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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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間章・「フハハハハッ!再び吾輩のターn――」ステイ!ステイハウス!!「…(´・ω・` )」(1)

 一方、そのまま船首に残った明陽達は――


「再び登場の吾輩である!!」キリリッ☆


 ………


「何やっとんじゃ?あの犬っころ…」

「知らねぇ~デスよ。なんか今日は、特に頭が残念なんデスよ、コイツ…」


 明陽とキサラの2人が、ここでは無いどこぞに目線を向けて仁王立ちする残念な人物を、呆れた表情で眺めている。しかし彼女達にとっては、彼のその珍妙にして奇っ怪なその言動は、さぞ手慣れたものなのだろう。


 一瞥くれただけで既に興味を失ったのか、互いに表情を引き締めて向かい合う。


「フハハハハッ!反応が冷たいのである!!」

「(無視)して、用件じゃがのぉ…」

「その前に、先に私の質問に答えて欲しいデスよ。」


 高笑いするレオンには目もくれず、早速本題に入ろうとする明陽だが、しかしキサラが鋭い眼差しでそれに待ったを掛ける。


「なんじゃ、藪から棒に…主等の落ち度で、儂等の手を煩わせておいて、大きく出るでは無いか?」


 急に言葉を遮られて露骨に不機嫌さを露わにした明陽は、怪訝そうに眉を顰めながらも、威圧するようにキサラを睨み付け問い掛けた。それに――


「申し訳ないのである!!全ては吾輩の不徳の致すとk――」

「レオンはちょっと黙ってるデス。」

「――うむ!」


 ――横から割り込んで来たレオンに、すかさずキサラがピシャリと一言。直ぐさま引っ込んだ彼に代わり、ため息を吐いてから明陽に向き直った。


「確かにその通りデスが、んなツンツントゲトゲした言い方、しなくても良いじゃねぇ~デスか。」


 威圧する様な明陽の態度に対し、しかし全く臆した様子も悪びれた様子も無く、所かヤレヤレと言った感じで肩を竦め反論する。そして、そこで一旦言葉を切った彼女は、未だ海にぽっかりと空いた穴の底に横たわる、変わり果てたベファゴを顎で指し示した。


「それに、今回アイツがいつもと違う行動を取った原因は、何処からか漂ってきた蟲人の気配の所為なんデスよ?」

「知っとるよ。昨日その蟲人共を相手にしたのは、儂等なんじゃからのぉ。」

「なんだ、じゃぁ話が早いデス。別に私らだって、好き好んで逃がした訳じゃねぇ~んデス。んなの、誰が予想出来るデスか?」


 だから自分達に責任が無いと、そう主張したいという訳では無いのだろう。取り繕うようにカッコ悪く言い訳するでも、開き直るでも無くただ事実として、堂々とした態度で事の顛末を説明するキサラ。


 そんなキサラの説明を聞いて尚、明陽は不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「予測出来ずとも、最悪の事態は想定して然るべきじゃろうが?大体…」


 そう言って、彼女が苦言を続けようとした、その直後――


「あいや全くその通りであるな!全ては吾輩の思慮のあs――」

「御主と喋っとると毒気全部抜けるから、ちと黙っとれ犬っころ。」

「――ワフッ!」


 ――再び横から割り込もうとしたレオンに、すかさず明陽がピシャリと一言。直ぐさま引っ込んだ彼は、嫌味のつもりか犬の鳴き真似で返事を返した。


「…もっと台詞が欲しいのである。」


 …あげないよ?


「なんとご無体な!?」

「…この犬っころ、誰と話とんじゃ?」

「…知らねぇ~デスよ、今日ずっとこんな調子なんデスから。マジきめぇ~デス…」


 再び残念な人を見る目でレオンを一瞥した2人は、直ぐさま話の続きをする為に睨み合った。そして睨み合う事数秒、2人共喋る為に口を開こうとはせず、最終的にお互い同時にため息を吐くのだった。


 どうやら明陽の言葉通り、レオンの珍妙な言動の所為で、2人共角を突き合わせる気が削がれたらしい。当人がこれを狙っていたとすれ――


「フハハハハッ!無論狙い通r――」

「「うるさい!黙っとれ(黙るデス)駄犬!!」」

「――クウン。」


 …自業自得だろうが、こっち見んな。


「…まぁ、済んだ事を態々蒸し返して、責任の在処を追及する気なんぞ無いわい。」


 彼の真意はさておき、彼の存在が緩衝材となり、周囲に善くも悪くも影響を与えるのは事実だ。明陽も完全に毒気を抜かれ、先程までの態度は何処へやら、穏やかな表情で改めて話を切り出した。


「デスか。私も責任逃れするつもりは無いデスよ。今回の件は、素直に私らの落ち度デスからね。スメラギさんの話が報酬の件だってんなら、私らは受け取りを放棄するデスよ。」


