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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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間章・大概後始末が1番面倒なのに、バックレる奴って結構居るよね(1)

 ――ドゴオオオォォォーーーッ!!


「――ッ!!」


 目を開けていられない程の目映い閃光が、辺り一帯を包み込んだ次の瞬間、自分の発した悲鳴じみた声さえ掻き消し、聞こえなくなる程の轟音が轟いた。肌に触れる空気が、一瞬で高温に達した事からも、爆発の凄まじさを物語っている。


 にも関わらず、船が今もこうして無事で、その光景を手で顔を覆いつつも、薄目を開けて確認して居られるのは、爆発が起きるほんの少し前に、突然飛来した魔術師風の女性が張った、七色に煌めく結界のお陰だ。その彼女は今も、あたし達に背を向けながら、星と月が象られた杖を掲げている。


 黒い煌びやかなローブに身を包んだ、暗褐色の肌に銀髪の女性で、その右側の額には長く鋭い角が生えている。その特徴的な姿は、聞き及んでいた魔人族のそれだけど、思わず元の世界で言う邪悪な鬼を連想してしまう。


 邪悪とは程遠い彼女の整った顔立ちは、けれど何処か眠たげで、いまいち覇気が感じられない。しかしそんな覇気の無さとは裏腹に、彼女の張った結界からは、見た目で判断するなと言いたげな力強さがあった。


 尚も結界を張り続ける最中、次第に爆音が余韻を残し遠のいていく。それに伴って眩い閃光も、段々とその光量も収まっていった。


「…ッ!?な――」


 そしてようやく、まともに目を開けられるようになり、状況を確認しようと、目の前に広がる光景を見つめて、思わず息を呑んで絶句した。眩い閃光が瞬いた前と後では、見える風景が完全に一変していたからだ。


 どの位風景が変わっていたのか端的に説明すると、目の前の海にぽっかりと、巨大な穴が出現していたのだ。余りに衝撃的な光景に、どうなっているのか確認しようと、海に開いた穴の外周に視線を向ける。


 するとどうやら、飛来した魔術師が張った結界は、ベファゴを閉じ込めるよう円形に張られていたらしい。船を護るように立ちはだかった七色の壁が、穴の外周を覆うように繋がっていた。


 その内側の海水が、先程の爆発で大量に蒸発したのだろう。穴の下に目を向けると、普段決して日の目に晒される事が、決して無いだろう剥き出しとなった海底に、あの巨大なベファゴが力無く横たわっている。


 そうなってようやく、その巨大な全貌をはっきり観察する事が出来る。卵形の胴体の下には、陸上でもしっかり移動出来そうな、ヒレが進化したような足が左右に2枚づつ確認出来た。


 あたしはてっきり、ツチノコみたいに蛇の胴体部分が膨らんで、そんで尻尾が8本に割れてるのかなって、勝手に想像してたんだけど違うみたい。首長竜のプレシオサウルスって言った方が、しっくりきそうな外観だ。


 胴体下半分から伸びた、8本の尻尾――内6本は半ばから切れているけれど――は、あれだけ激しく動き回っていたのが嘘のように、今はピクリとも動きそうに無い。そして肝心の頭は、長く伸びた首の先がもげたように消失していて、確認出来なくなっていた。


 一見して巨大生物の屍に見えないけれど、胴体がゆっくり上下している事から、それがまだしっかり生きている事を示唆していた。前もって聞いていた事とは言え、それでも目を疑いたくなる光景だった。


「全く、馬鹿げた威力じゃのぉ?」


 未だ驚きに目を丸くして、あたしがその惨状を確認していると、不意に横から明陽さんが前に進み出て、未だ結界を張る彼女に向かって語りかける。その言葉を受け魔人族の女性は、眠たげな表情をそのままに、肩越しに振り返りこちらを一瞥してくる。


「私が防げるって時点で、大した事ねぇ~デスよ。まぁ、単体火力じゃ最高峰だと思うデスけど。」

「ハッ!大きく出たでは無いか、キサラ殿。そんな風に言うのなら、最初っから全力出して対処せいよ。」

「そ、それはレオンに言うデスよ!あの馬鹿犬が、じゃれてた所為でこんな事に成ったデスからね。」

「よく言うわい。どうせ御主の事じゃ、あの犬っころに全部任せて、自分はウトウトしとったんじゃろ?」

「み、見てきた見てーな言い方するなデス!!」

「そこに居なくとも、普段の御主見とれば解るわい。」


 急に始まった、遠慮の無いやり取りや会話の内容から想像するに、そのキサラと呼ばれた女性は、明陽さん達と同じく14人居る守護者の1人と見て間違い無いだろう。そして彼女と共に現れ、ベファゴをあんな無残な姿にした、閃光の中に消えた毛むくじゃらの獣人の人も――


