子連れJK異世界旅~異世界怪魚列伝~(4)
話が一段落付いた頃、あたし達の集まる船首に向かって、やって来る人物が居た。沖○艦長――もとい、アルゴ船長だ。
彼の接近に気が付いたあたし達は、その場で振り返り彼へと視線を向ける。
「話は纏まりましたかな?」
「今し方な。そちらの準備はどうじゃ?」
「はい。言われました通り、乗組員達の身体をロープで縛り、船体に結びつけました。砲台の固定作業も、もうじき終わります」
そう言いながらアルゴ船長は、自分の腰回りにも結びつけられたロープを、軽く持ち上げ引っ張って見せる。どうやら、こっちの指示にちゃんと従ってくれたみたいね。
船員達の身体をロープで繋ぐというのも、アクアの操舵同様に、あたし発信だったりする。人工的にあれこれ起こすから、通常よりも何倍も速度が出るから、振り落とされない様念の為にね。
本当は、船員さん達1人1人の衣服に、それとなく触れて眷属化させようかとも思ったんだけど、流石にそこまでの手間は、今回掛けられそうに無いからね。救命胴衣とか有れば安心なんだけど、残念ながらこの船には、それらしい物は積まれてなかったのよね~
そもそも、この世界に在るのかどうかが、まず疑わしいけどね~魔法使えれば1発で解決出来そうだから。
ともあれ、無いなら無いで在る物で対処するしか無い。と言う訳で、応急処置だけどロープで身体と船を縛り付けるよう、船長に伝えるよう言ってあったのだ。
正直、いくら速度が速くなると言っても、実際に体感しないと危機感も伝わらないだろうし、何より思いっきり作業の邪魔になるから、無視されるかと思ってた。けど船長自ら実践してくれた所を見ると、きっと大丈夫だろう。
試した訳じゃ無いから、流石に断言は出来ないけれど、マックスでレース用モーターボート位のスピードになるんじゃ無いかと、勝手に予想している。あれって、最高速度で80キロ位出るんだっけ?
大型帆船でそんな速度出たら、マストの上の人とか、間違い無く振り落とされるだろうからね~必要な措置って訳よ。
まぁ、それもこれも眷属化させたから出来る事なんだけどね。そうすると、眷属化して良かったって事に成るんだけど、うぅ~ん…(まだ完全に納得出来てない奴
その時だった――
「「ッ!」」
――それまで、普通に船長と言葉を交わしていた明陽さんが、突然表情を強張らせたかと思うと、船の進む進路上を突然睨み付ける。そしてそれは彼女だけで無く、無表情だった譲羽さんもまた、今は険しい表情となって、同じ方角を遠く望むように眺めていた。
…いよいよか…
彼女達の豹変っぷりに、その場に居合わせた一同は、一瞬困惑気味の表情を浮かべる。けどすぐに、その意味する所を察したらしく、それぞれが思い思いの表情となって、船の進む先へと視線を向けた。
そんな彼女達よりかはほんの一瞬だけ早く、明陽さん達の反応を目にして、瞬間的にその事を悟ったあたしは、1人そちらへ視線は向けずに、ゆっくり瞳を閉じて深呼吸を繰り返す。そうする事によって、余計な思考が削ぎ落とされていき、今必要な情報だけを選りすぐり残していく。
「…待たせおってからに、ようやく現れたか。」
不機嫌そうに鼻を鳴らした明陽さんが、そう呟いた直後――
「――ベ、ベファゴを目視で確認!!」
――ザワッ
頭上高く、マストの上の見張り台から声が響く。火急を報せるその声が船全域に届き渡ると、緊迫した空気に船上が一瞬で包まれた。
そこでようやくあたしは瞳を開いて、みんなと同じように航路上へと視線を向けた。けれど向けた先には、未だ水平線しか見えな無かった。
ま、あたしの目線よりもずっと高い位置にある、マストから見てようやく見えたんだから当然だけど。
「…どうやら、いよいよのようですな。」
肌に突き刺さる様なピリ付いた緊張感の所為で、誰もが黙り込み静まりかえる中、不意にアルゴ船長が穏やかな口調で言葉を発した。それを耳にし、その場に居た全員の視線が、彼へと集まる。
見ると彼は、まるで落ち着き払った様子で、ニコニコと温和な笑顔を浮かべていた。これから激しい戦闘が起こるかも知れないというのに、何とも頼もしい限りだ。
まぁ下っ端の兵士ならば兎も角、上に立つべき人間がオドオドビクビクしていたら、それはそれで士気に関わるか。
