子連れJK異世界旅~YOUは何しに異世界へ?~(6)
露店がひしめく中央広場付近の狭い通りと違い、馬車が余裕を持って行き来出来る位、広い道を挟んで店舗型の商店が連なっていた。さっきと打って変わり、通り全体が大分落ち着いていた雰囲気になっている。
人の多さもそこまで無いし、通りが広い分分散していると言うのもあるけど、それ以上にここに並ぶお店の種類が、さっきとまるで違う事が一番の要因だろう。さっきの市場が主に食品を扱ってるのに対し、こっちはそれ以外の店が全て揃っていると言った感じだ。
日用品を扱ってる雑貨屋や服屋に靴屋、更に冒険者御用達だろう道具屋や武器防具のお店に、宿屋や酒場etc.
見るからにお高そうなお店から、誰でも気兼ねなくは入れそうな店まで質も様々。さっきの市場が、スーパーやデパートで言う1階地下1階なら、こっちは2階から上のフロアって感じかしらね。
服屋を見つけた瞬間、無意識に足が向いちゃったけど踏み止まったよ!入っちゃうと時間忘れちゃうから、今回はウィンドウショッピングで我慢我慢。
「…なんか、急に冒険者っぽい人達が増えたわね?」
大通りを歩き始めて暫く、辺りを行き交う通行人の中に、ちらほら武装した人達が多くなってくる。そうした人向けの店が並んでるんだし、当たり前っちゃ当たり前だけど、にしても一気にその数が増えた感じがする。
「多分大半が、朝に依頼を受けて戻って来た人達だと思います。半日程度で済むような依頼なら、大体皆さんこの位の時間に戻ってくるので。」
「へぇ~」
「後は夕刻に出される依頼を受けに、早めに準備してギルドに向かおうとする方々でしょうか。ギルドの依頼は基本的に、朝と夕方の2回出されますんで。」
「成る程。流石に詳しいわねぇ~」
彼女の説明を聞き感心しながら、何となく通りを行き交う冒険者の人達を観察する。エルフやドワーフと言った精霊種に、けも耳もふもふの多種多様な獣人種達。
人種も人族を始め、初めて目にした有翼族や巨人族、キサラさんと同じ魔人族も当然居る。ただ人族に関して言うと、冒険者よりも一般人の割合が多そうだけど。
だから余計に目立つんだろう。ただでさえ割合の少ない人族の冒険者の中に、異世界人だろう人達を幾人も発見する。
この通りに入って、ハッキリと区別出来た人だけでも既に10人。あたしと同じアジア系の人や黒人の人は、見た目からしてこっちの住人と違うのですぐに区別出来る。
最初はこっちの人かと思いきや、たまたますれ違う時に英語で喋ってて、それでようやく気が付いた人も居た。この分だと気付けなかった人も、結構多そうな気がする。
「…やはり気になりますか?」
そうして周囲を観察しながら歩いていると、不意にエイミーにそう問い掛けられ、思わず首を傾げる。フード被ってるから、彼女からはあたしの表情が見えにくいし、そんなあからさまに見てないんだけどなぁ?
「解りますよ。パートナーなんですから。」
そうしてあたしが不思議がっていると、可笑しそうに笑いながらそう告げてくる。彼女がそんな風に言うって事は、もしかしたら個人契約の影響による物なのかも知れない。
まぁあたしも、クローウェルズの人混みの中から、別れた筈のエイミーが近くに居るって、漠然と解ったりしてるからね。あたし達の間で何かしら感じ合う力が働いてても、今更驚きはしないわよ。
「気になるって言うか、普通に驚いてるだけなんだけどね。ダリアじゃこんなあからさまに、同郷の人見かけなかったからさ。」
彼女の問い掛けに、再び周囲を伺いながら答える。結構な人数の異世界人達が、こっちの世界で普通に活動してると、話しに聞いて理解していたつもりだ。
けど、実際にその現場をこの目で確認して、ようやく実感が湧く事だって多分に在る。今の心境が正にそれで、想像していた光景にようやく動きや色が足された感じだ。
「確かにそうですね。異世界人の方々は、実力主義の獣王国に比較的多く居るんですが、それ以外だとこの辺りに多くいらっしゃいますね。」
「それってやっぱり、聖都と地底大国の行き来が便利だから?」
「えぇ。それが一番大きいでしょうね。それに、冒険者で無くても人の往来が激しいですから、様々な依頼がギルドに寄せられますので、仕事にもそうそう困りませんし。」
「成る程ね。だから新人からベテランまで、人種問わず幅広い層の冒険者が集まると。」
彼女の解説を聞き終えたあたしは、真新しい装備に身を包んだ如何にもって感じの、男女2人組の冒険者を見つけて、何とはなしにそう呟いた。見た感じ2人共、あたしよりもずっと年下に見える。
ただまぁ、こっちの世界見た目と実年齢がイコールじゃ無いからね~ジョンキュンみたく、あれで既に80歳って可能性も、十分考えられるというのが、安定の異世界理不尽クオリティー
「え?あぁ、フフッ」
直後エイミーも、あたしが何を見てそう言ったのか気が付いたらしく、同じ方を向いて微笑んだらしい。
よくある、田舎から冒険者に憧れてやって来た男の子と、男の子1人行かせるの心配だとか色々理由付けて、なんだかんだ一緒に着いて来ちゃった幼なじみの女の子だったりして?だとしたら、なんて王道で萌えるシュチエーション!
