子連れJK異世界旅~洋上の異世界クルーズ~(4)
「それと、忘れん内にこれも返しておくかのぉ。」
オヒメを伴って、いざ武器の山へ挑もうと手を伸ばしたタイミングで声を掛けられ、視線を明陽さんへと再び移す。見ると彼女の翳した手の先に、『収納』から取り出された黒い大きな物体が鎮座していた。
それは、クローウェルズの雑貨屋で見つけた、ハーレー・ダビットソンのVRSCD・ナイトロッドだった。
「あぁ!そうだったわね。色々在り過ぎてすっかり忘れてたわ。」
そう言えば、雑貨屋の中じゃ眷属化出来ないからって、明陽さんに預けたままだったわね。ここに通されるまでずっとバタバタしてたから、もうとっくに眷属化したつもりで居たわ。
金貨20枚もした名車中の名車たって言うのに、扱いがぞんざい過ぎだね!
「優姫、それは?」
背後からエイミーに問われ、肩越しに振り返る。見ると彼女は、小首を傾げながら物珍しそうにハーレーを見ている姿だった。
畜生可愛いな!!(久々
「2人に案内してもらった雑貨屋で見つけたのよ。街に着いてからずっと感じてた気配の正体が、これだったって訳。」
「そうだったんですか。車輪が着いていますし、それも自動で動く乗り物なのですか?」
「そうそう、バイクって言う種類の乗り物よ。結構値段が高かったんだけど、いずれ回収するんなら何時購入しても同じだと思ってね。ごめんねエイミー、何の相談もせず買っちゃって。」
改めて振り返りつつ、まるでプレゼンでもするかの様に、身振り手振りを交えながら経緯を説明していく。さながら今の気分は、故スティー○・ジョ○スってなもんだろう。
「それは構いませんよ。元々、その為に支給されたお金ですし。」
「ありがとう、そう言って貰えると助かるわ。」
「それで、どの位だったんですか?」
「うん、金貨20枚。」
「え゛…」
値段が高いと聞けば、いくらだったのかが気になるのは、まぁ自然な流れだろう。その流れに敢えて持って行く為に、わざとらしく大仰なプレゼンスタイルで説明したんだから。
そのノリのまま、爽やかな笑顔まで添えて、事も無げに掛かった金額を提示する。すると直後、彼女の表情が一瞬強張ったかと思うと、眉間に深く皺を刻んでみるみる険しい表情となり、内心でドン引きしているのが手に取るように伝わって来る。
デスヨネー
そりゃそう言う反応にも成るわよね、うん解ってた解ってた。だって、逆の立場だったらあたしも同じ反応してたと思うもの。
でもそんな事気にせず素知らぬふりして、にっこにっこにぃーなアルカイック的スマイルを続ける。だって、ここでエイミーの反応に気後れして、たじろいだりしたら怒られそうな気がするから。
怒られないにしても、小言を言われそうな気がする。だからここは、『こっちの世界に来てまだ日も浅いし、通貨の価値がいまいち解っていません。テヘペロ☆』みたいな雰囲気出して笑って誤魔化す!
視線が痛いけど気にしたら負けよあたし!
