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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第三章 精霊編
137/398

幕間3(2)

「シルフィード様。」


 丁度話に区切りが付いたその瞬間、唐突に頭上から響いたその声に視線を上げると、上空からゆっくり降下してくるイザベラの姿が目に写った。彼女はそのまま、音も無く地面に着地すると、恭しくシルフィーに対して跪いた。


「帝都より派遣された兵達に動きがありました。恐らく出発の準備に取りかかった物かと。」

「そっか。ありがとう、イザベラちゃん。」


 この場に、今まで顔を見せていなかった彼女は、今までずっと上空で警戒の任に着いていたのだ。昨日の今日で、きっと彼女も疲れているだろうに、その使命感の強さには本当に恐れ入る。


 そんな彼女に対してシルフィーは、柔らかい笑顔で労いの言葉を掛ける。なんとも他人行儀なやり取りだなとも思うけれど、それもさっき彼女が言っていた、対外に向けて見せるべき立場と言う物なのだろう。


 それよりも、今更帝都から軍が派遣されるなんて、事態の収束を知らせていないのかとも思うかもしれない。実際あたし達は知らせていないけれど、イリナスはちゃんとその事を把握しているので、彼等も勿論知っている筈だ。


 ならどうして未だに進軍しているのかって言うと、彼等の目的が討伐任務から事後処理へと変更された為だ。要するに、戦闘に間に合わなかったから、後片付けのお手伝いと、戦闘で消耗した精霊達に代わり、この地域一帯の警戒を引き受けてくれるとそういう訳だ。


 まぁ、戦闘に間に合わなかったのは、しょうがないっちゃしょうが無いんだけどね~帝都からこの風の谷まで、準備を終えて行軍するって成ったら、魔法に頼って昼夜問わず歩き通しても、丸1日は掛かるらしいからね。


 こんな言い方はアレだけど派遣された軍隊は、要するにあたし達が負けた時の為の保険って意味合いが強かったんでしょうね。最初から負けを想定して、ヤマト王が動いていたって言うのは正直癪だけど、シルフィー達の力を過信して根拠も無く大丈夫だなんて、バカの1つ覚えみたいに楽観視していないだけ、どこぞの平和ボケした政治家よりかは、まぁ大分マシかしらね~


 ともあれ、そんなヤマト王からイリナスを通じて、兵士達に目撃されると色々噂が立つから、解決したんなら成るべく早く移動して下さい、なんて伝言を頂きましてね?まだ疲れも取り切れていない上、陽だって完全に昇っていないこんな時間に、出発準備をしなくちゃいけなくなりましたと、そういう次第ですはい。


 だって、一応こっちの世界でお金くれるパ――もとい、パトロンだし~誘惑に負け――もとい、必要経費で、既に結構な量の服を2人して買っちゃったし~し~!


 そんな金ず――もとい、高貴な御方にお願いされたら、『イエス!サー!!』以外の返事の仕方なんて無いじゃない?


 まぁ、その辺りは軽く冗談(?)にしても、あたしという存在が公になる事で、ヤマト王やイリナスが懸念してる異世界人召喚の魔法が、各国で再び使用される未来の方が末恐ろしいからね。そんな人権無視した行為を、容認するような世界だって言うんなら、邪神の軍勢の前にまずあたしがこの世界の敵に成ってやるってのよ。


 威勢の良い事を思ってみても、勿論そんな物騒な未来は、なるべく実現させない方向で慎重に行動していきたいと、あたしもそう思っている。なので結局、ヤマト王にそう言われてしまっては、二つ返事で『はい』と答える他、情けないけど無いのよね~


