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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第三章 精霊編
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幕間3(1)

 その場で一夜を明かし空が白み始めた頃、あたし達一行は風の谷の外縁に集まっていた。


 召喚したジープを背にして、オヒメを抱きかかえ肩には風華を乗せたあたしと、隣に並び立つのは夜天と銀星を肩に乗せたエイミーと、疲れた様子のアクアの姿があった。そんなあたし達と向き合う形で、シルフィーを先頭に風の精霊達と、その後ろに火と水の高位精霊達が並ぶ光景はなかなかに圧巻だ。


「みんな疲れてるだろうに、わざわざ見送りに来るなんて物好きよね~」


 その光景を前にしてあたしは、苦笑を浮かべつついつもの調子で憎まれ口を叩く。それに対し、隣に立つエイミーが、呆れ気味に苦笑するのが気配で伝わって来る。


「アハハッ!ほんと優姫ちゃんって口が悪いよね~」


 一方言われた側のシルフィードはと言えば、言葉では抗議しつつもその表情は、何時も通り屈託の無い笑顔のままだった。その言葉に反応して、周りの精霊達にも笑顔が広がる。


「今回の侵攻戦での、優姫ちゃん達の功績は凄く大きいよ。そんなキミ達を見送らないなんて、そんな不義理な事出来やしないよ。」

「大げさね~そこのククリさんの方が、よっぽど蟲人を多く倒してるじゃ無い。」


 ひとしきり笑った後、シルフィーが笑顔を浮かべたまま、真面目な口調でそう告げてくる。それに対しあたしは、肩を透かし苦笑しながら、少し前に紹介された火の高位精霊ククリへと視線を向けつつそう返した。


 満身創痍のあたしが、ロードを倒して現実世界へと戻って来た時に見た、あの群がる蟲人達を焼き尽くす巨大な火の玉の正体こそ、イフリータの長女にしてルージュの姉である、火の高位精霊ククリ・イフリータその人だ。今この場に居る面子の中で、彼女こそ最も多くの邪蟲と蟲人を葬った事は、疑いようも無く誰もが認める事実だ。


 対してあたしはと言えば、ロードとその眷属達を、風華の力も借りてようやく倒しただけに過ぎない。話を聞く限りオヒメの方が討伐数が多い位だし、讃えるんだったらむしろ、あたしよりもうちの子達の方だろう。


「数の問題じゃ無いってば!あの時、キミがロードの相手を引き受けてくれなかったら――キミが駆けつけずに、ソルジャー達の進軍が始まっていたら、ボクは谷全域に張った結界を解いていただろう。そうなっていたら、被害が何処まで拡散していたか解ったもんじゃないよ。」


 そんなあたしの様子を見て、彼女は何時になく真剣に訴えかけてくる。シルフィー達風の精霊にとって、ナイトタイプと呼ばれる甲虫種との相性が最悪だから、それを引き受けた事に対する恩義のような物も感じているんだろう。


 けれど、相性が最悪だと知りながらそれでも1人で相手をしつつ、周囲の事に迄気を配りフェアリー達の避難を最優先に指示した気高き彼女こそ、この場に居る誰よりも褒め称えられるべき相手だろう。あたしも割とそうだけれど、彼女も案外自分の事は過小評価しがちな性格なのかもしれない。


 と言うかそれ以前に…


「嘘おっしゃい!もしもあの時、あたしが駆けつけなかったとしても、きっとあなたは意地でも結界を維持してたでしょ?」


 あたしが呆れながらにそう指摘すると、シルフィーは一瞬きょとんとした表情を見せた後、悪戯っぽく笑いながら肩を竦めて見せ、その指摘が図星である事をすんなりと認めた。自分の事よりも周囲の事を最優先に気に掛ける様な人物が、多少自分が追い込まれた程度で、そう易々とその信念を曲げよう筈なんて無いじゃない。


 まぁ、そんな彼女だからこそ、あたしも身体を張ってでも手助けしたいと思えたんだけどね。


 シルフィーの可愛らしい反応を目にして、口元を緩めながらそんな事を考えていると、次の瞬間彼女は、昨夜も見せた守護者然とした表情で居直り、真っ直ぐにあたしを見据えてくる。