「…やはり、次からは一言相談して下さい。」
「合点承知の助☆」
少しの間の後、重苦しい表情で呻くように呟く彼女に対し、悪びれるどころか努めて明るく振る舞い、おまけに親指まで立ててハキハキ答える。それが逆効果なのは重々承知だけど、どうせ誤魔化すんだったら、もうとことん振り切れた態度で誤魔化そうとか、訳わかんない方向にテンションのスイッチが入りました。
そんなあたしの態度にエイミーは、疲れた様子で深いため息を漏らした。ハッハッハ~お疲れならベットで休憩すると良いよ!(誰の所為かと
ともあれ、話にひとまずの区切りが付いたので、当初の目的だった明陽さんの予備武器眷属化へと戻る。ジープ同様ハーレーも時間が掛かるだろうし、先に数の多い方を減らしちゃうべきだろう。
そう思い改めて武器の山に向き直ると、既にオヒメが眷属化に取りかかっていた。あたしからお願いしておいてなんだけど、見た目幼女がニコニコしながら積み木遊びでもするかのように、ギラリと剣呑な光を放つ刃物を手にする姿は、かなりシュールな光景よね。
そんな今更な感想は、ひとまず横に置いとくとして、何時までもオヒメにばかり任せていないで、あたしもちゃっちゃと取りかかろう。そう思いながら、武器の山に手を伸ばしつつ、途中になっていた話を掘り返す為口を開く。
「それじゃあたしは、風の力を借りて風を起こして、船を加速させれば良いのかしら?」
「それは姫華にでも出来るんじゃろう?ならばそれは、姫華に任せれば良い。」
「うん!姫華頑張る!!」
手近な物――なんでガスマスクなんて紛れてんだ――を手に取り、それに意識を向けながら確認すると、さも当然のようにその案は却下され、これまた当然のように白羽の矢がオヒメへと向けられた。その彼女はと言えば、元気ハツラツ満面の笑みを浮かべ、意気揚々と手を上げ答える。
彼女が率先して上げたその小さな手の中には、まるで似付かわしくない肉厚な軍用ナイフが、危なっかしく握られていた。こんな調子だから、あたしが気を揉むって言うのに、ほんともう…
「…オヒメでも確かに可能だけど、そうすると別の問題が発生するのよね。」
「あん?そりゃ何じゃ、一体??」
「いや、今はこんなちんちくりんだけど――」
「ムッ!姫華ちんちくりんじゃ無いよ!!」
「――風華を装備したら、きっと背丈が伸びるからね。船員さん達にこの子の事見られてるし、流石にごまかせなくありません?」
そもそもあたしから離れたがらない風華が、オヒメに装備されるのを嫌がる可能性もあるけれど、それが解決したとしても残る問題がある。その最たる問題が、今述べた通りオヒメの外観の変化についてだ。
魔力体である精霊達は、身体を構成する魔力量によってその見た目が変化する。中位精霊である現在のオヒメが、下位精霊の風華を取り込めば、必然的にその魔力量が加算されて、身体に変化が現れるはずだった。
まぁ昨日みたいに、夜天・銀星を取り込んだ時程の劇的な変化は、流石に現れないだろうけれど、目に見えた変化になる事が容易に想像出来る。既にオヒメの姿を目撃されている状態で、成長期なんて都合の良い言い訳が、この短時間で通じる訳が無いだろう。
「なんじゃ、そんな事か。」
そんなあたしの心配を鼻で笑うかの様に、呆れた様子で苦笑しながら彼女は、嘆息混じりに呟いた。
「そんなもん、開き直ってしまえば良かろうて。」
「開き直るって…簡単に言いますね。」
「そりゃ簡単じゃ、何か聞かれても、知らぬ存ぜぬを押し通してしまえばええ。その上で他言無用と念押しして、それで終いじゃよ。守護者と好き好んで敵対したい者など、そうはおらんからのぉ~」
そんな風に軽く言う彼女に、今度はあたしが苦笑を浮かべて嘆息する。確かに彼女の言う事も一理あるけど、いくら何でも楽観視し過ぎだろう。
まぁ、それで根掘り葉掘り聞かれなくなるのは間違いないけど、人の口に戸は立てられ無いって言うし、変な噂が立つかも知れない。と言うか…
「協力するって言っておいて今更だけど、人の目があるのにあたしやオヒメが、おおっぴらに協力して平気なのかしら?一応、あたし達の存在は、秘密って成ってるのに…」
ここまで来て本当に今更な気がするけど、あたし達が率先して参加して、正体がバレないかという心配もある。あたしは精霊化しなければ大丈夫としても、中位精霊として成長したオヒメは、今や人の目に触れられる様に成っている。
と言うか、今思えばクローウェルズに入る前に、成長したオヒメが周囲の人にどう写るのか、もっと気にしておくべきだった。見た目も言動も、普通の元気な子供と見分けが付かないし、すっかり失念していた。
