間章・「フハハハハッ!再び吾輩のターn――」ステイ!ステイハウス!!「…(´・ω・` )」(2)
「やっぱそうなんデスね。」
「何故そう思う?」
その反応を見て、不機嫌そうな表情はそのままに、何処か納得した様子のキサラが独りごちた。そこへ、変わらず意味深な笑みを浮かべた明陽が問い掛ける。
その問い掛けを受けてキサラが、キッと鋭い眼差しで彼女を睨み付けた。
「あんま、私の『眼』を侮るんじゃねぇ~デスよ。エイミーさんの手前黙ってたデスが、あの異世界人の子と、エイミーさんが同じ魔力を共有してるデス。スメラギさん、ソレについて何か知ってるデスよね?」
確信に満ちた瞳で真っ直ぐに明陽を見据え、静かに凄みを効かせた声音でキサラが告げる。
「それだけじゃねぇ~デス。あの人達と一緒に居た、あの赤髪の精霊は何なんですか?火と風の力を併せ持った精霊だなんて、見た事も聞いた事もねぇ~デスよ。」
間髪入れずキサラが、詰め寄りそうな勢いで捲し立てる。だというのに、しっかり周囲を気にして声のトーンを抑えている辺り、誰彼構わず聞かせて良いような内容で無いと、瞬時に判断したのだろう。
それを目聡い明陽は、しっかりと見て取ったのだろう。キサラの様子を見て彼女は、口元を更に大きく広げ、浮かべていた笑みの彫りを深めた。
「流石は聡明なキサラ殿じゃな。それが先に聞きたかった質問かのぉ?」
「デスよ。おべっかなんて要らねぇ~デスから、とっととこっちの質問に答えろやデスよ。」
彼女の態度が気に入らなかったのか、聞くや否やムッとした表情でキサラが告げる。それに対し明陽は、それまで浮かべていた笑みを苦笑に変えて、肩を竦めてため息を吐いて応じた。
しかしそのやり取りの後、一拍置いたキサラが表情を引き締めると、空気を読んで彼女の居住まいも正される。
「…あの異世界人の子は、一体何者ですか?」
「あの娘、優姫は…」
そうして問い掛けられたキサラの質問に、明陽が真面目に答えようとした直後――
「スメラギ嬢とユズリハ嬢の血縁者であろう?」
――…今まで尻尾迄丸めて小さくなっていたレオンが、いつの間にか復活して、懲りもせずまた横から割り込んでくる。直後、会話をしていた2人が押し黙ったかと思うと、次の瞬間殺意の籠もった視線を彼へと向けた。
「ぬ、ぬぅ…本気で怒らせてしまったようなのである…」
…当たり前だよ。いい加減懲りろよ…
「ちょっと場を和ませようとしただけなのである!!」
「要らねぇ~デスよ、そんな気遣い…」
「儂等言うたよな?黙っとれと…言い付けも守れん駄犬めが…」
「もう息すんじゃねぇ~デスよ。ってか、バインドで雁字搦めにして、海の底に沈めたろか?デス。」
「それじゃすぐに拘束解くじゃろうから、儂の刀で腕と足を縫い合わそうかのぉ。」
そう言う2人の目はマジだった。
「わ、解ったのである!ならもう会話に参加せぬから、吾輩も船室で待機してるのである!!」
そう言った直後、彼女達の目に宿っていた殺意は消えたが、その変わりにまるで汚物でも見るような瞳で彼を睥睨する女性陣。
「何言っとんじゃ。」
「それこそ駄目に決まってるデスよ。」
「何と!?何故であるか!!」
そう口に出して聞いた瞬間、2人同時にキッと鋭い眼差しとなり、険しい表情を彼へと向ける。
「わからんか戯けが!女ばかりの空間に貴様放り込める訳無かろうが、このスケコマシが!!」
「何と!!」
「デス!ましてや純真な精霊さん方が居るデスよ!?彼女達に変な影響与えたら、精霊王さん方がガチギレしかねねぇ~んデスから、おめぇ~はここで大人しくしてろやデス!!」
