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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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子連れJK異世界旅~異世界の船窓から~(2)

「――お、おおっ!御主!!なんちゅ~事を公衆の前で告げとるんじゃ!!」


 街の人々が逃げ惑う阿鼻叫喚の中、目を丸くして焦った様子の明陽さんが、ギルド職員の女性へと詰め寄っていく。


「ぴゅあっ!?だ、だだっ!だって!!スメラギ様が説明しろって!!」


 明陽さんに詰め寄られた側の彼女は、それでようやく目を開き周囲の状況を理解し、慌てふためきながら取り繕いだす。


「じゃとしても、時と場所を考えんかい!どうすんじゃこの状況!!」

「ふ、ふえええぇぇぇ…すすすすみません~」


 そんな彼女に明陽さんは、ここぞってばかりに言葉で責める。そして見るからに気の弱そうな職員の女性は、パニック状態に陥った通りの惨状を引き起こした責任を感じ、今にも泣き出しそうな勢いで目を潤ませ、しどろもどろになりながら謝罪の言葉を口にした。


 正直、いまいち話の流れが見えずに、なんでこんな状況になってんだか、全然理解が追い付いていないあたしだけど、それでも言える事が1つだけある。それは――


「…あの人、勢いに任せて責任なすり付けようとしてますけど、この状況引き起こしたのって、間違い無く明陽さんですよね?」


 ――コクリ


 四方八方から向かって来る人の群れを避けながら、譲羽さんの隣に並び立ったあたしは、明陽さんを指差しながら呆れ顔でそう告げる。その言葉に対し、黙って成り行きを見守っている彼女は、ジト目に成りながら首肯で同意を示した。


「酷い人ですね…あんな気の弱そうな人掴まえて…」


 視線を戻しそう呟くと、大きなため息が隣から聞こえてくる。そんなあたし達のやり取りを、しっかり感じ取っているのだろう。


「ひゅ、ひゅ~ヒュー!」


 バツが悪くなったのか、職員の女性に詰め寄るのを止め、何事も無かったかの様にすっとぼけ始めた。くどい様ですがあの見た目だけ童女、あたしの親戚なんです…


「うわぁ~…吹けもしない口笛で誤魔化しだす人、生で初めて見たわ、あたし…」

「な、なんじゃい!儂悪く無いもん!!」

「いやいやいやいや、逆ギレしないで下さいよ、みっともない…」


 悪い悪くないで言えば、待った無しで有罪判決でしょうに。この人、ほんとちょいちょい幼児化するわね…


 株価絶賛大暴落中の明陽さんに向け、盛大にため息を吐きかけた後、チラッと隣に視線を向ける。その視線に気が付いた譲羽さんは、あたしの考えを汲み取ったらしく、やれやれと言った雰囲気で動き出した。


「な、なんじゃい?」


 まるで人並みなど無いかの様に、真っ直ぐ明陽さんの前に出た譲羽さんは、彼女に対し何の脈絡もなく腕を振るう。


「ッ!?」


 それに直ぐさま反応した明陽さんは、人並みがあるにも関わらず、むしろ行き交う人を壁にして、その腕から逃れようとする。けれど――


 ――ガシッ「ぎゃーっ!?痛い痛い痛い!!」


 明陽さんは勿論の事、彼女が壁として利用した人々の流れさえも、完璧に先読みしきった譲羽さんが、人波に消えかけたおかっぱヘアーを無遠慮に鷲づかみにし、力任せに引きずり出して見せたのだった。譲羽さん、マジパネェ~ッス。


 ってか、羽交い締めにでもしてくれれば良かったんだけど、まさかのアイアンクローって…容赦ねぇなぁ…


「痛い痛い!!ほんに締っとるじゃろが!?何すんじゃ戯け!!」

「自業自得です。譲羽さん的に、きっと制裁も兼ねてるんでしょうから、そこで大人しくしてて下さい。」

「大人しく出来るか戯け!!あぁ~ッ!?この怪力デカ女!!めり込む、めり込むーっ!!」


 片手で軽々と持ち上げられた明陽さんは、掴まれた腕を両手で握りしめながら足をばたつかせて、なんとかしてその手から逃れようと、蹴りを何度も譲羽さんの腹部目掛けてたたき込んでいる。けれど、まるでビクともしないどころか、彼女が暴れれば暴れる程、その叫びに聞こえる通り、掴まれている部分に更に力が籠もり、皮膚にどんどん食い込んでいくのが見て取れた。