 『だが断る!』超重要な場面で、この名台詞を高らかに宣言してみたいわぁ~(何気な~く不穏なフラグを立てる奴←


 ともあれ、そう言った大人の事情もあって、急遽出立する事になってしまったのは、正直あたしとしては凄い不満だった。だって――


「約束守れなく成っちゃってごめんねシルフィー。」


 オヒメを再び抱え直しながら、申し訳ない気持ちを精一杯表に出して彼女に告げる。


 面倒事が全部解決したら、また一緒に遊ぼうとそう――そう彼女と約束を交わしていた。だけどその約束は、どうやら守れそうに無いらしい。


 それが、この地を去る上での唯一の心残りだった。ただの追いかけっこが、あんなにも楽しいだなんて、まさかこの歳で知る事になるとは正直思わなかった。


 思い返してみれば、子供の頃から稽古や習い事の日々ばかりで、放課後に鬼ごっこなんかをして遊んだ記憶が一切無い。だからだろう、シルフィーを一方的に追いかけ続けていただけなのに、遠い背中を追いかけるのが、余計楽しく感じられたんだと思う。


 あの時は2人きりだったけれど、人数が増えた方がきっともっと楽しい筈だから、今度はみんなで一緒に――そんな風に考えて、密かに楽しみにしていたんだけれど…


「せっかちさんだねぇ~優姫ちゃんは。昨日の今日だっていうのに、もう約束を守ろうとしてるのかい?」


 申し訳ない気持ちを吐き出すあたしを、しかしシルフィーは、可笑しそうに笑いながらその空気を一蹴する。


「情けない話だけど、正直ボクもうヘトヘトで遊ぶ元気なんて残ってないよ。」


 苦笑しながら肩を竦めそう語る彼女だけど、その言葉があたしに対して気を遣っているのはすぐに解った。確かに疲れてはいるんだろうけれど、魔力生命体である彼女達精霊に、肉体的な疲労なんて関係ないだろう。


 それに何より、どんなに疲れていたとしても、遊びとなったら無尽蔵に体力が湧き出しそうなのがシルフィーだ。実際に今だって、言葉の割には気怠そうな素振りなんて一切見受けられない。


「それにほら――」


 そんな風にあたしが思っていると、更に言葉を続けていた彼女は、そこで一旦言葉を区切って後ろを振り返る。それに倣って視線を移すと、昨日着いた頃見た光景とは余りにもかけ離れた、見るも無惨な状態の岩山の数々がそこに並んでいた。


 切り崩された山や溶けた山など、谷の中央に向かえば向かう程、それが岩山だったのかと疑問に思う位に、その原形を留めていない。見える範囲でそれなのだから、中心地は当然もっと酷い惨状になっているのは、言うまでも無いでしょうね。


「みんな頑張ってくれたからねぇ~特にククリちゃんが頑張ってハッスルしてくれた辺りは、暫く立ち入れそうに無い位熱くなっちゃってるし。」

「カカッ!ちぃ~とばかし、熱く成り過ぎちまったかぁ~ねぇ~?」

「うちの長姉がご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありません…」

「アハハッ!気にしなくて良いんだよルージュちゃん!この程度の被害で奴等の侵攻を抑えられたのなら、逆に儲けものさ!」


 シルフィーの言葉に、軽い調子で悪びれた素振りの見えないククリと、その彼女の代わりと言わんばかりに、申し訳無さそうに腰を折って謝罪するルージュと続く。そんな彼女達に笑顔で返して、シルフィーが再びあたしへと向き直る。


「我が家があんな状態じゃ、おちおち安心して遊べる訳無いじゃない?それに、そこら中蟲人の死骸だらけだし、瓦礫の下に生き残りが居ないとも限らないしね~」

「後始末の方が大変よね。それをほっぽって行くって言うのも、正直気が引けるのよねぇ~」

「アハハッ!本当に律儀だねぇ~まぁけど、その辺の事は安心してくれて良いよ!折角帝都から軍が派遣されてくるんだし、後片付けは彼等に丸投げするつもりだからさ!」

「…悪い顔に成ってるわよ。」

「そうかい?折角来てくれたのに、ただ来て帰すなんて勿体ないじゃ無い。彼等の為にも、ちゃんと仕事は残しておいてあげないとね!!」


 悪い顔になって笑顔でそう語る彼女に対し、あたしは呆れ顔になりながら苦笑する。まぁでも確かに、あたし達が大変な思いをして蟲人達の侵攻を防いだって言うのに、遅れてきた彼等が何もしないで帰ったんじゃ、正直言って割に合わない。