「そのようじゃな、アルゴ船長。この船の活躍、期待しておるよ?」
「ハッハッ、スメラギ様に期待されるとは、恐悦ですなぁ。その期待に応えられるよう、我等も努力せねばなりますまい。」
そんなアルゴ船長の様子を見て、ニヤリと意味深な笑みを浮かべて、圧に似た檄を飛ばす明陽さん。けれどもそこは年の功か、まるで意に介した様子が無い。
何この腹の探り合いみたいな雰囲気、怖っわ。狸と狐の化かし合いって、きっとこんな感じから始まるんだろうなぁ~
「戦闘が開始されたなら、そちらのエルフ殿の指示に従うよう頼むぞ。」
「解りました。ではこの辺りで失礼させて頂きます。」
「うむ。」
明陽さんの言葉に首肯して見せたアルゴ船長は、被った帽子の鍔を持ち上げ軽く会釈しそう告げると、その場でくるりと身体を反転させる。そして――
「総員!戦闘配置に着け!!」
「ハッ!総員戦闘配置!!」
――直後、それまで温和な態度で受け答えをしていた人物とは、まるで思えない程の怒号を上げて、部下へと指示を出すアルゴ船長。その声が響き渡るや否や、それまで船上に横たわるように重くのし掛かっていた、ピリ付いた緊張感が一瞬にして消え去り、慌ただしい活気が再び蘇る。
ただの一喝で、船員達が抱いただろう不安や恐怖を、一蹴してしまうなんて…何とも凄い人だ。
「…さて、ではこちらも配置に着くとしようかのう。」
船長が船首から去って行くのを見届けた後、明陽さんのその言葉を切っ掛けに、あたし達もいよいよ行動に移る。あんなの見せられたんじゃ、こっちも負けてられないもんね。
「えぇ。アクアさん、お願いしますね。」
「は、はい!」
「オヒメと風も頼んだわよ?」
「うん!――」
「――が、頑張ったら褒めてくれる?ママ…」
唐突に、オヒメの姿を借りた風華が、モジモジしながらそう聞いてくる。その姿を前にあたしは、目をぱちくりさせた後、フッと表情を緩ませ笑いかけた。
「もちろんよ。頑張ってね、風。」
「う、うん!――」
「――むぅ!風ちゃんばっかずるい!!ねぇねぇママ!姫華も姫華も!!」
あたしの返事を聞いて、はにかんだ笑顔を見せたかと思うと、今度はオヒメが表に出てきて、まるで風船の様に頬を膨らませた。やれやれ全く、なんて騒々しくて忙しなく、それでいて愛おしく可愛らしい子供達なんだろう――
「もぅ、解ってるってば。それよりも、ちゃんと気を引き締めなさいよ?」
「はぁ~い!!」
そんな彼女達の愛らしい姿を前に、呆れながらに苦笑を浮かべ返事を返し、けれど甘やかしてばかりも居られないので、釘もしっかり刺しておく。そんなあたしの返事に満足したのか、オヒメはニッコリ満面の笑みを浮かべて、元気よく手を上げて返事を返した。
――ほんと、手の掛かる子程愛おしいとは、よく言ったものだ。
「…では手筈通りにな。頼んだぞ2人共。」
「はい!」
「うん!」
そして一拍置いた後、不意に明陽さんが少し柔らかい口調で2人に言葉を掛ける。その言葉を受けて2人は、力強く頷いて返した後、駆け足でそれぞれの持ち場へと向かっていった。
「…では参ろうか。」
「えぇ。」
「はい。」
それをその場で見送った後、再び明陽さんの言葉を切っ掛けに頷き合った。直ぐさまあたしは、視線を再び航路上へと移す。
けれどまだ、それらしい影は見えなかった。けれどそれで問題ない、別に気がはやってベファゴの姿を探している訳では無いからだ。
あたしは呼吸を整え瞳を瞑ると、この船全体へと意識をへと向ける。直後、頭の中にこの船の見取り図が鮮明に現れ、ベファゴの接近・戦闘に備え船員達が、まるで蜂の巣を突いた様な騒ぎで、見取り図上で行き交っう姿が映し出される。
船の掌握は、これで完了。これより先は、あたしの意思で舵取りが出来る。
1人それを確認した所で、脳内に現れた見取り図上で、オヒメとアクアがそれぞれの位置に着いたのを感じ取る。それを理解した瞬間、あたしは固く閉ざした両の眼をゆっくり開き、徐に片手を上げて2人に合図を送る。
直後――
「いきますよぉーっ!!」ズザザザァァァーンッ!!
――アクアの声が響くと同時、潮の流れが途端に速くなり――
「風ちゃん!!」ヒュゴオオオォォォーッ!!
