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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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子連れJK異世界旅~異世界怪魚列伝~(12)

「ムッ!?こりゃ御主等!!遅いぞ戯けぇ~!!」


 彼女の雄志(?)を何となく眺めていると、近づくこの船が見えたのか、ベファゴの尻尾を縦横無尽に駆ける姿はそのまま、こちらに視線を向け手にした刀をブンブン振り回し、なんかギャーギャー騒ぎ始める、ちんまいおこちゃ――もとい明陽さん。


 文句多いなぁあの人…


「はっずかしいなぁもう…」

「あ、あはは…」


 そんな明陽さんの姿を半眼で睨み付け、軽い頭痛を覚え頭を抱えて再びため息。流石のエイミーも、乾いた笑いしか出せないご様子。


 燥いじゃってまぁ…親戚のおばちゃんにたまに居るよね、あぁ言う人。(自分の親戚とは認めたくない


「…ではそろそろ、持ち場に戻るとしますかな。」


 そんな感想を1人抱いていると、背後からアルゴ船長にそう言われ、肩越しに視線を向ける。その頃には、彼は既にあたし達に対し背中を向けて歩き始めていた。


「お2人共、この船の防備よろしくお願いします。」

「はい、お任せ下さい。」

「聞いていると思いますが、相当荒い操船になると思います。船員さん達にも、気を付けるように呼びかけておいて下さい。」


 そう言いながら去って行こうとするその背中に、あたし達が順に声を投げかける。


「心得ています。部下達には、災害時航行を想定せよと伝えてありますが、今一度徹底しておきましょう。おまえ達!――」


 あたしが投げたその言葉にアルゴ船長は、一度その場に立ち止まり肩越しに振り返ってそう答えると、早速周囲に向けて落とし込みを始め出す。何とも律儀な後ろ姿を、苦笑しながら見送った後、視線を前へと戻した。


 視界を戻すと、既にベファゴとの間合いは1キロ以内。とっくに間合いの内側だ。


 にも関わらず、こちらに攻撃が来ないのは、明陽さん達に意識が向いているからだろう。流石獣並みの知能、でかいから余計に注意力が散漫なのかも知れない。


 とは言え、こちらから攻撃した瞬間、直ぐさま反撃が来るだろう。ならどうせだ――


「――ギリギリまで近づいてから、至近距離でぶっ放して、あたし等の存在アピールしてやりましょうか!」


 どうせ攻撃した瞬間反撃されるんなら、ちょっとでも砲撃の威力を上げましょうってね。異世界チキチキチキンレース!


「そう言うアピールの仕方はちょっと…」


 そんなあたしの言葉にエイミーは、何時もの困った表情で苦笑しながら、何やら冗談めいた言葉を呟く。どうせ、女は慎みが大事とか、そう言いたいんでしょ?あたしにゃ一番縁遠い言葉だわ~


 直後に彼女は、後方へと視線を向けて手を上げる。恐らくそれが、砲撃用意の合図なのだろう。


「砲撃用意!」

「了解!砲撃用意!!」


 思った通り、直後にアルゴ船長の指示が出され、復唱する船員の声がその後に続いた。それを聞きながらあたしは、本格的に船の操作を行う為に、意識を船体へと集中させる。


「照準合わせ!目標前方!ベファゴ上で闘う守護者2名!!」ザワッ


 立て続けに出されたその指示に、復唱の声の変わりにざわめきが起こる。まぁ、これが普通の反応だろう。


「心配には及びません。あの御2方ならば、必ず無傷でやり過ごすでしょう。」


 それを鎮めるのも、今のエイミーの役目だ。ざわめきが起きると同時、船員さん達に向け安心させるように微笑んだ彼女は、自信に満ちた声音でそう断言する。


 普通の神経ならば、そんな事を断言された所で、鎮まる所か気は確かかと疑われそうなものだ。けれど今この瞬間は、状況からして普通で無い上、先程の演説効果でエイミー様ハレルヤ状態。


 全くとまではいかないまでも、ざわつきが『彼女が言うなら』と言う雰囲気に変化した。ここでも、ちゃんと演説効果が働いて何よ…


 …これ見ようによっちゃ、ゆるふわパツキン美女に、言いくるめられてコロッと騙されてる、馬鹿な野郎共の図式に見えなくね?


