子連れJK異世界ぶらり旅シリーズ、は~じま~るよぉ~!(5)
「御主!何やら邪な事を考えて居るだろう!!」
チッ、鋭い。
「何を根拠にそんな事――」
「とぼけるで無いわ!横を向いてみい、そやつと同じ顔をして居るぞ!!」
言われて視線を向けて見れば、何やら邪な事を考えていそうな譲羽さんの姿があった。ほぉ、あたしは今、あんな顔をしてんのか。
けど、事ここに至っては、おかっぱ幼女風に頬ずり出来るまたとないチャンス!今更そんな事言われたって、既に止まれぬ暴走列車状態なんだから、当然返す言葉は――
「知りません知りません、見えません聞こえませぇ~ん!」
「御主も大概都合の良い目と耳をしとるのぉ!!」
「えぇい、往生際の悪い!良いからちょっと抱っこされなさいよ!!」
「年上ならまだしも、一回り所か十回りも下の小娘にされとう無いわ戯け!!どんな羞恥プレイじゃそれ!!」
「大丈夫大丈夫!チョットだけだから!!」
「おっさんか貴様!手つきが嫌らしいわ!!」
なんて調子で、包囲網を徐々に狭めていく。それから逃れる様に明陽さんは、その胸に未だ複製品を抱きかかえたまま、ジリジリと後ずさるのだった。
あたし達から逃れる為とは言え、狭い店内で大立ち回りなんてしたら、お店の中が滅茶苦茶になるのは火を見るよりも明らかだ。しかも扱っている物が、彼女にとっても元の世界を連想させる品々ばかりで、無茶なんか出来る筈が無いのを見越して居ますとも!
ただ抱きつく為だけに、そこまで計算に入れて割とガチで追い込んでます(キリッ
「…仕方無い。この手だけは使いとう無かったが…」
いよいよ後が無くなった所で、ぐぬぬっと悔しそうな表情を見せたかと思った瞬間、彼女は大きく息を吸い込み始める。それを見て、大声でも出すのかと思って身構えつつ、チラッと譲羽さんへと視線を向ける。
長年連れ添った彼女なら、きっとこの後の展開も読める筈と期待して見ると、明陽さんのその予備動作を見て、なんか嫌そうな表情に成って両耳を塞いでいた。やっぱりそうなのかと思い、それに倣ってあたしも両の耳を塞ごうとした瞬間――
「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃあああぁぁぁっ!!これは儂の物じゃあああぁぁぁっ!!」
「いぃ!?」
突然辺りに響き渡った叫び声に、慌てて視線を戻して驚愕。何と明陽さんが、髪を振り乱しながら地団駄を踏み始めたのである。
予想だにしていなかった彼女の行動に、驚きを通り越して正直ドン引き。余りの事に、今まで一切髪の中から出て来なかった風華が、何事かと髪から顔を覗かせた位だ。
端から見たら完全に、スーパーなんかでよく見かける、子供がお母さんにお菓子をねだる例のアレだ。しかもご丁寧な事に、涙まで浮かべて居るけれど、もちろん嘘泣きなのは言うまでも無い。
「壊されそうになっとった所を、儂が救ったんじゃ!!じゃからもうコレは儂のなんじゃ!!」
「何その子供みたいな理屈!?」
複製品を背中に匿い、目にいっぱいの涙を堪えて主張するその姿は、子供みたいでは無く、紛れもなく駄々っ子のソレだった。普段容姿を気にして、子供扱いされる事を毛嫌いしている彼女の、最後の手段がまさかの駄々っ子って…
もちろん、涙から仕草までその全てが演技なのは、いくら何でも解りきってる。しかし、言葉遣いはさておき、120歳越えだという事実を知らなければ、誰がどう見ても彼女は、小学校中学年位の童女にしか見えない。
その姿でコレをやられると、頭では解っていても流石に躊躇してしまう。そして、今ここが室内なのが本気でありがたい。
これが外で、しかも人通りの凄い大通りだったら、間違い無く大の大人が子供を取り囲んでいるようにしか見えないだろう。都会のど真ん中だったら、それこそお巡りさんに通報レベルの騒ぎにだって発展しかねい。
けれどここは大通りなんかでは無く、お店の奥に人は居る物の、今この場にはあたし達だけだ。いくら躊躇する――と言うか、むしろドン引きだけど、その程度の演技であたし達が止まる訳が無い。
それは勿論、明陽さんもよく解っている筈だ。にも関わらずこうして恥も外聞も無く、彼女が醜態を晒す様な真似をしたのは、あたしや譲羽さんに対しての演技ではなく――
