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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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子連れJK異世界旅~異世界怪魚列伝~(6)

「あれ程の規模の津波、疲弊した状態のアクアさんでは、全て抑える事は出来ませんよ。」


 そんな風に思っていると、きっと考えている事が表情に出たいたのだろう、横からエイミーにそう窘められてしまった。焦る余り、すっかりその考えが無かったけれど、言われてみればその通りだ。


 ならばどうするか――集中力を最大限に活用し、思考速度を倍に引き延ばして考える。


 そうしている間にも、水面に石を投じたかの如く、波紋状に津波が広がっていく…


「エイミー!ウィンディーネの力でどうにか出来る!?」

「一部ならばどうにか!ですが、北側に広がる分は、流石にここからではどうする事も…」


 この全てを、どうにかするのは現実的に無理か…


 そう考えながら、思わず苦々しく舌打ちする。自然発生した災害ならまだしも、人の起こした人災だって言うのに、ただ手をこまねいている事しか出来無いとは…


「北側は案ずるでない。こちらに向かっとる奴がどうにかするじゃろうて。」


 そんな風にエゴ丸出しで考えていると、隣に立つ明陽さんにそう告げられ視線を向ける。


「向かってるって…」

「今詳しく説明しとる時間など無いわい。今はそれよりもほれ、津波(あっち)じゃろう。」


 それに思わず問い返そうとして、苦笑交じりに先回りされて釘を刺される。この状況引き起こした犯人に、上から目線でんな事言われたかねぇ!


 けれどまぁ、確かにその通りだ。今はともかく、その言葉を信じて行動するしか無い。


「ひ、東側から南東に向かってる津波も無視して平気です!東は少し行けばママの領域だし、南東は風の谷が控えていますから!」


 直後、舵を握ってあばあば言っていたアクアが、船上の喧騒に負けじと声を張り上げる。そう言われて確かに納得だけれども、この状況の片棒担いだ身としては、他人の力に頼らざるを得ないって言うには、正直情けなさを感じずにはいられない。


 けれど、この状況をどうにか出来るのならば、そんなちっぽけなプライドなんて、犬に食わせてしまおうじゃないか。他力本願上等!恥の上塗りだって、後ろ指指されようとも構やしないわよ。


「エイミーッ!!」

「『契約に従い我が元に汝の力、顕現させよ!』――」


 頭の中で、まるでパズルでも組み立てるかのように、提示された情報から自分達の為すべき事を組み立てる。それが纏まるや否や、西側を指差しながら直ぐさまエイミーの名を叫ぶ。


 直後に彼女は、たったそれだけの指示だというのに、何の説明を求める事も無く、次の瞬間には詠唱を開始していた。流石歴戦の英雄様、頼もしい限りだ。


 こちらの意図を予測で汲み取る経験則に、それが適切かを瞬時に見極める判断力。更には、差し迫った危機にも構わず、足がすくむ事無く動ける行動力、どれを取っても一流のソレだ。


「――『ウィンディーネ』!!」


 そんな完璧超人みたいな人が、あたしのパートナーだって言うんだから、あたしも負けてはいられない。西側の津波を一手に任せたのだ、ならば正面から迫る津波位は、あたし達でどうにかしないと顔向け出来ない。


 彼女がウィンディーネを召喚したのを見届けた後、目の前に迫った津波をあたしは、眉根を吊り上げ睨み付けた。


「アクア!!正面から迫る分だけでも勢いを鎮められる?」

「弱める位ならなんとか!」

「十分よ、早速やって頂戴!!」

「は、はい!!」


 振り向く事無く再びアクアに呼びかけ、返ってきた返答に頷きながら、腰に差した銀星を左手に抜き放つ。と同時に精霊化した瞬間、迫る津波の勢いが僅かに遅くなるのを目視で確認する。


「出番よ銀星!!」

『ようやくお声を掛けて頂き光栄ですマスター!強化された私の力、とくとご覧下さい!!』


 銀星を振りかぶりながら、頭の中に自信たっぷりな彼女の声が響く。その言葉を裏付けるかの様に、振りかぶったその刃の周囲に、凄まじく強い冷気が纏わり始める。


『ブリザード・ロア!!』ヒュゴオオォォォーッ!!