なんて思いながら、改めてオヒメへと視線を移す。見ると彼女は、武器の山の前にちょこんと座りながら、鈍く光る刃物を手に持ち、不思議そうに首を傾げながら、あたしを見つめ返していた。
うん。ちょっと間抜けそうな、どこにでも居る普通の子供ね。
「それこそ気にする必要無いわい。一般人からすれば、精霊か人かの区別など出来んからのぉ~」
「そうなの?」
「えぇ、はい。」
あたしがあれこれ考えていた所、鼻で笑われながら明陽さんにそう言われる。その言葉を信じない訳じゃないけれど、確認の為エイミーへと質問を投げかける。
精霊の専門家が居るんだから、そっちに聞いた方が詳しいに決まっている。そう思い視線を向けると彼女は、微笑みながら返事を返してきた。
「先程のギルド職員の女性も、アクアさんが上位精霊だと言われなければ、全然気が付きませんでしたでしょう?」
「あぁ!そう言えばそうね。」
エイミーにそう言われて、今更ながらにその事を思い出す。考えてみれば精霊という存在自体、一般に広く知られている事がないって、事前に彼女からそう教えられてた。
なら、一目でそれが精霊だと判別する為の、お手本になる精霊がそもそも一般社会に居ないのか。気が付けばすっかり、あたしの周りは精霊だらけだし、自分自身がいつの間にか精霊になってたから、これがあたしにとっての日常になってたわ。
そもそもこの状況自体が、異世界でも異例中の異例だった。それを普通に受け入れてるって、あたしも大概どうかしてるわね…
「魔術師や精霊種でも無い限り、一目で精霊と見分けるのは難しいんですよ。大規模な力の行使をしていれば、また話は別ですけどね。」
「精霊化した御主を見ても、ぱっと見スキルを使っとる様にしか、一般人には写らんじゃろうから、まぁそこまで気にする必要は無かろうて。」
更に2人にそう言われ、眷属化する手を止めて顎に指を宛がい、思考を巡らせ物思いに耽る。余り目立つ様な力の使い方をしなければ、あたし達が精霊であるとバレないという事は、今の説明で良く解った。
だけど、魔術師や精霊種には見分ける事が出来るんだから、その辺には気を付けないと。精霊にママって呼ばれる異世界人が居るなんて噂、噂好きの間で一気に広まりそうだしね。
なんせこの件が片付いたら、色々と黒い噂の絶えない軍国に向かおうってんだから、細心の注意を払っておくに越した事は無い。裏で違法とされる、『異世界人召喚術』を行ってるなんて、言われてる位だしね。
「…まぁ、御主が心配するのも解るがな。しかし、自由奔放な冒険者共ならまだしも、統率の取れた軍人ならば多少口も堅かろうよ。」
あたしが思考を巡らせていると、それを見て考えを悟ったのか、徐に明陽さんが話しかけてくる。
「先も言ったが、御主はただ知らぬ存ぜぬを通して居ればええ。あの船長とは、儂が話を付けるでな。」
「…もしかして明陽さん、最初からそれを見越して、他の冒険者を近づけなかったんですか?」
「そりゃ理由の半分、残りは単に足手纏いは要らんからじゃよ。」
あたしの問いに対し彼女は、意地の悪い笑みを浮かべながら事も無げにそう言う。余りにも堂々と断言するその姿は、太々しいを通り越していっその事清々しい。
その意地の悪い笑みを浮かべたまま、むしろより一層凶悪な位に口の端をつり上げた彼女は、続けざまに口を開いた。
「誰も痛くない腹の内を探られとう無かろうよ?それが解らぬ知りたがりは、昔から長生き出来ぬと相場が決まっておるでな。儂の見立てでは、あの船長は…まぁ長生きする方じゃろうて。」
思わせぶりに意味深な事を呟く彼女に対し、顔を引き攣らせながら苦笑する。要するに、脅迫するって事ですね、おっかないなぁ~
「…解りました。なら明陽さんにお任せしますよ。」
とは言え、彼女がそうまで言うのなら、その辺りの事は全て任せて大丈夫だろう。直接的に脅すような真似は、流石にしないと信じて良いよね?
「それじゃあたしは、必要に応じて精霊化して、エイミーと一緒に船で牽制?」
「その気があるなら、儂等に混じっても構わんがな。」
眷属化を止めていた手を再開しつつ、改めて自分の役割について彼女に問うと、これまた意地の悪い笑みを浮かべてそう返される。自分達のコンビネーションに、付いてこれるならが抜けてる辺り、本当に意地が悪いわね…
ともあれ、そんなこんなでそれぞれの役割が決まった頃、山のようにあった武器の眷属化も終わりが見えていた。これも、オヒメが頑張ってくれたお陰ね。




