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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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子連れJK異世界旅~洋上の異世界クルーズ~(7)

「えぇっ!?いや、そんな事言われても…」

「あれぇ?なんかいつの間にか、わたしまで巻き込まれてる…」


 まるで聞き分けの無い子供の様に、駄々をこね始めた銀星を前に、あたしと夜天はただただ困惑する。反応に困っているあたし達に対し彼女は、突然キッとキツい眼差しになったかと思うと、羽交い締めにする双子の姉を睨み付けた。


「夜天も欲しいわよね!!」

「えっ!?い、いやぁ…」

「欲・し・い・わ・よ・ね!!」

「は…はい…」


 そして、有無を言わせぬ勢いで夜天へと迫り、強引に同意の言葉を引きずり出した。こうまで彼女を豹変させる程、成長出来無かった事が悔しかったんだろうけど、流石にこれは…


 ふと、彼女を羽交い締めにする夜天と視線が交錯する。


 『ちょっとお姉ちゃん、押し切られてないでどうにかしなさいよ』と視線で送る。すると直ぐさま『いやいやムリムリ、お手上げお手上げ』という感じで、彼女は首を横に激しく振り出した。


「…加護って言われてもねぇ…」


 その返事を受けあたしは、軽く嘆息しつつ思わずぼやきながら首を傾げる。今の銀星を宥め賺すには、どうやらそれ以外に方法は無いみたいだ。


 とは言え、『欲しい!』と言われて『はい、どうぞ』と与えられる物なんだろうか?と言うかそれ以前に、どうすれば与えられるかが解らない。


 恐らくだけど、さっきのアクアの言い方からすると、精霊王から産まれた精霊達は、その加護を大なり小なり持っているだと思う。それを強化すれば良いのかしら…


「あの…」

「うん?」


 そんな風にあたしが考えを巡らせていると、怖ず怖ずと言った雰囲気でアクアが声を上げる。それに気が付き、思考を一旦止めて振り返る。


「加護がどういった物か解らないと言った様子ですけど…優姫さん普通に出来てますからね?」

「へ?」


 困惑気味に告げてくるアクアに対し、目を丸くしながら間の抜けた声で返事を返していた。その言葉が、あたしにとって余りにも予想外だったからだ。


 普通に出来てるって…え、どういう事?


()()()()()()()やってたじゃ無いですか。」


 意味も解らず呆気にとられていた所、続けざまアクアにそう言われて、そこでようやく思い当たる節に行き当たり、あたしは自分の手の平に視線を落とした。


「眷属化?」

「はい。加護って言うのは本来、巨大な力を持った存在が、在る種の効果が発揮される魔術を、人や物に付与させる行為の総称なんです。それが良い効果だったら加護ですし、悪い効果なら厄災になります。」

「確かに。その理屈じゃと優姫の眷属化は、儂等からしたら加護に当たるのぉ~」

「えぇ、そうですね。眷属以外の種に与える精霊王様方の加護といえば、武器防具が一般的ですし。」


 確認する様に呟いたあたしの言葉に、補足する様にアクアがそう続け、そこに納得した様子の明陽さんとエイミーの相づちが加わる。どうやら2人も、加護についてはそこまで詳しくない様子だ。


 それぞれが加護持ちの2人だけど、精々『便利な能力』位の認識なんだろう。そのテーマで研究出来る位、加護が与えられた物で周りが溢れかえってれば、誰かが詳細を纏めてもくれるんだろうけど、そう言った性質の能力でも無いだろうし。


 それに、そんなんじゃ折角の便利な能力だって、ありがたみが薄れるってなもんだろう。それをあたしは、知らないうちにホイホイやっていたって言う事に成るのか…


 まぁ、過ぎた事は良いとして、それよりも今は…


「じゃぁ、あたしは知らない内に、銀星達にも加護を与えてたって言う事よね?ならもう2人には…」


 そう言いかけた所で、もの凄く落胆した表情と成った銀星と目が合い、思わず出かけた言葉を飲み込んだ。この先を言うとなると、いよいよ銀星が泣くかもしれない。


 …それはそれで見たいなんて思ってないよ?


