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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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子連れJK異世界旅~YOUは何しに異世界へ?~(3)

「まず最初に確認じゃが、この街で旅支度を調えたら、すぐ出発で良いんじゃろ?」

「えぇ、そのつもりです。」

「先にルアナに向かった仲間達が、ここを発ってからまだそんなに日数も経っていない筈ですし、今から車で急げばきっと、ミッドガルで合流出来ると思うんです。」

「ミッドガルか…確かに。馬を使い潰すつもりで走らせて、最低3日は掛かるからの。」

「はい。人目を気にせず真っ直ぐ街道沿いを走れば、恐らく2日で着くと思います。」

「ふむ。しかし良いのか?そんな事をすれば、流石に悪目立ちすると思うが。」


 エイミーの言葉を聞いて、納得したように頷いた彼女は、しかしすぐにそう指摘してくる。確かにその通りだけど、勿論それについてちゃんと考えている。


「えぇ。なので街道沿いを走って距離を稼ぐのは、夜から明け方に掛けての、人通りの少ない時間帯にしようかなと。」

「夜道か。大丈夫かえ?」

「まぁ深い森の中や険しい山の中を走る訳でも無いですし、あたしとアクアとオヒメで運転を交代して、ちょこちょここまめに休めば平気かなと。」


 訝しがる明陽さんにそう答えた所で、横からトントン肩を叩かれ、エイミーの方へと肩越しに振り返る。


「優姫、私も運転を覚えますから、その中に加えて下さい。」

「ん、わっかったわエイミー。」


 振り向きざまに、真面目な表情をした彼女にそう言われ、1も2も無く頷くあたし。いやだって、断れるような雰囲気じゃ無かったんだもの…


「御主等がそれで良いなら、まぁ儂等は構わんよ。今朝乗せてもろうた感じじゃと、多少の悪路でも気にせず眠れそうじゃしな。」


 そんなあたし達のやり取りを余所に、我関せずと暢気な感じで口を開いた明陽さん。こっちはこっちで、まぁ予想通りの反応だから良いけどさ。


「では、ひとまずその方針で、ミッドガルに向かうとするかのぉ。」

「えぇ、そうですね。」

「異議無し。」


 次いで発せられた明陽さんの一言に、エイミーがニコリと笑って頷いて、あたしも手を上げ賛同する。とりあえず移動の件はこれで良いとして、次は――


 ――ぐぅ~…


「ッ…」


 そこまで考えた直後、まるで計ったかのように、あたしの意識と関係なく本能が空腹を訴え、思わず赤面しながら慌ててお腹を押さえ付ける。自覚はしていたけど、もうちょっと辛抱出来無いものかしらね?


 お腹を押さえ付けたまま、視線だけでみんなの様子を伺えば、その場に居る全員含み笑いでこちらを見ていた。なんだよぉ~生理現象なんだし、しょうが無いじゃんかよぉ~


「このまま立ち話も何ですし、何処かお店に入りますか?」


 あたし以外の全員がニヤニヤして沈黙する中、助け船を出し沈黙を破ったのはエイミーだった。あたしが、気恥ずかしさから黙りこくっているのを見かねて、そう提案してくれたんだろう。


 流石あたしのパートナー、頼りになるわ。鬼の首取った!みたいに、良い顔して笑ってる明陽さんとは大違いだわ。


「あたしは、勿論エイミーに賛成。流石にこれ以上待たせたら、お腹の虫が大合唱しそうだし。」

「私もそれで構いませんよ!ここの名物って何ですかね?ママ喜んでくれるかなぁ~」


 自分が元でこの流れになったんだし、問答無用でその提案に賛同する。すると横から、今の今まで会話に入ってこなかったアクアが、待ってましたとばかりに声を上げる。


 食べ物の事に成ると急にこうなんだから、ほんと現金よね~ウィンディーネに届ける気満々だし、少しは悪びれなさいってのよ。


「何々!?ご飯のお話?」


 そんな事を考えながらジト目でアクアを見ていると、それまで離れた場所から下の様子を観察していたオヒメが、急に元気な声を上げバタバタ忙しなく駆け寄ってやって来る。こっちもこっちで、都合の良い耳してんなぁ~


「明陽さん達もそれで良いですか?」


 オヒメが傍までやって来るのを待ってから、振り向きざまにそう問い掛ける。別に場所を変えるだけだし特に問題も無いだろうと思いきや、話を振られた明陽さんは、何故か少し考え込む動作を見せていた。