 せめて事後処理を押しつける位の事をしたって、きっとバチは当たらないだろう。けれど確かに、そうなってくると今すぐ約束を果たすというのは、やっぱり無理な話に成るわよね。


「だから後の事は気にしないで、優姫ちゃん達は先に向かっておくれ。先に向かったって言う仲間達だって、キミ達の事をきっと待ってる筈だしさ。」

「えぇ、ありがとうシルフィー。」


 少し寂しそうな笑顔を浮かべ彼女はそう告げて、後ろ髪引かれているあたしの背中を優しく押す。きっと彼女もあたしと同じで、すぐに約束を護る事が出来無い事を、残念がっているのだろう。


 それが伝わってきたからこそ、あたしも少し寂しい気持ちで笑顔浮かべて、気持ちを押し殺してそう答える。彼女もあたしとの約束を果たす事を、きっと楽しみにしていたなんて、そんな風に思うのは自惚れなのかしらね?


 少し寂しくはあるけれど、何時までもしんみりした空気を漂わせている訳にもいかない。別れの挨拶は、後腐れ無く笑顔で行うべきだし、何よりも――


「落ち着いた頃にまたおいでよ!その時こそ、何の遠慮も無く目一杯遊ぼうぜ!!」


 ――これが今生の別れでは無いんだから、今日果たせない約束なら、次会う時まで楽しみを大事に大事に取っておけば良いだけの話なのだ。


 それまで、少し寂しげに笑っていたシルフィーだけど、唐突に彼女らしい元気一杯な明るい笑顔を見せると、拳を握ってあたしの眼前へと突き出してくる。どうやら彼女は、あたしが教えたその挨拶をとても気に入ったらしい。


 そんな彼女がとても眩しくて、思わず目を細めながら微笑むと、あたしも拳を作り向けられた拳に打ち付けた。


 ――ゴツンッ「えぇ、近い内に必ず約束を果たしに戻ってくるわ。」


 約束を果たす為の約束を、ここに再び取り交わす。無事に再開を果たした暁には、今度こそみんなで、疲れ果てて動け無くなる位に目一杯遊んで過ごそう。


 その約束を果たす時まで、寂しいけれど暫しのお別れ――


「…優姫、そろそろ行きましょう。」

「…えぇ。」


 不意に、それまで微笑みながら黙ってやり取りを見守っていたエイミーが、あたしが切り出せなかった言葉を口に出して告げる。これ以上別れを引き延ばせば、ただただ辛くなると思ったんだろう、損な役回りを進んで買って出てくれた彼女に、心の中で感謝を述べる。


「じゃぁ、みんな気を付けてね!」

「また、何時でもいらして下さい。」

「カッ!まぁ~た会える日を、楽しぃ~みにしてるぜぇ~!!」

「カザンウェル山にもまた遊びに来て下さい!」

「ヴァルキリー様!不出来な妹ですが、どうかよろしくお願い致します。」

「おぉ~い!オヒメ~!!今度来た時はウチ等とも遊ぼうなぁ~!!なっ!?ネル!!」

「う、ん…!また…ね!!」


 エイミーの言葉を受けて、あたし達の元からゆっくりと遠離っていくシルフィーの言葉を皮切りに、その場に集まった精霊達が、一斉に思い思いの声援を口にしだす。その声を受けて、思わず頬が緩むのを自覚しながら、あたし達は振り返ってジープへと歩を進める。


「あ、アクア!あなたずっと頑張ってたみたいだし、運転は私がやるわよ。」


 そんな中、何も言わずに運転席に向かおうとするアクアを呼び止めてそう言う。あたし達は、昨夜シルフィーと別れた後ずっと休んでいたけれど、穴が完全に塞がって動く蟲人達の気配が無くなるまで、彼女はずっと頑張っていたそうだ。


