子連れJK異世界旅~YOUは何しに異世界へ?~(4)
「ったくもぅ、しっかりしなさいよあんた。」
「うぅ…ご、ごめんなさい…」
人混みを縫うように掻き分けてアクアの元まで行くと、すぐにその手を掴んで彼女の身体を引っ張り出し、そのまま人波に逆らって脇へと避難する。こんな所で、双六なんかの振り出しに戻るを実体験するとは、夢にも思わなかった。
「まぁまぁ優姫、そう責めないであげて下さい。」
「アクア大丈夫?」
「う、うん。大丈夫だよ姫華ちゃん。」
少し遅れてやって来たエイミーとオヒメの声に、あたしとアクアがその場で振り返る。見ると2人は、ちょうど人波を越えて、慌ただしく駆け寄って来る所だった。
「…オヒメは難なく人波乗り越えたってのに、水の精霊は水の波しか越えられないのかしら?」
「うっ…」
遅れて駆け寄ってくる2人を見て、ふと思った事を意地悪な笑みを浮かべながら、アクアを横目にぽつりと口にする。直後、眉間に深い皺を寄せて、恨めしそうな表情であたしを見るアクア。
まぁ酷い、助けてあげたのにそんな顔するなんて。プンプン(棒読み
「もう、優姫ったら…またそんな意地悪な事を言うんですから…」
「ママ!アクアの事虐めちゃメッ!だよ!!」
反論したくても出来無いアクアの代わりに、すかさず非難の声を上げるエイミーとオヒメ。そりゃこうなりますよね~
ってか、エイミーはアクアに甘いから解るけど、まさかオヒメからもお叱りの言葉を頂くとは…身体ばっか大きくなったと思いきや、内面もしっかり成長してるのね(ホロリ
まぁ冗談はさておき、非難の声を上げた2人に対し、肩を竦めながら苦笑したあたしは、アクアを掴んでいた手を離すと、ムスッとした表情をあたしの顔に近づけるオヒメの手を掴んだ。
「う?ママ??」
「ま、人混みが凄いのは確かだしね。はぐれない様にしっかり手を繋いでましょうか。」
「あ、うん!!」
あたしがそう提案するや、パッと表情を輝かせて喜ぶオヒメ。我が娘ながら、チョロいなぁ~
「エイミーは、アクアをお願いね?」
「えぇ、解りました。さぁアクアさん、お手をどうぞ。」
「は、はい!よろしくお願いします!!」
「ウフフッ」
微笑みながらあたしの提案を受け入れたエイミーが、そう言ってアクアに対し手を差し伸べる。すると直後に彼女は、さっきまでの恨めしそうな表情が一転、顔を綻ばせて返事を返した。
何がよろしくなんだか知らんけど、こっちもチョロいわ~ともあれ、これでさっきの悪態は、チャラって事でオッケーかな?
「さて、んじゃ今度こそ行きましょうか。」
「えぇ。」
「は~い!」
「ハイ!!」
みんなの返事が、しっかり返ってくるのを確認してから、今再び人波に立ち向かわんと自らから先陣切って歩き出す。あたしがオヒメの手を引いて、エイミーがアクアの手を引いて、離ればなれにならないよう気を付けながら。
とはいえ余りの人の多さに、あたし達の歩みは遅々たるものだった。まぁ、クローウェルズで体験した、阿鼻叫喚する人々の押し寄せる波を掻き分けるよりかは、大分マシだけどね。
ともあれ、楽しい楽しい食べ歩きショッピングの幕開けです♪いい加減お腹も限界なので、一路最初目に付いた食べ物屋台へLet'sらゴー!
「良い匂いだね~」
「うん、そうね。」
その屋台に近づくにつれて、やがてほのかに甘い香りが鼻腔をくすぐる。手を引くオヒメにそう言われ振り返ると、目を瞑って鼻を突き出しこれ見よがしに匂いを嗅ぐ姿が、目に飛び込んできて思わず苦笑を浮かべた。
ともあれ、どうやらこれから向かうお店は、デザート系を扱うお店のようだ。空腹でいきなり甘い物って言うのも、なんだか身体に悪い気がするけれど、この人混みでここから方向転換ってのもなかなか難しい。
それに今嗅いだ匂いの所為で、あたしのお腹は戦闘態勢待った無しだ。周囲の音に掻き消されてるから良いけど、さっきからお腹がグーグーキュルキュル鳴き放題で、乙女としての面目丸つぶれ状態ナウ!
なので、とにかくお腹になんか入れたい。トレーニング中心の生活で、普段甘い物食べないあたしだけれど、この期に及んで好き嫌いなんて言ってられない。
あ、でもガザ虫君だけはマジ勘弁!ソレしか食べるもん無いとか言われたら、あたし速攻地球へ帰るから!!
