子連れJK異世界ぶらり旅シリーズ、は~じま~るよぉ~!(1)
――カランカラン…
「ごちそうさまでした~」
扉に付けられた鐘を軽快に鳴らしながら、店の外へと出たあたしは、後に続いて出てくる人達の為に、扉が勝手に閉まらないように押さえながら、店内に向かって食後の挨拶を告げる。そして、あたしが押さえた扉から、フード付きマントを目深に被った明陽さんと譲羽さんが姿を現し、遅れてアクアが表に出てくる。
「朝早くからありがとうございました。」
「ハッハッハッ!なぁ~に良いって事よ!けど次はちゃんと宿を取っておくれよ?」
最後にオヒメを抱えたエイミーが姿を現し、その場で振り返り店内に向かって軽くお辞儀をしてお礼の言葉を述べる。彼女のその言葉に対し、この店の店主である恰幅の良いおばちゃんは、早朝から大人数で押しかけたにも関わらず、それを気にした素振りも見せず快活に笑う。
あたし達がこの街に着いたのは、まだ日も昇ったばかりで、街全体も未だ起き抜け前のような時間だった。大陸を渡る船は当然、ギルドだってまだやっていないような時間に着いてしまって、さぁどうしようと言った時に、思い出したかのように腹の虫がぐぅぐぅと鳴り始めた。
思えば、昨日風の谷に着いてから、口にしたのは携帯食料と水くらいな物で、禄に食事をした記憶が無い。戦闘が終了した後も、なんだかんだバタバタしていたし、落ち着いて食事する時間なんて無かったもんね。
特に、あたしなんてまだまだ育ち盛りだし(何故か胸に栄養は行かないけど…)一日の活力は朝食にあり!
と言う事で、宿屋なら宿泊客用に朝食の準備もしてんじゃ無いのかなぁ~と淡い期待を抱いて、ダメ元でこのお店に、突撃!隣の朝ごは~ん!!を敢行したという訳です、はい。
かなりな無茶振りだと思ったけれど、店のおばちゃんが、超親切な人で助かったわ~おまけにご飯も美味しかったし。
「えぇ!次は絶対ここに泊まらせて貰いますよ。」
なので、おばちゃんに釘を刺されたからとかでは無く、本心からそう思ったので、力強く頷きながらその約束を快諾した。きっとおばちゃんは、冗談半分でそう言ったのだろう、なのにあたしがそんな風に答えたからか、一瞬きょとんとした後、再び快活に笑い始める。
「そうかいそうかい!なら次は、もっとたんとうまいもん作ってやらないとねぇ!!」
「マジ!?超期待しちゃう!」
「アッハッハッハッ!!その期待は裏切らないから安心おしよ!なんせこの店の自慢ったら、このあたしの腕によりを掛けて作った料理だからねぇ!!夕食は朝の比じゃ無いよ!?」
「おばちゃん最高~!!」
「お姉さんとお呼びよ!!」
なんて感じで朝っぱらから盛り上がり、程なく名残惜しいけれど再会を約束して、おばちゃ――お姉さんと別れを告げた。女は誰しも、何時までも若くありたいんだから、その辺お察し下さい。
ともあれ、空腹も満たされて良い感じに時間も経った事だし、そろそろ本題に移るとしよう。
「さてと。それじゃどうしよっか?」
ひとまず港に向かって歩きつつ、あたしは視線をみんなに向けながら、そう言って話を切り出した。
「そろそろギルドも開きますし、私はギルドに行ってシフォン達の足取りを探ってきます。」
「あ!じゃぁ私もお付き合いします!!」
あたしの振った話題に、真っ先に応えるエイミーと、その言葉を受けてアクアが、真っ先に反応して賛同しちゃっかりその提案に乗っかる。いやあんた、あたしに張り付いて為人を見極める為に、そもそも着いて来たんじゃ無かったっけ?
まぁ、ウィンディーネの試練を終えた後だから別に良いけどさ。って言うか、ちゃっかりおばちゃ――お姉さんの料理、ママの所に持って行きおってからに…
「儂等は港に向かって、ライン大陸に向かう船を押さえてくるよ。おぬし等も同船するで良いんじゃな?」
「はい。一応その予定でいます。」
次いで明陽さんが答えると同時にそう問われ、エイミーがあたしの代わりに答えてくれる。とりあえず、2つの意見がこうして出た訳だけど、あたしはどうしよっかなぁ~
エイミーと一緒に、ギルドに向かってシフォン達の足取りを知りたい気持ちも在るけれど、明陽さん達に着いていって、もっと色々話したいって言う気持ちもあるのよね。こうして異世界の地で、同じ世界から来た異世界人で、おまけに親戚同士が出会うなんて、一体全体どんな天文学的数字かって言うね。
オヒメも懐いているから、なるべく側に居させてあげたいのよね。2人共守護者なんて立場だから忙しいだろうし、ライン大陸に着いて別れた後、次いつ会えるかも解らないからね。
それに、シフォン達の仕事状況によっては、一緒に船に乗れずにここでお別れって言う、可能性だってあるんだし。まぁ、エイミーがシフォンに宛てた手紙には、あたし達がこの街に着いたら、すぐにライン大陸に渡るって書いたそうだから、それをちゃんと読んでいるんだったら、きっと平気だろうけど。
「優姫はどうしますか?」
「うぅ~ん…」
不意にそう問われて、わざとらしく腕を組んで唸りながら考える仕草を見せる。はてさて、エイミー・アクアルートか明陽・譲羽ルートか…
攻略対象、ロリババァばかりで需要在るかな…
「優姫さん…」
「御主、なんか失礼な事考えとるじゃろ…」
そう問われて視線をそれぞれに向けると、ジト目のアクアと目深に被ったフードの奥から、明陽さんの呆れたような視線を感じる。勘の鋭い精霊のアクアは解るとして、なんか明陽さんも勘鋭くない?