 こんな時でも、ブレずに穿った見方しちゃうあたしは、ほんといけない子…


「復唱!!」

「ハ、ハイ!!照準合わせ!目標前方!!ベファゴ上でたた、ッ!闘う2名!!」


 直後にアルゴ船長から強めの言葉が響き、それを聞いた副官らしき人が、慌てて先程の命令を繰り返す。けれども、やはりどうしても言いずらいのか、最後の方で言葉に詰まってしまった様だ。


 そりゃね、フレンドリー・ファイア強要してんだから、安全だと解ってても忌避感位感じるでしょうよ。全く、明陽さんも酷な指示を出したもんだ。


 ともあれ、アルゴ船長から出された命令は、しっかりと船員さん達に通達され、設置された砲台の向きが調整されていく。


「まだです!十分に引き付けてからお願いします!!」

「「了解!」」


 その最中、エイミーの鋭い指示が辺りに響き、砲撃手だろう船員さん達から、直ぐさま返事が返される。一団率いた事無いって言ってた割には、指示出しする姿も十分様になってる…なんて感想は、流石に今更か。


「アクア、砲撃と同時に左に思いっきり舵を切って!!」

「は、はい!」


 そんな彼女の姿を目にしたら、パートナーとして負けても居られない。と言う訳で、実際にはあたしが操舵するけれど、一応周囲へのパフォーマンスも兼ねて、アクアに向けて声を張り上げた。


 これで、船員さん達にも砲撃後に急回頭するって、自然に伝える事が出来たしOKっと。けど問題は、オヒメへの指示出しだ。


 声を張り上げて伝えるほか無いんだけど、そうすると必ず『ママ』って呼ばれるだろう。さて、どうしたものか…


『ママ、姫華達はどうすれば良いの?』


 なんて事を思っていたら、何の脈絡も無く頭の中にオヒメの声が響き渡り、思わず目を剥いて船尾の方を凝視する。見るとちゃんとそこに、きょとんとした様子のオヒメが居る。


 彼女はまるで、そこから動いた気配は一切無い。と、言う事は…


『これって…テレパシー?』

『え?うん、そうだけど…何でそんなに驚いてるのママ??』


 突然頭ん中に声が響いて驚かないでか!中二病拗らせて、もう1人の自分覚醒しちゃったとか思うでしょうよ!


 え、思わない?サーセン


『何でって…そりゃ、こんな事出来るって、普通思わないじゃない。』

『あっ!そっか、ごめんねママ…ずっと側に居ると必要ないもんね!』

『いや、別に謝る必要は無いけど…』

『あのねあのね!すっっっごく離れちゃうと難しいんだけど、この位の距離だったら簡単なんだよ!!』


 あ、はい。これ例によって例のやつですね、『精霊からすると当たり前』シラネっつの!


 まぁ、オヒメに対してそんな事を言っても仕方無いか。それになんか、遠くでワタワタしている様子が可愛いくて、それ見られただけでも得した気分だし。


 ともあれ、これでいちいち大声張り上げて指示出す事も、『ママ』と呼ばれる事を気にする必要もなくなった。ってか――


『精霊同士でテレパシーが可能なら、アクアとも出来るのかしら?』

『え?う~ん…』

『マスター、それには別途下準備が必要になると思います。』


 ふと抱いたあたしの疑問に、唸るオヒメの変わりに答えてきたのは、会話に割り込んできた銀星だった。彼女がそんな風に言うって言う事は、『おまえも知ってたんなら教えんか~い!』ってなもんだ。


 抱いた疑問とは別に、腑に落ちない点を多く感じるけれど、今はとにかく全部横に置いて、落ち着いた後で整理する事にしよう。


『アクアには別に準備が必要って事は、各属性個別のテレパシーネットワークって訳?』

『うん!そうそれ!!姫華もそう言いたかったの!!』

『そう言った認識で、概ね間違い無いかと。』

『あっはっは~調子良いなぁ~姫ちゃん。』


 自分なりの解釈を告げると、真っ先にオヒメが便乗して、それを聞いて夜天までもが会話に入ってくる。成る程、要するにグループチャットのようなものか。


 いずれにしても、離れた場所でタイムラグ無しに、しかも周囲に気取られず任意の相手と、直接意思疎通が出来ると言うのはありがたい。ってか、オンオフの切り替え方良くわかんにゃいんだけど、普段のしょうも無い思考とか、この子達に伝わってないよね?