そうこうしている内に、視界に入った新人らしい冒険者2人組は、既に何処かへと立ち去ってしまった様だ。まぁ、ここまで引っ張っといてなんだけど、それはわりかしどうでも良かったり。
すっかりさっきの2人に意識が向いちゃったけど、彼等は単にたまたまあたしが視線を向けた先に居ただけで、フラグでも伏線でもナンデモナイヨ?
けど別に、何の理由も無くそこに視線を向けたという訳でも決して無い。ふと感じる物があったからこそ、あたしはそこを見つめて歩みを止める。
「優姫?どうしたんですか?」
「ママ、あそこ…」
ちょうどその時、あたしが立ち止まった事に気が付いたエイミーと、あたしが何に気を取られているのか、それに気が付いたらしいオヒメの声が重なる。オヒメも感じ取ったって言う事は、気のせいって可能性は無いだろう。
あたしが向ける視線の先にあるのは、通りの反対側に並ぶ建物の内、窓が一切無い入り口のみの小さなお店だ。ここからだと、一見して民家のようにも見えるけれど、しかしちゃんと看板が入り口辺りに下げられている。
何故あのお店が、こんなにも気になるのか?それは勿論――
「優姫、もしかしてあのお店に、異世界の品が?」
「うん。間違い無いと思う」
――あたしとオヒメの雰囲気から、エイミーもまた察したのだろう。彼女の言葉に、視線を固定したまま頷いて返した。
ここからじゃ、何のお店だかよく解らない。けどお店の規模や雰囲気から言って、武器屋や防具屋って事は無いだろう。
まぁ、異世界の品を取り扱ってるのが、武具屋に限った話しじゃないって言うのは、午前中にハーレーを見つけた時に経験済みだし。雑貨屋か古道具屋か、そんな所かしらね?
「エイミー、ちょっとあそこのお店寄っても良いかしら?」
「えぇ、勿論構いませんよ。」
「ありがと。」
エイミーの許可を聞くや、お礼の言葉を口にしつつ直ぐさま、そのお店へと足を向け歩を進める。そのままお店へと、近づくにつれて感じる気配もハッキリしていく。
視界に入ってようやく気が付いた位だし、この分だとハーレーみたいな大物って事は、まぁまず無いと思う。ってか、1日であんなデカブツ見つけるって、どんな強運の持ち主かっての。
けど見つけてしまった以上、確認もせず放置って訳にいかないのよね。こっちの人にしたら用途不明でも、例えば手榴弾とかの危険物だった場合、流石にほったらかしって訳にいかないからね。
後、眷属として回収する優先度の高い、刀剣類や銃火器類なんかも見過ごせないし。回収する優先度の低い装飾品みたく無害な物だったら、確認するだけして放置でも良いんだけど。
「ねぇエイミー、あそこ何のお店?」
お店まで後数メートルとなった辺りで、お店の看板もはっきり見えてきたので、肩越しに振り返ってエイミーに聞いてみる。
「え、っと…どうやら美術商のようですね。」
「成る程、美術商ね。」
一旦間を置いて返ってきたその返事に、頷きながら顔を元へと戻す。あそこが美術商なら、基本的に相場の高い異世界の品々を、取り扱ってるのも頷ける。
装飾品なんかは、確かに美術品だもんね。けどまぁ、逆にそれなら刀剣の類いは無さそうかな。
現代の地球だったら、古い刀剣なら古美術って分野に含まれるけど、こっちじゃ現行の戦闘手段としてバリバリ活躍してるしね。持って行くなら、やっぱり武器屋が妥当でしょ。
在ったとして、銃火器の類いって所かしらね。ともあれ、この感じる気配の正体が何なのか、お店に入って確認しなくっちゃね。
――ガチャッギイイィィ…
やがて店の前に着いたあたしは、着くなりドアを押し開ける。途端に、中から埃っぽい空気に頬を撫でられ、思わず顔を顰めながら、薄暗い店内へと足を踏み入れる。
