子連れJK異世界旅~異世界怪魚列伝~(13)
「怯むな!!船の安全は御2人に任せてある!!我々は我々の成すべき事を成せ!!」
「「ハッ!!」」
「船の姿勢が安定し次第、次弾装填!!慌てず急いで確実にだ!!」
「次弾装填了解!!」
周囲を脅威に囲まれている最中、怒声に似た指示がアルゴ船長より発せられる。その指示を受け、間髪入れずに返された船員さん達の返事に、まるで怯んだ様子が無いのは何よりだ。
それもこれも、エイミー様ハレルヤ効果の賜なのだろう。にしても、そう言う役割分担ではあるけれど、ほんの数時間前にポッと現れた小娘に、全幅の信頼寄せてますみたいな雰囲気出されても、正直困るんですけど。
プレッシャー重いなぁ~これ以上は、あたしの背中にゃ載っかんないわよ?意外と肩幅小さいんだから。
「優姫!!」
「解ってるわ!!」
そんな事を考えていたのも束の間、直後に鋭く響いたエイミーの言葉に、周囲の状況からどう動くべきかを、脳内で組み立てつつ返事を返す。焦るな落ち着け大丈夫だと、自分に言い聞かせながら。
相手は、ここからだと頂が見えない程のデカブツだ。大型の帆船とは言え、ベファゴの何百分の1程度しか無いこの船相手に、正確に狙いを付けるのは難しく、大雑把に成らざるを得ないだろう。
実際、右手から来る尻尾は、今の速度のままなら対処せずに、そのままやり過ごせそうだ。まぁそれも、前後から迫る分をどうにか出来ればだけど。
となれば、取るべき選択は――
「――エイミーは後方を警戒して!右手は無視!!前はあたしがどうにかする!!」
そう叫ぶや否や、手にした姉妹を眼前に構え、振り下ろされてくる尾を睨み付ける。
「解りました!!『契約に従い我が元に汝の力、顕現させよ!』――」
直後にエイミーがそう叫び、あたしの背中に背を預けると、そのまま精霊術の準備に入った。こんな時だって言うのに、背中越しに感じる彼女の重みと温度に、妙な安心感を抱いてしまう。
いやむしろ、こんな時だからこそだろう。彼女と一緒ならば、先程感じたプレッシャーの2倍や3倍、軽々と背負えそうな気さえしてくる。
そんな頼もしきパートナーの背中に、寄りかかるようにしてあたしも体重を預ける。これで彼女も、あたしと同じ様な事を、少しでも思ってくれるだろうか?
…なんてね。我ながら、思春期真っ只中な乙女チック回路だわ。
『…夜天!銀星!頼むわよ!!』
『任せて下さい!』
『りょうか~い!』
直ぐさま気持ちを切り替えて、手にした2人にイメージを伝える。目の前には、圧倒的な質量を持ったベファゴの尾が、自重で加速しすぐそこまで迫っている。
この速度のままだと、今から方向転換しても曲がりきれず回避は不可能。かといって、速度を落とせば、右手から迫る尾を振り切れなくなる。
ならば、迫る尾に魔法をぶつけて、その軌道を逸らしてみるか?ただでさえ圧倒的な質量を持っているというのに、今は自重で更に加速しているので、その運動エネルギーを考えると、それこそ無駄な足掻きだ。
だったら、もう塞ぐ以外に手立てが無い。
『ロック――』
「――ウォール!!」ザバァンッ!1
夜天が発動させた魔法を、あたかも自分で発動したかのように見せ掛ける。無詠唱所か無言発動させたんじゃ、精霊様ですって宣言してるようなもんだからね。
その魔法の発動で、海の中から姿を現したのは、分厚い岩で出来た壁だった。それが船とベファゴの間に、立ちはだかるように現れた。
分厚いとは言えただの岩だ。ベファゴの尾がぶつかった瞬間、1秒と保たずに粉々に砕け散るのを、それを出現させたあたし自身が、太鼓判で保証しましょう!
今のままなら――ね。
『アイシクル――』
「――シールド!!」バキバキバキ!!
