子連れJK異世界旅~YOUは何しに異世界へ?~(7)
なんてね。そうだとしたら、こうして武具の気配を感じたりしないだろう。
まぁ、これの角でぶん殴ったりしたら、相当なダメージ叩き出そうだけどさ。だからって、流石にケースの方が眷属候補とは考えにくい。
なら順当に考えて、このケースに収められている物こそ、あたしが感じ取った気配の正体だろう。そのジュラルミンケースに向かって、徐に手を翳し近づけていく。
「…嘘でしょ…」
そしてそのケースにあたしが触れた瞬間、その中に収められている物の正体を読み取って、思わず顔を顰めて呟いていた。まさか、こんな物までこっちの世界に飛ばされてるなんて…
「どうしたんですか?その箱の中に何があるのか、解ったんですか?」
「えぇ…」
入り口辺りであたしの様子を見ていたエイミーが、様子が変わった事を察知しその場から声を掛けてくる。それに重苦しい口調で呟きながら身体を起こすと、踵を返し足早に店の入り口へと移動する。
「ごめんエイミー、あれはちょっと最優先で回収した方が良いみたい。」
入り口で待機している2人に近寄ってすぐ、おじいさんに聞かれていないか気にしながら、声を潜めてそう告げる。するとその言葉を聞いてすぐ、エイミーとアクアが驚いたような表情を見せた。
「そんなに危険な物だったんですか?」
声を潜めて聞き返してくるエイミーに無言で頷いて返しながら、肩越しにそのジュラルミンケースへ視線を向ける。あのケースの中に入っていた物の正体は――
「――SVDドラグノフ狙撃銃。」
「え、えす…なんですか、それ?」
そしてそのままの姿勢で、中に収められている物の正体を、静かに口に出して2人に告げる。けれど当然、2人からすれば聞き覚えの無い名称の為、アクアが訝しがりながら聞き返してくる。
旧ソビエト連邦で開発された、セミオートの狙撃銃。1発必中のコンセプトの元、1960年代に正式採用されて以降、様々な戦争で活躍してきた名だたる銘銃。
装弾数10+1発、口径7.62mm、全長約1.2m、重量約4.3kg、有効射程800m。大きさの割に重量が軽いのは、市街戦での運搬性能向上を目的とした軽量化の賜だ。
その為ドラグノフの外見は、他の国のセミオート狙撃銃に比べると、かなり細身に作られている。と、ここまでがヴァルキリーWikiによって読み取った情報だ(最近命名
そんなに詳しくないあたしでも、アニメやゲームでもよく使われる銃だから、ドラグノフって名前位聞いた事ある。その位、世界的にも有名な狙撃銃だ。
そして、それだけ有名であるという事は、有名になる程の戦果を上げている、という事に他ならない。何せ狙撃銃ってのは、知覚の外側から一方的に相手を鏖殺する事に特化した、確実に人を殺す為の武器なんだから。
正に、戦争する為に作られた道具と言って良い。それがバラバラに分解された状態で、あのジュラルミンケースの中に収められているんだから、流石に回収するしかないだろう。
「何百メートルも離れた地点から相手に悟られず、一方的に攻撃出来る武器ですか…」
「異世界の技術って凄いんですね。魔術は勿論私達精霊でも、そんな離れた場所から周囲に被害を与えず、対象のみを攻撃する事なんて出来ませんよ。」
読み取った情報を一通り彼女達に伝え終わると、それぞれで感心した反応が返ってくる。あたしからすれば、魔法の方がよっぽど凄いと思うんだけどね。
まぁ魔法も精霊の力も、手動で力の制御を行わないといけないからね。科学的な観点から機械的に制御して、運動エネルギーを効率よく運用する近代兵器と、比較してもしょうが無いか。
「そういう訳だから、あれを回収しようと思うんだけど…」
「えぇ、解りました。そう言う事でしたら仕方無いですものね。」
言い淀むあたしに対し、エイミーが微笑みながら答える。その笑顔を前にして、顔を伏せながらため息を吐いた。
「今朝ハーレーで大金使ったばっかなのに、またここで出費するとは思わなかったわ…」
「まぁ仕方在りませんよ。流石にこうなるなんて、誰にも予想出来ませんもの。」
「けど、帝都でお金支給されてから、まだそんな日数経ってないのにもう金貨35枚位使ってるのよ?このペースで行ったら、10日としないで全部使い切っちゃうじゃ無い。」
「ま、まぁ、それは確かに…」
あたしがそう言うと、何時もの困ったような表情で言葉に詰まるエイミー。なんせこのままだったら、冗談抜きで無一文に成る可能性があるんだし、流石に危機感覚えるわよね。
