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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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子連れJK異世界旅~洋上の異世界クルーズ~(8)

 次第に羨む様な表情を見せる彼女に、苦笑を浮かべつつそう問い掛ける。そんな顔をされて知らん顔したら、2人を依怙贔屓したみたいになっちゃうもの。


 甘いと言われたばかりだけれど、こうなったら2人も3人もそう大差ないもんね。と言うか、可愛子ちゃん達を甘やかして何が悪いってのさ?(親馬鹿の思考


 きっと次の瞬間には、顔を綻ばせて喜んでくれる筈。そう思い投げかけた問いかけに、しかしあたしの予想に反して彼女は、まるで悪戯が見つかった子供の様に、慌てふためきオロオロし始める。


 それを不審に思い訝しがり見ていると、あたしのその視線からまるで逃れるかの様に、風華は再び髪の中へと潜り込み、そして――


「――あたち、このままで良い…」

「え!?ど、どうしたの急に?」


 耳元で囁かれた、消え入りそうなその声。それを耳にして思わずあたしは、戸惑いを隠しきれずに狼狽えながら聞き返す。


 けれど、暫く待ってもその問いに対する返事は返ってこない。うんともすんとも言わないその様子は、さながら固く口を閉ざした貝の様だ。


 本当にどうしちゃったのかしら、(ふー)。急に元気が無い――というか、ふて腐れてる?


 その態度が気になったあたしは、先程銀星達にした様に、彼女の内側へと意識を向けてみる。そうして解ったのは、今現在彼女が強い不満感を抱いていると言う事だった。


 てっきりあたしは、内気な風華の事だから、自分から言い出せないだけだと思っていたけど、どうやら違うみたいだ。けれど、なら一体彼女は、何に対し羨望の眼差しを向けていたんだろうか?


 いくら眷属達の情報を読み取れるとは言え、流石に何を思っているのか迄は解らない。まぁその方が良いんだけれど、中途半端に心理状態が解るって言うのは、こちら側もやきもきして不安に駆られる。


 ――くいっ…


「…うん?えっ!?」


 そんな風に、風華にばかり意識を向けていた所、突然背後から服を引っ張られた気がして、視線をそちらへと移す。すると、さっきまでエイミーの背後に隠れていた筈のオヒメが、頬を膨らませながらあたしの服の裾を掴み、だと言うのにあたしとは視線を合わせない様、そっぽを向いている姿があった。


 それは見るからに、態度で以て自身の不平不満を訴える、ふて腐れる子供の姿そのもの…


「ちょ、あんたまで…一体どうしたのよ2人共、言いたい事があるんだったら、ちゃんと言いなさい。」


 そんな2人の態度を前に、訳も解らず困惑気味に問い掛ける。けれど、2人から返事が返ってくる事は、待てど暮らせど一向に無い。


 所かオヒメに至っては、あたしの言葉を聞いた途端、今にも破裂しそうな位に顔を真っ赤にさせながら更に頬を膨らませ、眉根をこれでもかって位につり上げ、見る見るぶちゃいく顔になっていった。何を怒っていらっしゃるんだか知らんけど、あたしや妹によく似た顔で、そんな表情しないで欲しいんですが…


 それは兎も角、その『なんで解ってくれないの!』と言わんばかりの態度に、まるで理解が追い着かず、ただただ困惑するばかりだ。と言うか、まさかこんな反抗的な態度を見せるなんて、まるで思いもしなかったから、状況を整理するだけでもう精一杯だ。


「フフッ」

「な、何よエイミー、急に笑い出して…」


 そんな中、急に笑い出したエイミーへと、不満げに眉をつり上げながら視線を向ける。あたしが困惑する姿が、そんなに楽しいのだろうか?


「あ、ごめんなさい。気を悪くしないで下さいね?2人共優姫の事が、本当に好きなんだなぁと思ったら、何だか可笑しくって。」

「は?どゆ事??」


 不満げに向けたあたしの視線を受けて彼女は、取り繕う様にそう言い訳を口にするけど、その意味する所がまるで理解出来ず、間の抜けた声で聞き返していた。その返事を受けてエイミーは、可笑しそうにクスリと笑った後、顔を真っ赤に頬を膨らませるオヒメに優しい眼差しを向けた。


