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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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子連れJK異世界旅~YOUは何しに異世界へ?~(5)

「はぁ…まぁ良いわ。」


 今尚サムズアップポーズを取るおっちゃんに、ため息交じりにそう告げてから、透明なショーケースの1つを指差した。無論、左端の一番人気らしいケースじゃ無いわよ?


「あたしは、この豆を漉したのと…そうね、カスタードを貰おうかしら。」

「はいよ!」

「みんなは?」


 そのままおっちゃんに欲しいものを伝え、威勢の良い返事を聞いてから、後ろを振り向きみんなの注文するように促す。


「姫華も同じで良いよ!!」

「はいよ!」

「エイミーは?」

「私は、そうですね…」


 振り返って聞くと同時、全く迷う素振りを見せないオヒメが注文を通した。その後、視線をエイミーへと移し問い掛けると、難しい表情でジッとショーケースを見つめ出す。


「優姫のオススメは何ですか?」

「あたしのオススメ?そうね…オススメってのとは少し違うけど、あたしの故郷でどら焼きって言ったら、やっぱ粒あんってイメージが先に来るし、そっちかな?」


 一旦間を開けて彼女にそう聞かれたので、素直に自分の思った事を口にする。そう言っといて、でもあたしこしあん派。


「それは、こっちの豆を漉していないって方ですか?」

「うん、そうそれ。」

「では、私はこちらにしますね。」

「はいよ!」

「あたしの漉した方少し上げるから、ちょっと食べさせてよ。食べ比べしてみたいし。」

「えぇ、良いですよ。」


 あたしのその申し出に、エイミーが柔らかく微笑みながら頷いてみせる。いろんな種類を、ちょっとづつ分け合って食べるってのも、食べ歩きの醍醐味よね~


「あ~ずるい!!ねぇねぇエイミー!!姫華も!姫華も良い!?」

「フフッ、えぇ、もちろん良いですよ。」

「わ~いっ!」


 あたしとエイミーのやり取りを見て、仲間はずれにされるとでも思ったのか、慌てた様子でオヒメが声を上げる。そんな可愛らしい申し出を、彼女が断る筈なんてなく、こちらに対しても同じように微笑んで答える。


 まったく、なんとも手の掛かるかわいこちゃんだわね。こうしていると、なんだか小さい頃兄妹みんなで、縁日に来た時の事を思い出しちゃうわ。


 はしゃぐオヒメを見やりながら、なんとも言えないノスタルジックな気分に浸りつつ、誰にも気付かれないよう軽く吐息を吐いた。


 フードを目深に被り、口元を覆っていて助かった。今頃きっと、人に向けるには少し気が引ける、とても恥ずかしい表情に成ってる事だろう。


「エイミーは1つで良いの?」

「え?そうですね…」


 燥ぐオヒメから視線を移し彼女にそう聞くと、再び難しい表情でショーケースとにらめっこし始めるエイミー。帝都でも人気になってきてるって聞いてから、なんだか真剣過ぎやしないかい?


「では、チョコレートをお願いします。」

「はいよ!」


 暫くそうしていた彼女だったけど、ようやく心が決まったらしく、ニコリと微笑みながら店主に注文を告げる。


「これでカスタードと分け合えば、4種類の味が楽しめますし。」

「ナイス、エイミー!」

「わぁ~い!!」


 次いで彼女にそう言われ、オヒメと共に無邪気を装い喜んで見せる。きっとあたしに遠慮して、チョコを選んでくれたんだろう。


 変に気を遣わせて申し訳ないと思いつつ、彼女の心遣いに素直に感謝の念を抱いた。その念を胸に刻みつつ、最後アクアに視線を移す。

 

