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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第三章 精霊編
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間章・彼女達の戦場(11)

『姫華!準備はどうなの!?』

『うん!何時でもいけるよ!!』

『上々!夜天!!』

「あいあ~い。」

『行きがけの駄賃よ。景気づけに挑発してやんなさい!』

「あっはっはっ~りょうかぁ~い!!」


 まるで遊園地のアトラクションにでも飛び込む様な気軽さで、いまだ岩石同士がぶつかり合い、砂煙が上がって視界が全く効かなくなっている様な一帯に、彼女は笑顔を絶やさず突っ込んでいく。そして、肌に感じる気配を頼りに、羽状に待機させた複製品(レプリカ)達を従え、その中を右に左にと舵を切って突き進む。


 途中、大惨事の中で奇跡的に無事だった、蟲人達の首を刎ねる事も忘れない。端から見れば、まるで銀の翼を生やした天使の様だけれども、奴等にとっては間違い無く、冷酷な笑みを携えた死に神にしか見えない事だろう。


 一寸先もハッキリと見えない煙幕の中、まるで進むべき道がハッキリ見えているかの様に、彼女の動きには全く無駄が無い。そして、遂に煙幕の中を抜けて向こう側へと辿り着き、視界が開けた先に待って居た光景は――


「Gui.gA!?」

「ばぁっ!」ザンッ!!


 ――先程見逃した個体かどうか、流石に判別は付かないが、絶えず眷属を召喚し続けていた蟻人上位種がそこには居た。煙幕の中から飛び出した彼女は、迷い無くその上位種の眼前へと躍り出ると、再び舌を出して変顔をする。


 そのまま、相手が驚いて硬直している隙に、その場で身体をくるりと廻転させて、いとも容易くその首を刎ね飛ばす。と同時に、身体を廻転させながら視線を周囲へと向けて、次の得物の位置を把握する。


 ――ヒュンヒュンッ!!


 その情報を頼りに、羽状に待機させた複製品(レプリカ)達が一斉に飛び立ち、標的に向けて迷い無く飛翔する。


「Gu.i!」ドスッドスッ!「Gya!」

「Ero!EroOO!!」ドスドスドスッ!!「U.goA!!」

『2つ、これで3つ。』


 程なく、上位種2体が串刺しになり、それを冷淡に数える銀星の声が頭に響く。役目を終えた複製品(レプリカ)達は、その柄に見えない糸でも付いているかの様に、飛翔した時と同じ軌跡を辿って、再び姫華(夜天)の背中へと戻り、羽状に広がり待機状態に戻る。


「GuGo.O!zAQB!!」

「「Uarw.Ll!!」」


 突然煙幕から飛び出し、敵の集団のど真ん中にも関わらず、一瞬でリーダー格を3体も倒された事に腹でも立てたか、残る上位種が姫華(夜天)を指して何やらわめき散らし始める。それに同調した下級兵達が、雄叫びを上げながら姫華(夜天)に対し飛びかかる。


 その光景を、視線を巡らせ確認した姫華(夜天)が、口角をつり上げて愉しそうに嗤う。


「やぁ!獲物が馬鹿みたいに食らいついたよぉ~!ば~か!ばぁ~か!!」

『挑発はその位にしておきなさい夜天。』

「わ~かってるってぇ~!そんじゃ早速…?」

『どうしたの夜天?あっ…』


「――ッ!!」


 不意に、呼ばれた気がして、彼女はその方向へと視線を向ける。するとそこには――


『エイミーッ!!』

『良かった。どうやら合流出来たみたいね。』


 遠く離れた位置に、見慣れた人物が見慣れぬ集団と、行動を共にしている姿を目撃する。彼女は大声で何か叫びながら、姫華に対して手招きしている様子だった。


 誰がどう見ても、こっちに来いというサインだろう。しかし、これだけの敵を引き連れて、彼等と合流するのは考え物だ。


 何せ、未だ数の猛威は健在だ。上位種を3体仕留めたとは言え、未だ何体かは健在のままだ。


 それに何より、これから一気にゴミ掃除を始めようというのに、彼等の側に向かって行って巻き込む訳にも行かない。


「お~い!エイミー!!やっほぉ~!!」

『あれだけ離れていれば、巻き込む心配も無いでしょう。』

『うんそうだね!またエイミーに心配掛けちゃうと思うけど、2人共一緒に怒られてくれる?』

『そんなの当然願い下げです。』

「わたしもイヤだなぁ~エイミー絶対怒ると怖いもん。」

『えぇ~!?2人共酷いよぉ~』

『フフッ』

「あっはっは~」


 蟲人達が周囲の取り囲みに掛かろうとしているというのに、その余裕は一体全体どこから来るのか、ひとしきり楽しそうに笑い合った後、姫華は笑顔のまま上空に視線を向ける。見上げて初めて、夜の帳がすぐそこまで訪れている事に気が付いた。


 時刻は既に夕暮れ時なのだろうけれど、この風の谷には小さな太陽(ククリ)が登っている所為で、未だに真昼の様な明るさだ。けれど、見上げた先にはキラリキラリと、無数の星が瞬き夜の訪れを物語っていた。


「…行こう!2人共!!」

『えぇ!!』

『おぉ~ッ!!』


 その宣言と共に、姫華は複製品(レプリカ)達を翼の様に広げて、真っ直ぐ天へと昇っていく。それを追って、蟲人達も一斉に天に向かって登り出す。


 けれど彼等では、今の姫華に追いつく事は叶わず、どんどんと引き離されていく。それでも諦める事を知らない蟲人達は、速度の速い者と遅い者とで明確な開きが現れはじめ、地上からその光景を見ると、天に向かって黒く細長い塔が突き上がっていくかの如くだった。