「…以前、帝都に向かう馬車の中で、ルージュさんが言っていた言葉を覚えていますか?」

「ルージュさんが…?」


 彼女にそう問われるも、流石にすぐには思い出せず、はてと首を傾げる。暫くそうしていると、何時もの困った様な笑顔をあたしに向けくる。


「ほら、オヒメちゃんがイフリータ様の加護を受けているという事に、正直羨ましいと言っていたじゃありませんか?」

「あ、あぁ!そう言えば!!」


 彼女にそこまで言われて、ようやくその時のやり取りを思い出す。確かにあの時、ルージュさんはそう言って、加護を受けたオヒメの事を羨んでいた。


 実子である自分達でさえ、直接イフリータから加護を授かっていないとも…


「きっと2人共、銀星ちゃん達に優姫を取られちゃうんじゃ無いかって、そう感じたんじゃ無いですかね?精霊達からして見れば、精霊王の加護は親の愛情その物ですから。」

「…そうなの?」


 エイミーにそう言われ、2人に対しそう問い掛けてみる。けれど、相変わらず返事は返ってこない。


 ただ、それまで頬を目一杯膨らませ、顔を真っ赤にさせてふて腐れていたオヒメは、今は違った意味で顔を真っ赤に染めてそっぽを向いている。髪の中に隠れている風華も、なにやらあたしの髪の毛を束にし、ギュッと抱きしめている様子だった。


 …成る程、そう言う事か。急にふて腐れるから、驚いて難しく考えていたけれど、単に甘え下手だったって言うだけの話か…


 普段あまり見せない反応の上、なまじ中途半端に心理状態が探れるもんだから、気が動転してそんな単純な事にさえ、気付けなかったんだろう。オヒメは見た目が大人びてしまったし、風華も聞き分けが良いけれど、まだまだ甘えたい盛りの甘えん坊ちゃんだって事を、今一度胸に刻みつけておこう。


 けど良かったわ…身体が大きくなった途端、急に反抗期が始まったんじゃないかって、正直焦ったっての。


 けどそっか~つまり2人共、構って欲しいの気が付いてもらいたくって、けど素直に言うのも恥ずかしいからむくれてたって訳か。何それ、か~わ~い~い~!!


 うちの子達、マジ天使!(親馬鹿の思考


 けど、ならなんで――


「――(ふー)は、あたしの加護を拒否したのかしら?」


 2人がふて腐れていた理由は解った。けどそうすると今度は、別の疑問が浮上し、思わずそれが口を突いて出てしまう。


「そりゃそうですよ――」


 そんなあたしの疑問に対し、まるでさも当然と言わんばかりの、あっけらかんとした反応を示したのは、誰在ろう水の上位精霊であるアクアだった。


 前々から思っていたけれど――


「――姫華ちゃん達は、まだ姉妹の数が少ないですけど、何十人と居る他の姉妹達を差し置いて、ママの加護を授かろうなんて思いませんよ。」


 ――この子、長い年月生きてきた割に、ちょっと…いや大分、おつむが残念なんじゃ無いだろうか…


「ママ達精霊王様方も、特別誰かを贔屓なんて出来ませんから…」

「…なぁ、残念精霊。」

「ハァッ!?なッ!!ざ、残念精霊って私の事ですか!?」


 他に誰が居るって言うんだろう…


「その説明、なして今このタイミングでするかな…」

「な、なんでって、優姫さんが気にしてたから…」

「じゃなくて、銀星達に加護を与える前に教えてよ、そう言う事は…」

「そ、そんな事言われても、お願いされて1も2も無く応じてたのは、優姫さんじゃ無いですか!」

「うっ…」


 それは…まぁ、確かに…


「それに…銀星ちゃん達は、私達とは産まれ方が違うし、そう言うの我慢しないんだなぁって…私もちょっと羨ましくって…」


 そう言って続けるアクアの表情が、みるみる昏く沈んだものへと変わっていく。それを見て尚、強気で居られる程あたしの神経は太くも無く、バツの悪さを感じて視線を彷徨わせる。


 そんなあたし達のやり取りを見かねたエイミーが、何時もの困った表情で苦笑すると、今にも泣き出しそうなアクアへ近づきその身体を抱き寄せる。そして、落ち着かせる様に背中をさすりながら、その表情のままこちらへ視線を向けてくる。