 どんな握力してんだこの人…流石は、突破力が武神流随一って言われてる、槍術宗家の人だけど…正直エッグいなぁ~


 う~ん…明陽さんに任せても話進まないどころか、事態がややこしくなるばっかだし、退いて貰おうにも、あたしじゃ掴まえられないだろうから、それで譲羽さんにお願いしたんだけど、逆にうるさくなっちゃったなぁ~


「ギャーッ!!潰れる!潰れるっちゅうとるじゃろが!!」


 けど、まいっか☆色々盛大に放り投げちゃえ~アハハ~☆


「優姫!御主後で覚えとれよ!?譲羽をけしかけおって――」

「あ、譲羽さん。その人懲りてないみたいなんで、お願いしゃッス!」

「――痛い痛い痛い!!」


 仲いいなぁ~


 繰り返し何度も言うけど、あの2人親戚なんです。芸人さんじゃないよ?


 さて。親戚のおばちゃん2人をそろそろフェードアウトして、話を元に戻しますか~


「とりあえず、こんな状態じゃ落ち着いて話も出来ないし、港に向かいましょう。」

「え、えぇ!そうした方が良いと思います!」


 視線を巡らせエイミーに向き直ったあたしは、彼女に向かってそう切り出した。その申し出に1も2もなく頷くと、エイミーはオヒメを抱えたまま人波を掻き分け、職員女性の側へと寄り添った。


「大丈夫ですか?」

「ふえええぇぇぇ~は、はい~」

「良かった。それでは私と一緒に行きましょう!」


 そう職員女性に告げた後、こちらに視線を向けたエイミーは、意を決したかの様に頷いて見せた。それを受けてあたしが頷き返すと、それを確認した彼女が職員女性の手を引き、港に向かって歩き出した。


 それを視線で見送った後、(お仕置き中の明陽さんは見ない様にしながら)譲羽さんへと目配せする。それに気が付いた彼女も頷いて見せて、(お仕置き中の明陽さんを荷物の様に扱いながら)移動を開始したのだった。


 それを確認し、いざ自分も移動しようとした瞬間――


「アバババババッ!ま、待って!置いてかないで下さい~!!」


 ――情けない声に振り返ると、相変わらずあばあば言いながら、見事に人波に捕らわれて揉みくちゃにされているアクアの姿があった。


 …なぁ、あの子本当に上位精霊なん?


「ったくもう…」


 なんとも頭が痛くなる様な情けない展開に、思わず嘆息を漏らしながら、それでも人波を掻き分けてアクアの側まで向かい、その手を掴んで引っ張り出した。あ、一瞬置いてっちゃうかって思ったのは、彼女には内緒にしといて下さいね(テヘペロ☆


「こんな事で手間取らせんじゃないわよ。」

「うぅ…ご、ごめんなさい…」

「とにかく、あたし達も行くわよ!」

「は、はい!」


 アクアに対しそう告げて、彼女の手を引き先導しながら、人波を掻き分け移動を開始する。目的の場所は、このまま真っ直ぐ向かった先にある船着き場だ。


 元々あたし達が向かう予定の場所だったし、そしてきっとあのギルド職員の女性が、エイミー達を連れて行きたかった筈の場所だ。そう思う理由は、彼女が現れた時に一緒に現れた冒険者達が、他の事にはまるで目もくれずに、港の方へと向かって行った事からも簡単に推察出来る。


 それともう1つ。ベファゴなる単語が出た直後、阿鼻叫喚の中逃げ惑う人達は、皆一様に港とは反対側――この街の出口の方へ向かおうとしている様だった。


 と言う事は、ベファゴって言うのが何なのかよく解らないけれど、それがこの街に現れるのは、きっと海からなんだろう。その考えを裏付けるかの様に、少し進むと人波は途切れて空間が開けた。


「ッ!プハァッ!!た、助かったぁ~」


 そのまま人波から抜け出し、直ぐさまアクアもそこから引っ張り出すと、何とも情けない声を上げるのだった。見れば髪はボサボサ、服もヨレヨレだけど、まぁ基本実体じゃないからすぐ元に戻るでしょう。