「――お久しぶりですね、キサラさん。」


 あの出来事を1人思い返していると、明陽さんに続いてエイミーが、キサラなる女性に対し呼びかける。しかもその口振りからして、どうやら面識がある人物らしい。


 まぁエイミー自身、金等級冒険者だし、白金等級の人と面識があっても、なんら不思議じゃ無いか。けど、なんであの人いきなりエイミーの事睨んでんだろう…


と言うか、睨まれているにも関わらず、エイミーが全く意に介していない。むしろ涼しい顔して、にこにこ穏やかに笑って居るぐらいだ。


「エイミー、知り合いなら紹介して貰っても良い?」

「あぁ、はい。そうですね――」


 彼女の反応が気になって、明陽さんにではなくエイミーに、そのキサラという人の事を聞いてみる。そのお願いを受けて彼女は、ニッコリ満面の笑みを浮かべてあたしに向き直り、魔人族の女性に向かって右手を差し向けた。


「――彼女の名は、キサラ=ベルシュ。現在は魔神教の守護者の1人で、世界最高峰の屈指の魔術師です。」

「あぁ、やっぱり明――」

「旺と呼べっちゅゆうに…」

「――あ~…旺さんの同僚の人だったのね。」


 お仲間にもそれで通してるのか。細かいなぁ…


「そして、シフォンの元お弟子さんで、私とも昔パーティーを組んでいたんですよ。」

「へぇ!」


 次いで聞かされたその内容に、素直に驚き感嘆の声を漏らす。面識が在るどころか、元お仲間だったって言うんなら、エイミーの動じなかった態度も納得だ。


 けど、ならなんでこのキサラという人は、エイミーの事をいきなり睨んだりしたのだろうか?と言う疑問がすぐに浮かんだ。しかしてその疑問は、この後に続くやり取りを聞いていれば、すぐに判明する事だろう。


()じゃね~デス。師匠は何時までも私の師匠デスから、そこんとこ理解しろやデスよエイミーさん。」

「またそんな事言って…シフォンがそれを聞いたら、きっと困りますよ?」

「うっせ~デス!師匠の事1番理解してるみたいな――ッ!?」


 不機嫌そうにそう言ったキサラが、食って掛かりそうな勢いで身を乗り出した瞬間、ハッと何かに気が付いたような表情となったかと思うと、唐突にエイミーのすぐ傍まで駆け寄っていき、その身体に顔を――と言うか鼻を近づける。


「スンスン、スン!スン!!スンッ!!」

「えっ!?ちょ…ど、どうしたんですかキサラさん!?」


 突然鼻を近づけ、まるで犬の様にその身体の臭いを、一心不乱に嗅ぎ続けるキサラ。一方エイミーはと言うと、困惑気味しきった表情でどうして良いか解らず、ただされるがまま突っ立って居る。


 突然の事にあたしも呆気に取られ、割って入るタイミングを逃してしまう。けどそのままと言う訳にもいかず、今からでも引き剥がそうと思ったその時、困惑するエイミーの肩をガッと掴んで、その顔をジッと見つめ出した。


「師匠の匂いがするデス…」

「えぇっ!?そ、そうですか?」

「間違い無いデス。ねぇ、何故デスか?隠居してた筈のエイミーさんから、何で師匠の匂いがするデスか?」

「え、え~っと…」

「会ったデスね?私に隠れて会ってたんデスね??年1会えるかどうかの私差し置いて、最近会ったデスね??」


 怖!なんなの急に!?


「お、落ち着きましょうキサラさん!!」

「な、なんかよく解んないけど、エイミーが困ってるじゃ無い!ちょっと離れて冷静に――」

「あっ!?だ、駄目です優姫!!いま近づいたら…」


 ――ゾクッ…


 急変したキサラの様子に、思わずあたしが割って入ろうと彼女の肩に手を掛ける。その直後、エイミーの静止する声が上がると同時、今日1番の悪寒が背中を駆け抜けた。


「…おめぇ~からも師匠の匂いがするデス…」ガシッ

「――へっ?」


 ゾッとするような低い声でそう呟いたキサラが、その肩に置いたあたしの手を徐に掴むと、ゆっくりとした動作で顔をこちらへと向けてくる。ただでさえ暗褐色だと言うのに、陽の光を背にしてしまった為に、表情が窺えない程真っ黒になってしまった。


 なのに目だけが見開かれ、それが闇の中くっきり浮かび上がって、更に目玉がぎょろりと動いてあたしを睨んでくる。何このお化け、超怖い…


「ずるいデスね、羨ましいデスね…相変わらず師匠は美しかったデスか?」

「えっちょ、怖!何この人!?怖い!怖い!!」

「昔からキサラさん、シフォンの事となると人が変わるんですよ…」

「いやいや!変わり過ぎでしょうよ!!」


 手をガッシリ掴まれて逃げるに逃げられず、それでも少しでも離れようと上半身を仰け反らせ、少しでも距離を取ろうと躍起になる。そんな中、何時もの困ったような笑顔を浮かべたエイミーが、ため息交じりに呟いた。


 なんか、困った子ねみたいな感じで言ってるけど、明らかに度を超してるからね?気付いてエイミー、この人立派に病んでるからね!