「酷いのである!!言い掛かりにも程があるのである!!」
「うるさいわい!良いから儂等の目の届く所に座っとれ!!お座り!!」
「横暴である!!撤回を要求するのである!!」
「いっちょ前に権利主張してんじゃねぇ~デスよ、良いからステイ!ステイ!!」
「流石にあからさまな犬扱いはしないで欲しいのである!!」
そう叫びながらも、しっかり四つん這いで座るレオンなのだった。
「してないのである!?捏造しないで欲しいのであるぞ天の声殿!!」
某情報番組のナレーションの人みたいな呼び方しないで頂きたい。
「何処に向かって喋っとんじゃ彼奴は?」
「知らねぇ~デスってば。なんか幻覚でも見えてるんじゃねぇ~デスか?」
そう言ってキサラは、軽くため息を吐いた後、明陽へと視線を戻した。
「いい加減話を戻すデスよ。んで結局、この馬鹿が言っていた事は本当なんデスか?」
「あぁ、そうじゃよ。あの娘は、向こうで儂等と同じ一族の出じゃ。ったく、この犬っころは…一体どうやってそれを知り得たんじゃ…」
「フハハハハッ!」
キサラの問い掛けに対し、彼女に向き直った明陽が、やれやれと言った雰囲気で答える。直後、ジロリと横目でレオンを睨み付けると、何故だかふんぞり返って高らかに笑い出したのだった。
それに反応したら負けだと解っているのだろう。2人共レオンからプイッと顔を背け、完無視する事にしたらしい。
「そんな人が、何でこっちに居るデス?偶然って訳じゃねぇ~デスよね。」
「それに関しては、今は言えぬ。」
「今は?何故デスか。」
「広まると、大問題になりかねん案件じゃからじゃ。御主等の事を信用しとらん訳では無いが、詳しい事を儂の口から喋る訳にもいかんのよ。」
明陽の言葉を聞いた途端、キサラの眉間に深い皺が刻まれる。
「それは暗に、守護者である私ら相手に、圧力を掛けられる人物が関わってるって事デスか?」
「さぁ、どうじゃろうのぉ?」
次いでキサラが口を突いたのは、半ば確信めいた問い掛けだった。その問いに対し明陽は、さも愉しげに意地の悪そうな笑みを浮かべ惚けて見せる。
「デスか。解ったデス。」
その明陽の態度を前に、またぞろキサラが食って掛かるかと思いきや、何故かアッサリ引き下がった。それもその筈、一見惚けてはいるものの、彼女が浮かべたその表情が、如実に『その通りだ』と告げていたからだ。
そしてそれだけではなく、簡単に首肯も出来無い様な相手が関与して居ると言う事さえ、明陽の思わせ振りな態度から、キサラは正確に読み取ったのだ。世界の守護を担う程の彼女達に、それ程の圧力を掛けられる人物となると、この世界に5人と居ないだろう。
「確認デス。」
「ん?なんじゃ。」
「同じ理由で、あの2属性持ちの精霊さんの事も内緒ですか?」
その問い掛けに明陽は、口の端を大きくつり上げ愉しそうに嗤う。キサラが、態々枕にそう付けて問い掛けたと言う事は――
「――そうじゃ。」
「…解ったデス。ならこの件に関しては、もう聞かねぇ~デスよ。」
「そうしてくれると、儂も助かるのぉ~」
ため息交じりにキサラがそう言った直後、それまで見せていた意味深な態度を急に引っ込めた明陽が、突然ニコニコ顔となり彼女に語りかける。すると一瞬で苦虫を噛みつぶしたような表情となったキサラが、これ見よがしに舌打ちを打った。
「態とらしいデスね。私を試すような事しといて…生意気デス!」
「はて?何の事じゃかわからんのぉ~」
「白々しいデスね、スメラギさんのそういうとこ、ほんと嫌いデス。」
あからさまに惚ける明陽に対し、面と向かってそう言った後、拗ねたようにプイッと顔を背けるキサラ。それを見た彼女は、さも可笑しそうにクツクツと笑う。