「とは言え、キミの功績が大きい事に変わりは無いよ。その事に対して、風の谷を守護する者として、きちんとお礼を述べさせて欲しい。」


 そう言ってシルフィーは、腰を折って頭を深々と下げると、それに続く形で風の精霊達が続々と跪いて頭を垂れる。


「剣の精霊王ヴァルキリー・オリジンと、その眷属である剣の乙女達。キミ達の活躍を、風の精霊王シルフィード・オリジンと我が娘達は、決して忘れないとここに誓おう。この恩は…」

「ストップ!ストップ!!ストーーーップ!!だから、いちいち大げさだっての!!」


 唐突に始まった彼女達の余りにも大仰な感謝の示し方に、慌てて続く言葉を遮って止めに入る。彼女達からすれば、世界の一角を担う守護者として、きちんとしたケジメのつもりでそんな態度になったんだろうけど、元々パンピーなあたしにそんなの求められても困るってのよ。


「お礼なら、ありがとうの一言で十分だっての。そうよね?」

「うん!」

「フフ、そうですね。」


 そう言ってあたしが同意を求めると、抱きかかえたオヒメと隣に立つエイミーが、真っ先に反応して答える。他の達も気持ちは一緒で、口には出さずに頷いて同意の意を示してくれた。


「そうは言うけど、立場在る身としてはちゃんと誠意を示しておかないと…」


 そんなあたし達の反応に対して、シルフィーは下げた頭を上げて困り顔で口を開く。そんな彼女に対しあたしは、苦笑しながら肩を竦めて見せ――


「立場なんてそんなどうでも良い物、犬にでも食わせておけば良いのよ。あたしとあなたの仲じゃない。」


 ――なんて、昨日今日出会った間柄だというのに、いけしゃあしゃあとそう言って場を濁した。そんなあたしに対して、呆れ顔になってため息を吐く。


「全くキミってば、人が格好付けようとしてるのに、それを台無しにする天才だね。」

「堅苦しいのが苦手なだけよ。あたしに対してお礼がしたいって言うんなら、そのあたしの気持ちを1番に汲み取るべきでしょうよ?」

「ああ言えばこう言うなぁ~もう、解ったよ。」


 処置無しといった風に、諦めた様子でシルフィーはそう言うと、未だ跪いて成り行きを見守って居た子達に、目配せをして起き上がらせる。そして彼女は、一旦間を置いて大きく深呼吸すると、はち切れんばかりの眩しい笑顔をあたし達へと向けてくる。


「ありがとう。キミ達が居てくれて、ボク達は本当に助かったよ。」

「「ありがとう~!!」」


 さっきまでの堅苦しい雰囲気は何処へやら、シルフィーの言葉遣いが戻った瞬間、それが合図と言わんばかりに、彼女の子供達も一斉に笑顔となり、その感謝の気持ちが声となってあたし達へと押し寄せる。その光景が余りにも眩しくて、彼女達につられる様に、負けない様にとあたし達も満面の笑顔を作って応戦する。


 短い間とは言え、同じ場所で志を共にして闘った者同士、立場や面目なんてどうでも良い様なしがらみに縛られて、他人行儀に頭を下げられるよりも、こうして気さくに察して貰った方が断然嬉しい。だってあたし達は、別に感謝されたかった訳じゃ無くて、ただ手助けしたかったからしただけなんだから。


「そんな優姫ちゃんに、ボクから心ばかりのプレゼント~」

「うん?何よ急に?」

「良いから良いから!」


 ひとまずお礼が言えて満足したらしいシルフィーは、ニコニコ顔でそう告げてから、自分の胸元に腕を突っ込んで、ごそごそとまさぐって何かを取り出す。そしてそれを手にあたしへと近づいてくると、掴んだ物毎拳を差し出してくる。