直後に、同じく偽装して発動した銀星の魔法。目に見て取れる程の冷気が、先程出現させた岩の壁に纏わり付くや、周囲の海水を巻き上げて凍り付いていく。
瞬き程の時間で、氷漬けの大岩の完成だ。これがほんとのロックアイスってね。
いくら魔法で生み出した物でも、ただの岩の壁ならば1秒と保たないだろう。それは、単なる氷の塊でも同じ事だ。
ならばその異なる2つを組み合わせ、強度を補強してしまえば良い。それも、単純に2つを合わせる足し算では無く、片方を芯に見立てたかけ算方式だ。
ブロック塀でも、芯に鉄筋が使われているかどうかで、地震なんかに対する強度に雲泥の差が出るものだ。とは言え、今目の前に迫っている質量の塊の前では、こんな小細工をした所で1秒保てば良い方だろう。
と言うよりそもそも、何故航路上にそんな物を作ったのか?このまま進めば、ベファゴの尾にぶつかる前に、自分で作ったその壁に船が衝突するだろう。
別に、ベファゴの尾に潰される位なら、なんて考えからでは当然無い。必要なのは、小細工して出来た僅か1秒というその時間だ。
「いかん!!総員対ショック体勢!!」
「みんな何かに掴まって!!」
「あばばっ!?」
岩と氷で出来た壁が現れた直後、アルゴ船長の指示が飛ぶと同時に、本日何度目かの台詞をあたしが叫ぶ。背中越しのエイミーの腕に、自分の腕を絡みつけその身体を固定すると、ちょうどアクアの慌てた様子の声が聞こえてくる。
――ガタンッ!!
アクアが慌てるのも無理は無い。なんせあたしは、何の脈絡も無く船の舵を勢いよく左に切ったのだから。
何の合図も出していないから、海流もベファゴに向かったままの状態だ。おまけにスピードが出ていた所為か、まるで車がスリップしたかの様に、船体を横に横滑りして海上を進んでいく。
けれど、それで良い。それこそがあたしの狙いだ。
――バキンッ!!
直後、出現させた岩と氷の混合障壁に、前方から迫るベファゴの尾がぶつかる。一瞬にして、衝突した面の氷をぶち破る。
けれど、そのお陰で僅かに勢いが分散され、直後に現れた岩の面に尾が阻まれた。周囲に砕け散った氷が降り注ぎ、同時にバキバキと嫌な音が岩壁から聞こえ、こちら側に面した氷壁面にも亀裂が走る。
――ドンッ!!
そんな最中、横滑りして進む船体の右舷が、ひび割れが入った氷壁面へとぶつかった。瞬間――
『――風!!』
「エアブラスト!!」ゴオオッ!!
再び吹き荒れた風の塊が、マストに張られた帆に勢いよくぶつかった瞬間、その場所から船体が無理矢理押し出される。それとほぼ同時――
――バキンッ!!ガラガラガラッバシャアアアンッ!
後方で、瓦礫の崩れ去る音と激しく海面を打ち付ける音が響いた。これでほっと一安心――なんてそうは問屋が卸さない。
「エイミー!!」
「『戒めの風よ、かの行く手を阻む檻と化せ』シルフィード!!」
その呼びかけに反応し、背中越しのエイミーが精霊術を行使する。その瞬間、光り輝く黄緑色したシルフィーの影が彼女の前に出現し、ソレが形を変えて周囲の風を巻き込むと、目に見えて塊だと解る粘度ある風へと変化する。
それが、蛇のように空間を蛇行して進み、後方――今は左手から迫ってきている、2本の巨大な尾に巻き付いた。
――ギシリッ!!
「クッ!!」
鈍い音を響かせ、尾に絡みついた風がその行く手を引き止めようと躍動する。けれども、2本分の質量をそれだけでとなると厳しい様で、精々が勢いが弱まった位だった。
その様子を前に、エイミーが苦々しく呻く声が聞こえる。本人は納得いかない様子だけれども、成果としては、それでも充分過ぎるぐらいだ。
勢いが弱まった事で、このまま直進すれば難なくやり過ごせそうだ。まぁその場合、今度は右手――今は後方から迫る尾を、やっぱりどうにかしないといけないんだけどね。
理想は、最初に前方から来ていた尾の後ろに回り込む事。その為には――
「――アクア!今の要領でもう1回!!」
「あばばっ!!は、はい!!」ガタンッ!!
無理矢理航路を変えた先には、先程一緒に作り出した氷壁が、船の行く手を遮っている。それを見てアクアも意図をすぐに察したのだろう、今度は慌てた様子も無く、あたしの操船に併せて舵を思い切り右に切った。
――ズザザザザッ!!
直後に再び船体が横滑りし始め、スピードを弛める事無く海面を滑るように進んでいく。そして船の左舷が、氷壁へドンッと大きな音を立ててぶつかった瞬間――
「エアブラスト!!」ゴオオッ!!