「ほら、休んでないで行くわよ?みんな先に行っちゃったみたいだし。」

「あわわわわっ!は、はいっ!」


 そう言ってアクアを促して、返事を待たずに直ぐさま走り出した。進行上に視線を向けると、今し方彼女に告げた通り、離れた付近を走るエイミーの後ろ姿が確認出来た。


 譲羽さんはと言えば、そこから更に先の方を走っている様だった。片手にあんなお荷物(笑)ぶら下げて、ほんとに頼もしい人だなぁ~


 うん。あの人に喧嘩を売るのは絶対に止めとこう。


 心の中でそんなしょうも無い誓いを立てつつ、少し後ろを走るアクアへと視線を向ける。


「それで、一体全体ベファゴってのは何なのよ。あんな大騒ぎになる様なもんな訳?」


 足を止める事無く、ずっと気になっていた事をこのタイミングに聞いてみる。遅かれ早かれあのギルド職員の人から、色々説明を聞く事になるんだろうけど、最低限の情報ぐらいは入れときたいしね。


「そ、そりゃそうですよ!誰もが知ってる様な有名な化物ですから!!」

「化物ねぇ…」


 誰もが知ってると言われても、昨日今日この世界に来た身の上のあたしとしては、そんな漠然とした情報ではちょっとピンと来なかった。なんせ、こっちに来てから見た物や出会う人が、いちいちスケールでかいんですもん。


 ほんと、もう尺度壊れて感覚麻痺しちゃう寸前ですもん。


「それってどの位の化物なのよ?」

「え?そ、そうですね…一撃でこの街が吹き飛んじゃう位?」

「oh…」


 その言い方からして、それできっと最小被害での規模なんだろうなぁ…そりゃ街の人も、阿鼻叫喚で逃げ惑うわ。


 成る程。そんなのがこの街に接近してるってんなら、ギルドのお姉さんや冒険者達が慌てふためくのも納得ね。


 けど――


「明陽さん達まで、目を丸くして驚く程の相手なのかしらね?」


 この街に近づく脅威が、どの位の規模なのかは何となく解った。けどそれでも、守護者と呼ばれる程の人達が、揃いも揃って驚く程の事なのかしら?


 身内贔屓するみたいだけど、この街を一撃で壊滅させる様な相手が現れたとしても、あの2人なら多分普通に生き延びるだろう。だって、同じく守護者と呼ばれている精霊王達だって、少なくともそのベファゴって奴と、()()()()()()()()()()()()()()筈だからだ。


 何故そう言い切れるかと言えば、()()()()()()()()()()、その位の事が出来るからだ。あたしだけでなく、この一見頼りないアクアにだって、その位の事は可能でしょうね。


 そのあたしが、精霊化して全力で挑んでも、あの2人には到底敵わないと、刃を交える前から理解させられたんだ。その2人が驚くんだから、きっとよっぽどの事なんだろう。


「あぁ、それはきっとあれですね。毎年この時期になると、ここからもっとずっと北上した海域で、女神教と魔神教の守護者さん達が、ベファゴを痛めつけて大人しくさせるんですよ。」

「え、そうなの?」

「はい。それなのにこっちまで来たって言う事は、多分向こうで何かあったんですよ。」

「ふ~ん。」


 成る程。あの2人は、ベファゴってのがこっちに来ちゃった事に対して驚いてたって訳か。


「なら今年は、そのベファゴってのに守護者が負けたって事?」

「さぁ?そこまでは解りませんね。けど、ベファゴの相手をする様になったずっと昔は、そう言う事もあったみたいですけど、ここ千年位は失敗したなんて話聞いた事無いですね~」

「千年ねぇ~スケールのでかさに、正直ついていけましぇん。」


 走りながらそう言ってあたしは、呆れ気味に肩を竦め嘆息する。自分の寿命が、あとどの位有るのか知りたいとも思わないけど、仮に百年生きるとして、そんな遠い未来の事想像だに出来ないし、逆にその歳になって今の体験を思い出せる自信も無い。


 ましてや17年しか生きていない今だって、自分が5歳だった頃の経験を、逐一思い出せる自信さえ無い。なのに千年とか、桁間違ってるとしか思えないわ~


「けど、不謹慎ですけど、ベファゴがこっちの方に来てくれて助かりました。」

「え?何でよ?」


 ふと漏れたアクアの呟きに、訝しがりながら聞き返す。すると彼女は、言いずらそうな表情を浮かべ、口の端から絵に描いた様な乾いた笑い声を上げ始めた。


 えぇ!?何その反応!ちょっとちょっと!!怖いんですけど!?

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