 その凄まじい冷気を、あたかも津波に向かって投げつけるかの様に、構えた左腕を思い切り振り抜いた。銀の軌跡を引きながら空を切り裂いたその直後、その空間から凍て付く吹雪が発生する。


 まるで獣の遠吠えかと思う様な風音を轟かせ、放射状に勢いよく広がる轟風雪。それが迫る大津波にぶつかるや、バキバキと音を立てて表面を凍結させていく――


『…クッ!』


 ――けれど、押し寄せる水の奔流全てを、立ち所に凍結させるには至らない。アクアの力により速度が少し遅くなったけれど、その圧倒的な質量は未だ健在なのだ。


 津波の表面が凍結するや否や、遅れて押し寄せた分の水に飲み込まれる。更にその表面が氷結するも、再び押し寄せた水に飲み込まれるの繰り返しだ。


 このままでは、全てを凍り付かせる前に、船が飲み込まれてしまう。それを瞬時に理解したのだろう、銀星が苦々しそうに呻くのが伝わって来る。


 全く、この子は…本当に負けん気が強いわね。1人で何でもかんでも、しょういこもうとするんだから…


 握りしめた左手から伝わる、そんな彼女の胸の内を察知し、こんな状況だというのに思わず苦笑を漏らす。いくら彼女が、中位に達しパワーアップしたからって、それで水の精霊に成った訳じゃない。


 彼女が扱えるのは、あくまでも魔法――水の精霊の様に、現象を操作する域に達する事は、どう頑張った所で出来無いのだ。


 だって言うのに、僅かな時間で押し寄せる津波の4割近くを、あっさり氷結させてしまった。素人のあたしの目から見たって、それがとんでもなく凄い事だって言うのが解る。


 けど銀星は、ソレでは気が済まないんだろう。それを裏付けるかの様に、彼女が放った魔法の威力が、意地でも押し返してやると言わんばかりに、急に増した様に見える。


 自己顕示欲――いやこの場合、承認欲求か。ともあれ、彼女のその気位の高さと崇高さには、敬意を表し頭を下げたくなる。


 だけど――


「武神流陸芸弓術――」


 ――個の力では、どうしたって限界が在るんだって言う事、これからゆっくりとでも解らせてあげないとね。


「――『幾疾風』!!」シュバババッ!!


 高らかに叫ばれた口上の後、冷気を帯びる幾本もの無形の矢が、勢いよくほぼ同時に放たれる。勢いよく放たれた無数の矢は、示し合わせたかの様に綺麗な扇状に広がり、銀星の放った魔法の吹雪に紛れて津波に突き刺さった。


 ――バキッ!バキバキッ!!ギシシィッン!!


 その直後、根元から一気に津波が凍り付き、瞬き程の一瞬で目の前に巨大な氷壁が出来上がる。その凄まじい冷気による余波だろう、一瞬にして周囲の温度がぐっと下がり、空気中の水分までも凍り付かせて、結晶化させてしまった程だ。


 恐らくは、あの無形の矢にまた『陽光』の属性強化が、働いていたのだろう。それが銀星の吹雪をも巻き込んで、こんなぶっ飛んだ威力になったに違いない。


 じゃなきゃ、銀星の意気込みが報われないっつーの!


「ふむ。咄嗟の判断にしてはまずまずじゃな。」


 なんて事を考えていると、あの矢を放った人物である明陽さんが、なんとも上からな言い方で呟く声を耳にする。今更だけど、この状況招いたって自覚、ちゃんとあんのかしらね~


「ま、儂なら凍らすなんて手間の掛かる事はせず、一気に蒸発させるがの?」


 って、全然反省してねぇなこの人!?これだけの質量の水を、一気に蒸発させるような熱量、こんな至近距離でぶっ放したら、みんなで仲良く蒸し焼きじゃ無い!?


