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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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子連れJK異世界旅~YOUは何しに異世界へ?~(10)

「…あ、お帰りなさい優姫。」

「ん、お待たせ。」


 その後、多少の罪悪感を感じながら、おじいさんを置いてお店の方へ1人で戻る。それに気が付き、出迎えて声を掛けてくれたエイミーに近寄り、預けていた荷物を受け取った。


「…何かありました?」

「まぁ、ね。歩きながら話すわ。」


 荷物を受け取った瞬間、あたしの様子を見て何か感づいたらしいエイミーが、心配そうな表情で聞いてくる。それに言い淀みながら答えつつ、オヒメの方へと振り返る。


 彼女のすぐ傍には、ジュラルミンケースが床に置かれ、胸にヴァイオリンと明陽さん達へのお土産を、大事そうに抱えている。


「終わった?」

「うん!」


 主語を抜いて彼女にそう問い掛けると、嬉しそうに満面の笑みで答えてくる。どうやらヴァイオリンを眷属化出来た事が、よっぽど嬉しいらしい。


「それはそうと優姫さん、その手に持っている物はどうしたんですか?」

「これ?」

「わっ!何それ可愛い!!ねぇママ!見せて見せて!!」


 不意にアクアに問われて、手にしていた狐面を持ち上げる。その直後、あたしが説明しようと口を開くよりも先に、身体を前のめりにさせたオヒメが、瞳をキラキラさせながら食い入るように見つめ出す。


「はい。」

「良いの!?わぁっ!」


 そんな彼女に苦笑漏らしつつ狐面を手渡すと、途端に無邪気に喜びお面と向き合い、いつの間にかにらめっこが始まった。その光景を眺めていると、先程感じた罪悪感も紛れていった。


「その仮面も購入されたんですか?」

「うん、まぁ…それも歩きながら説明するわ。」


 暫くそうして愛しい我が子を眺めていると、不意にエイミーが語りかけてくる。それに向き直って答えた後、ゆっくり目を閉じ軽く吐息を吐き出した。


「…さぁ、それじゃ用も済んだ事だし、待ち合わせの場所に向かいましょうか。」


 そうして気持ちを切り替えたあたしは、みんなに対しそう告げるや、オヒメの傍にあったジュラルミンケースを手に取り、お店のドアに向かって歩き出した。


「えぇ。」

「は~い!」

「解りました。」


 遅れて返ってきた3人の返事を背中に受けて、塞がった両手で器用にお店のドアを押し開く。直後、薄暗かった店内に光が差し込み、その眩しさに思わず目を細める。


 そのまま店を出たあたしは、後に続く3人に道を譲る為端に移動する。すると、早速狐面を被ったオヒメが目に入り、そこで思わず微笑んだ。


 その後、3人が店の外へ出たのを確認し、ドアを閉める前に1度店内へと視線を向ける。おじいさんが見送りに姿を現す気配は無く、ただただガランとした物寂しい雰囲気が、空間全体を支配していた。


 きっと、今のおじいさんの心を映し出しているんだろうと、ガラにも無くそんなセンチな考えが頭を過る。


「優姫。」

「…うん。」


 そうやって店内を見つめていたあたしに、エイミーの呼び声が耳に届く。その声に、振り向かず頷いて返事を返した後、店内に向かって深々と頭を下げてから、静かにお店のドアを閉めた――


「――成る程、そんな理由があったんですね。」


 お店を出たあたし達は、再び大通りを正門方面へと歩いていた。お店での出来事を話し終えて、ちょうどその正門が見えてきた所だ。


 ちなみに、ジュラルミンケースとヴァイオリンは、お店を出てすぐの頃に人の目を盗んで、さっさと精霊界へ送還した。あんなの持ち歩いてたら、流石に目立つし荷物になって仕方無いからね。


 狐面に至っては、オヒメが大層気に入ったらしく、今も被ったまんまだったりする。なので結局、超目立ってんだけどね。


 まぁあたし的には、可愛いし目の保養にも成って良いんだけどね。けどオヒメ~道行く皆さんにクスクス笑われてるわよ~?