「…ママ。」
――服の裾を掴まれ、呼びかけられて振り向けば、なんとも申し訳なさそうにしているオヒメの姿があった。あたしや譲羽さんにはまるで効果は無いけれど、どうやら彼女の思惑通り、この子には効果覿面だったご様子だ。
「おばあちゃんに、あの子達あげても良い?」
そして、ほぼ予想通りの言葉が続き、明陽さんの泣き真似が伝播でもしたのか、若干うるうるし始めていた。コレで絆されるって、マヂか~…
この子も途中から遊び半分だったけど、オヒメがとりあえず取り返そうとした所から、この妙なコントが始まったって言うのに、ここに来てそれを引っ込められたら、抱き着くって言う大義名分も無くなってしまう。もう既に、バッチコイ!状態だって言うのに…
とは言え、正直な話そこまで本気に成って、取り返そうとは思って居なかったのよね。だってあたしのこの世界での存在理由って、そもそも強い武具を大量に量産して、最終的には量産したそれ等をこの世界の兵士や冒険者に配る事なんだから。
だからって許可無く勝手に持ち去ったんじゃ、いくら色々経緯が在ったとは言っても、それは強盗したのと同じ事だ。なので、それに対するお仕置きも兼ねて悪ふざけを始めただけで、それが済んだら欲しいなら譲るつもりで居たのよね。
だって言うのに、何だろうねこの登ってる途中で梯子を外された様な、腑に落ちない感覚は…とりま、さっきからあたし達の事、泣きべそかいたふりしてチラッチラ見てる明陽さん、マジ何なん?
腹立つわぁ…普通に腹立つ。
「…解った。解ったわよ、折れれば良いんでしょ、折れれば。」
だからって、ここでこっちが強硬な姿勢を取ったら、いよいよ悪ふざけの域を逸脱しかねない。ならばここは、喉まで出かけた色々な物を全部飲み込んで、彼女とは真逆の大人の対応を取るのが正解だ。
そう思い至って、未だ腑に落ちない物を感じながらも、抱いた感情毎吐き出すように、大きくため息を吐きながらそう告げた。その言葉を聞いて、パッと表情を輝かせるオヒメと――
「おぉ、そうかそうか。すまんのぉ~」
それまで浮かべていた表情が嘘の様に――まぁ実際嘘っぱちなんだけど――ケロッとした様子で立ち直った明陽さんに、思わずイラッとする。演技なのは解って居たけど、そこまであからさまにされると流石に我慢成らないわ。
なので思わず『ねぇ、あの人マジ殴って良いかな?』と、口には出さずに仕草を作って譲羽さんに顔を向けると、申し訳なさそうな表情で首を横に振るのだった。まぁ、実際許可されても、今のあたしじゃ返り討ちが関の山だろうけどね。
「フンフンフ~ン♪」
「都合悪くなると、何時もああなんですか?」
機嫌良さそうに、鼻歌交じりでイソイソと複製品を『収納』とやらに仕舞い始めた明陽さんを、半眼で睨み付けながら指差して譲羽さんに聞いてみる。すると彼女は、1つ頷いた後に手話で返事を返してくる。
あたしが手話を理解出来ないのは、百も承知の上だろうからきっと無意識なんだろう。けど、不思議とその時ばかりは、理解出来ない筈なのに彼女が何を言いたいのか、何となく解ったような気がする。
「『都合の良い時だけ子供に戻るんです』って?あたし以上に都合が良いじゃ無い…」
「フンフンフ~ン!」
それが正解かどうか怪しいけれど、譲羽さんの反応や明陽さんの態度を見る限り、きっと当たらずとも遠からずって所でしょうね。そんな風に思いながら、ちゃんと聞こえるようにわざと口に出して告げると、彼女はこれ見よがしに鼻歌の声量を上げて聞こえないふりを貫いた。
あたしが都合の良い目と耳をしてるって?この人にだけは、絶っっっ対に言われたくないわぁ~
「…来たれ。」ブンッ…
「…うん?あっ!これ貴様!!」
「貴様じゃ無いでしょうが。ったくもう…」
嫌がらせに、彼女が今し方仕舞った複製品を召喚して、これ見よがしに弄んで見せびらかしてみる。するとすかさずそれに気が付いた明陽さんが、目にも留まらぬ素早さでひったくるように奪い返すと、ブツブツと文句を言いながら再び『収納』に複製品を収めたのだった。
なんか小声で、油断も隙も無いとか言ってるけど、盗っ人猛々しいにも程があるわよね。あたしの親戚って言うよりも、ジャ○アンの親戚なんじゃないのこの人?
