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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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間章・「フハハハハッ!話に水を差して申し訳ない!!」(4)

「フハハハハッ!ではそろそろ戦いの狼煙を上げるのである!!」

「あ~はいはい。」


 太陽が『神域』に8割以上隠れた頃、ようやくその気になったらしいレオンが、高笑いと共に悠然と大海を泳ぐベファゴをしっかり見据えて宣言する。それに対しキサラは、疲れた様子で投げやり気味に相づちを返した。


「キサラ嬢!手筈通り頼むのである!!」

「いちいち大声出すんじゃねぇ~デスよ、っとにもぉ~――」


 ブツブツと文句を垂れながらも彼に促されるままキサラは、気怠げに右腕を持ち上げて手の平をベファゴへと翳す。そして――


「――セット、『インテグリティ(清廉たる)フィールド(領域)』」


 ――力ある言葉の解放と共に、ベファゴを中心に据えた半径50キロ四方を取り囲む、巨大な七色の檻が出現する。その突然現れた障壁に、攻撃されたと思ったのか、進路をレオン達に切り替えたようだった。


「フハハハハッ!流石の手際であるなキサラ嬢!!」

「単なる待機魔術デスよ、そう珍しくも何とも無いデス。」


 完全にロックオンされたらしく、敵意剥き出しで向かって来るベファゴを見据えたまま、慌てるどころかキサラを褒め称え始めるレオン。彼女も彼女で、そんな彼を鬱陶しそうにあしらうだけで、特に慌てる様子も無い。


 災害級の相手が迫ってきていると言うのに、2人とも大した自信である。まぁ、守護者と呼ばれる者達が、この程度の事態で慌てふためいていては、周囲に示しが付かないのだが。


「いやいや!最高位の広範囲結界をストック出来る魔術師など、世界に5人と居るかどうかであろうよ!!」

「おべっかなんて要らねぇ~デスよ。セット『フィジカル(身体能力)ハイパーブースト(超増幅)』」

「フハハハハッ!力が漲るのである!!」


 次いで解放された力在る言葉と共に、レオンの身体が金色の光を放ち始めた。こちらも最高位の身体強化魔術である。


 待機魔術――詠唱破棄・略式詠唱と並ぶ魔術における高等技術だ。


 詠唱破棄や略式詠唱は、詠唱自体を短くしたり唱えずに力ある言葉のみで強制的に発動させる技術に対し、待機魔術は詠唱自体を先に唱え終えておき、必要に成るまでストックして置くという物だ。先に述べた2つは、詠唱自体を省略する為、魔術発動時に威力や精度が衰えてしまうが、待機魔術は魔術発動に必要な手順をしっかりと踏んでいるので、威力や精度が衰える事が無いのが特徴だ。


 しかし、魔術発動の状態を維持させる為には、常に魔力を消費し続けないといけないと言うデメリットもあり、魔力総量が少ない魔術師には荷が重過ぎると言う側面もあった。更に、高位の魔術になれば成る程、消費される魔力量も比例して増える為、一般的な魔術師は中位魔術1~2回分をストックするのが精々だろう。


「流石キサラ嬢!頼りになるのである!!」


 逆を言うと、高位の魔術を何回分ストック出来るかによって、その魔術師の力量が測れると言う事に他ならない。その点で言えば、キサラの魔術師としての実力は、守護者として申し分ない物だと言える。


 しかし彼女曰く――


「だから、大した事じゃねぇ~デスって。師匠の方がよっぽどすげぇ~デスからね。」

「フム、噂に名高いシフォン・マスカローネ嬢であるな。」


 ――この程度の事は出来て当たり前。これで浮かれていては、偉大なる師に合わす顔がないと言わんばかりに、レオンの言葉に不機嫌そうに鼻を鳴らし、ぶっきらぼうにキサラは応えた。


 今でこそ彼女が守護者を名乗って居るが、本来であればその席は彼女の師匠であり、現金等級冒険者『銀翼の魔女』シフォン・マスカローネが収まる筈だった。しかし、彼女個人は魔神教に属していなかった上、守護者という地位にあまり魅力を感じなかったのか、彼女はそれを丁重に辞退し、弟子のキサラを推挙したのだった。


 先程、うっかりレオンが世界に5人居るかどうかなどと、口走った所為だろう。その5人の中には師であるシフォンも当然含まれており、その弟子としては嫌でも師と比べてしまい、いちいち浮かれていられないのだろう。