 いくら精霊が、肉体疲労を感じないとは言っても、精神的疲弊が色濃く見える今の彼女に、運転までさせようだなんて鬼みたいな事、流石のあたしでも言えやしない。ってか、文字通り透き通る様に白かった彼女の肌が、今は病人みたいに青ざめていて、まるで地獄の底でも見てきたような悲壮感さえ漂わせてる相手に、鞭打つような真似出来無いっての。


 一体全体、彼女の身に何が起きたと言うのか…それを知るのは、彼女と彼女の姉のカーラさんだけだろう。


「いえ、運転していた方が酔いませんし…それに…」


 あたしの言葉に対し、彼女はそう言って後部シートに向かって目配せする。なら助手席にと思い、そっちに向かったエイミーに視線を向けると、彼女は彼女で申し訳なさそうにしていたのだった。


「…解った。じゃぁ任せるけど、無理はしないようにね?」

「はい。」バタンッ!

「すみません。」バタンッ!


 あたしが苦笑しながらため息交じりにそう言うと、ホッと胸をなで下ろした様な表情を浮かべて、アクアは運転席へと滑り込む。一方エイミーも、申し訳なさそうに謝罪しながら、助手席のドアを開いて車内に消えていった。


 あのエイミーが、気後れするなんて珍しいわね。と言うか、単に2人共緊張しているだけか…


 そんな事を思いながら、後部ドアを開こうと手を添える。そして――


「そうだ、優姫ちゃん!最後に一つ聞きたいんだけど――」


 背後からシルフィーに声を掛けられて、ドアに手を掛けたまま振り返った。


「――キミは、何の為に闘ってくれたんだい?」

「何かと思えば、最後の最後でよりにもよってそれを聞くの?」


 振り返り様、今更過ぎる事を彼女に聞かれて、思わず苦笑しながらそう答える。別れ際の最後の最後に、呼び止められて何を聞かれるか構えてみれば、それは余りにも今更過ぎる質問だろう。


「アハハッ!まぁそうなんだけどさ~けど気になるじゃん。キミは別に、世の為人の為だなんて、そんな事これっぽっちも思って居ないでしょう?」

「本当に悪びれた素振りも無く言ってくれるわね…」


 いっそ清々しいと思える程、彼女のあんまりにもな発現に、呆れてため息を吐きながら呟いた。確かにその通りだけれども、言い方が雑過ぎてそれじゃ冷血漢みたいにしか聞こえないじゃない。


 さてどう答えようか。今回に関して言えば、彼女があたしの好きな人に似ているからと、そう素直に告げても良いのだけれど、それじゃ流石に恥ずかしい。


 それに、あんまりにもあんまりな発現に対して、嫌味の一つも込めなければ気が済まない。ここはお返しとして、わかりにくく且つ乙女らしく、詩的表現で返してあげましょうかね。


「そうね…あたしは『鏡』よ。」

「…は?え!?鏡??」


 突拍子も無いあたしの発言に、思惑通り彼女は頭に疑問符を沢山浮かべる。余りにも想像通りのその姿に、してやったりとばかりにクスリと笑いながら続ける。


「そう『鏡』!あたしはきっと鏡に成りたいのよ。」

「えっ…と、どう言う意味?」

「『人は人を写す鏡』だって、そんな言葉があたしの居た世界にはあるわ。笑顔を向けられたわ、思わず笑顔を浮かべてしまうように。不機嫌な人を前にしたら、楽しい気分になる訳がないし、むしろ萎縮しちゃうでしょ?」

「うん、まぁ…そうかな。」


 未だ要領を得ないと言った感じで、あたしの説明を聞く彼女を余所に、車のドアを開いてシートに座る。そして、最後に意地の悪い笑みを浮かべて、彼女に対して口を開いた。


()()()、あたしは『鏡』なのよ。みんなを護りたいと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、あたしは。」

「え…」


 一瞬意味が判らなかったらし彼女は、しかし間を置いた後、あたしの言いたい事が伝わったのか、その頬を僅かに赤らめる。


 ご大層な理由なんて必要ない、あたしはあなたを護りたいから闘った。ただそれだけなのだと――


 ――キュルルルル…ドルゥンッ!!