「すみませ~ん!」
「はいよ~」
程なく、目的の屋台に辿り着き、中に立つ店主のおじさんに声を掛ける。ちょうどそこでお店の中を確認する事ができ、売っている物が何なのかにようやく気が付き、思わずソレに目が行って黙り込んでしまった。
何これ、どら焼き?
何せそこで売られていた物が、余りにも見慣れた食べ物だったからだ。こんがりときつね色に焼かれた、分厚い生地が2枚重なり合って、間に何かが挟まっているのだろう、真ん中がこんもり盛り上がっている。
the和風の素朴なその見た目、決して見間違う筈も無い。紛れもなくそれは、日本に古くから伝わる、伝統的和スィーツ!『どぉ~らぁ~やぁ~きぃ~(本日2度目のご登場)』
「…どうしたい?」
「あ、いえ。すいません。」
予想だにしていなかったその食べ物を前にして、思わず黙りこくっていると、それを不審に思った店のおっちゃんに声を掛けられ我に返った。けれど視線は、未だどら焼きっぽいソレに釘付けのままだ。
「優姫?どうかしたんですか?」
「エイミーこれって…」
「え?っと…」
遅れてやって来たエイミーに、店で売られている物を指差し呟く。しかし、どうやらエイミーも始め見る物だったらしく、何やら視線を彷徨わせお店に書かれている文字に目を向ける。
「ド…ラヤキと、言う食べ物のようですよ?」
「あ、名称そのままなんだ。」
暫くして、返ってきた言葉に何だかほっと一安心。これでてんで見当外れな名称だったら、例の未来型ロボの名称も、あたしん中で変えなきゃいけない所だった。
『怒羅○門』までが許せる範囲だかんね、あたしん中で。
「なんだあんた、異世界人なのに『ドラヤキ』知らないのかい?」
不意に、店のおっちゃんにそう言われ、思わず苦笑しながら肩を竦めてみせる。まぁ、目深にフード被ってるし口元も覆ってるから、おっちゃんには表情が見えないだろうけど。
「むしろ逆ですよ。それ、あたしの故郷のお菓子ですから。こっちの世界で、普通に売られてる事に驚いたんです。」
「そうなんですか?」
おっちゃんに向けて発したあたしの言葉を聞いて、そう問い掛けてきたエイミーに、顔を向け首肯して答える。
「そうかい。おまえさん、こっちに来てまだ日が浅いんかい?」
「えぇ。」
「ハッハッハッ!そうかそうか!!じゃぁビックリするのも当たり前だな!!」
あたしの答えを聞いて、快活に笑い声を上げる店のおっちゃん。その人当たりの良さは、なんだか下町の人って感じで好感が持てる。
「異世界人から教えて貰った料理ってのは、昔から普通に出回ってんだよ。奴さん達、故郷の味が恋しいみたいでよ?人気が出て定番になった料理ってのも、結構あるんだぜ?」
「へぇ~」
次いで聞かされたその説明に、思わず感嘆の声を漏らした。と同時に、もしかしたらラーメンやカレーとかも、こっちの世界で食べられるかもなんて、そんな事を考える。
あたし達にとって、お馴染みのそう言った食べ物が、異国所か異世界の地でも受け入れられているって思うと、何だか感慨深いわね。料理に国境は無いなんて、本当によく言った物だわ。
ってかそうよね。感心しておいてなんだけど、食文化の流入なんて地球でも昔っから散々あった事なんだし、当たり前と言えば当たり前の事か。
「私もこれは始めて見ました。最近出回ったのですか?」
「なんだ?エルフのお姉さんも知らなかったのかい?出回って大分経つし、そこそこ人気のメニューなんだがな…」
「そうなんですね。ここ100年ばかり、ダリアの奥地で過ごしていたのですが…」
「あぁ、じゃぁ知らなくても当然だよ。俺が『ドラヤキ』を扱う様に成ったのは去年からだが、始めて提供されてまだ5年位だからな。聖都の方じゃ流行ってきてるようだが、酒飲みドワーフ達のガイアじゃ全然だし、ダリアにはまだ渡ってさえいない筈だぜ。」
「そうなんですね。」
店のおっちゃんの言葉に、成る程と言った感じで頷くエイミー。なんか、聖都でも云々の件を聞いた辺りから、興味津々と言ったご様子。
まぁ、聖都ってエルフ達の国みたいだし、そこで流行りだしてるって聞いちゃ、ほっとけない気持ちになるのも仕方無いか。ってか、どら焼き登場したのって意外と最近なのね。
「んで、どうするんだ?買ってくれるってんなら、安くしとくぜ。」
「良いんですか?」
「おうよ!エルフのお姉さんは勿論、異世界人のお姉さんも、こっちの『ドラヤキ』は初めてなんだろう?なら是非食ってくれって!味は保証するからさ!!」
そう言っておっちゃんは、ぐっと親指立てつつ白い歯を前面に押し出し、片目バチコーン☆してのサムズアップポーズ。こういうノリ良いなぁ~
「あたしは勿論そのつもりだったけど、みんなはどう?」
「えぇ、私も食べてみたいです。」
「姫華も!!」
「私も私も!」
振り向きざまにあたしが聞くと、即座に返事が返ってくる。その返事を受け、再び顔をお店へと向けると…
「はいよ!毎度あり!!」
あ、その掛け声って異世界でも使われてんだ。
まぁそんな事はどうでも良いとして、お店に陳列されてるどら焼きへと視線を向ける。それらは全て、透明なケースに収められており、そのケース自体は全部で5つ在る。
それぞれのケースには、食札のような物が張られており、そこに書かれている文字はどれもバラバラの様に見える。多分と言うか絶対、どら焼きの中に入ってる餡が違うんだろう。
うん、読めにゃい。しゃ~ないな~
「え~っと、これ中に何が入ってるんですか?」
どら焼きの入ったケースを指差し、お店のおっちゃんへと尋ねてみる。すると、何故だかきょとんとした表情で、逆に見返されてしまった。
「なんだいお姉さん、文字読めないのかい?」
「え?えぇ。」
おっちゃんにそう問われ、今度はあたしがきょとんとして生返事を返す。はて?