「…ってか、人のお師匠様を気安く『嬢』なんて呼ぶんじゃねぇ~デスよ。」

「フハハハハッ!相変わらずキサラ嬢は、師を敬愛しておるのだな!!」

「当然デス!なんせ師匠は、ちっちゃくって可愛くって、物腰も柔らかくって可愛くって、強くって可愛くって…とにかく無茶苦茶可愛いんデスから!!」

「キサラ嬢の語彙力が下がる位に可愛いという事は伝わったのである!」

「レオンに言われるとむかつくデスけどその通りデス。おまけに抱き着くと良い匂いがするデスよ。」

「フム。以前1度だけ遠目に見た事があるが、その時は人の姿だったであるからな、匂いまでは解らないのである。」

「レオンが師匠の匂い嗅いだら、きっと我を忘れて発情するデスからね。10キロ圏内に侵入する事を禁ずるデス。」

「なんと理不尽な!」


 ………


「しかし、匂い云々は兎も角、キサラ嬢の言う通り見目麗しい方であるのは確かであるな。」

「デスデス。」

「それにあの豊満な胸が、また何とも…」

「あ゛ぁ゛?」


 …え~っと…


「おいコラ。人の師匠の事、いかがわしい目で見てんじゃねぇ~デスよ。」

「フハハハハッ!キサラ嬢もあれ位あれば、きっと引く手数多であったろうになぁ!!」

「あい解ったデス。アレ(ベファゴ)と喧嘩おっぱじめる前に私と戦争を始めるデスよ。再生するそばから燃やし続けてやるから、かかって来いやゴラァー!デス!!」


 あの、そのベファゴが迫ってきているんですが…


「フハハハハッ!キサラ嬢の方がベファゴの100倍はおっかないのである!!故にそろそろ彼奴の相手をするのである!!トウッ!!」バカァンッ!!

「わぁっ!?」バシャンッ!!「コラァ~!!ボート壊していくなデスよ!!」

「フハハハハッ!申し訳ないのであ~る!!」


 …いくら障壁に阻まれているからとは言え、もうすぐそこまで災害級の脅威が迫ってきているというのに、その落ち着き払ったいちゃつき――もとい、態度は流石と言うべきなのだろう。


「フハハハハッ!ギャグパートであるからな!!」


 …ともあれ、キサラの強化魔術を掛けられた所為も多分にあるのだろう。ボートの上で身を屈めると同時に跳躍したレオンは、大きな水柱を立ててそれまで乗っていたボートを粉々に粉砕し、天高くへと舞い上がった。


 そしてキサラの上げた非難の声を置き去りに、そのまま海面に()()したレオンは、水しぶきを上げながら駆け出し、彼女の張った結界の中へと侵入する。


 ――ズドドドドッ!!


『良いデスか!!結界も身体強化の効果も2時間は続くデスからね!!それまでにケリを着けるデスよ!?これ以上私の手を煩わせるんじゃねぇ~デスからね!!』

「解ったのである!!」ドドドドッ!!


 彼自身が上げる豪快な水しぶきの音が響く中、掻き消されそうなキサラの声を正確に聞き分け、大声を張り上げ返事を返す。その脅威的な聴覚たるや――


「何せ吾輩イヤーは地獄耳であるからな!!」ドドドドッ!


 ………


「フハハハハッ!いちいち話に水を差して申し訳ない!!」ドドドドッ!


 …全くだ。


 ともあれ、真っ直ぐベファゴに向かって行くレオンは、正に猪突猛進にして疾風迅雷。気配を消して忍び寄るなんてまどろっこしい事、徹頭徹尾頭に無いのだろう。


 堂々と正面から突っ込んでくる気配に、当然ながら気が付いたベファゴは、移動を一旦停止してその場で激しく水しぶきを上げ始める。恐らく迎撃準備に取りかかったのだろう、程なく激しい水しぶきの間から、巨大な触手が幾本も姿を現し始めた。


 現れた触手の数は全部で8本、その1つ1つが地球上で最大級の生物である、シロナガスクジラに匹敵しそうな位の雄大さだ。未だ見えない胴体も含めれば、あの水しぶきの下には恐らく、5~60メートル級の化物が潜んでいるのだろう。


 海の生物で触手と言えば、やはり定番は烏賊や蛸の類いだろうか。しかし現れた触手には、それら軟体生物に在る筈の吸盤は一切見当たらず、その変わりに鱗模様が拡がっている。


 ――バシャアアアンッ!!