表から見えた通り、こじんまりとした小さなお店だ。入り口から見て左右の壁に、棚が並べられていて、そこに様々な品物が陳列されている。
奥にもやはり棚があって、そこにも商品が置かれている。その棚の裏側に、まだ部屋が続いていそうだけど、ここからだと暗くてよく見えない。
「…いらっしゃい。」
あたし達の入店に気が付いて、店の人らしい声が聞こえてくる。その声の後、少し間を開けゴツゴツと音が聞こえてくると、思った通り奥の棚の裏側から、杖を付いたおじいさん姿を見せる。
「どうも。」
「お邪魔します。」
そのおじいさんに向け挨拶すると、途端に鋭い眼差しで睨み付けてくる。それはまるで、品定めでもするかのような、酷く冷淡な視線だった。
「…ドア。」
「え?」
不意におじいさんは、あたし達に向けていた冷淡な視線を伏せてぽつりと、少し掠れた声で呟いた。
「ドアを開けっぱなしにしないでくれ、商品が傷んじまう。」
「あ、はい!すぐに閉めます。」
「あばばっ!」
――ばたんっ!
こちらが聞き返すと今度は、はっきりと聞こえるようにそう言われ、最後に入店したアクアに視線を向けて閉めさせる。途端にただでさえ薄暗い店内が、更に暗くなって見通しがきかなくなる。
なるほど、どうやら窓が一切無いのも、太陽光の日焼けなんかを防ぐ為らしい。けど、流石にこれじゃ何も見えないんですが…
そんな風に思っていると、おじいさんが店の奥から灯の着いたランプを運んで来て、それを天井へと吊り下げる。するとあれだけ見通しの効かなかった店内が、ランプの暖かい光によって照らし出される。
まぁ、それでもまだ薄暗いんだけどね。けどなんだろう、ランプの炎が揺らめく度、物影がゆらゆら動く様は、何だか雰囲気があって逆に落ち着くわね。
「おまえさん達のような娘さんが、こんな場所に何の用だか知らないが…まぁ、ゆっくり見ていくと良い。」
そう言うとおじいさんは、杖を付きながら店の奥へと消えていった。最初、何だか冷たい印象を受けたけど、一応歓迎はされてるらしい。
ともあれ、早速気配を辿って品物を確認するとしよう。店内から感じる気配は、どうやら複数在るみたいだった。
まずは…
「ママ!姫華も見てて良い?」
「良いけど、その辺不必要にベタベタ触っちゃ駄目よ?」
「は~い!」
そう言ってオヒメは、左手の棚に小走りに近寄っていく。あっちの方からも気配がするし、そっちはオヒメに任せるとしよう。
「さて…」
「優姫、荷物持ってましょうか?」
「あ、うん。ありがとうエイミー」
彼女の申し出を素直に受け入れ、身軽になったあたしは右側の棚へ。こっちから、一番強く気配を感じるのよね。
真っ直ぐ感じる気配の方に向かいつつ、折角なんで戸棚に何が置かれているのかもチェックする。美術商と甲板を掲げる通り、素人目でも高そうな壺や皿等の陶芸品や、いまいちよく解らない彫刻なども置かれている。
どうやらこちらの棚は、そう言った物の陳列スペースらしい。この店の雰囲気の中ここだけ見ると、美術商と言うより倉庫か何かみたいだ。
そんな風に棚を観察し歩いて行くと、程なく剥き出しの壁面に差し掛かる。これで棚は終わりと思いきや、しかしてそこがあたしの目指していた場所で間違い無い。
剥き出しの壁面の前で立ち止まったあたしは、目線を足下へと向ける。そこには、あからさまにこの世界の物と思えない、ねずみ色の分厚い金属製のジュラルミンケースが立て掛けられていた。
「…なんでこんな所に、こんなの在るのかしらね?これで中身がドル札とかだったら、銀行強盗の頭注だったか、現金輸送車で運んでる途中だったか…」
まさかまさかの旧1万円札だった、未解決になってた3億円事件の犯人、こっちの世界に来てんじゃね?だとしたら、衝撃の展開だけど…