「…儂等は遠慮しとくかのぉ。」

「え?」

「えーっ!?おばあちゃん達一緒にご飯しないの!?」


 やがて返ってきた予想外な答えに、思わず驚いて声を漏らすあたしと、不満そうなオヒメの声とが重なりあう。あたし達の反応に、明陽さんは勿論譲羽さんも酷く残念そうだった。


「なんでなんで!?」


 不満そうな声を上げた直後、オヒメは2人に向かって勢いよく駆け寄ると、掴み掛からんばかりの勢いで詰め寄っていく。


「こらオヒメ、あんま明陽さん達困らせるんじゃ無いわよ。」

「ママ、うぅ~…」

「すまんな姫華。」


 そんなオヒメの肩を慌てて掴まえて、困り顔の2人から引き剥がして窘めると、そこでようやく大人しくなった。まったく、この2人をここまで困らせるなんて、世界広しと言えどこの子位なんじゃ無いかしらね?


 ともあれ、恨めしそうな声を上げるオヒメから、困り顔して苦笑する明陽さんへと視線を移した。


「けど、何かあるんですか?」

「別に何という訳でも無いんじゃがな。ほれ、先程キサラ殿と儂が話とったろう?」

「あぁ、ギルドへの報告ですか?」

「そうじゃ。ベファゴの件やら何やら色々報告せねばならんでな。それなりに時間も掛かるじゃろうし、今日中にこの街を出立するなら今から向かわんのぉ~全く、忙しくて疲れるわい。」


 そう言って明陽さんは、苦笑交じりに肩を叩いて、態とらしく老人度をアピールする。見た目幼女が、んな事してもただの嫌味にしか成んないんじゃない?


 けど、言われてみたら確かに、ギルドへの報告なんかもしないといけないわよね。ってか、そう言えばカタンのギルドって、食事出来るスペース在ったわよね…


「…ここのギルドって、食事できる?」

「えぇ。大体何処のギルドも、酒場が併設されていますから。」


 ふと思い返して浮かび上がったあたしの問い掛けに、エイミーがすぐに反応して答えてくれる。どうやら、冒険者とお酒って組み合わせは、ラノベなんかの通りらしい。


「じゃぁ、ギルドに移動します?」

「私はそれでも構いませんよ。どうせ私も、ギルドに立ち寄ってシフォンの書き置きが無いか、確認しようと思っていましたし。」


 エイミーに対しそう提案した所、すぐに良い返事が返ってくる。ならそれで決定かな、と思いきや…


「儂等は構わんが…ハッキリ言ってギルド併設の酒場は、酔って馬鹿になっとる舌で食べて、それでようやく普通じゃからの?」


 歯に衣着せぬ物言いで、あっけらかんとそんな事を口にして、折角決まりかけてたあたし達の心に、警告文を叩き付けてくる。確かに、お酒を提供する場所なんだから、それ込みでちょうど良くなる料理が出てくるのも納得だ。


 けど言い方…んな事言われたら、お酒飲まない人の行く気が削がれるじゃない。


 立派な営業妨害だかんね?なんでそんなテンション下がる事、しれっと言うかなこの人…


「それに、先に進んだ仲間を急いで追うなら、ここは別れて分担した方が良くないかえ?儂等がギルドに報告しに行くついでに、エルフ殿宛てに言付けが無いか確認してくるでな。その間に御主等で旅支度を済ませてしまえば、合流してすぐ出発出来るじゃろう?」

「それはまぁ…そうですね。」


 次いで聞かされた彼女の言い分に納得した後、エイミーの考えを聞こうと思い、視線をそちらへと向ける。その視線に気が付いた彼女は、直ぐさまあたしに対し微笑みながら首肯する。


 どうやら、あたしの判断に任せるらしい。さてどうしたものかしらね…


「…確かに、その方が効率的ですよね。解りました、じゃぁここからは別行動にしましょう。」

「うむ。その方が手間も省けて良いじゃろう。」


 暫く考えた末、あたしが出した結論を聞くや明陽さんと譲羽さんは、フードを目深に被ってあたし達に背を向ける。


「合流は、この街の外でも良いかの?」

「え?えぇ。」

「ではこの街の正門を出て、すぐ右手に林があるでな。そこなら御主が眷属()を召喚しても、人目に付かじゃろうからそこで落ち合うとしよう。」

「解りました。あたし達が先に着くようなら、すぐ出発出来るようにしておきますね。」

「うむ。ではまた後での。」ダンッ!!