 そして次の瞬間、轟音と共に勢いよく水柱が上がり、その中から本体と思しき物が姿を現した。まるで巨大な建築物を連想させる様な、超大で野太い胴体は満遍なく艶光りする鱗で覆われ、その頂上にあたる巨大な頭を、まるで鎌首の様にもたげる。


 ほぼ同時に、太陽は『神域』の影へとその姿を隠してしまい、早朝故に月も星の明かりも一切無い、けれども真の闇とは何処か違うほの暗さの中、ベファゴの巨大な両の瞳が爛々と光を放つ。頭頂部から背中にかけて、凶悪なまでに刺々しい背びれがある為、一瞬魚の類いかと思いきや、しかし口と思しき部分からチロチロと見せる先割れの舌、更に特徴的なその頭のシルエットは――


「フハハハハッ!相変わらず良い面構えよな!!ベファゴよ!!」


 ――紛う事無く、それは大きな蛇だった。触手と思われていたそれらは、どうやら全てベファゴの尻尾だった様だ。


 古来、地球の日出ずる国には、頭が八つある大蛇が居たというが、これはその真逆の怪物と言った所だろう。


「今年は吾輩が貴様の相手である!!征くぞ!トウッ!!」バシャンッ!!


 声高らかに宣言すると同時に海面を蹴り上げ、ベファゴの作った水柱とまるで競うかの様に、巨大な水柱を上げながら空高く跳躍する。そして最高到達点に達すると同時、腰溜めに固く握り拳を作り振りかぶった。


「フハハハハッ!受けてみるが良い!!『吾輩!必殺!!パンチッ!!』である!!」ボッ!!


 ――ズガアアアァァァンッ!!


「ギュルルオオォォォーンッ…」バシャーンッ!!

「フハハハハッ!」


 頭のおかしいとしか思えない技名を叫びながら、腰溜めから放たれたレオンの拳は、距離があるにも関わらず、突然その巨大な顔面が殴打されたかの様に激しく揺れる。虚空を打った筈の一撃は、巨大なベファゴの頭を大きく揺るがし、余りの衝撃に耐えられなかったのだろう、悲鳴の様な鳴き声をあげながら、塔の様な巨大な首が海上に倒れていくのだった。


 そのベファゴの様子を、自由落下した状態で満足そうに高笑いを続けるレオン。彼にしてみれば、それは当然の結果なのだろう。


 しかし見ていた限りでは、遠く離れた場所から頭のおかしい技名を叫び、空中で空手の正拳突きの型をしただけに見えた――


「フハハハハッ!無駄に頭がおかしいと連呼されたのである!!」


 ――しかしその結果は、ベファゴは顔面を横殴りにされたばかりか、その衝撃で頭を支えきれず、倒れ込む程の威力があった。


 レオンの腕が、伸びた訳では決して無い。ならば――


『必殺って、殺す気で挑んでどうするデスか。痛めつけて消耗させるだけで良いデスからね、解ってるデスか~?』

「おぉ!吾輩とした事がうっかりしていたのである。」バシャンッ!


 キサラの声に応えると同時、無事海上に着地したレオンは、そのまま再び腰溜めに拳を構えて狙いを定める。


「ならば!『吾輩!渾身!!パンチッ!!』である!!」ボッ!!


 ――ズガアアアァァァンッ!!


「フハハハハッ!吾輩絶好調である!!」


 そして、再び頭のおかしい技名と共に放たれたレオンの拳は、先程と同じように離れた位置にあったベファゴの尻尾を3本、纏めて激しく揺さぶった。その瞬間、彼の拳の先から尻尾に至る迄の間、まるでモーゼの十戒の様に、海上が左右に裂ける光景が確かに起こった。


 その事から察するに――


「フハハハハッ!今更ながらに説明しよう!!吾輩パンチはロケットパンチ!!体内の魔力を良い感じに固め発射するのだッ!!」


 ………


『得意げに何大声張り上げて説明してるデスか~?ただの『ブラスト・フィスト』だろが~デス。』

「フハハハハッ!わざわざ遠くからツッコミ感謝である!!」


 ――今や障壁の向こう側、遠く離れたキサラの声を、まるですぐそばで聞いているかのような、極めてクリアな感度で聞き取りながらも、しかし向こうはレオン程の聴覚が無いので、ただでさえ大きい声を更に張り上げて答える。


 『ブラスト・フィスト』徒手空拳を主体とした、前衛戦士系のオリジナルスキルだ。近距離・超近の戦闘から、敵が離脱した際の追い打ちや、逆に間合いを取る為の牽制などで用いられる事が多い。


 肉薄した戦いを好んで行う者にとって、僅かな予備動作さえ手間に思うのが当たり前で、その点でいうとこのオリジナルスキルは、放つ際に隙や溜が必要になってくる為、戦いの切り札として用いる者はまず居ない。それに威力面で見ても、単純に魔力を放つよりも、拳に魔力を纏わせて殴った方が威力も高い。


 なので、あくまでも追い打ち・牽制用の技というのが、世間一般での認識だった。しかし、レオンのソレは、威力が恐ろしい程に強化されており、もはや数段上位の別の技と言っても、差し支えないレベルの物だった。

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