ってか、あたしが顔に出し過ぎてんのかな…ここはとりあえず、笑って誤魔化しとこう。
冗談はこの位にして、どちらについて行くかって言う事だけど、実を言えばあたしはあたしで、ちょっと寄りたい場所があったりするのよね~
「…エイミーって、この街に詳しかったりする?」
「この街ですか?そうですね…最後にここに来たのは、100年以上も前ですからね。ギルドの在る場所は変わっていないと思いますが、ここから見える風景は随分と変わってしまっているので、自信は無いですね。」
「やっぱそっか~明陽さん達は?」
「儂等は、ダリア大陸に立ち寄る際は、だいたいここを利用するでな。まぁ人並みには知っておるよ。」
「そうですか。なら聞きたいんですけど、この街で異世界――あたし達が元居た世界の武器や道具を、多く扱っている様な場所って在りませんか?」
「ふむ?」
あたしがそう問うと、それまで黙っていた譲羽さんが、徐に手話で何やら語り始め、それに気が付いた明陽さんが、視線を向けてそれを読み取っていく。車内ではテレパシーで会話に参加していた譲羽さんだけど、街に入ってからはずっとこんな調子だった。
本人曰く、無闇矢鱈と周囲の人に、会話の内容を聞かれたくないらしい。何と言うか、徹底した人だな~
なんて感心していると、譲羽さんの言葉を解読した明陽さんが、それをあたしに伝えるべく視線を向けてくる。
「…どうやら、こやつに心当たりがあるようじゃ。行ってみるかえ?」
「えぇ、是非お願いします。」
そう問われて、二つ返事に頷いて応える。これであたしの進むべきルートは、明陽・譲羽ルートに決定しました(←懲りない奴
実を言うと、この街に着いてからというもの、妙な気配をずっと感じていたのよね。それは帝都で、夜天と銀星に呼ばれていた時の感覚に似ているんだけど、あの時程ハッキリ呼ばれているって言う感覚じゃ無いのよね。
なんて言うか、2人のように意識をハッキリ持っていないけど、量が多くて存在感だけは凄く在るみたいな?その存在感を辿れば、きっと目的地には辿り着けるんだろうけど、方角的に入り組んだ裏通りにあるみたいだから、行きはよいよい帰りは迷子に成りかねないのよね~
ちなみに、その2人は今あたしの精霊界で休んでいる最中だ。この街に着いたって言うのに、夜天がいつも通りに夢心地で、起こすのも気が引けたんで、寝かしたままにしてジープと一緒に送還しました。
何も言わずに銀星が付き添う辺り、本当にあの2人は仲が良いのよね~風華も2人を見習って、あたしの髪の中に閉じこもってばかり居ないで、オヒメとスキンシップを図って貰いたいんだけどなぁ~
「では、ここで1度別れましょうか。ギルドでシフォン達の事を探したら、そのまま港に向かいますね。」
「解ったわ。じゃぁ港で落ち合いましょう。」
エイミーに預けていたオヒメを受け取りながら、短いやり取りの後、あたし達はその場で二手に別れて行動する事になった。遠離っていくエイミー達の背中を、手を振るオヒメと共に見送った後、改めて明陽さん達に対し向き直った。
「では、儂等も行くかのぉ。」
「うん!」
「案内よろしくお願いします。」
そう問われて返事を返した後、譲羽さんを先頭にあたし達も移動を再開する。それまで、大通りを真っ直ぐ港に向かって歩いてきたけれど、再開早々先頭を征く彼女達は、横道に入って細めの通路を選んで角を曲がる。
土地勘の無いあたしは、その背中を追って着いていくだけだ。大通りを進むだけだと解らなかったけど、裏路地はかなり入り組んでいて迷路のようだった。
「それで、これから何処に向かうんですか?」
「雑貨屋じゃ。」
「雑貨屋…ですか?武器屋とかでは無く?」
「うむ。」
置いてけぼりくらったら確実に迷子に成りそうなので、物珍しさから不用意に周囲をキョロキョロしないようにする為にも、これから何処に向かうのかと前を征く2人の背中に問い掛け、返ってきた答えに訝しがりながら聞き返す。
「何時だったか、この街に来て譲羽が見つけた店でな。そこの店主が、異世界の品々を集めるのが趣味でのぉ。商品としても並べておるが、集めたそれらの品々を展示して楽しんどるのよ。」
「そのコレクションに、あたしの力が反応した?」
「じゃろうな。」
肩越しに振り返って説明する明陽さんの言葉を受けて、成る程と1人納得する。確かにコレクターが収集した品々に反応したのなら、存在感だけは大きいという感覚にも納得だ。