 キサラも同様、落ち着いた様子で淡々とそう答えると、ションボリ顔のレオンに視線を向ける。


「それで良いデスね?レオン。」

「むぅ…仕方無いのである。」


 彼女にそう聞かれ、ようやく会話の参加を許されたレオンがパッと顔を綻ばせる。しかし直ぐさま難しい表情となると、渋々と言った感じで頷いた。


 大家族一家の大黒柱である彼にとって、収入が無いと死活問題に繋がるのだから、その反応も仕方無い事だろう。なにせ彼が守護者を引き受けた一番の動機は、この世界を護りたいなんてご大層な物ではなく、ただ家族を養う為にお金が必要だったと言うだけなのだから。


「まぁ、確かに報酬の話もあるが、それとはまた別の話じゃよ。」

「別デスか?一体全体、私らに何の用デス。」


 それまで2人のやり取りを眺めていた明陽が、不意に肩を竦め苦笑しながら呟いた。その呟きを耳にしたキサラが、怪訝そうに眉を顰めながら、再び彼女へと視線を向けながら話の先を促す。


「何、ちと御主等に頼まれて欲しい事が在るんじゃよ。」

「頼み事…デスか?スメラギさんが私らに?」


 次いで聞かされた内容に、一瞬きょとんとして聞き返したキサラだったが、次の瞬間見る見る苦虫を噛み潰した様な表情へと変わっていった。その表情を前にした明陽は、呆れ顔でため息を吐いた。


「まだ詳しい事も言っとらん内に、んな嫌そうな顔せんでも良かろうが…」

「いや、だってぜってぇ~面倒事じゃねぇ~デスか、ソレ?」

「御主等とて、儂等に面倒な尻拭いの片棒を、こうして担いでやったでは無いか。」

「うぐ…」


 明陽にピシャリとそう言われ、言葉に詰まり後ずさるキサラ。それを前にして彼女は、軽く吐息を吐き出した後、表情を引き締め2人を静かに見据える。


「もしも儂等の頼みを聞き入れてくれるのなら、此度の一件儂等の報酬は無償で良い。」

「なんと!」

「はぁ?」


 真面目な口調で切り出されたその言葉に、真っ先に反応したのはレオンだった。遅れてキサラも唖然とした表情で驚いていたが、しかしすぐに表情を引き締めると、視線は油断なく明陽に固定したまま、海に浮かぶベファゴの尻尾を顎で指し示した。


「それは、あの尻尾の売り上げも放棄するってぇ~事デスか?」

「うむ、そうじゃ。」


 そしてキサラは、強めの口調で明陽に対し問い質す。すると間髪入れず、彼女の疑問に対する肯定の返事が返ってくる。


 1も2も無く、毅然とした態度で返事を返した明陽を前に、いまいちその思惑を推し量れずに居るらしいキサラは、困惑した様な表情を見せていた。


「なんで…」


 その真意を問い質そうと、キサラが口を開いたちょうどその時――


「無論引き受けるのである!!スメラギ嬢は太っ腹d…」

「おめぇ~ちょっと本当に黙ってろです。」


 ――またまた割り込んできたレオンに対し、すかさずキサラがピシャリと一言。けれども何度も繰り返した為か、はたまた一家の大黒柱としての責務か、すぐに引き下がろうとせずキサラに向き直る。


「ちょ、待って欲しいのであるキサラ嬢!吾輩の意見も聞いt――」

「おめぇ~ん家が子沢山で、食べ盛りばっかだから是が非でも引き受けたいって、そう言いたいんデスよね?」

「――う、うむ!正しくその通りである!!」

「だからって、内容も禄に聞かずに引き受けるって、脊髄反射レベルで返事返すんじゃねぇ~デスよこの駄犬。ちった~物を考えろやデス。」

「わ、ワフ…」


 1度は食い下がって反論したは良いものの、キサラにジロリと睨み付けられた上、ひたすら正論を聞かされてレオンは、あからさまに怯んだ様子でうっかり犬の泣き真似を口にした。


「な、ならば吾輩1人でスメラギ嬢の頼み事を引き受けるのである!それなら問題なかろう!?」


 1度は彼女の正論に怯んだものの、やはりお金が欲しいのだろう、再び強気で反論するレオン。そんな彼に対しキサラは、呆れた様子で深々とため息を吐いた。


「スメラギさんが、わざわざ私らに話があるって言ってるデスよ?おめぇ~1人で良いなら、最初っからおめぇ~にだけ話してるデスよ。」

「なんと!?」


 ヤレヤレと言った雰囲気で彼女にそう告げられて、その考えがまるで無かったのか、レオンが目を丸くして驚いた。その表情のまま、彼が明陽へと視線を向けると、その視線に気が付いた彼女が、キサラ同様呆れた様子でため息を吐いた。