 あたしは、訝しがりながらも促されるまま手を出すと、その手の上に小さな結晶が静かに置かれる。それは一見して、研磨する前の水晶を連想させる半透明な鉱石だった。


「…何これ?」

「まさかそれは…フェアリーの核ですか?」

「え!?」


 受け取ったそれを指で摘まんでしげしげと観察していると、同じくそれを見ていたエイミーが、その正体に気が付いたらしく驚きに声を上げる。


「さっすがエイミーちゃん!察しが良いね~」


 そんなあたし達の驚きを、ニコニコ顔で満足そうに観察しながら、シルフィーはエイミーが至ったその考えを肯定した。


 精霊種、風精族フェアリー――精霊種の中で最も魔力保有量に秀で、その親和性も高い種である彼女達は、長命な精霊種の中でも不死に近いと言われている。


 けれどそれは、天寿という寿命の概念が無いだけで、身を守る術所か魔力との親和性が高い故に、その性質が少し変化しただけで、身体に大きな影響が出てしまう彼女達も、他の生物同様に普通に死ぬ事だって在る。むしろ身を守る術が無い分、吹けば消える程にその命の灯火は弱々しく脆いと言う。


 なら、性別が女性型しか存在しないと言うフェアリー達が、どうやってその種族数を維持しているのか不思議に思うだろう。その謎を解明する手がかりが、今あたしが手にしているこの『フェアリーの核』と呼ばれる鉱石だった。


 『フェアリーの核』とは、言ってしまえば結晶化したフェアリーの魂であり、心臓の様な物だった。この核に魔力が定着する事によって、フェアリー達は身体を手に入れる事が出来るらしい。


 仮に身体が滅んでも、核さえ無事なら多少時間は掛かるけれど再生が可能で、おまけに記憶も引き継がれる。核が在るか無いかの違いはあれど、その身体の構造は精霊達とほぼ同一だから、かえって疑似精霊等と呼ばれる事に、拍車を掛けているんだけれど…


 兎にも角にも、見た目は綺麗な鉱石だけど、その実フェアリーの命その物と言って良い代物だ。そんな大事な物プレゼントされても、ある意味人身売買にしか思えず気が乗らない。


 と言うか、それよりも…


「先に断っておくけど、別に今回の戦いで身体を失った子の核とかじゃ無いからね?」


 しかめっ面してそれを見ていたあたしに対し、まるで心の中を読んだかの様に、頭を過った疑惑の答えを先回りして彼女は告げる。それならそれで一安心(?)だけれど、いずれにしても軽々しく受け取れる様な代物じゃ無い事に変わりはない。


「折角だけど、こんな大事な物受け取れないわ。あなたが1番に護ろうとした眷属じゃない。」

「優姫ちゃんならそう言うと思ったけど、今受け取っておいた方が、後々楽になると思うよ?」

「どう言う意味?」


 渡された物を返そうとした所、シルフィーは苦笑しながら忠告めいた事を口にし出し、それを耳にしたあたしは更に困惑して訝しがる。


「いやさ~、フェアリーって臆病な癖して好奇心旺盛でね?世界中結構広い地域に居るんだよね~」

「それがどうしたのよ?」

「今は良いとしても、優姫ちゃんもいずれ自分の守護地域を、イリナスちゃんにお願いされると思うんだよね~そうなったらきっと、フェアリー達もキミの元に集まりだすと思うんだよ。」

「…はぁ?」


 なん…だと…?


「あの子達って基本的に戦えないからさ、自分達を護ってくれそうな人の所に集まっちゃうんだよね~所謂守護者達の守護地域にさ。あの子達にとって住み難い、過酷な環境に居を構えてるリッタやディーネの所や、今まで怖がられてたガイアの所じゃ見かけなかったと思うけど、割と住みやすいレイやカーちゃんの所には、普通に身を寄せてる子も多いんだよ。」


 どう反応して良いか解らず困惑していると、シルフィーはまるで他人事の様に――と言うか、自分の眷属なのに悪びれた様子も無く説明を続けていく。闇の精霊王カースの事を、なんか面白い風に呼んでいたけど、とりあえずそれは無視して横に立つエイミーへと視線を向ける。


 あたしの視線に気が付いた彼女は、未だ困惑しているあたしに向けて、何時もの困ったような笑顔を浮かべると、言いずらそうに重たげな口を開く。


「その…はい。レイ様やカース様の住処にも、多くのフェアリー達が住んでいました。その他にも、フェンリル様やユニコーン様が守護する地にも、フェアリー達は身を寄せていたりします。」