「…ごめん。流石にちょっと言い過ぎたわ。」

「本当ですよ、もう…アクアさんも、優姫に精霊達の常識が通じる訳が無いんですから、さも当たり前の様に言ってはダメですよ?」

「はい…私も配慮が足りませんでした。ごめんなさい…」


 促されながらにしろ、互いに非を認め合い謝罪の言葉を口にする。あたし達の所為で、部屋の雰囲気がちょっと悪くなりかけたけど、彼女が何も言わず仲裁に入ってくれたお陰で、これ以上悪化せずに済みそうだ。


 とは言え、すぐに元通りとは流石にいかず、何とも気まずい雰囲気が流れていた。その最中――


「あ~ぁ、どうすんのさぁ~銀?なんか雰囲気が悪くなっちゃったよぉ~?」

「なっ!?わ、私の所為だって言いたい訳!?」

「えぇ~?だって実際そうじゃ~ん?銀の我が儘が、そもそもの切っ掛けなんだしぃ~」


 ――気まずい雰囲気を敢えて壊すかの様な、なんともマイペースな掛け合いが聞こえてくる。それを耳にしたあたしは、これ幸いと会話に加わるべく、背後に向けていた視線を前方へと戻す。


 そうして向けた視線の先には、今や幼稚園児程の背丈にまで、成長した夜天と銀星の姿があった。どうやら無事、中位程度まで位階を高める事が出来たらしい。


「な、何よ!?私達がパワーアップすれば、その分マスター達のお役にだって立てるんだし!!」

「えぇ~?勢いに任せて誤魔化そうなんて、らしく無いじゃ~ん。素直じゃないんだからぁ~」

「べ、別に誤魔化そうだなんて思ってないわよ!!私はただ客観的に――」

「ま、まぁまぁ!落ち着きなさいってば銀星!!」


 普段殴る蹴るの暴行を受けているお返しのつもりか、意地の悪い笑みを浮かべる夜天は、狼狽えている銀星をここぞとばかりにイジって、反応を楽しんでいるご様子だ。当人はじゃれてるつもりなんだろうけど、真面目な銀星にそれは流石にまずいってば…


 案の定、食って掛かりそうな勢いとなった彼女の言葉を、無理矢理割り込んで遮った。全く、気まずい雰囲気壊すどころか、こっちはこっちで喧嘩勃発とかマジ勘弁。


 ふと、事の成り行きを見守っていたらしい明陽さんと目が合った。そんな『何やってんだ』みたいな冷めた目で、見んといて下さい…


 ちょうどその時だった――


「――うん?」


 この船を眷属化した影響だろう。まだ大分離れているというのに、明確にこの部屋を目指して近づいてくる者の気配を察知したあたしは、訝しがりながら部屋の外へと通じるドアへと視線を向ける。


「優姫?どうかしたんですか?」

「…どうやら、そろそろ時間のようじゃな。」

「みたいですね。」

「え?あっ…」


 直後、同じくドアへと視線を向けながら呟く明陽さんに、あたしが答えたところで、エイミー達もどうやら察したらしい。その瞬間、室内の緊張感が一気に高まった。


「あれぇ~?みんなどうしたのぉ~?」

「マスター、一体何事ですか?」


 そんな中、まるで状況に着いて来ていない子が約2名。さっきまで精霊界に居たんだから、状況が飲み込めないのも仕方無い。


 けどごめんね。後でちゃんと説明するから、ちょっとの間蚊帳の外で待っててね~


 ――コンコンコン「ご歓談中の所失礼します。」


 待つ事数秒、部屋に近付く人物の気配が、ドアのすぐ向こう側に感じられたその直後、ノック音と共に若い男性の声が室内に響く。聞き覚えのあるその声の主は、この部屋まで案内してくれたあの船員さんの様だった。


「構わんよ。で、そろそろ頃合いかのぉ?」

「はっ!間もなく目視で確認出来ると思われる、予想海域に到達します。つきましては、皆様の練られた作戦内容を我々にも教授頂きたく、甲板までお越し頂けますでしょうか?」

「解った。支度を調えすぐに向かうと、船長に伝えてくれるかえ?」

「はっ!了解しました!!」


 そう告げると船員さんは、やって来た時と同じ歩調で、甲板の方へと向かって去って行った。とりあえず、終始ドア越しの対応でごめんねと、心の中で謝っとこう。


「…と言う訳じゃ。ほれ、おぬし等とっとと支度せい。」


 船員さんが去ったのを確認した直後、ニヤリと不敵な笑みを浮かべそう告げる。けど実際、支度って言われてもねぇ~


 ってか、そもそも作戦らしい作戦、なんか立てたっけ?