「…まぁ、今打ち明けられぬ話は、ひとまず置いとくとしてじゃ。儂の頼み事の件、引き受けてくれるかのぉ?」
一頻り笑い終わった頃、仕切り直しとばかりに明陽が、結局結論が保留となっていたその話題を、改めて2人に持ち掛ける。
「吾輩は、無論構わないのである故、キサラ嬢次第であるな。」
直後にレオンがそう答えると、自ずと2人の視線がキサラへと向けられる。その視線を受けて彼女は、何やら険しい表情を浮かべ考え始める。
「そうですね…受けてやっても良いデス。」
暫くの沈黙の後、考えが纏まったらしいキサラが、徐に重たい口を開いてそう告げる。そして――
「本当であるか!?」
「何で御主が真っ先に声上げて喜ぶんじゃい…」
――その言葉に真っ先に食い付いたのは、話を持ちかけた人物では無くレオンだった。遅れて本来喜ぶべきだろう明陽が、彼を半眼で睨みながら呆れたように呟いた。
本当に、どんだけ金に困っているのだろうか…
「金は天下の回り物であるからな!在って困る事など無いのである!!」
「誰もそんな事、聞いとらんわい…」
いちいちこちらに反応しなくて良いですから…
「ただ、1つハッキリさせろやデス。」
「ん?」
レオンのふざけた言動に、まるで取り合わなかったキサラが呟やいた。
「スメラギさん達は、私らが代理を務めてる間、何処で何をするつもりですか?」
「何じゃ、またその質問かえ?」
「私らが知っておく必要は、十分にあると思うデスがね?仮にも守護者としての任務を、一時とは言え放棄するってんデスから。」
真剣な表情で彼女にそう言われ、いよいよ観念したらしい明陽は、苦笑交じりにため息を吐いた。そして…
「…ルアナに向かう。」
「ルアナに…?何をしにデスか。」
「あの娘が――」
「奴隷として連れ去られた異世界人を助けに行くのである!」
「――じゃ。」
なんかもう色々受け入れたらしい明陽が、横から割り込んできたレオンの言葉を、眉間をピクピクさせながら引き継いだ。
「それでスメラギさん達迄、一緒に向かうってんですか?」
「そうじゃ。さっきのやり取りで察したんなら、あの娘の重要性も解る筈じゃろう?」
「それは…まぁそうですが…」
「ま、それを抜きにしてもじゃ。初めて会った親類とは言え、縁者の娘が未知の世界で頑張ろうとしておるんじゃ。多少手助けして肩を持つ位の事、別に構わんではないか。」
「スメラギさんって、意外と身内に甘いデスね。」
「ほっとけ。それに譲羽がどうしても着いて行くと、珍しく自分から言ってきてのぉ~」
「ふぅ~ん、あのユズリハさんがデスか…」
そう呟いて彼女は、先程顔面をつかまれた事でも思い出したのか、急に青ざめた表情でぶるりと震える。けれどそれも一瞬、直ぐさま調子を取り戻すと、諦めた様子でため息を吐いた。
「解ったデスよ。ま、事情も事情のようデスし、私らも協力してやるデス。」
「そうか、すまんなキサラ殿。そう言ってもらえて助かるわい。」
素っ気ない態度をするキサラの返事を聞いた明陽が、珍しく素直に感謝の言葉を口にする。その反応が予想外だったのか、僅かに頬を染めながらフンと鼻を鳴らす彼女。
「…こんな時ばっか、しおらしくするんじゃね~デスよ。普段厚かましい癖して…」
照れたようにキサラがそう言った直後――
「おぉ、そうかの?では、厚かましい儂からもう1つお願いがあるんじゃがのぉ?」
――したり顔で底意地の悪い笑顔を浮かべた明陽が、不意にそう呟くと同時彼女に向かって一歩踏み出すと、逃がさない様にその手をがしりと掴まえる。その瞬間、キサラが青ざめた表情となったのは言うまでも無い。