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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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子連れJK異世界旅~異世界の船窓から~(4)

「はいはい!はいはいは~い!!わ、私も!私もお手伝いしま~す!!」


 真っ先に名乗りを上げた2人から少し遅れて、威勢良く上がった声に振り向けば、慌てた様子で手を上げ名乗りを上げるアクアの姿があった。その様子から、仲間はずれにしないでと言う思いが、無駄な位ヒシヒシと伝わって来る。


 何だこのかまってちゃん。今日だけで、この子が上位精霊なのかという疑問が、何回浮上してんだ…


「あ、ありがとうございます!えっと…」

「彼女は、水の上位精霊のアクアマリンさんです。」

「えっ!じょ、上位精霊!?」


 若干呆れながら、彼女の様子を見ていた所、横でお姉さんとエイミーの、そんなやり取りが耳に入ってくる。お姉さんのリアクションに気を良くしたのか、その直後自信満々にドヤ顔して、さして大きくも無い胸を張って、自分をアピールし始めるアクア。


 その滑稽過ぎる残念な姿は、あたしからすれば何してんのって話なんだけどね。でも、一般の人からすると、彼女の驚きこそが正しい反応だっあt。


 そもそも精霊達自体が、自分達の住処から積極的に出るという事をしない。おまけに、精霊種達以外との関係性を持つ事もしないから、彼女達の生態さえ知らない人の方が多いらしい。


 だから、外の世界で精霊を見かけるとすれば、それは十中八九精霊術使いが、個人契約した精霊と言う事に成る。そういった精霊達の多くは下位精霊なので、これまた精霊種以外の一般人が、彼女達の姿を目視する事は無いのだ。


 中位精霊と契約している精霊術師自体希だし、何より中位以上の子達は、基本的に人と見分けが付かない。だから、オヒメが中位精霊だと教えたら、きっと彼女はもっと驚く筈よ。


 その位、一般の人からすると精霊達の存在は、おとぎ話や雲の上の存在なんだそうだ。大多数の人が、その姿を見る事は出来無いし、見えたとしてもソレと気が付く事の無い存在。


 それが正しく、この世界での精霊としての在り方なんだそうだ。


「す、凄いです!!水の上位精霊様と契約なさっているんですね!!」

「え?あっ!え、え~っと…」

「ちが――ムグッ?!」


 ()()()、ギルドのお姉さんがそう言う勘違いをするのは、まぁ仕方無い訳で…


 それまで目を丸くして驚いていたお姉さんは、突然そう言って目をキラキラさせる。その言葉に対しエイミーが、肯定も否定も出来ずに困り顔をしていると、オヒメがあっけらかんと訂正しようとしたので、その口をあたしは急いで塞いだ。


 危ない危ない。全くこの子ったら…あたし達の存在は、今はまだ秘密だってのに、何訂正しようとしてんのよ…


 けど今回に関して言えば、エイミーもちょっと迂闊だったわね。アクアの事を精霊だって紹介したら、そりゃ自分の契約精霊だって、勘違いされるに決まってるじゃない。


 ギルドのお姉さんに言われて、ようやく思い至ったのか、羨望の眼差しを向けられながら、バツが悪そうにして視線を彷徨わせるエイミー。あたしの手前肯定も出来ず、かといって否定したら、アクアの事をどう説明すべきか、考えているんだろう。


 真面目よね~適当にはぐらかしちゃえば良いのに。まぁ、それが出来無いのが、エイミーの良い所でもあるんだけど。


 そんな事を考えながら、まるで英雄でも見る様な熱視線を、ギルドのお姉さんに向けられ、ただただ困り顔で狼狽えてるエイミーの姿を見て苦笑する。まぁ、珍しく墓穴掘ったんだし、彼女には存分に困って貰うとしよう。


 それよりも、あたしには気になる事があるしね~


「え、えっへへ~♪」

「おやおやアクアさん?どうしてそんなに嬉しそうなんだい?」

「へぅ!?あ、アバババッ!な、何の事ですよ!?」


 お姉さんが勘違いしてからずっと、1人で気持ち悪くニヤニヤしているアクアに対し、あたしは冷めた視線を向けながらそう問い掛ける。その指摘を受けて我に返ったらしく、急にあばあばしながら誤魔化し始めた。


 ハッハッハ~なんでそんなに慌ててるんだい?