え、なんで最初から召喚して取り上げなかったのかって?抱きしめたかっただけですが、何か?(キリッ
さて、そろそろギャグパートもいい加減にしないと、流石に怒られそう(?)なので閑話休題。
「――要するに『収納』持ちというのは、今し方見せた通り別空間内にアイテムを収納出来る能力の事じゃ。」
今更な気もするけれど、『収納』について改めて実演を交えて説明していく明陽さん。さっき複製品を出し入れしたように、何も無い空間から色々な物を出し入れしていく。
「さっきあの人が驚いていましたけど、その能力って守護者の加護の一部なんですか?」
「いや、そんな事は無い。空間魔術が使える者ならば、一定のレベルの術者なら誰しも使えるし、魔道具の中にも同じ様な効果の物は在るよ。まぁ、空間魔術自体高位の魔術じゃし、基本収納の魔道具は恐ろしく高価な上、魔道具の口に入らぬ物は収納出来ぬがな。」
そう言いながら、明陽さんはハーレーへと近づいていき、その車体に手を翳す。するとその瞬間、まるで透明なシーツでも被せたかのようにして、その場から大きな車体が忽然と消え去った。
そのまま彼女は、とことこと店内を移動して、十分にスペースのある一角の前で再び手を翳す。すると今度は、消える瞬間の逆再生でも見ているかのように、その場所にハーレーが再び姿を現した。
「と、この通りじゃよ。」
総重量およそ250キロを越える車体を、その小さな身体でいとも容易く移動させ、得意げに鼻を鳴らして自慢するその姿は、やっぱり子供っぽくって見た目相応に可愛らしい。それはまぁ、今は良いとして――
「随分便利な能力ですね。」
「そうじゃろう?」
「でも守護者の加護って訳じゃないと言う事は、2人共その空間魔術が使えるって言う事なんですか?」
「いやまさか。この街に来る道中で言うたじゃろう、儂等は術師では無いと。」
「なら…」
「空間魔術と聞いて、御主ならピンとくる者が居るであろうよ?」
彼女にそう言われて、あたしは1人の人物を思い浮かべる。あの、何処までも透き通るように白く、下手をしたらフッと消え入ってしまうんじゃ無いかと思うような、そんな白い女神の事を。
精霊達を束ねる精霊神である彼女にも、眷属である各属性の精霊王達同様、司っている力が存在する。他の精霊王達と一線を画す、精霊神イリナスが司る力こそ『空間』に干渉して操るというものだった。
精霊界なんて出鱈目な世界を構築せしめた彼女の力なら、魔法の心得の無い人に、そんな便利能力を付与する事位、確かに造作も無い事でしょうね。
「じゃぁその能力はイリナスから?」
「そうじゃよ。こちらの世界に守護者として誘われた際に、儂等からあの女神に出した条件じゃ。譲羽は兎も角、儂は何かと手持ちが多いからのぉ~」
「あぁ、確かに陸芸の人はそうですよね。」
そう言って、彼女の漏らした言葉に同意する。と言うのも、そもそも武神流陸芸は、剣・槍・拳闘・双剣・弓・舞から成る、6つの武術が合わさった流派だ。
だから必然的にその使い手の戦装束は、拳闘での戦闘に成った際に防具兼用として、手甲と足具を着用しする人が多いと聞いていた。そこから更に、その人の得意とする武術に併せて、主兵装として刀か槍を選択し、更に副兵装として弓矢・小太刀と短刀・鉄扇と、とにかく1人当たりの武具の数が多いのだ。
勿論、コレと決めて1つの武器に的を絞った人も居たらしいけど、武芸の多彩さが陸芸の強みでもあるから、それを最大限活かすんなら複数装備するのが基本なのよね。けどまぁ、非効率なのは言うまでも無いし、だから明陽さんも1つの武器に的を絞った側の人だと勝手に思ってた。
まぁ槍なら最悪譲羽さんから借りられるだろうし、拳闘は別に手甲足具無くても良いし、舞術は鉄扇での攻防よりも動きの方が重要だし。けどその予想は、どうやらあたしの早とちりだったらしい。
「自前の双剣は、あちらに置いてきて居たからな。じゃから、これでも感謝しとるんじゃよ?姫華が作ったというこの双剣、贋作とは言え儂が向こうで使っておった品と引けを取らぬ一品じゃからな。」
「えへへ~」
不意に、三度『収納』場所から夜天と銀星の複製品を取り出した明陽さんが、真面目な表情でオヒメを褒め出した。それが受け取った品に対する、素直な感謝の表れなんだろう。
正直、そんな言葉だけで済ませる気かとも思うけれど、言われた本人が嬉しそうなんだしまぁ良いか。それに複製品とは言え、2人が褒められてあたしも嬉しいし。
何より、今更また蒸し返して、ギャグパートを再開したりしたら、今度こそ怒られそうだし~