 だから面倒でも凍らせてるってのに、怖いわぁ~明陽さんがやらかしてくれる前に、率先して動いて正解だった…


 ともあれ思った通り、あたしの意図をちゃんと汲み取ってくれた事には感謝しないとね。その弓の力、しっかり当てにしてましたとも!


 ま、それもプライド高い銀星的に、気に入らなかった要因の一つなんだろうけどね。左手を介して、彼女の悔しそうな思いが伝わってくる。


 それに心の中で謝罪しつつ、正面に出来た氷壁を見据え、今度は左手で夜天の柄を握りしめる。銀星達の活躍で、正面から迫る分の津波は、これでどうにか出来た訳だけど、それならそれでまた別の問題が発生してしまった。


 津波を凍らせたのなら当然、船の進む先に巨大な氷壁が出来たのだ。このまま船を進めれば、当たり前だけど、作り出した氷に乗り上げて、下手したら氷壁と正面衝突だ。


 ならば――


「――いくわよ、夜天。」

『ほいほぉ~い。いつでもおっけ~だよマスタ~』


 気の抜ける飄々としたその声とは裏腹に、剣呑な雰囲気が握りしめた右手の柄から伝わって来る。どうやらこちらも、ずっと研ぎ澄まされていたらしい。


「武人一刀居合術――」


 ならばその気概を、遺憾なく発揮して貰おう。左手に銀星を握りしめたまま、夜天の納められている鯉口を、摘まむ様にして固定する。


 そして直ぐさま、右足を前に出し跪く様な姿勢で半身と成り、深く息を吐き出しながら、目の前に迫るそびえ立つ氷壁を、気を鎮めがらしっかりと見据える。


「――『燕切』!!」シャリイイイィィィンッ!!


 そして、これ以上無い絶好のタイミングを見計らい、一息で夜天を抜き放つ。その瞬間、鯉口から微精霊達があふれ出し、漆黒に染まる夜天の刀身に絡みついた。


 それは黄土色の幻刀と成り、夜天を振り抜いた軌跡を、まるでなぞるかの様に伸びていく。そして――


 ――ザンッ!!ざわっ!


 目の前にまで迫っていた筈の氷壁を、夜天の力によって強化されたその幻刀が、根元から一気に斬り裂いた。すると直後、その光景を固唾を呑んで見ていただろう船員達から、ざわめきが巻き起こる。


 船員さん達が驚くのも無理ないだろう。何せ、そのざわめきが起こる一瞬前には、あたしは夜天を()()()()()()()んだから。


 きっと船員さん達の眼には、光の筋が一瞬走ったかと思ったら、次の瞬間聳え立つ分厚い氷が、いきなり根元から切り裂かれている様に見えただろう。よほど動体視力に自信が無ければ、あたしの抜刀する姿さえ見えなかった筈だ。


 だけどそれで良い。熟練の技とは、無闇矢鱈に誇示する類いの物では、決して無いんだから。


 それに、この程度で驚いて貰っちゃ困るわよ。なんせ――


「ほれ、とっておきの見せ場じゃぞ、譲羽よ。」


 ――ダンッ!!


 ――ここには、あたし以上の猛者が2人も居るんだからね。


 あたしが氷壁を切り裂いた直後、それがまるで当たり前かの様に、平然とした口調で明陽さんがそう言い放つ。そして彼女が、その言葉を言い終わるよりも一瞬早く、控えていた譲羽さんが助走も無しに跳び上がった。


 宙に跳んだ譲羽さんは、手にした大きな槍をクルクルと弄びながら、支えを失い傾き始めた氷壁を目指す。こう言っては何だけれど、前方で綺麗な弧を描き廻りながら、宙を勢いよく跳ぶその姿は、さながらプロペラ機の様だった。


「…ッ!!」ガツンッ!!ビシビシィッ!!


 程なく、譲羽さんが氷壁をその射程に捉えると、それまで弄んでいた槍を握りしめ振りかぶり、標的に向けて直ぐさま打ち込んだ。勢いよく打ち出されたその槍は、あっけなく氷壁に深々と突き刺さると、倒れ始めていた筈の氷壁を、信じられない事に押し返していた。


 総重量何トンに成るのかという様な代物を、たった1人の力で――それも、足場の利かない不安定な空中でだ。あたし、あの人にアイアンクロー喰らって、よく粉々にならなかったわね…


 ――ビシッ!!バシシィッ!!ビキビキビキッ!!