「そっちは小人達も集まってるから、集落みたいなのを作って一緒に暮らしてるみたいだけどね~案外優姫ちゃんの治める所にも、キミを頼って小人達が集まりそうだね~」

「他人事だと思って簡単に言ってくれるわね、全く…これ以上の厄介事なんてごめんだわ。」


 楽しそうに語るシルフィーに対し、これ見よがしに肩を落としながら、ため息交じりにそう返しつつ、フェアリー達と未だ見た事の無い小人達に囲まれている所を、ちゃっかり想像してみる。そこにうちの子達とエイミーも加えると、割と悪く無いんじゃ無いかな~と思えてくるから不思議だ。


 むしろ、ちっちゃい子達に囲まれて、これぞ異世界メルヘン系って位に、あたしがキャッキャウフフしている光景しか浮かんで来ない。う~ん、これはこれでアリかも知れない。


 良し決めた!これからこの物語は路線変更します!!フェアリーや小人さん達に囲まれた、メルヘンチックな生活を手に入れて、異世界に召喚される時に向こう(元の世界)に置いて来ちゃった乙女力を、キャッキャウフフしながら取り戻して爆上げしちゃる!!


 こんにちは新天地!さようなら殺伐とした旧世界!メルヘン女王にあたしは成る!!


 はいそこ、若干バトルジャンキーの癖して何言ってんだとか言わない。少し位夢見たって良いじゃな~い!


 え?何時までも1人で盛り上がっていないで話進めろって?あ、はい、サーセン


「それで?それとこのプレゼント(フェアリーの核)と、一体何の関係があるのよ。」


 今後、あたしの周囲が更に賑やかになる可能性があるのは解ったけれど、それとこのプレゼントの真意がいまいち解らずにそう問い掛ける。すると彼女は、苦笑しながらあたしの手にある結晶を指差し、その疑問に答える為に口を開く。


「だからさ、そのフェアリー達を纏める立場の子が必要になってくるじゃない?その役目をその子にして貰おうって訳さ!」

「どういう事?」

「普通のフェアリー達は、自然界に存在している魔力を吸収して成長するんだけど、強い力を持つフェアリー――まぁぶっちゃけフェアリークィーンの事だけど、彼女はボクの魔力を直に取り込んで産まれたんだよ。」

「そうなの?」

「うん!ボクも母上――先代のシルフィードから直々に魔力を受け継いでてね~あの子達って割ときかん坊だからさ、そんな彼女達のまとめ役をさせるには、それ相応の特別なフェアリーじゃないと出来無いって訳さ。他の守護者の庇護下に居るフェアリー達にも、そういったリーダー的フェアリーがちゃんと居るんだよ。」

「ふ~ん、成る程ね。フェアリー達が集まり出す前に、この子を孵化させてリーダーが勤まるように育てとけって、そう言う事か…」

「そう言う事そう言う事!ボクの大事な眷属だからね、ちゃんと可愛がっておくれよ?」


 一通りの説明を受けて納得した所に、彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべ釘を刺してくる。それに対して苦笑しながら首肯して、胸に抱えたオヒメを地面に下ろすと、彼女から受け取ったその綺麗な結晶を、胸元を開けてスポブラの内側へと忍ばせる。


 魔力を込めるというのが、いまいちピンと来ないけれど、あたしの身体から発せられる魔力を糧にするのなら、肌に触れる程近い方がきっと良いに違いない。なによりもこれは、小さくとも命その物なのだから、ポッケに仕舞うだとかそんなぞんざいな扱いなんて出来やしない。


「言われるまでも無く大事にするわよ。なんてったって、シルフィーからの大事な贈り物だしね。」


 そう言いながら、胸に仕舞ったフェアリーの核を優しく撫でる。イメージ的には、親鳥が卵を温めるような物かしらね。


 考えてみれば、オヒメ達は気が付いたらそこに居て、あたしから産まれたと言うのは確かなのに、肝心要の産まれた瞬間の確かな証みたいな物が無いのよね~だから、こうやって人肌で温めていると、育ててるって言う実感が湧いてくるんだから不思議だ。


 まぁとは言え、どっちにしろ人の出産方法とは、随分かけ離れちゃってるんだけどね~あたしがお腹を痛めて、子供を産む日が来るのは、はてさて何時に成る事やら…


 その前に、相手を見つける事が先だろうって?ほっとけ!!

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