 そう言い終わるや2人は、床を蹴って飛び上がると、建物伝いに移動を開始する。ピョンピョン跳びはねて、あっという間に小さくなった2人の背中を見送った後、何とはなしにオヒメへと視線を向けて苦笑する。


「そんなしょげた顔しないでよ。これでお別れって訳じゃないんだから。」

「うん…」


 未だ2人の去った方向を、寂しそうに見つめるオヒメの頭に、ポンと手を置きながら語りかける。返事を返した直後は、らしくなく意気消沈していたオヒメだけど、暫くしてようやく納得したのか、あたし達へと向き直ってくる。


「よし。そんじゃあたし達も移動しましょうか。」

「えぇ。」

「はい!」


 オヒメが向き直ってくると同時、早速そう話を切り出し先陣切って歩き出した。ひとまず明陽さん達と同じように、建物伝いに移動しながら、人通りの少ない場所を見つけて下へと飛び降りる。


 そこは建物と建物の隙間に出来た、光さえ差し込まない程狭い通路だった。通路の両側が凄い人通りなのが、ここからでも見て取れる。


「どっち行く?」

「どちらに進んでも余り大差無い筈ですから、お任せします。」

「そう?んじゃこっち行ってみましょう。」


 そう言って、適当に選んだ方へと歩き出した。


「凄い賑わいね…」


 程なく、通路の出口に差し掛かり、そこから見える人混みの多さにビックリする。さほど広くも無い通りに露店がひしめき合い、その間を隙間無く人が行き交っている。


 何かお祭りでもあるんじゃ無いかと、そう思うような人の多さだ。どっちに進んでも大差無いって言ってたけど、向こうもこんな感じなんだろうか?


 だとしたら、帝都の市場以上の賑わいね。これは進むのも大変そうね…


「カントは、ライン大陸の中でも特に大きい、物流の拠点ですからね。ダリアの帝都とルアナの軍国を繋ぐ最短のルートですし、聖都と地底大国にも行き来しやすいので、必然的に物が集まるんですよ。」

「成る程、物流の大動脈って訳か。ならこの人混みも納得だわねぇ~」


 エイミーの説明を聞いて、納得しながら思わず感嘆の声を漏らした。所謂天下の台所って、こんな街の事を言うんだろう。


 ともあれ、何時までも感心してても仕方無い。押し合いへし合いみたいな人波を掻き分ける覚悟を決め、いざ商店建ち並ぶその通りの中へと、あたし達は足を踏み入れた。


「それでは、まず先に食堂を探しますか?」


 人混みを掻き分け歩き出してすぐ、エイミーにそう問われて肩越しに振り返った。元々そのつもりだったし、それでも良いんだけど、うぅ~ん…


「…まだお昼時だし、ここまで人混みが凄いとなると、食堂の混み具合も凄そうね。」

「まぁそうでしょうね。空いてるお店が、都合良く見つかれば良いんですけれど…」

「そうよね~…」


 エイミーの返事に相槌を打って、周囲に視線を向けたちょうどその時、視界に食べ物系の露店が飛び込んでくる。食べ物屋と解った途端、兎にも角にも何かお腹に入れたい衝動に駆られた辺り、そろそろお腹と背中がくっつきそうだ。


 それに、さして並んでる様子も無いし、ガザ虫くんじゃ無きゃもう何でも良いわ。


「時間短縮にも成るし、買い食いしながらお店見て回る?」

「えぇ、勿論構いませんよ。」

「姫華もそれで良いよ!」


 見つけた屋台を指差しながら確認すると、直ぐさまエイミーとオヒメが反応する。


 って、あれ?


「アクアは?」

「えっ!?」


 確認の為振り向いた先に、ちゃんと着いてきていると思っていた、アクアの姿がそこに無かった。あたしが声に出して、ようやく気が付いたらしいエイミーが、慌てて振り返った直後――


「アバババババッ!ま、待って下さい~!!」


 ――逆走する人波に、見事捕まったらしいアクアが、あたし達から離れた遙か後方で、ブンブン手を振り大声を上げる情けない姿を発見。何だろう、この気のせいじゃ無い既視感…


 今日2回目じゃん。学習しないな、あの子…

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