「ねぇねぇマスタ~」

「あの、一体何が起きているんですか?」

「あぁ、うん…フフッ」


 そんな事を考えていると、不意に呼びかけられて振り返る。そしてあたしは、見慣れぬサイズにまで成長した夜天と銀星の、きょとんとした表情が何だか可笑しくって、思わず笑みを浮かべていた。


 今更だけど、本当に成長しちゃったのね~寂しい様で嬉しい様な、何だか複雑な気分だわ。


「えぇ~なんで笑うのさマスタ~」

「そんなに変ですか?マスター…」

「ごめんごめん、変じゃないから安心しなさい。それよりも、ちゃんと説明したげるから、とりあえず2人共いらっしゃい。」カッ!!


 訝しがる2人に対しそう告げた瞬間、成長したばかりのその身体が突然眩く輝いたかと思うと、光の軌跡を描きながら両腰へと飛来する。


『えぇ!?』

『おぉ~?』


 驚く2人の声を脳裏に聞きながら、戸惑う2人の様子に苦笑を漏らしつつ、直ぐさま視線を巡らせる。


「…オヒメ、(ふー)をよろしくね?」

「うん!風ちゃん来て!!」カッ!!


 そしてオヒメに視線を向けそう告げると、先程までのふて腐れ顔は何処へやら、自信満々に頷いてあたしに向かって手を翳し告げる。直後、あたしの髪の中から緑色の光が迸り、翳した手の平へと吸い込まれ、次第に風華の核となっている青龍偃月刀へと変化していく。


 するとその瞬間、オヒメの身体も同じく緑色の光りを放つ。それが収まる頃には、彼女の紅蓮の様に紅い髪の中に、メッシュの様な緑色の筋が混じる。


 これが、エイミーの言っていた…


「…(ふー)なの?」


 訝しがりながらあたしがそう問い掛けると、元気だけが取り得みたいなあのオヒメが、急にモジモジし始めたかと思うと――


「う、うん…ママ…えへへ…」


 ――恥ずかしそうに俯きながら、消え入りそうな声でそう答えてくる。その仕草や表情は、紛れもなく風華のそれだ。


 正直、ただでさえその仕草に違和感が半端ないって言うのに、更にその手にはごつい偃月刀があって、しかも恥ずかしそうにモジモジしてるから、なかなかにシュールな光景だ。けど、それがかえってアクセントとなり、はにかんだその表情に思わずトゥンク。


 あぁ~もうっ!!うちの子マジ可愛いやぁ~んッ!!(親馬鹿の思考


『マ、マスター!!』


 ハッ!?いかんいかん、今一瞬我を忘れて抱き着きそうになってたわ、落ち着けあたし!!


 そうだった、2人にも状況をちゃんと説明しなきゃだわ…


「えっとね、実は――」

『――べ、ベファゴが接近してるですって!?』

『わぁ~、知らない間に楽しそうな事になってるねぇ~』


 戦闘の準備を着々と進めつつ、2人に現状の説明も行っていく。とは言っても、時間も無いから掻い摘まんで要点だけ伝えただけだだし、準備と言っても、長く伸びたオヒメの髪を結わえるだけなんだけどね。


『いや全然楽しくないから!』

「肝っ玉が据わってて頼もしいわね~夜天は。はい出来た、もう良いわよオヒメ。」

「うん!ありがとうママ!!」


 脳内に響く、2人それぞれの反応に苦笑しながら、慣れた手つきでちゃちゃっと、オヒメの髪を三つ編みにし終える。こんなちょっとした事で、嬉しそうに燥いでくれるんだから、こっちまで嬉しくなってきちゃう。


 そう言えばあたし、こんな腰の長さまで髪を伸ばした事って、今まで無かったなぁ。今までずっと同じ長さだったし、ちょっと伸ばそうかなぁ~


「済んだか?ではそろそろ行くぞ。」ガチャ…

「え?あっ!ちょ、待ってよ明陽さん!」


 仕上がったオヒメの姿を見て、そんな感想を抱いていると、不意に明陽さんがそう告げると同時、部屋のドアを開いて外に出る。慌ててそちらを見てみれば、既にあたし達以外の全員が、ドアの前で勢揃いしていた。