 ともあれ、深々と突き立てられたその槍を中心に、氷壁に巨大な亀裂が何本かまず走った。更にその大きな亀裂から、まるで枝分かれするかの様に大きな亀裂が何十と走り、またそこから派生して何百、更に更にと小さい亀裂が何千と走った。


 その亀裂が、巨大な氷壁の隅々まで行き渡る頃には、細々とした亀裂は何万、何億となっていた事だろう。もうこれ以上亀裂が入らないと思う位に、隅々まで行き渡った直後――


 ――ガシャアアアァァァーンッ…


 ――あれだけ巨大な質量を持った氷壁が、ガラスが砕ける様な音を響かせながら、無数の細氷に姿を変えて弾けた。あたかも、最初からそこに存在していない、幻影だったかの様に…


 やれやれ…あたしの頭が、下手したらこうなってたかと思うと、本当にゾッとするわね。


 なんて事を、太陽の光に照らされキラキラと輝く細氷舞う中心で、槍を放った雄姿の彼女を見ながら思う。解っていた事だけど、上には上が居るのだと、まざまざと見せ付けられた気分だ。


 だって言うのに、銀星のように悔しがる気にならないのは、あたしが成長した証拠なのか、それとも最初から適わないと思っているからか。或いは――


 いずれにしても、気を弛めるにはまだ少し早いだろう。なんせ、行く手を阻む氷壁は根元から斬ったけど、それを支えていた根太の部分が、まだ残っているんだから。


「みんなっ!!しっかり何かに掴まって!!」ガゴンッ!!


 直ぐさまあたしは振り返り、船上に居る全員に聞こえるよう、大きく声を張り上げて叫ぶ。直後、海面に残されたままとなっていた氷に船が乗り上げ、船首が斜めに大きく上を向いた。


「ひゃっ!?」

「うわぁっ!!」


 船が大きく傾いた事によって、あちこちから小さな悲鳴が上がる。それを耳にしながら、船が傾いているというのに、まるで何事も無く直立不動のまま、視線を船尾の方へと巡らせる。


 向けた視線の先には、同じく何事も無いように直立して、待機しているオヒメの姿。彼女と眼が合うと同時、それであたしの考えを察したらしく、ニコッと笑って頷いた。


 オヒメがああやって船尾に陣取っているのは、たった1つの役割を果たす為に他ならない。その役割とは――


「風ちゃん!!――」

「――『トルネード・ロア』!!」ヒュゴオオォォォーッ!!


 ――直後、追い風と言うには、余りにも強すぎる風が、斜めに傾いた船を突き上げるかの様に、突如船尾から吹き荒れる。余りにも強すぎるその風は、穂を目一杯膨らませ、氷に乗り上げる速度を加速させる。


「ひぇっ!?」

「きゃっ!!」


 すると、今度はその突風に驚いて、あちこちから再び悲鳴が上がる。みんなを驚かせて申し訳ないけど、内心『これでいい』と思いながら、1人ほくそ笑みつつ空に傾いた船首に向かって振り返った。


 視線を向けた先には、未だキラキラと煌めく細氷の群。()()()()()()()、船はぐんぐんと突き進む。


「I Can――」


 船首が空に向かって傾いた船、突き上げる様に引き荒れる突風、発射台のよう(おあつらえ向き)な形の氷塊、イコール…


「――Fly!!」


 ――ブワッ!!ガガガッ…


 握り拳を突き出し叫ぶと同時、船体が勢いよく宙を舞った。直後に船は、細氷の群の中に一気に飛び込み、氷の粒が船体にぶつかり激しい音を立て続ける。


 けれどそれも一瞬の事。その一帯を抜けると、何処までも続くような青い空が、目の前に広がっていた。


 これぞ必殺!ヴァルキリー式『クー・○・バースト』!!

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