「キサラ殿にこんな一面が会ったとはのぉ~」

「ちょっと!旺さんの同僚でしょこの人!?見てないで助けて下さいよ!!」

「嫌じゃよおっかない。邪魔したら即呪われそうなオーラ出しとるし…ん?」


 助けを求めたあたしに、無情にもあっさり見放すような事を口にする明陽さん。けれどその直後、何かに気がついたのか、眉を顰め訝しがりながら。あたしの背後へと視線を移した。


 彼女が何に気が付いたのか、気になり振り返ろうとした直後――


「ハッ!?」


 ――ガシッ!!「へぅ?」


 ――何かが勢いよく顔の横を通り過ぎ、顔を近づけてくるキサラに覆い被さった。よくよく目を凝らし見てみれば、肩の辺りから誰かの腕が伸ばされて、彼女の顔面を鷲掴みにしていた。


 勿論その腕は、あたしの意思による物ではなくい。そして、突然そんな事をする人物と言えば、思い浮かぶ人と言えばたった1人だ。


「イテテッ!イテェーデス!イテェーデスッて!!」ギリギリギリ…

「ゆ、譲羽さん?」


 肩越しに振り返り、思い浮かんだその人の名を呟いた。思った通りあたしの背後に譲羽さんが、相変わらず気配を全く感じさせずに立っていた。


 彼女の名を口にしたあたしが、突然の事にビックリしていると更に驚く事が起きる。その驚くべき事とは、彼女があたしに対し口元を弛めて笑いかけると、空いた方の手で突然あたしの頭を撫で始めたのだ。


「へ?な、何ですか、これ…」

「イテテッ!イテェーデスってばユズリハさん!!」


 背中にキサラの悲鳴を聞きながら、どうして良いか解ら無い上、嫌でもアイアンクローを受けた記憶が蘇り、恐怖から身体が固まり動けない。これ、新手の死刑宣告か何かですか??


「ホッ!良かったのぉ優姫。」

「へ?」


 どうして良いの戸惑っていると、不意に明陽さんの呟きが聞こえてくる。何の事か解らず、訝しがりながらそちらに視線を向けると、何故だか意地の悪そうな笑みを浮かべながら、譲羽さんを眺めている彼女の姿があった。


「そう怖がらんでも平気じゃ、そやつに気に入られただけじゃよ。」

「気に入られたって、何でまた急に…」

「わからんか?先程、儂等の意表を突いて、生意気にも小馬鹿にしたでは無いか。」


 それはきっと、あたし達が奥の手として隠していた『個人契約精霊召喚』による、瞬間移動の事だろう。


「いや別に小馬鹿にはしてないけど…」

「まぁそれは良いわい。ともあれあれで、そやつは御主の実力を認めたっちゅ~訳じゃ。誇って良いぞ?そやつに気に入られる奴なんぞ、なかなか居らんからな。」


 そうは言うけど、素直に喜んで良いのか正直微妙だ。だってそれってつまり、今までずっと多少なりとも警戒されていたって事だもの。


 まぁ、でもそれが普通か。なんだかんだ、2人とも濃い時間を共有したつもりでいたけど、出会ってまだ半日位なんだから、距離を取られていたって不思議じゃ無いもんね。


 そう思い直してあたしは、再び譲羽さんへと顔を向ける。そして未だ頭を撫でられながら、慣れていない行為にちょっと戸惑いつつ、なるべく意識しないようにして笑顔を作った。


「えっと…改めて、よろしくお願いします、譲羽さん。」


 改めて言うとなると、急に何だか気恥ずかしくなって、少し頬が上気するのが自分でも何となく解った。それでもなんとか、今の気持ちを譲羽さんに告げると、柔らかく優しい笑顔を浮かべてゆっくり頷いたのだった。


「痛いデスーっ!!」メキ…「アー、アァーッ!!メキって言ったデス!?つ、潰れるデスー!!」


 チッ、うっさいなぁ~折角譲羽ルートのフラグが経ったってのに…

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