「んで、アクアはどうする?」

「ママに届ける分で5種類1つづつ包んで貰って良いですか?」

「えぇ、勿論構いませんよ。」

「ありがとうございます!」


 あたしの問い掛けに、思った通りの答えが瞬時に返ってくる。それに対し、小言の1つでも言ってやろうとする前に、エイミーに先を越されて飲み込んだ。


 いやもう諦めてるけどさ、流石にもうちょい遠慮しなさいよ。5種類ってあんた…


 ――クイ、クイ


「…うん?」


 そんな風に思って呆れていると、不意にオヒメと繋いでいる手を引っ張られ、そちらに対し訝しがりながら顔を向ける。


「おばあちゃん達にもお土産買ってってあげよ?」

「あぁうん、そうね。きっと明陽さん達も喜ぶわよ。」

「えへへ~♪」


 上目遣いでオヒメにおねだりされて、断れるあたしな訳も無く。すんなりその提案を受け入れて、彼女の頭に手を置いた。


「すいません。それじゃさっき注文したのとは別に、5種類1個づつと、漉してない奴を2つ。それぞれ包んで貰えますか?」

「はいよ!お土産用だね、毎度あり!!」


 追加で注文を通すと同時、先に注文していた分を用意していたのだろう、おっちゃんがカウンター越しに紙袋を突き出してくる。


「ほい、先にお姉さん達の分な!こっちが漉したのとカスタード2つ、んでこっちが漉してないのとチョコレートだ!」

「ありがとうございます!」

「ありがとう、おじちゃん!」

「はい、エイミー。」

「えぇ、ありがとうございます。」


 その差し出された紙袋をオヒメと一緒に受け取り、その内1つをエイミーへと差し出した。


 はぁ~何はともあれ、これでようやくご飯にありつけ…


 ――グゥ~キュルルル…


 解ったからもうちょっと我慢しなさいよ、腹の虫。今餌あげるから…


 お腹の虫に急かされながら、受け取った袋から早速1つ取りだし、念願のあなた(?)とご対面。早速パクッといきたい欲求を抑えつつ、手にしたどら焼きをじっくりと観察する。


 生地は固過ぎず軟らか過ぎず、肌触りの良いふわふわ感。なのに、しっかり中身が詰まっていますという、見た目の割にずっしりとしたこの重みに、否応なく期待感が高まっていく。


 目と質感でどら焼きを堪能した後、口元を覆う襟首をズリ下げて、ゆっくり口へともっていく。すると、店先で嗅いだ時とは比べものにならない甘い香りが鼻腔をくすぐって、空腹を我慢し続けた脳にガツンと衝撃を与え、まだ口にもしていないのに幸福感に襲われる。


 …これあたし、実食したら多幸感のあまり、昇天するんじゃ無かろうか?


 だとしても望む所!眼で楽しみ、香りを楽しんだのなら、もう行く所まで行くしか無いでしょう!!


 覚悟を決めて、いざ!パクリ…もぐもぐもぐもぐ…


「どうですか?」

「ママ?」


 もぐもぐ、ごっくん


「…うん、美味しい。」


 あたしがどら焼きを口にしてから、ジッと様子を伺っていた2人に笑顔でそう告げる。途端にパッと表情を綻ばせると、2人も同時にどら焼きに口を付けた。


「美味しい!!」

「えぇ、本当!とても美味しいですね。」


 直後、更に顔を輝かせ絶賛する2人。たかがお菓子だけど、故郷の物をこんなに喜んで貰えて、なんだかあたしも嬉しいわ~


 けど、しれっと2人共、あたしの事毒味に使ったね?


 え?引っ張った割に、味に関しての感想がアッサリし過ぎだって?そりゃ2人の手前ですからね、本心↓


 う~ま~い~!あ~ま~い~ぞ~!!口に運んだ瞬間、優しい甘みが口いっぱいに広がっていって、その後を追うようにあんこのガツンとした甘さが駆け抜けていく。幸せ。更に生地もなかなかのクオリティ!ふわふわとした質感の通り、きめの細かいしっとりした生地で、かむ度に簡単にほろほろと崩れていく。幸せ。しかも生地に砂糖は一切使われていなく、変わりに使われているのは蜂蜜!幸せ!それが優しい甘さの正体、あ~んど!鼻腔をくすぐったほのかな香りの正体!!幸せ!!そしてなかにつかわれてるあんこ$%#$$+@(言語化不能)これはもう、宝石箱やぁ~