「…盛り上がっとる所すまんがのぉ。悠長に構えとる時間があるのかえ?」

「あっ!す、すいません!」


 そんなあたし達のやり取りを、輪の外から呆れた様子で見ている人物――言うまでも無く明陽さん達だ。


 彼女のため息交じりの一言に、お姉さんは慌てて頭を下げた後、恐る恐ると言った雰囲気で彼女達に顔を向け、そして躊躇いがちに口を開いた。


「あの、それで…お2人にも、お力添えを頂きたいのですが…」

「…手を貸すより他に無かろうが。」

「あ…ッ!ありがとうございます!!ふえええぇぇぇ~よ、良かったよぉ~」


 まるで絞り出すかの様に紡がれたお姉さんの言葉に対し、1つ大きなため息を吐き出した明陽さんは、両手を組んで不機嫌そうにしながら、ぶっきらぼうにそう返した。あたし達と同じく、ライン大陸に渡る予定だったんだから、その答えは当たり前と言えば当たり前だ。


 だっていうのに、不必要に高圧的な態度を取って、何度もお姉さんを怯えさせれば気が済むんだか。可愛い見た目に反して、ほんと素直じゃ無いわね~


 ともあれお姉さんは、明陽さんから色よい返事を貰えた事により、今にも泣き出しそうになりながら、その場にへたり込んでしまった。色々在ったけど、金等級冒険者だけじゃなく、守護者2人の協力まで取り付けられたんだから、その反応も仕方無いかもね。


 けど、気を抜くにはまだ早い。


「これ、手を貸すと言っただけで、気を抜く奴がおるか。何も解決した訳では無い内に、安心してどうする。」

「あ、は、はい!済みません!!」


 当然明陽さんもそう思っていたんだろう。直ぐさま彼女に注意されて、お姉さんは慌てて立ち上がった。


 それを見て明陽さんは、真面目な表情で頷いてから組んでいた腕を崩し、握り拳を作ってお姉さんに向ける。


「手を貸す上で、いくつか条件がある。」

「は、はい!何でしょう?」

「1つ――儂等が乗り込む船は、儂等と船の乗組員のみにせい。他の冒険者は無用じゃ。」

「は、はい。ではその様に手配します!」

「うむ。では2つ目――ベファゴに挑むのは儂等のみで十分じゃ。他の船には術者を乗せ、後方で待機させて防衛線とせい。」

「え?で、でも…」

「案ずるでないわ戯けめ。彼奴の相手は、儂等2人で十分じゃよ。じゃから他の冒険者達には、術者の護衛をさせておけ。」

「わ、わかりました…」


 指を1つ、また1つと立ってながら、終始不遜な態度でその条件とやらを読み上げていく明陽さん。その自信満々な物言いに、お姉さんはただただ呆気にとられていた。


「そして3つ目――ベファゴめを撃退したら、そのまま儂等をライン大陸へ…そうさな、カント港へと運べ。」

「は、はい。その位お安いご用だと思います。」

「そうか。なら儂からの条件は以上じゃ。おぬし等の方は、何か付け加えなくて大丈夫かえ?」

「いえ、大丈夫です。ね、優姫?」

「えぇ。」


 条件を言い終えた明陽さんは、急にあたし達へと話を振ってくる。それにあたし達が返事を返すと、それを見て納得したのか、1つ頷いてから指を立てていた腕を降ろした。


「ではそれで決まりじゃな。」

「あ、あの…」

「何じゃ?」

「い、いえ!ベファゴを撃退して、そのままライン大陸にお送りするのは大丈夫なんですが、報奨金は――」

「要らん。」

「え?」


 話をさっさと切り上げ様としていた明陽さんに対し、申し訳なさそうにしてお姉さんが口を挟む。街の危機に、お金の話をするのは場違いな感じもするけど、しかしそれはそれとして大事な話だ。


 ギルドが依頼として、正式に発行しているんだから、報酬が出て然るべきだろう。しかして明陽さんは、何だそんな事かと言わんばかりに、たった一言でお姉さんの話を一蹴する。


 その答えが、彼女からすれば余りにも予想外だったのだろう。明陽さんの言葉を聞いて、すぐにはその意味が判らなかった様だった。


「え…えっ!?要らないんですか!?」

「うむ。じゃが勘違いするでないぞ?然るべき所からふんだくるだけじゃからな。」

「然るべき所?」


 ぶっきらぼうに言う明陽さんの口振りが気になり、思わずあたしが口を挟むと、彼女はこちらに顔を向けて、思いっきり悪い顔になってニヤリと笑う。


「此度の担当だった同僚共から、たんまりせしめるんじゃよ。」

「あ、あぁ、成る程ね…」


 それは、なんとも愉しそうな、とてもとても底意地の悪い笑顔だった。自分に対して向けられていないと解っていても、その闇の深さに身震いしそうだ。


 なんともまぁ…いじめっ子オーラ全開って感じね。何処のどなたか存じませんが、目を付けられた人、ご愁傷様…


「じゃから報酬など気にせんでええわい。もし納得できんのなら、儂等の船代変わりに払っとけ。」

「も、勿論その位は、ギルドで出させて頂きますが、えぇっと…」


 それまで浮かべていた悪い笑顔を消し、あっけらかんとした様子で告げる明陽さんに対して、どう返事をしたら良いのか解らないのか、困惑気味に視線を彷徨わせるお姉さん。そんな彼女が、最終的に助けを求める様に視線を定めた相手は、予想道理のエイミーだった。