 彼女があたしの言葉を噛みしめていたちょうどその時、車のエンジンが音を立てて始動し始め、いよいよ別れの時だと告げ始める。これ以上、彼女に捧げる言葉は必要ないだろう。


「じゃあねシルフィー!みんなも元気で!!」

「あ、うんっ!またね優姫ちゃん!!」


 ――バタンッ!ブロロロォォォーッ!!


 最後に別れの挨拶を済ませ、扉を閉めると同時に車体は勢いよく動き始める。窓からは、大きく手を振るみんなの姿が、どんどん遠離っていく物悲しい光景が写っていた。


「『鏡』…か。成る程、言い得て妙じゃな。」


 その光景を暫く見送った後、隣の席から聞こえる声に振り向けば、そこには白装束の2人組の姿があった。


「幻滅しましたか?大婆様。闘う為の理由を、他人に見出し押しつけようとするあたしを…」

「別に、そんな事は無いさね。闘う為の理由など、人それぞれじゃろうて。むしろ、狂気に囚われ殺人鬼にまで墜ちるような輩共に比べれば、崇高さの分大分マシじゃな。」


 あたしの皮肉に、大婆様――皇旺は至って真面目に答えてくる。最強の殺人術を自負する武神流にとって、技を鍛えるのは己の為であり、闘う理由は己が死なない為でしか無い。


 時代錯誤に思うだろうけど、古流の流れを汲む流派の教えは、どこも大抵似たり寄ったりだろう。


「己が死なぬ為にただ闘い、生存率を高める為に技を鍛える。儂等の頃はその様な時代で、闘う理由などそれで十分じゃったが、今の世はそうで無いのであろう?であるならば、そんな理由でも良いでは無いか。世の為人の為等得意げに言う輩よりも、目に写る誰かの為の方がよほど人の身の丈に合っておるわい。」


 そんな激動の時代を生きていただろう人に、まさか受け入れられるとは、正直予想外だった。そして、そんな時代を生きて来た人だからこそ、その言葉の重みもひと味違う様に思える。


 けどまぁ、見た目がまんまおかっぱ小学生な上、シートが狭いから譲羽さんの膝の上にちょこんと座ってる状態だから、なんもかんも全部台無しなんだけどね~正直、何か良い事言ったみたいな感じの表情してるんだけど、格好がミスマッチ過ぎてて吹き出す寸前。


 昨日みたいに不穏な空気出していないし、見た目可愛い幼女なんだから、エイミーもアクアもそんな緊張する必要ないと思うんだけどなぁ~


 え、なんで2人が同乗してんのかって?いやぁ~クローウェルズに向かうって行ったら、じゃぁ乗せてってお願いされただけですよ?この車、定員4人だから狭いよって言ったら、有無を言わさず譲羽さんが彼女の事抱きかかえたのには笑ったわ~


 最初は抵抗してたけど、もうすっかり大人しくなっちゃってる辺り、普段からそういう扱いを受けていそうね。まぁ、そういう風に扱いたい気持ち、あたしも解るけどね!