「それは少し、申し訳ない事をしてしまいましたね。」

「うん。」

「気に成りますか?」

「まぁ、ね…けど、おじいさんが問題無いって言うんだし、これ以上は出る幕じゃ無いわよ。おじいさんの商人としてのケジメでもあるんだろうし。」

「そうですね。」


 ともあれ、エイミーと会話を続けながら歩き進めていくと、もう100mあるけば正門を越える位置にまで差し掛かる。そこまで来れば当然、街の外の風景も大分はっきり見えるようになってくる。


 今あたし達が歩いている道は、そのまま街の外まできちんと整備されて、遠くに見える山々に向かって続いているようだ。この道がそのまま街道で、街を出た左手が草原になっている。


 そして聞いていた通り、街を出て右手に林が広がっているのを確認する。あそこが、明陽さん達との待ち合わせの場所だ。


 確かにあそこなら、ジープを召喚しても目立ちそうに無いわね。明陽さん達は、もう用事を済ませて、待ち合わせ場所に居るのかしら?


「…うん?」


 そんな事を考えながら街の外に目を向け望んでいると、不意に門の方から1人の女性が歩いてくるのが目に入る。別にどうって事無い筈なのに、その人の事が気になった理由は、遠くからでもかなり目立つ恰好をしていたからだ。


 先に言ってしまうとその人は、間違い無くあたしと同じ地球出身の異世界人だ。それも、恐らくアメリカ人の白人女性だ。


 何故そう断言できるかと言えば、さっきも述べた通りその目立つ恰好だ。かなり際どそうなホットパンツに、上はチューブトップのみなんて、カリフォルニア辺りの陽キャなパリピが、好んで着そうなもんじゃ無い?(凄い偏見


 それでスタイルが、遠目から見てもボンッ!キュッ!ボンッ!!で、背丈もスラリと高いワールドクラスなんだから羨ま――ゲフンゲフン。何食ったらあんな育つんだ…


 そんな恰好にも関わらず、どうやら彼女は冒険者らしい。悩ましい服装とは不釣り合いな、ごついブーツを履いてるし、腰にガンベルトを巻いている。


 彼女の背には、立派なアーチェリー弓を背負っていて、ガンベルトにそれ用の矢筒が取り付けられているようだ。見るからに近接主体では無く、遠距離専門といった感じだけど、だからあんな派手な格好なんだろうか?


 それはまぁ横に置いとくとして、肝心な彼女の表情なんだけど、ここからではよく解らない。と言うのも、何か女優さんとかが付けていそうな、でっかいサングラスを着けているからだ。


 髪はブロンドで、頭の後ろで束ねられてポニーテールになっている。陽の光を浴びて、キラキラ光っている辺り、まるで後光でも差しているかのようだ。


 ともあれ、物々しい装備を除けばハリウッド女優だと言われても、信じてしまいそうな恵まれたプロポーションの持ち主だ。(貧相な身体の)あたしが、目を奪われない筈無い!


 彼女の様子を、目深に被ったフードの中から伺っていると、不意に彼女の方もこちらに視線を向けてくる。あたしの視線に気付かれたかと思いきや、どうやらその視線の先は、狐面を被ったオヒメのようだ。


「う?どうしたのママ??」


 視線の先を追ってあたしもオヒメに顔を向けると、それに気が付いたオヒメが不思議そうに首を傾げる。ほらほらオヒメ、あんなべっぴんさんにまで笑われてるよ?


 そして程なく、特に運命的な何かが起きる事も無く、その女性とはそのまますれ違った。すれ違い様『very cute』と呟くのが聞こえたよ、良かったねオヒメ!


「…あの人凄い美人だったわね。」


 すれ違う際に、横顔だけ見る事が出来たけど、その顔は凄く整った美形の人だった。鼻も高いし目もぱっちり二重だったし、まつげも切れ長でお人形さんみたいだった。


 冗談抜きに、元の世界じゃ女優だったんじゃないって位、ハイレベルな人だったなぁ~しかも、超良い匂いだったし…


「もう、優姫ったら…あんまりジロジロ見たら失礼ですよ?」

「あ、あはは~」


 今し方すれ違った女性を、早速話のネタにと持ち出した所、すかさずエイミーに注意され笑って誤魔化す。あたしの邪な考えまでダダ漏れだったんだろう、なんだか呆れられてしまったっぽい。


 っと言うか、何だか拗ねてる?ハッ!もしかしてパートナーのあたしが、他の女に見とれちゃったからとか!?


 ごめんねエイミー!確かに見とれちゃったけど、でもエイミーも負けて無いから!年齢とか特に!!