「キサラ殿の言う通りじゃよ。御主1人に任せるという訳にも、流石にいかん案件じゃ。」

「なんと…」

「解ったらちと黙ってろやデス。」

「解ったのである…」


 明陽の言葉に、口をあんぐりと開いて愕然とするレオン。そこに畳み掛けるような、容赦のないキサラの一言を浴びせられた彼は、ソレが決め手となりシュンと尻尾まで丸めて小さくなったのだった。


「やれやれ、これでようやくまともに話が進むのぉ~」

「全くです。」


 でかい図体で小さく縮こまったレオンを、2人が苦笑しながら一瞥する。けれどそれも一瞬、すぐに表情を引き締めて、互いに向かい合って話を再開する。


「んでスメラギさん。私らに何をやらせたいんデスか?」

「何、そう難しい話でも無いわい。此度の一件の詫びも兼ねて、少し儂等の任務を手伝って欲しいだけじゃ。」

「スメラギさん達の任務デスか?」


 明陽のその申し出に、キサラが不思議そうに聞き返した後、考え込むような仕草を見せる。


「…確か、倒されたラシャメルのフェンリルに変わって、数ヶ月その地域一帯を防衛するって任務デスよね?」

「そうじゃ。」


 一旦間を置いた後、訝しがるキサラの口から吐いて出た、確認する様なその言葉に、明陽が真剣な表情で頷いて返した。


 明陽達がライン大陸を目指す理由――その発端は、数日前迄遡る。


 その日、ライン大陸のラシャメル地方の中央に広がる、ラシャメル草原にジェネラル級と目される蟲人と、その眷属が突如として現れた。それを迎え撃ったのは、元々その地域を守護していたフェンリルだった。


 元々ライン大陸でも、これまで何度となく小規模な蟲人の侵攻があった。しかし、その規模はルアナ大陸程では無く、激しくても精々複数の上位個体出現による、中規模な侵攻に過ぎなかった。


 フェンリルが守護していたラシャメル地方でも、これまで幾度となく蟲人の侵攻が在り、だからこそ守護獣としてフェンリルが配置されていた。そしてこれまでは、蟲人出現と同時にフェンリルが即座に駆けつけ、その侵攻を食い止めている間に周囲の国が軍を編成、迎撃にするで十分対応出来ていた。


 しかし数日前、規模こそ其処まででは無かったものの、突然の高位個体の出現で今まで通りとは、流石に無理があったのだ。激しい戦闘の末、出現したジェネラル級の攻撃により、フェンリルは戦闘不能となってしまった。


 その後、フェンリルを倒したジェネラル級も深手を負った為、それ以上の侵攻が行われる事が無かったのは幸いだ。とは言え、今まで出現しなかった場所に、高位蟲人が出現したと言う事実は、それだけで驚異に値する事だった。


 周辺各国は、直ぐさま防備を固める為に動いたが、それでフェンリルの抜けた穴を埋める事は出来無い。そこで急遽、魔神教・女神教の守護者達に支援を申し出たのであった。


 そのラシャメル地方の国々の要請を受けて、派遣された守護者達というのが、正義のスメラギと希望のユズリハだったと言う訳である。


「珍しいデスね?スメラギさん達が共闘だなんて。何か裏があるんじゃねぇ~デスか?」

「裏なんぞ無いわい。それに共闘っちゅ~か、暫く儂等の代理を努めて欲しいだけじゃよ。」

「あぁ。だから私らセットって訳デスか。」

「左様。フェンリルが戦えなくなり、周りの国々もピリピリしとるんじゃ。本音で言えば2~3組来て欲しいじゃろうに、1組所か1人っちゅ~訳にもいかんじゃろ。」

「ま、確かにその通りデスね。」


 その説明を聞き、納得した様子で頷きながら答えるキサラ。しかし次の瞬間には、再び眉を顰めて訝しがりながら明陽を見据えた。


「で?私らに代理をさせてる間、スメラギさん達は何するデスか?」

「何じゃ?答えんといかん事か?」

「答えらんねぇ~様な事をする気デスか?」


 キサラの問い掛けに、態とらしくきょとんとすっとぼけた風を装って明陽が答える。無論、彼女がそれで納得などする筈も無く、直ぐさま鋭い口調で問い質す。


 そんな彼女を前に明陽は、その問い掛けに対しすぐには答えず、その変わりと言わんばかりに、意味深な笑みを浮かべて返す。それが癪に障ったのだろう、見る見るキサラの表情が不機嫌な物へと変わり、苛立たしげに舌打ちを打った。


「…あの異世界人の子が原因ですか?」


 不機嫌さを前面に出したまま、不意に呟かれたキサラの一言。直後、明陽の眉がピクリと動いたのを、彼女は見逃さなかった。

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