「スメラギ様達が、それで良いと仰っているのでした、構わないんじゃ在りませんか?ねぇ、優姫?」

「いやいや、いちいちあたしに振らなくて良いわよ。2人の邪魔にならないよう、離れた場所で体育座りして、見学するつもり満々なんだから。」

「もう!またそうやって、すぐ憎まれ口を叩くんだから。」


 困惑しているお姉さんを落ち着かせる為だろう、柔らかい笑みを浮かべながら応えるエイミーに、不意に同意を求められたあたしは、平常運転いつも通りに茶化しながらそう返す。すると、それがエイミー的には不満だったのか、眉をつり上げ少し頬も膨らませて、可愛らしく文句の声を上げた。


「…決まりじゃな。」


 そんなあたし達の様子を、苦笑しながら観察していた明陽さんは、こちらの結論が出たのを確認し、話の総括に移行する為口を挟んでくる。


「ちゅ~事で、こちらの条件をそっちの責任者に伝えてきてくれかのぉ?」

「は、はぁ…」

「なんじゃ?まだ不服かえ?」

「い、いえ!とんでもないです!!」


 あたし達のやり取りを前にして、それでもまだ納得のいっていない様子のお姉さん。まぁ無理も無いんだろうけど、いい加減に飲み込んでくんないと、また明陽さんがイライラし始めるって、そろそろ解んもんかしらね?


 明陽さんも大分彼女の察しの悪さに呆れているらしく、大ききなため息を吐いて顔を背ける。


「…そんなに後ろめたいんじゃったら、なんぞ()()()()にでも使えば良かろうが。」

「え?な、何か仰いましたか?」

「何でも無いわ!はよ行かんかい!!時間が勿体ないわ!!」

「わわっ!?は、はい!!」


 いよいよ苛立ち始めた彼女に急かされて、お姉さんはつまずきそうになりながらも走り出し、冒険者達が集まっている一角に向かっていく。去って行くその後ろ姿は本当に頼りなくて、正直大丈夫かなって心配になってくる。


「…しっかし、壊滅的に察しの悪いお姉さんだったわね。」

「フフッ、そうですね。」


 彼女が十分に離れた所で、苦笑を漏らしながらそう呟くと、含みのある笑い声を漏らしながら、エイミーも同意する。どうやら彼女も、明陽さんの思惑にうっすら気が付いたようだ。


「え、え?どういう事ですか?」

「ママ~?」


 そしてどうやら、その思惑に気が付いていないらしいアクアとオヒメが、不思議そうな顔をして問い掛けてくる。それを受けてあたし達は、互いに顔を見合わせながら苦笑して、思わせぶりに肩を竦めて見せた。


 別に、どうもこうもないのよね。自分は悪くないなんて、さっきは開き直って言ってたけど、明陽さんは明陽さんなりに、あの事態を引き起こした事を反省してたって、ただそれだけの話なんだから。


 あんな大騒ぎになって、みんながみんな我先に逃げだそうとしたら、負傷者が沢山出るだろうし、最悪死者が出ても可笑しくない様な状態だった。きっとパニックが収まったら、今度は病院が大混乱になるでしょうね。


 そう言った人達の治療費に報酬を使ってくれって、明陽さんは暗にそう言いたかったんだけど、これまた素直じゃ無い人だからね。お姉さんの察しが悪いってのもあるけど、それ以上に明陽さんがぶっきらぼう過ぎてて、あれじゃ解んなくても仕方無いわよ。


 けどま、それが明陽さんだからね~ここは、言わぬが花ってもんでしょうよ。


「…さてね?目の前に本人が居るんだから聞いてみたら?ま、きっと教えてはくれないでしょうけどね、意地悪だから。」

「うるっさいわ、小娘め…」


 悪戯っぽくあたしがそう言うと、明陽さんは見るからに不機嫌そうになり、鼻を鳴らしながらすかさずそう返してくる。凄んでるように見えるけど、それが照れ隠しなのは一目瞭然で、可愛さのあまり頭なでなでしたいわ。


「ッ!やめんか!!」バシッ


 なんて思って居た所、彼女の隣に立つ譲羽さんが、何の脈絡も無く笑顔で明陽さんの頭を撫で始めた。それに直ぐさま反応して払いのけるけど、それにめげず2度3度と頭に手を置かれ、折れたらしい明陽さんは、結局譲羽さんのされるがままとなっていた。


 何と言うか、自由な人だなぁ~そして羨ましいなぁ~

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