帝都で旅の支度金として支給された金貨100枚。異世界の武具を購入するだけじゃ無く、あたし達の飲食代や宿代など、経費諸々込みでこの金額だ。
それだけあれば、まぁ平気だろうと甘く見ていたかもしんない。こんな立て続けに、回収対象見つかるとは…
納得いかないのが、ウィンディーネのお土産代までそこから出てるって事なのよね。些細なもんだし、エイミーがどうぞどうぞ言ってるから、あたし何も言わんけどさ。
まぁハーレー代の金貨20枚、何の相談も無しに使ったあたしが言うなって話なんですがね…
「ですが元々の使用目的は、そう言った危険物を回収する為なんですし、そちらに優先して回すのが筋という物でしょう。私達の飲食代は、ギルドで依頼を受ければどうにでも成りますし。」
「じゃ、そうなった場合、ウィンディーネのお土産代は、アクアが自力で稼いでくると言う事で。」
「アババ!?」
至極真っ当なエイミーの意見に、ピンポイントでさらりとアクアを狙い撃ち☆ってか当然の流れでしょう、何驚いてんだかなぁ~
エイミーが『またそんな意地悪言って』みたいな表情してるけど知らん!アクアがあたし等と食事する解るけど、あのおっぱいお化け分までなんで出さんといかんのよ?
「ねぇねぇママ~」
「ん?どうしたのオヒメ。」
ひとまずドラグノフの件が纏まった所で、不意にオヒメに呼ばれてそちらへと視線を向ける。すると彼女は、珍しく眉を八の字にし困った表情を浮かべ、それまで見ていただろう棚を指差した。
「この子も一緒に連れてっちゃ駄目?」
「え、この子?」
直後にそう言われ、困惑気味に聞き返しながらオヒメの傍まで近寄っていく。そのまま、彼女が指し示す方へと視線を移すと、そこに置かれていた物は――
「――ヴァイオリン?」
その棚には、色鮮やかな細工の施された小物入れや鞄など、工芸品が陳列されているようだった。そう言った商品に紛れて、弦楽器の代表格とも言えるヴァイオリンが一挺、専用の弓と共に陳列されていた。
それもただのヴァイオリンじゃない。あたしがこのお店に入ってから、ずっと感じていた気配の1つが、どうやらこれだったらしい。
あたしが気配を察知出来ていたという事は、つまりこのヴァイオリンも眷属に出来ると言う事だ。まさかこれで防具って訳も無いだろうし、となればやっぱり武器って扱いなんだろう。
確かに『音』を武器にして闘うって作品多いから、ありっちゃありなんだけど…眷属化出来る物の種類って、あたしのオタ知識に引っ張られてんのかなぁ?
そんな事を考えながら、徐にそのヴァイオリンへと手の平を翳す。眷属に出来るのなら、当然その情報だって読み取れる筈だ。
思った通り、そのヴァイオリンについての情報が、頭の中に流れ込んでくる。どうやらこれは、19世紀中期頃にイタリアで制作された物らしい。
良かった~あたしでも知ってるストラディバリウスとか、ガルネリだったらどう対処しようかと思ったわよ。文化遺産なんて代物、あたしの手に余り過ぎで逆に要らないっての。
とイジってみたけど、19世紀のヴァイオリンだって十分に価値のある代物だろう。古ければ古い程、その価値が上がる楽器だからね、500万とか平気で越えてくでしょうね。
それはまぁいいとして…
「なんでこれを連れて行きたいって思ったの?」
「うん…」
ヴァイオリンの情報を読み取ったあたしは、そう言いながらオヒメに対し顔を向ける。すると彼女は、何故だか1度寂しそうに俯いた後、歯切れ悪く言い淀む。
「…なんだかね、寂しそうに見えたの。」
暫く辛抱強く待つと、不意にヴァイオリンへと視線を向けたオヒメが、なんだか戸惑いがちにぽつりと呟いた。本人にもどうしてそう感じたのか、解らないと言った雰囲気が伝わって来る。
「寂しそうって…このヴァイオリンが?」
「うん…ここから出してあげたいなって思ったんだけど…」
そこで一旦言葉を切るとオヒメは、まるで捨てられた子犬か何かのような瞳で、上目遣いであたしを見上げて…
「ダメ?」
「うぐっ…」
何この絵に描いたようなあざといポーズ、超抱きしめたい。余りの可愛さに、脊髄反射でOK出しそうになっちゃった(ある意味自画自賛
さすがにそれでOK出す訳にも行かず、舌の上に乗っかってた言葉をなんとか飲み込み堪える。武器として眷属化出来るのは間違い無いみたいだけど、そもそも眷属化しなきゃただの楽器なんだし、緊急性は正直低い。
武器化したらどんな特性が発現するのか、あたしも気になる所だけれど、だからって500万はくだらない高級品、いくらなんでも2つ返事で了承なんて出来無い。ハーレー即決で買っといて、何言ってんだって話だけどね!
