてくれた明陽さん達に失礼だというのも解ってる。けど、10対0で相手にだけ非が在るなんて事、決して無いとあたしは思う。


 だって、それが罷り通ってしまったら、一体全体誰がミリアさんを赦してあげるって言うのだろうか。こんなナイスバディーなパツキン美女、そうそうお目にかかれないわよ?(ぇ


 もしろ乳揉ませてくれるんだったら、2割増しであたしに非が在るでも構わない位よ。基本、あたしゃ依怙贔屓の権化だかんね!(←


 あたしが差し伸べた手を彼女が掴むと同時、その手を引いて身体を起こせる。起き上がった瞬間、まだ腰が抜けている所為か、よろめいた所を抱き止めると、あたしの胸にそのダイナマイト級の胸が押し当てられた。


 なにこのましゅまろみたいなしつかんやわらけーはんぶんほしいはぁはぁ


 ほぁっ!?何たる破壊力!!思考が一瞬馬鹿になったわ…


「…優姫?」

「御主、またぞろいかがわしい事、考えとらんか?」


 チッ、勘の宜しい人達め。ってか、あたしが表情に出してんのか、サーセン。


「とりあえず、地べたもなんだしシートの方に行きましょう。エイミー手伝ってくれる?」

「えぇ、勿論です。」


 気を取り直し、ミリアさんに肩を貸しながらエイミーにそう尋ねる。嫌な顔1つせず直ぐさま頷いてくれた彼女は、直ぐさま反対側へと回り込んだ。


「なんじゃ、介抱までするのかえ?ほっとけば良かろうに、お人好しじゃのう。」


 そのやり取りを見ていた明陽さんが、すかさずトゲのある言葉を口にする。あたし達の手前、敵意を納めてくれたけど、だから許したなんてそう都合良くは行かないか。


 それは譲羽さんも同じで、完全に我関せずを決め込んでいる様だ。と言うか、ミリアさんの事が見えてないんじゃと思うような無関心っぷり。


「このままって訳にもいかないですし、それにジープをあたし達が借り受けた事情も、ちゃんと話しておきたいですからね。」

「sorry.ありがとうございます。」

「そんなもん、気になるのならその浩太っちゅう奴の所に行って、其奴に聞けば良かろうが?合流したらすぐに出発じゃ言うたろうが。」


 あたしの言葉にミリアさんがお礼を述べた直後、直ぐさま捲し立てる様に反論する明陽さん。彼女のその勢いに、あたしもエイミーもただただ困り顔するしか無かった。


 駄目だこの人、完全に駄々っ子モードに入ってるわ。器が小さい時は、ほんと小さいんだから…


 彼女の言葉に反応して、何か言い出そうとするミリアさんを手で制しつつ、視線をオヒメの方へと移す。それまで、心配そうにミリアさんを見ていた彼女がその視線に気が付いて、不思議そうに首を傾げてくる。


「そうそうオヒメ、あんた2人に渡す物あるんじゃ無かったっけ?」

「何?」

「ッ!」


 若干棒読みであたしがそう言うと、オヒメよりも先に明陽さんが反応を返し、譲羽さんも興味を示してこちらに初めて視線を向けてくる。はい、釣れたー


「あ!うん!!」


 少し遅れて笑顔で返事を返したオヒメが、直ぐさま踵を返しシートの敷かれた場所へと駆け寄っていく。そして、そこに置かれていた紙袋を手に取ると、それを高く掲げて振り返った。


「あのね!姫華おばあちゃん達にお土産買ってきたんだよ!!」

「おぉ、そうか!お土産か!!」


 オヒメの言葉を聞いて、急に声のトーンが3段階位上がる明陽さんと、思いっきり表情が緩む譲羽さん。チョロいな~


「とっても美味しいんだよ!ねぇねぇ早く食べて食べて!!」

「うむうむ。折角姫華が買ってきてくれたんじゃからのぉ、はよ食べようのぉ。ほれ、譲羽よ行くぞ。」コクッ

「ねぇねぇこれも見て見て!」

「おうおう、狐のお面か。よう似合っとるのぉ~のぉ?」コクッ

「本当!?わぁ~い!」


 満面の笑みでオヒメにそう呼ばれ、先程までの態度は一体何処へやら、2人共フラフラと吸い寄せられていった。選んだのあたしだけどね、ってここで言ったらどうなるかしら?


 いやぁ~しっかし効果覿面ね、おばあちゃんホイホイ。とんでもない吸引力だわ。


 兎にも角にも、これでうるさい人の注意が他に向いてくれた。今の内に、ミリアさんに事情を説明しようと、ジープの方へと足を向けた。


 程なくジープへ辿り着き、後部座席を開けてシートにミリアさんを座らせる。ちょうどその時…


「た、ただ今戻りました…」


 不意に聞こえた声に振り向けば、なんだか疲れた様子のアクアが、消えた時と同じ場所にいつの間にか立っていた。


「おかえり?」

「どうしたんです?なんだか疲れてるみたいですが。」


 戻って来た彼女に対し、あたし達がそれぞれ反応を返すと、途端に渋い顔となってこちらに近づいてくる。


「聞いて下さいよ~ママにお土産持って行ったのに、結局会えなかったんですよ~」

「まぁ、そうだったんですか?」

「はい。」

「じゃぁずっと待ってたの?」


 あたしがそう聞くと、急にむくれ顔になって首を横に振り出した。そして何度か首を振った後、何故だか顔の向きをあたしに固定し、恨めしそうに半眼で睨んでくる。


「仕方無いからカーラ姉様にお土産渡して、こっちに戻ってこようと思ったんですけど。そしたら他の姉様方に捕まっちゃって、根掘り葉掘りずっと優姫さんについての質問攻めですよ。」

「いや、あたしに文句言われても、そんなの知らんがな。」


 直後に避難するような口調でそう言われ、すかさずあたしも半眼になって反論する。いくらなんでも、濡れ衣にも程があるってもんだろう。


 ってか、意外とミーハーなのね水の精霊って。


「まったく、参っちゃいますよ。もうちょっとで戻って来られなくなる所だったんですから。カーラ姉様も助けてくれないし…って、あれ?そちらの方はどなたですか?」


 暫く文句を続けていたアクアだったけど、途中でようやくミリアさんに気が付いたらしく、そこで文句を切り上げた。こんな傍まで近づいて暫く気が付かないって、どんだけよこの子…

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