「そう言えば、大婆様に会ったら聞きたい事があったのよ。」

「ふむ、何じゃ?相席させてくれた礼代わりに、答えられる事なら答えてやるぞ。」


 暫く、他愛ない話をしながら、話のタイミングを見計らって、以前から聞きたかった事をこの機会に聞こうと口を開く。すると彼女は、思いの他あっさりとその申し出を受け入れてくれた。


 同郷でおまけに遠い親戚と言う事も十分在るんだろうけれど、思った以上に話しやすい。守護者だなんだと言われているから、てっきりお堅い人なのかと勝手に想像していたのよね~


「皇旺って名乗っているけど、偽名なんでしょ?なんでその名を選んだんですか?」

「ふむ、一族の者ならばその名の由来を知っていて道理か。御主の言う通り、旺の名は偽名じゃよ。」


 思い切って聞いてみたあたしの質問に、これまた彼女はあっさりと答えてくる。まぁ同じ一族の者なら、すぐにバレる事だから、変に隠し立てしてもしょうが無いんだけど。


「何故この名を使っているのかと言えば、旺の名は良くも悪くも有名じゃからな。この名を耳にしたその筋の者であるのなら、異世界の地であっても会いに来るであろうと考えただけじゃ。善くも悪くも…な。」


 更にそう答え、最後に意味深な台詞と共に、人の悪そうな笑みを浮かべる。その表情と言葉から、成る程と1人納得した。


 とどのつまり、旺の名を餌にしていたって言う事か。武神流は裏の社会じゃ割と名の通った家柄だから、その名を知っている人がこっちの世界に来れば、助けを求める人だって居るだろうし、名を上げる為に挑んでくる者も出てくるだろう。


 実際あたしも、2人の名を聞いて真っ先に合うべきだと思った位だしね~しっかし、だからって世界の中心で『俺最強!』を叫んだ人の名を、拝借したいとは思わないけどなぁあたしは。


「それにほれ、よく言うではないか。世の中名乗った者勝ちじゃとな。」

「それ、自分が最強ですって暗にアピールしてるって事?」


 あたしの指摘を受けて、彼女達は可笑しそうに笑っていた。前言撤回、ここに居ました『俺最強!』を、好き好んで名乗りたくてその名を拝借した人。


 発想が脳筋…まぁ、あたしも自分で精霊名決めようって時、おんなじ事口にしてたから人の事言えないけどさ。


「…理由が解ってスッキリしました。スッキリついでに、もう一つハッキリさせたいんですけど、良いですか?」

「なんじゃい?」

「大婆様の本名って何ですか?」


 その一瞬、彼女は表情を強張らせて逡巡する。その反応に訝しがっていると、彼女は目を伏せて大きくため息を吐いた。


「…アケビじゃ。」

「アケビ…果物の?」

「言うと思ったわ!違わい!!」

「だ、だって言い難そうにするから…」

「そういう反応を、今まで散々されたからじゃよ。まぁ主にコイツじゃがな!」


 そう言って、怒り顔で親指を突き立てて、自分を抱えて座る譲羽を指し示した。当の指された本人は、聞こえていない風を装って、怒りだした子供をあやすように、大婆様の頭を笑顔で撫で始める。


 それを怒り顔で、されるがままになっている辺り、きっと普段からこんなやり取りが続いているんだろう。仲良いなって言うか、この譲羽さんって人相当質悪いなぁ~…


「『明ける陽』と書いて明陽(あけび)…朝日の事じゃよ。」

「良い名じゃ無いですか。見た目が若いから、大婆様って呼ぶの気が引けてたのよね。だから改めてよろしくお願いしますね明陽さん、鶴巻優姫です。」


 そう言ってあたしは、皇旺改め皇明陽さんに対して笑顔を向ける。見た目幼女をおばあちゃん呼ばわりは、流石に無いわよね~


「成る程そういう事か。道中よろしく頼むよ優姫。」


 そんなあたしの真意を理解して、彼女も自然と笑みを浮かべ返事を返す。ともあれ、ようやくこれで気になっていた事が解決出来た。


 これで心置きなく、次の街『クローウェルズ』に向かう事が出来る。そこで船を手配して、リンダやシフォンと合流したら、ライン大陸に向けて出発だ。


 ジョンキュンは元気かなぁ~2人から変な影響受けて無いかお姉さん心配!彼には是非とも、尊いままでいて欲しいわ…

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