まぁ、あくまでも500万ってのは元の世界での価値であって、それがそのままこっちで適用される訳じゃないから、なんとも言えないんだけどね。ヴァイオリンもドラグノフも、値札らしいの無いから正直怖いわ~
「…お金足りなくなっちゃう?」
すぐに返事を返さず、どうしたもんかと悩んでいると、不安そうな表情でオヒメが聞いてくる。その表情を見て、何だか悪い事をしているみたいになって、思わず胸がずきんと痛んだ。
「姫華も働くよ!お金稼ぐから…」
それでも諦めきれないのか、更に食い下がるオヒメがそう続ける。始めて目にした物だろうに、一体彼女の何が、そこまでさせるのか…
オヒメに食い下がられて、振りほどけないままのあたしは、ふとヴァイオリンへと視線を向ける。
寂しそう…か。確かにこんな所で、ずっと日の目を見ないままで居たら、道具としての存在価値が潰えたも同然ね。
あたしには、夜天や銀星に呼ばれた時と同じ感覚を、このヴァイオリンから感じる事は出来無い。だけど、純然たる精霊のオヒメには、何かしら感じる物があったんだろう。
オヒメのその感覚を、尊重するべきなのかしらね。それに、記念すべき初めての我が儘なんだし、ちょっと位良いわよね?
そう思いながら、観念のため息を吐いたあたしは、視線をエイミーへと転ずる。それで全てを察した彼女が、柔らかく微笑んで首肯して見せた。
さっすがあたしのパートナー!これぞ正しく以心伝心てね。
「…解ったわ。」
「ほんと!?」
「えぇ。ただし、所持金の範囲で収まるようならね?優先はあくまでもあっちの方だからね。」
「うん、うん!わぁ~い!!ありがとうママ!!」
根負けしたあたしの返事を聞いたオヒメが、次の瞬間パッと表情を輝かせて無邪気に喜ぶ。さっきまで捨てられた子犬みたくなってたっていうのに、全く現金な子だわ。
喜んでくれて何よりだけど、所持金ぶっ飛んだらめでたく文無しだからね?まぁ、流石に金貨60数枚あれば、足り…るよ、ね?(震え声
「…何を騒いどるんだね?」
ちょうどその時、ゴツゴツと杖の音を響かせて、奥の棚の裏から先程のおじいさんが、不機嫌そうな表情をして姿を現す。
「騒ぐのなら、出てって欲しいんだがね?」
彼がそう言った途端、それまで燥いでいたオヒメが怒られるたと思ったのか、慌てて両手で口を押さえて言わ猿のポーズを取る。何この珍生物、か~わい~い。
それはまぁともかく、そんなオヒメの様子を見ておじいさんが軽くため息を吐くと、それで一緒に毒気も抜けたらしく少し表情も和らいだ。気難しそうな人だけど、悪い感じはしない…かな?
「すみません、お騒がせしてしまって…」
「まぁ良い。気が済んだのならとっとと帰ってくれ…」
「あ、待ってください。」
それだけ言って、再び奥に戻ろうとしたおじいさんを慌てて引き留める。直後、またあの値踏みするような瞳でジロリと睨まれ、その何とも言えない圧力に、一瞬とは言えたじろいでしまった。
何だろうね、このおじいさんの妙な凄みは…
「…なんだねお嬢さん。」
「あ、と。売って貰いたい物があるんですが、値段が解らなくって…」
「何?おまえさんのようなお嬢さん方がかね?」
「え、えぇ…」
あたしがそう告げると、途端に意外そうな表情で聞き返してくるおじいさん。どうやら、ただの冷やかしだと思われてたらしい。
まぁ普通、美術品に関心あるとか、この世界じゃ御貴族様位なもんだろうしそりゃそうか。控えめに言って、あたし達の誰が貴族に見えるんだって話だもんね、条考条考。