――オヒメの一言で、背中を押すような突風が突如吹き抜けたかと思うと、次いで船体のギアが一段上がったかのように加速する。すると頬を打つ風も一段と強くなり、それによって髪が後方へと掠われて棚引きだす。
とりあえず、船艦戦で言う所の第1戦速って所かしらね。こっから徐々に慣らしていかなきゃ、船員さん達が危ないし。
まぁ、初っぱな最大戦速ぶっ込んで、みんなに『この位速度出るから気を付けて!』って、警告するのもアリっちゃアリなんだけどね。エイミーに止められました(当たり前
「…ふむ、まぁまぁ速いでは無いか。」
不意に聞こえた呟きに、棚引く髪を手で押さえ付けながら振り返る。見るとそこには、先程眷属にしたばかりの繊月と鉄弓を手に、愉快そうな表情で航路上を見据える明陽さんの姿があった。
「試し撃ちですか?」
その姿を前にあたしは、苦笑を浮かべながらそう問い掛ける。すると彼女は、こちらに視線だけを向けてきて、ニヤリと口角を吊り上げ獰猛に嗤う。
「感謝しとるよ。こちらに来てから、鉄矢の補充が大変でのぉ。向こうから持ち込んだ鉄矢は、これが最後じゃったんじゃよ。じゃから実際、この矢で打つのは実に数十年ぶりじゃ…」
そう言いながら彼女は、鉄矢を繊月へと番え一気に引き絞る。あんな小さな身体の何処に、鋼鉄製の弓を引く膂力があるのだろうか?
本家筋の人達なら、出来て当たり前の光景なんだろうけど、分家の人間から見たら正直異常だ。なのでよく、分家筋の同年代が集まった時なんかには、話題に出しては恐れたものだ。
「こちらでこさえた矢は…まぁ悪くは無いんじゃが強度がいまいちでな。撃っても手元に戻る魔法の矢なら、もうそれを気にする必要も無いわい。」
「けど、それじゃ連射は効きませんからね?暫くしたらその矢も、複製品が自動で生成されるとは思いますけどね。」
そちらは流石に、オリジナル程の性能は無いだろうけどね。それでも、こっちで創らせたって鉄矢よりかは、強度はきっと上だろう。
「わかっとるよ。それよりまずはとにかく、御主が説明した性能の検証が先じゃろう?」
そう語る彼女の表情は、まるで血に飢えた獰猛な獣のようだ。おっかないなぁ、まったくもう…
けれど、あたしもその性能については興味がある。彼女の言う性能というのは、眷属にした弓矢の特性についてだ。
…別に、射貫かれたらスタンド使いには成らないよ?成れたら素敵だと思うけどね(ぇ
まず弓の方だけども、こちらは眷属にすると例外なく魔弓に変化するようだった。魔弓とは書いて字の如く、魔力を矢に変換して放つ魔道具の事だ。
この世界の魔弓は、弓本体に使用者の魔力を流し込む事によって、魔力の弦が現れる。それを引く事によって、周囲に存在する魔力を収束するという代物らしい。
収束させると言っても、まさか無尽蔵にと言う訳では無く、魔弓本体の性能と使用者の能力によって、集められる魔力の量というのは決定するらしい。だから当然、使用者が魔力を扱えなければ使用する事さえ出来無いし、魔弓と使用者の組み合わせによっては、全然大した事も無かったりするらしい。
ではそれを踏まえ、眷属化した弓はどうかと言うと、こちらは魔力を込めずとも既に弦が在る。なので、弦を引いた側から魔力の収束が開始される。そして、肝心の収束させる事の出来る魔力量については、矢として放つ事の出来る下限値から、その弓が収束して耐えられる限界値までが存在する。
この値の中間より下辺りが、何もしない状態での魔力量になる。それ以上から、それこそ限界値迄を引き出す為には、使用者が魔力を込めなければいけない。
この時点で大分チート武器に仕上がってますね♪何より、魔力使えない人でも、手軽に使えるってこの性能がヤバい。
何せ魔弓って、要するに無属性の魔力弾を放つ様な代物で、しかも基本的に百発百中らしいのよ。その変わり、この世界に元々存在していた魔弓は、扱う条件が厳しかったり、能力が安定しなかったりで、結局物理の弓矢の方が良いじゃんって感じだったんだけど。
けど、眷属化した事によって、その難点が全て解決された挙げ句、魔力弾に属性付与する事も出来る様になる。つまり、昨日まで畑仕事に精を出して、魔力も殆ど無かったような人達が、今日からLet's魔法少女なう(何故使用者が少女限定なのか
普通にヤヴァイよね?けど、これ位はまだまだ序の口だったりするんですよ…