 実はあたし、めっちゃ甘党なんですよ。普段はトレーニングあるから、我慢しなくちゃいけなくて辛いけど、年1でスイパラ行くから平気だもん!☆


 ね?こんな本性見せられないでしょう?理性で抑え付けるの苦労したわ~


「気に入って貰えたかい?」

「えぇ、はい。」

「とっても美味しいよ!!」


 不意に背後から問われて、振り向きざまにそう答える。あたし達の返事を聞いて、すっかり気をよくしたおっちゃんは、白い歯をにっと剥き出しにして満面の笑みを向けてくる。


「そいつは何よりだ!ほれ、お土産も準備出耒たぜ!!」

「わぁ~!ありがとうございます!!」


 そうして差し出された大小2つの袋を、アクアが待ってましたとばかりに駆け寄り受け取った。


「ありがとうございます。おいくらですか?」

「おう!大銅貨2枚良いぜ!」


 というと…大体2000円位か。どら焼き13個にしては、まぁまぁなお値段かな。


「ではこちらに。」

「おう確かに!毎度あり!!」


 なんて感想を抱いていると、横からエイミーが進み出てお会計を済ませてくれる。いかんいかん、こんなんだから明陽さんに、打算丸出しだなんて言われんのよね~


「それじゃ行きましょうか。」

「えぇ。」

「お姉さん達!おまけすっから、また来てくれよ!」

「ありがとう、おっちゃん。」

「おじちゃんバイバイ!」


 会計を済ませたあたし達は、お店の店主に別れを告げ、どら焼き片手に再び人混みの中へ。空いた方の手で手を繋ぎ、2人1組に成る事も忘れない。


「結局、おまけしてくれるって言ってたけど、1つ幾ら位だったの?」

「1つ小銅貨1枚ですね。」

「ふぅ~ん。じゃぁ、3個分位おまけして貰えた感じか。」

「えぇ。」

「ママ!これ美味しいね!!」

「そうね~エイミー、一口貰って良い?」

「えぇ、勿論。はい、どうぞ。」


 そう言って、自分の食べていた分をあたしに差し出してくるエイミー。こ、これって間接キッス!?なんて言ってドギマギする程ウブじゃないので、遠慮無しにパクッと頂く。


 瞬間、何か視線感じて見てみれば、さっき買ったどら焼きの袋を胸に抱いて、恨めしそうにこっち見てくるアクアの姿。んな羨ましがるなら、自分の分も買えば良かったじゃん!


「…ん、ありがと。じゃぁはい、お返し。」

「では遠慮無く。」


 ともあれ、こちらもお返しと自分の分をエイミーに差し出すと、思い切りよく食い付いてきた。もっとお上品に来るかと思っていたので少し意外だ。


 それは良いとして、さっきから羨ましそうにしているアクアが、とにかくうっとうしい。とっととウィンディーネんとこに、どら焼き届けに行きなさいってのよ。


「エイミー!姫華も!姫華も!!」

「ウフフ、ちゃんと解ってますよ。はい、オヒメちゃんもどうぞ。」

「わ~いっ!」


 オヒメとエイミーの微笑ましいやり取りを横目にした時、ちょうど風華が髪の中から外の様子を伺っている事に気が付く。


(ふー)も食べる?」


 そう聞くと風華は、暫く考える素振りを見せた後、伏し目がちに恥ずかしそうに頷く。その様子を見てクスリと笑いつつ、食べかけのどら焼きを彼女の居る髪の方へと差し出した。


 すると直後、怖ず怖ずとした様子で、あたしの髪から姿を現した風華がそれを一口。すると次の瞬間、頬をうっすら赤く染めながら身震いした後、立て続けに二口三口と食べ進む。


「おいしい?」

「う、ん!おい()い!!」

「そう、良かったわ。」


 食べカスを口の周りに付けながら言う、その愛くるしい姿に思わずほっこりする。彼女のこんな笑顔が見られただけでも、この街に来た甲斐があるって物よね。


 そうして風華と分け合いながら、1つ目のどら焼きをぺろりと平らげる。そして、次のどら焼きを取り出した所でふと思う。


「意外にどら焼きって、食べ歩きに適してるのね。」

「元の世界では、食べ歩きの定番では無ったんですか?」

「うん。元の世界だと、お茶請けの定番って感じだったからね。ほら、エルフの里で出してくれたお茶あるじゃない?」

「フルレのお茶ですね。」

「あのお茶、フルレって言うんだ?」

「えぇ。あ、ちょうどあそこで売ってますよ。」


 その言葉と共に、彼女が指差した方へと視線を向けると、乾物類を扱っているんだろう露天が視界に入った。


「あたしの故郷じゃ、そのフルレってお茶によく似たお茶と、一緒に楽しむ物だったのよ。」

「そうなんですね。では次ドラヤキを買う機会があれば、フルレと一緒に頂きましょうか。」

「あ!良いわね、それ。」

「楽しみ!ね、風ちゃん!!」

「う…うん。」

「ウフフっ、その時はアクアさんも一緒に頂きましょうね?」

「は、はい!是非!!」


 そんな風に、たわいない会話を終始ずっとしながら、行き交う人波を掻き分けていく。勿論、当初の目的である買い出しだって忘れちゃいない。


 この通りに並ぶ出店は、その殆どが食料を扱う所ばかりだった。更にその内半数近くが、港町だけあり海産物を扱ってる。


 そう言ったお店の数々を見て回り、美味しそうな物を見つけて買い食いし、また冷やかしながら、ミッドガル港迄に掛かるだろう日数分と、人数分の食料を買い込んでいく。目的地まで、他の街に立ち寄るか怪しいし、少し多めにね。


 そうして買い物を続けていき、いつの間にか両手で抱える程の大きな荷物が出来上がった頃、あたし達は一路、明陽さん達との待ち合わせ場所である、街の正門を目指して大通りを歩いていた。

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