 けれども、どうやらあたしのそんな心配は、どうやら通り越し苦労に終わりそうだった。


「あっいえ、その心配は要らないと思いますよ?」


 直後に聞こえたアクアの言葉に、落胆から影を落とした銀星の表情に、僅かな光が差し込んだ。


「どういう事?」

「さっきも言いましたけど、加護って言うのはある種の魔術ですから、大本になっているのは魔力なんですよ。だから、受け取る側の器が小さければ、その器に見合った効果しか発揮されません。多分ですけど、優姫さんの眷属化も器となる武具によって、必要となる魔力が違いませんか?」

「えぇそうよ。同じ位の大きさでも、例えば古い物や新しい物、こっちの世界で作られた物かあたし達の世界の物か、複雑な機構の物か単純な物かで、必要となる魔力量が違うわ。」

「ママが言うには、物質に加護を与える場合は、それが特に顕著らしいんですよ。銀星ちゃん達も元となったのが武器である以上、それは変わらないと思うんですけど、でも優姫さんが今まで眷属にした物と、決定的に違う点がありますよね?」


 そう言われ、改めて銀星達を目で愛でながら、はて?と首を傾げる。今にも泣き出しそうな愛らしい表情、すらりと健康的に伸びた手足、理想的なボディーライン…


 頭の天辺からつま先まで、まるで絵に描いた様なべっぴん姉妹の抱擁シーン。お人形サイズだから、都の条例には引っかかんないよね?


「2人共、身体を手に入れていますよね?」

「あっ!」


 なんて馬鹿な事を考えて居た所で、アクアにそう言われてようやくその事を思い出す。既に見慣れてしまい普通になっていて、その事をすっかり失念していた。


 元々彼女達は、オヒメや風華の様に、微精霊ありきから成長した精霊では無く、元々意思の宿っていた武器が、ヴァルキリーの魔力を自ら進んで吸収して、精霊として昇華した希有ま存在だ。言うなれば、意思に魔力が肉付けされたと言っても良い。


 その肉体を構成しているのがヴァルキリーの魔力で、加護となってる魔力も同じなら…凄く単純な話だけど、元々銀星の中にあるんだろう加護に関わる魔力量を、追加してあげれば良いって言う事か…


 それはさながら、焚き火に薪をくべて火力を増させる様に…考えてみれば、魔力を元に産み出した複製品(レプリカ)に、追加で魔力を注いで形状や能力を変化させるのも、それと同じ様な事よね。


「マスター…」


 そんな風に思考を巡らせていた所、ふと消え入りそうな声で呼びかけられ、慌ててそちらに視線を向ける。見るとそこには、時間が経ってようやく落ち着いたのか、夜天に寄り添われながら、申し訳なさそうにして宙に立つ銀星の姿。


 その姿を前に、あたしは肩を竦めながら苦笑する。全く――


「――そんな顔されたら、断れる訳無いじゃない。」


 あたしが嘆息混じりにそう告げた途端、まるで火の消えた様子だった彼女に、再び明るい光が灯る。その様子を見て、夜天もホッと胸を撫で下ろした様だ。


 やれやれ全く…おねだりされて拒めないなんて、あたしも甘いわね~今からこんなんじゃ、これから先も思いやられるわね…


「御主、子に甘いのぉ…」


 胸中で自分の甘さに呆れていた所、追い打ちを掛ける様な明陽さんの台詞が耳に届く。ちゃんと自覚してるんで、今はソッとしておいて下さい。


「…ま、とりあえずやってみますか。2人共そこに並んで頂戴。」

「はい!」

「えぇ~ほんとにわたしも?」


 あたしの言葉に、威勢良く返事を返した銀星。しかし夜天はと言えば、それとまるで正反対に難色を示す。


「もしこれで大っきくなっちゃったら、エイミーの太ももで気軽に寝られないじゃん。」


 そして続けざまに、渋い顔でそんな事を言い放つ。どうやらぐ~たら好きな彼女は、妹と違って今のサイズがお気に入りな様子だ。


 そう言えばこの子、何時も気が付くとエイミーの側で寝てるわね。確かにまぁ、ほわほわしてて気持ちいいけどさ。


 けどね?これだけは言わせて欲しいの…


「エイミーの太ももは、あたしんだかんね?」

「は?真顔で何言ってるんですか…」

「な、何だってぇ~っ!?あんな気持ちいいお昼寝スペース、マスタ~が独り占めだなんて横暴だぁ~!!ぶぅ~!ぶぅ~!!」

「フフン、あたしが堪能した後だったら、ちょっとだけ使わせてあげてもよくってよ?」

「クゥ~ッ!!」

「ちょ、私を差し置いて勝手に話を進めないで下さい。私の太ももは誰の物でも在りませんよ…」


 そんな感じで、何の打ち合わせも無しに、呆れた様子のエイミーさえ巻き込んで、夜天との掛け合いを楽しむ。そして、良い感じにオチが付いた所で、夜天に対し微笑みながら、銀星の可愛らしい仕草を顎で指し示す。