 …うん、深く考えるのや~めた!☆(←


『オヒメと(ふー)は、今位の風量を維持してマストに送り続けて頂戴。折を見て合図するから、その一瞬だけ突風を起こして欲しいわ。出来る?』

『うん!――』

『――ま、任せてママ!!』

『ねぇねぇ~マスタ~わたし達達は?』

『あんた達は、あたしと一緒にこの船のおもりよ。』

『えぇ~!?乗り込まないのぉ~!!』

『馬鹿夜天!!解りました、マスター』


 今更気にしても仕方無い(ぁ)ので、早速テレパシーを駆使して、オヒメ達に指示を飛ばしていく。そう!あたしは過去を振り返らない女!!(←


『…ま、ひとまずわね。対巨躯戦の心得ってのと、あたし抜けてもこの船の防備が平気そうだと判断したら、或いはそう言う事も在るかもだから、しっかり備えておきなさいよ。』

『ほんと~?わたし期待しちゃうよぉ~』

『馬鹿夜天…』


 不満たらたらっぽい夜天に苦笑しつつ、そう言いながら腰に帯びた2人を引き抜くいた。直後に聞こえた2人の掛け合いに、思わず肩を竦めため息を吐くと、直ぐさま気持ちを切り替え前を向いた。


 目の前に迄迫った、巨大なベファゴの尾との距離は、既に500mを切っている。安全を考慮するなら、ギリギリ迄近づいたとしても、100m切るぐらいが限界か。


 残り400――今の内に、砲撃後の航路を頭の中でイメージする。安全に行くのなら、間隔を200mは空けたいけれど、進行を少しでも邪魔するのなら、100~80m位をキープして周回するべきか…


 残り300――「まだです!!」と、直後にエイミーの声が響き渡る。固唾を呑み緊張している船員達の様子が、振り向かずとも背中越しに伝わって来る。


 残り200――思っている以上に、自分でも緊張しているのだろう。1秒1秒が嫌に長く感じるし、夜天と銀星を握る手に、自然と力が入っていく。


 そんな、引き延ばされた時間の中で、『やるべき事は全てやったか?』だとか『用意周到を徹底出来たか?』だとか、そんな事ばかり頭を過っていく。昨日、あれだけ悍ましい寒気を催すような大軍を前にしても、こんな風には成らなかった。


 『数による暴挙』とはまた違った、『圧倒的な存在』を前にした緊張感。考えてみれば、その『数による暴挙』を、こいつは文字通り飲み込み平らげるつもりで、ここまでやって来たのだから、この緊張感も納得だ。


「ギシャアアアァァァーーーッ!!!!」


 直上から響いたその咆哮は、ただ吠えただけなのに音が衝撃となって、激しく身体を揺さぶられそうになる。余りの衝撃に、身体毎海に投げ出されそうになるのを、この場に居る全員が歯を食いしばり踏み止まる。


 遂にここまで迫って来たのだ。今更怯んだ所で、引き返せるなんて誰も思って居ない。


 だからこそ、嫌でも奮い立たせるしかないのだ。心を、身体を、己自身を奮い立たせ、目を逸らさずに、ひたすら前だけを見続ける。


 みんながそんな思いで迎えた、残り100m――


「――今です!!」

「全砲門!!ッテェーッ!!」ドンッ!!ドドンッ!!

「アクアッ!!」ドドンッ!!

「あばばっ!!はいっ!!」ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!


 ――ズザザザザアアァァァーーーッ!!


 その瞬間、劈くような轟音を響かせて、船に設置された砲台が火を噴いた。辺りに硝煙の煙と匂いが広がるもそれは一瞬、船の舵が一気に左に切られて、その勢いで船体が大きく横に傾いた。


『今よ!』

「エアブラスト!!」ゴオオッ!!


 直後に巻き起こった風の塊が、勢いよくマストに当たった瞬間、船が一気に加速しようとする。その瞬間――


「――ギュルオオオォォォーッ!!」


 今までに聞いた物とは、明らかに違う印象を受ける咆哮が、船の後方ベファゴの頭がある方角から響き渡る。チラリと砲弾が当たっただろう方向を見てみれば、それまで激しく動いていた尾が、ビックリした時の猫の様にピンッ!と、直立に立っていた。


「効いてる…効いてるぞぉ!!」


 その光景を前にして、船員さんの誰かがそう叫ぶ。その直後、歓声こそ上がらなかったけれど、船内が僅かに沸いた。


 ダメージがあったかどうかは兎も角、ベファゴがビックリする程度には、効果があったと見て良いだろう。正直、あの位で喜んでて貰っちゃ困るんだけど、それ言っちゃお終いなのでお口チャーック!!


 ともあれこれで…ッ!!


「ギシャアアアァァァーーーッ!!」


 あの時も感じた、全身の毛穴が開くような感覚に突如襲われ、視線だけをぐるりと一周させて、周囲の状況を急いで確認する。予想通り、攻撃と同時に敵として認識されたのだろう。


 前方から1本、右側から1本、後方からはなんと2本と、余りにも大盤振る舞いな反撃が、この船へと迫る。そのどれか1本でも、例え直撃は避けられたとしても、甚大な被害が出るだろう。


 いよいよ、あたしの操船技術が試される時って訳ですね、解ります!マ○カーで培った腕前披露しちゃる!!(ぇ

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