「すみません。少し事情がありまして、彼女まだ学校に通っていないんですよ。」
「なんだ!そうだったんかい!!」
そこへすかさず、エイミーが割って入り事情を説明。そこでようやく、おっちゃんがなんできょとんとしていたのか、あたしにも理解出来た。
そうだったそうだった。あたし達異世界人がこっちの世界に残るとなったら、まず何を置いても最初に学校通わされて、最低限こっちでの生活に困らないよう文字と数字習うんだった。
しかも冒険者希望なら、ある程度の戦闘訓練や実地演習、更には中級魔術さえ教えてくれるってんだから、剣と魔法に憧れちゃってる中二病拗らせちゃった人にとって、こんなありがたい話無いわよ。しかもそれがプライスレスってんだからね。
まぁ、勿論こっちの世界に利があるからこそ、そうした制度があるんだけど、それを差し引いたって凄い事に変わりない。お金で買えない価値を、あたし達のどの辺に見出してんのかって、話に目を瞑ればだけど。
ってか改めて考えると、あたしの難易度設定ぶっ壊れてね?こっち来てまず学校通って、ある程度お膳立てしてから、異世界冒険譚始める人達居る一方で、山賊とチャンバラしたり精霊王と喧嘩したりしてんですけど…
そう思うと途端に納得いかないわね…責任者よ、出てこいやっ!!(野太い声で
「じゃぁ仕方ねぇな。いいか?右から――」
エイミーの話に納得したらしいおっちゃんが、どら焼き入ったケースを指差し口を開く。途端に、今し方まで考えていた事を、明後日の方向にソイヤッ!と背負い投げして、聞く姿勢となった現金なあたしが通ります。
「――豆を砂糖で煮た物、それを裏漉しした物、こいつがチョコ、んでお次がカスタード。」
「ふむふむ。割とお馴染みの餡ばかりなんだ。」
元の世界でも、どら焼きの中身として定番のラインナップに素直に感心する。ただまぁ、折角の異世界なんだし、もっとオリジナリティ出しても良いとも思うけど。
ただ、粒あんこしあんの再現はナイスだ!やっぱどら焼きと言えば、あんこじゃ無いとねぇ~
因みにあたしはこしあん派!
「んでこの最後が、ガザむ…」
「あ、もう結構です。」
いよいよ最後のケースとなった所で、おっちゃんの言葉を途中で遮りピシャリと一言。あー、あー、それ以上は聞きたくないし、想像もしたくない。
オリジナリティ出した方が良いって、さっき思ったばっかりだけど取り消します!一番使っちゃいかん食材で、一番やっちゃいかんオリジナリティだからそれ…
「やっぱお姉さんも苦手かい。大概みんな苦手だって言うんだよなぁ~」
そんなあたしの様子を見て、さも可笑しそうにそう呟くおっちゃん。
「けど、一番人気なんだぜ?」
「え、マジ?」
おっちゃんの言葉を聞いて、絶句して驚きながら問題のケースを見てみると、確かに他のケースに比べて中身の減り具合が激しいようだ。更に食札には、他の食札よりも記入されている文字数が多いようだった。
『オススメ!!』だとか『一番人気!!』だとか、きっとそんな事が書かれてるんだろう。ってかガザ虫君、スィーツの分野にまでしれっと入り込んでくるって、マジか…
「どうだい?物は試しだ!形が解らなくなるまですり潰してるし、砂糖もガンガン使って甘くなってるから、苦手な人でもいけると思うぜ!!」(再びのサムズアップポーズ
「結構ですってば!!想像しちゃうからほんと止めて!!」
いくらそのノリ好きでも、全力でお断りしたい。あたしに買わせる気あんのか?このおっちゃん…