進むにつれて、その感覚も大きくなっきてるし、その雑貨屋にあたしの力が反応したのは間違い無いだろう。けど、武具の精霊であるあたしが遠く離れてても反応する程、雑貨屋に武器防具の類いがあるのだろうかという疑問も残る。
武器屋なら当然、珍しいしこの世界の武器よりも頑丈だからと、取り扱う事もあるだろうけど、雑貨屋を訪ねるような人が、わざわざ武具を求めて来店するとも思えない。けどその疑問は、続く明陽さんの説明を聞いて氷解する。
「刀剣類ならば、持ち込む先は武器屋じゃろうがな。儂等から見れば武器の類いでも、この世界の者にとってそうで無い物や、例えば銃器の様に弾の生産が行われていない物等は、骨董品の様に扱われて然りじゃろう?」
「あぁ!そっか。」
オヒメを抱っこしているにも関わらず、それを忘れて手をポンと打つ仕草を取りそうになる程、腑に落ちなかった部分にその説明は、ストンと頭の中に落ちてきた。確かに言われてみれば通りだ。
帝都で用意された品々を眷属化した時にも、木製のバットにバイク用の半帽キャップだとか、あたしから見て本来武具とは言えないような物や、逆に刺叉や鉄扇とか兵法書なんて、こっちの世界の人から見て武器と見えるのかも怪しい物まで、眷属化出来る物の種類は幅広かった。
それに彼女の指摘した通り、弾丸の無い銃器なんてただの置物と大差ないし、浩太さんから預かったジープだって、ガソリンが無かったら車輪の付いたただの箱だ。そう考えると、本来発揮される筈の機能を失ったそれ等は、こちらの人達にとっては物珍しい置物とそう大差ないのかも知れない。
改めて考えてみると、眷属化出来る物の基準がいまいち良く解らないのよね。風の谷では、長い年月潮風に晒されて、腐食しきって折れちゃった刀剣類は眷属化出来なかったけど、元武器と言うその一点で言えば、木製バットよりかは十分武器だと思うし。
その辺りの検証も、いずれしておいた方が良いのかしらね。あたし自身、精霊の力をまだまだ把握し切れていないし、落ち着いたら1度帝都に戻るのも良いかもね。
「それにしても、こんな複雑に入り組んだお店、よく覚えてますね?」
「そりゃこの街に寄る度に、毎回顔を出しておるようじゃったからな。」
「へぇ~譲羽さんがですか?」
「うむ。元々こやつは、愛らしい小物類が好きだったでな。」
あぁ~、それはなんとなく明陽さんへの接し方見てれば解るわ。まぁ、言わない方が良いんだろうなぁ~
「じゃからこやつは普段から、大きめの街に寄った際は、よく散策ついでに雑貨屋巡りをしておるのよ。のぉ?」
そう言って明陽さんは、並んで歩いていた譲羽さんへと視線を向ける。すると彼女は、その言葉に対し頷いた後、あたしの位置からだと死角になってて見えないけれど、両手を動かし手話で何やら明陽さんに伝え始める。
「ふむ。『他の街の雑貨屋でも、同じく向こう側の品々を置いとる店が結構ある』じゃと。まぁこれから向かう所は、ダントツじゃそうじゃがな。」
「なら今度から雑貨屋も見て回る事にします。貴重な情報ありがとうございます。」
「ありがとう譲羽おばちゃん!」
先を歩く譲羽さんに向かって、素直な感謝の気持ちを言葉として投げかけると、あたしの真似をしたがってか、胸に抱いたオヒメも満面の笑みを浮かべて感謝の言葉を口にする。まぁ間違っちゃいないんだけど、やっぱおばちゃんって呼ぶには見た目が若すぎだから、改めて聞くと違和感しか無いわね…
けれど言われた本人は、さして気にした様子も無く肩越しに振り返ると、フードから覗かせている口元を緩ませて、軽く会釈でもするように頷いただけだった。その落ち着きっぷりたるや、正に大人で仕事の出来る女性って感じで憧れるわ~
「…澄ましおって。内心姫華を抱きとうてソワソワしとるくせに。」
「え?」
「そうなの!?」
一方のこっちは、ちょいちょい見た目通りの子供に見えるから逆に安心するわ。きっと普段のお返しのつもりで、そんないらん事口にしてるんだろうけど、そんな事言うから子供扱いされるって、実は気が付いてないのかしらね?
「…抱きます?」コク…
まぁ実はあたしもそんな気がしてたから、言ってくれて逆に助かったけどね。暫く譲羽さんを見つめた後訪ねると、若干照れた様子ながらも首肯して、その提案を受け入れる彼女だった。
ギャップ萌え可愛いなぁ~御馳走様です!!