――三度、風華の魔法によって起こされた、風の塊が帆に勢いよく送り込まれ、再び船体を無理矢理その場から押し出しされる。その先には今度こそ何も無く、ちょうど前方から迫っていた尾の裏に入るコースだ。
これぞ必殺!ヴァルキリー式『慣性ドリフト』!!異世界に降臨したドリフトクイーンとは、あたしの事です!(どやぁ
兎にも角にも、『防備』とはつまり、外敵や災害に対し備えを怠らない事。そう言う意味では、この船を眷属化した時点で、それは完了していたと言って良い。
なんせ、こんな無茶苦茶な立ち回りが可能となったのも、すべてこの船を眷属化したお陰だからだ。例え船体を鉄で補強していたとしても、勢いよく船体が壁にぶつけて無事で済む筈無い。
それ以前に、そもそも攻撃魔法をマストにぶつけて平気な訳無いのだ。けどそれが可能となったからこそ、機動力を活かした回避と攪乱という選択肢が、こうして取れるようになった。
本来なら、ベファゴの攻撃を防御するか迎撃するかが一般的だし、船員さん達もそう思っていただろう。だし、ヴァルキリーの力を秘匿したいのなら、恐らくそうするべきだった。
だけど、ベファゴのすぐ傍まで近づいて、あの尾を目の当たりにして実感した。あの馬鹿みたいな質量を、正面から受けきるのも防ぎきるのも、流石に無理ゲー過ぎる。
だからこそ、巨体故の弱点を突いて、機動力を活かした戦術を選んだ。というか、相手の知能が低いのなら、逆にそっちの方が安全な気さえしたのよね。
相手の攻撃を正面から受けて、こちらもそれに応えて返すなんて、如何にも角の突き合いみたいなガチンコ勝負こそ、決戦の王道なんでしょうけれど、それを行うには流石に相手が悪すぎる。それに、蝶のように舞い蜂のように刺す、ヒットアンドアウェイ戦法の方が、あたしの性にも合ってるしね。
問題は、自分達の船がやたら頑強になってるのに、船員さん達が気付かないかだったんだけど、それもどうやら大丈夫そうだ。なんせ――
「右舷!ッテェーッ!!」ドンッ!ドドンッ!!
大型帆船で、キレッキレの2段ドリフトをキメた直後、アルゴ船長の号令の元、再び砲台が火を噴いた。右舷に設置された4門の砲台の狙いは、エイミーがシルフィーの力を顕現させて、今も押さえ込もうとしている2本の尻尾だ。
火薬の爆発力で飛び出したバスケットボール大の鉄の砲弾は、瞬く間にして2本の尾に見事直撃する。直撃したその瞬間、倒れるように海面に迫っていたベファゴの尾が、一瞬ビクリと震えてその場で停止した。
「ギュルルオオォォオオッ!!」
「「ウオオオォォォーッ!!」」
少し遅れて聞こえた咆哮に、僅かながら苦悶の色を感じ取れたのだろう、一気に船内が歓喜に沸き立った。その沸き立つ船内を横目にして、人知れず苦笑を漏らす。
――なんせ、砲台の威力が上がっている事に、誰も気が付いていないからだ。これは、あたしにとっても誤算だったんだけど、船を眷属にすると同時に、搭載されていた砲台も一緒に眷属化したらしい。
けど、『らしい』と言うだけあって、今までとちょっと毛色が違う様なのだ。と言うのも、砲台単体として眷属にした訳では無く、あくまでも付属――『船の一部』として眷属に成ってるみたいなのだ。
どういう事か、あたしも詳しく調べる暇が無いのでなんとも言えない。それでも解っている事は、通常眷属にした物だったら、その情報が頭に入ってくる筈なんだけど、それが無いと言う事と、情報が無いから複製品も作れそうに無いみたい。
積まれていた砲弾は、1発として眷属化していない所を見ると、やっぱり船の武装という括りなんだろう。だから船の操舵と同じように、船に意識を向けると砲台の操作も実は出来る。
まぁ、それやっちゃうと、流石に怪しまれるのでやらないけど~
ともあれ、意図せず眷属化したこの砲台には、割とエグめな効果が在ったりする。と言うのも、装填された普通の砲弾に、ある種の効果がある魔力の膜を張って、撃ち出す事が出来る様に成ったのだ。
この魔力の膜と言うのが曲者で、まず砲弾が標的に直撃すると、この魔力の膜が標的側に移動して残る仕組みになっている。そして移動すると同時、砲弾が直撃した衝撃を、暫く繰り返し再現する。
つまり1発で、数発分の衝撃力が着弾地点に残るという事だ。更に発射時の爆発力も、属性武器の応用で火属性上げてるので、単純威力も向上していると言うおまけ付き☆
うわぁ~エグ~い。制作者(無自覚)もドン引きのエグさですね!