「…銀星は、どうしてもあんたと一緒じゃないと嫌なんだってさ。」


 あたしが顎で指し示した、銀星の可愛らしい仕草――夜天の乗り気じゃ無い態度を見てから、ずっとその服の裾を捕まえて離そうとしない。


 それにようやく気が付いた夜天は、一瞬ギョッとした表情に成って目をぱちくりとさせた後、気恥ずかしそうに照れて銀星から顔を向ける。そして一旦間を置き、観念した様子でため息を吐くと…


「…わかったよぉ~もぉ…」


 そう呟いた後、優しい表情に成った夜天が妹に顔を向ける。直後、急に恥ずかしくなったのか、今度は逆に銀星が、顔を真っ赤にしふくれっ面で彼女から顔を背けた。


 やれやれ、見ているこっちが羨ましくなる位、本当に仲の良い姉妹だ事…


「…さ、それじゃ今度こそそこに並んで頂戴。」

「はい!」

「ほぉ~い!」


 仕切り直しと言わんばかりにあたしがそう言うと、今度は何事も無く素直に2人が従った。意識してなのか、2人の右手と左手が硬く握られているのを見て、思わず心がほっこりする。


 それはさておき、並んだ2人に向かって両手を翳すと、そのまま目を閉じ意識をその内側へと向けていく。思い返してみると、今まで散々眷属に出来る武具の情報を読み取ってきたけれど、改めて眷属の情報を読み取ろうとした事は無かった。


 だからここから先は、あたしにとっても未知の領域と言って良い。


「…これは…もっと早くに試すべきだったかもね…」


 そして、途端に流れ込んできた情報量の多さに、思わず眉間に皺を寄せてぼやいていた。何せその情報の中には、彼女達の加護の有無や能力は勿論、精霊にとって一番重要と言っても良い保有魔力量までが、鮮明に読み取る事が出来たからだ。


 それは、最早ゲームで言う所のステータス画面と言って良い。それこそ、身体の採寸から健康状態まで読み取れるんだから、隠し事なんてまるで出来そうに無い。


 ったく、親しき仲にもって概念、もっと取り入れたげなさいよね…他の精霊王達も、こんな風に読み取る事が出来るのかしら?


 ついそんな事を思い、この世界の精霊事情とその今後について思い悩む。けれどそれも一瞬、余りの事についつい脱線しそうになりながらも、当初の目的のため思考を切り替える。


 とりあえず、思った通りあたし――ヴァルキリーの加護が、ちゃんと2人にも備わっているみたいね。なら、そこに向かって魔力を流せば…


 なにぶん初めての事だから、それで正しいのかどうかも不明だ。けど、ひとまず複製品(レプリカ)の能力を書き換える要領で、まずはやるだけやってみる事にした。


 これで何も効果が現れない様なら、風華やオヒメの情報も読み取って、試すだけ色々試してみよう。そう考えながら、翳した手の平から魔力を送り出すイメージを思い描き、閉じた瞳をゆっくりと開いていく。


 するとそこには、さっき見たオヒメの成長する兆し同様、身体を光り輝かせている2人の姿があった。そうなってまで、ちゃんと繋がれた2人の手を見ながら、あたしはホッと胸を撫で下ろした。


「…どうやら、上手くいきそうみたいね。2人共気分はどう?」

「ありがとうございますマスター!大丈夫です。」

「むしろ気持ちいい位だよマスタ~」


 あたしの問い掛けに、しっかりとした口調の2人の返事が返ってくる。どうやら本当に平気らしい。


 それを確認した直後、オヒメの時とまではいかないまでも、2人の身体がジワジワと大きくなり始める。本人達の――まぁ、主に銀星だけど――の希望とは言え、もう小さな彼女達に戻らないのかと思うとやはり寂しい。


 そんな折り、今まで2人にばかり注視して気付かなかったけれど、いつの間にか風華があたしの髪から顔を覗かせ、成長する2人の姿を興味深そうに眺めている事に気が付いた。


「…2人の後、(ふー)にもしてあげようか?」

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