 え、年齢ネタにイジり過ぎだって?サーセン。


「…優姫さん、なんかすごい失礼な事考えてませんか?」


 不意に、背後から冷たい視線と共に、冷めた口調でアクアがそう告げる。流石水の上位精霊!視線と言葉がキンキンに冷えてるね!!


 兎にも角にも、そんな珍事が在ったりしつつ、無事カントの正門を抜け無事に待ち合わせの場所へと辿り着いた。


「おばあちゃん達居ないね?」

「まだ着いて無いみたいですね。」

「そうみたいね。」


 木々の間からカントの正門が、ギリギリ確認出来る位まで林の中に入ったあたし達は、その場で周囲を見渡しそう結論付けた。いくら人目を避ける為とは言え、待ち合わせるだけならそこまで奥に入ったりしないだろう。


 それに、仮にもっと奥まで這入っていたとしても、明陽さん達ならすぐにこっちの気配に気付いて、迎えに来てくれるはずだ。なのに現れないという事は、まだ来てないと言う事で間違い無いだろう。


「やはり、ギルドへの報告などで手間取っているんでしょうか?」

「かもね。しゃ~ない!暫くここで待ちますか。」

「えぇ、そうですね。」


 そう言ってあたしは、抱えていた荷物の袋を手近な木の根に、立て掛けるようにして置く。頷きながらエイミーもそれに倣い、荷物を同じ木の根へと立て掛けた。


「ママ、じゃぁもう車召喚しちゃうね!」

「えぇ、荷物の整理もしたいしお願いね。」

「は~い!」


 元気よく答えたオヒメが、開けた場所にジープを召喚し始めた。それを眺めながらあたしは、両手を上に持ち上げ軽く伸びをする。


 昨日今日と、なんだかんだ休まる時間も無かったし、全然身体をほぐせてなかったのよね。ジープの中にシートもあるし、それを広げて小休止がてらストレッチしようかしら。


「それじゃ私、今のうちにママにこれ届けてきちゃいますね!」


 そんな事を考えたその時、アクアがずっと大事そうに抱えていたお土産の入った袋を、嬉しそうに見せびらかしながらそう言ってくる。何時もみたいになんか言ってやろうかと思ったけれど、その表情を見ていたら、そんな気も失せてしまった。


「解りました。ウィンディーネ様によろしくお伝え下さい。」

「はい!では行ってきます――」


 満面の笑みで元気よくそう答えた後、アクアの姿が次第に薄まっていき、程なく気配さえも完全に消失する。


「さ、それじゃちょっと休憩しましょうか。」


 それをしっかりと見届けた後、振り向きざま2人にそう告げ、早速小休止の準備に取り掛かる。早速オヒメが、召喚してくれたジープからシートを取りだし、地面に広げて場所をスペースを作る。


 同じくエイミーが、ジープからティーセットのバスケットを取りだし、魔法でお湯を沸かしてお茶の準備に取り掛かる。そしてあたしは、買ってきた荷物をちゃちゃっと整理しジープに押し込んだ。


 それが済んだら、動きやすい服装に切り替えて早速ストレッチ!の前に、常時髪ん中に居たがる風華は、流石に危ないのでオヒメに預けようとしたんだけど、めっちゃ本人がイヤイヤするので仕方無くエイミーへ。


 ちょっとオヒメが傷付いてるけど、あんたがめっちゃグイグイ行く所為だかんね?これを機に、もうちょっと風華の性格考えてあげなさい。


 そんなこんなで、昨日今日の激動から一転、穏やかな一時が幕を上げる。木漏れ日の優しい光と、そよぐ風を身体に受けながら、軽く汗を流すってなんて優雅な一時なんでしょう。


 途中から、オヒメが真似したがって一緒に参加。それをエイミーが、優しい笑みを浮かべて眺めつつ、風華と一緒にお茶を楽しんでいる。


 ずっとこんな時間が続けばなと、そう願いたく成る位に平穏で穏やかな時間が、ゆっくりと過ぎ去っていく。長く続いたように感じるけれど、時間にしたら約20分位だろう。


 軽く身体を動かして、少し汗ばんだ肌をタオルで拭きながら、エイミーの入れてくれたお茶を、オヒメと一緒に飲み始めた頃、その優しい時間が突然終わりを告げる――

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