 どうやらみんな、あたし達の支度を終えるのを、ずっと待っていたらしい。銀星達に説明するのと、オヒメの髪を結わえるのに夢中で、全然気付かなかったわ。


「ほら、いくわよオヒメ。」

「えへへっ!うんっ!!」


 まるで微笑ましい物でも見るかの様に、笑みを浮かべて待つのは、これから共に闘う仲間達。彼女達に遅れまいと、嬉しそうに笑うオヒメの手を引いて、あたしは慌てて駆け出した。


「やれやれ。これから本番じゃと言うに、暢気じゃのぉ~」


 そんなあたし達の様子を、苦笑しながら一瞥しつつ嫌味を告げると、あたし達が辿り着くよりも先に、譲羽さんを伴って扉を潜り歩き始める明陽さん。直後、エイミー達と合流し、彼女達を伴い部屋を出る。


 いよいよ、そのベファゴって言うのとご対面か。一体どんな化物なのかしら…と、そう言えば…


「ねぇエイミー?」

「はい?何ですか?」

「聞きそびれてたんだけど、結局そのベファゴってのを退治しない3つ目の理由って、一体何なんなの?」


 ふと、今になって思い出した疑問の答えを知りたくなり、隣を歩くエイミーへと話掛ける。すると彼女は、何故か何時もの困った表情のまま固まって、それ以上語ろうとはしなかった。


「あぁ、3つ目か。3つ目の理由はのぉ~」


 そんなあたし達のやり取りを、耳聡く聞いていたらしい明陽さんが、彼女に代わってその答えを告げるべく声を上げる。その声に振り向くと、甲板へと続く上り階段の入り口付近でわざわざ立ち止まり、そこから振り返って意地の悪そうな笑みを浮かべる彼女と、まるで図ったかの様なタイミング目が合った。


 え、何?何でそんな笑ってんの??


「ベファゴを痛めつけて追い返すと言ったが、もっと具体的に言うなれば、彼奴の尻尾を何本かぶった切るんじゃよ。」

「はぁ…って、尻尾が何本も生えてんの?そいつどんな化物よ?」


 余りにも当たり前の様に、事も無げにそう言われて、思わずすんなり受け入れそうになったけど、ここに来てそれまで勝手に想像していたベファゴ像が一気に崩れ去った。そういやあたし、なんで退治しないのかにばかり目がいってて、1番最初に聞くべきだろう姿形を聞くの、完全に忘れてたわ…


 まさかの触手系とか言わないよね?だったらちょっと、やだなぁ…


「それは折角じゃ、これから自分の目で確認せいよ。問題はそこでは無く、ぶった切った尻尾をどうするかじゃ。」

「どうするかって…武器や防具にでもするの?」

「骨や皮なんかはそうじゃな。では肉は?」

「肉って…え゛っ!?」


 意味ありげな様子でそう呟かれれば、何を言いたいのか嫌でも解るってもんだろう。色々察したあたしは、先程固まって何も語ろうとしなかったエイミーに対し、驚きの表情を向ける。


「…高級食材らしいですよ?」


 すると彼女は、言いずらそうにしながらも、ベファゴの肉の活用法を口にした。その活用法は、正にあたしが思い至った考えと、全く同じ物だった。


 まさかの食用…あれ?女神教だと崇拝の対象とか言ってなかったっけ?


 そりゃ、エイミーみたいな信心深いエルフからすれば、口にするのも憚られるだろう。なんせ、精霊教で置き換えて言えば、神獣や精霊王の身体の一部を、ちょん切って食べる様なもんだもの。


 ま、まぁでも、流石に女神教の人達は、そうは言っても食べたりしないよね?アレ?でも魔神教って、元々女神教と1つじゃ無かったっけ?


 え~?う、うぅ~ん…接近しただけで、パニックに成る程恐れてる癖して、一方では崇めといて、お肉は勿体ないから美味しく頂きますって、そう言う事?せ、節操ないなぁ…


「どうじゃ?この世界の者達は、なかなかに逞しかろう?」


 あたしがドン引きしているのに気が付いたのか、その反応をまるで楽しむかの様に、ニヤニヤしながらそう告げると、明陽さんは甲板に通じる階段を上り始めた。彼女が何でそんな楽しそうなのか、正直あたしには理解しかねる。


 そんなあたしが言える事は、ただ1つ…


「逞しすぎでしょうよ、ほんと無いわ~」


 今更だけど、あたしが思い描いた異世界物の世界観と、大分ズレてるんですけど…クレームって何処にすれば良いですかね?

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