 十二分に蟲人達を引き離した姫華は、自分が上昇出来る限界高度へと辿り着く。そこは雲の上よりも更に上空、夜と昼とそのどちらでも無い狭間のグラデーションが、ハッキリと確認出来る幻想郷だ。


『さぁ姫ちゃん!』

『締めはあなたに譲るわ。だから――』


 そこで彼女は、真っ白な息を吐きながら、頭に響く声に促される様に、上空に向かって指を指し、彼女に迫って伸びる黒い塔を睥睨する。


『『――奴等に目に物見せてやれ!!』』

「うんっ!!――」


 彼女は頷く。それに併せて星がキラリと煌めき弧を描く。


 それは尾を引いて流れ、彼女の身体を勢いよく貫通して、一直線に黒い塔へと突き進む。


 ――ズンッ!


「…Gi?」バキンッ…


 天から流れ落ちたソレは、先頭を征く蟲人の胸に突き刺さると音を立てて砕け散った。ソレが当たった蟲人は、何が起こったのか解らないまま息絶えて、周囲の流れに逆らってうねりの中に消えていった。


 彼女の上空で燦然と輝く星々は、更にキラリキラリと輝き出すと、1つまた1つと弧を描き、地面に向かって流れ落ちる。1つは新たに先頭を行く蟲人の頭に突き刺さり、もう1つはその隣の蟲人の腹を貫通して、その背後の蟲人の右目に突き刺さる。


 このまま進めば危険だと、先頭集団の蟲人達はそう悟る。しかし、その段になって気が付いても、時は既に遅いのだ。


 後方の何も知らない蟲人達が、早く進めとせっついて止まない。下からの突き上げに、先頭集団はただただ為す術無く進んでいく事しか出来無いのだ。


 勢いづいた蟲人達は、急には止まる事は出来無い。それを嘲笑うかの様に、天空に広がる星々は、やがて不自然なまでに瞬き始め、そして――


「――ヴァルキリーの名の下に!降り注げ――」


 ――姫華は、天に向けていた指先を振り下ろして、自分を目指して伸びる黒い塔を指し示した。


「――『流星雨(ミーティア)』!!」ヒュンッ!ヒュンヒュンヒュンッ!!


 その言葉がトリガーとなり、星々が一斉に瞬き風切り音を響かせて、次々と天より流れ墜ちていく。ソレはやがて雨となって降り注ぎ、姫華の身体を貫きながら、黒い塔へとその猛威を遺憾なく発揮する。


 幾百と降り注ぐソレは、一つ一つが凶器であり純然たる脅威で、同時に彼女達にとっては姉妹と呼べる眷属達だ――


 ――ドガガガガガガがガッ!!ガシャンッ!バキッバリンッ!!………


 金属が砕ける音だけが辺りを支配し、蟲人の悲鳴も嗚咽も断末魔さえも、全てを一緒くたに呑み込みながら、蟲人で作られた歪な塔を天の裁きが如く、崩壊へと導いていく。地から見えるその光景は、さしずめ神話に出てくる神に挑む塔(バベルの塔)の、崩壊するまさにその決定的瞬間だ。


 これこそ、姫華達ヴァルキリーが奮う事の出来る、現状最大最強唯一の広範囲殲滅精霊術『流星雨(ミーティア)』。流れる星の涙とはよく言った物で、1つ流れる度に敵の命()も一緒に流れるかの如くだ。


 甲虫種の上位体でさえ、優姫の放った『流星雨(ミーティア)』の前に、全くの無傷とは行かなかったのだ。装甲の時点で数段劣る蟻人種が、その純然たる暴力を防ぐ術など持ち合わせている筈が無い。


 蟻人種最大の武器とは、その驚異的な繁殖力による数の猛威だ。その猛威でさえ、姫華が召喚した3千の複製品(コピー)達の前では、赤子の手を捻る程度の戦力にしかならない。


 とは言え、今の彼女にそれだけの数の眷属召喚は、相当な負担が掛かるのも事実だった。この全てを撃ち尽くせば、残りの魔力はほぼ無くなると言って良い。


 だから、この瞬間に全てを掛けて、再び自分を囮にするという選択を取ったのだ。それは決して褒められた行為では無いけれど、その覚悟は立派な戦士の心構えと言えるだろう。


 ――ガシャンッ!!ガシャン…バキン…


 残響音を響かせて、全ての星が墜ちた後には、魔力の残滓となった複製品(コピー)の残骸と、地にはもうもうと立ちこめる土煙。その下がどうなっているのか、確認するまでも無く地獄だろう。


「ハァッ!ハァッ!!ハァッ…」


 荒く息を吐きながら、右手を振り下ろした姿のまま、姫華はゆっくりと地に向かって下りていく。動く気配は1つも無く――


『まだだ姫ちゃんッ!!』

「ッ!?」


 ――ブオンッ!!


 唐突に頭に響いた夜天の警告に、瞬間的に入れ替わった姫華(夜天)は、すんでの所で身を翻してその一撃をやり過ごす。しかし体勢は最悪で、ここに来て彼女は初めて、眉間に皺を寄せて苦々しく舌打ちを打つ。


「ッ!姫ちゃん盾を!!」

「GUUaaRoRoRo.OOooo!!!!」ブオンッ!!


 直ぐさま体勢を整えようと試みるも、それよりも相手の動きの方が僅かに早い。避けきれないと判断した姫華(夜天)は、咄嗟に相手と自分の間に大きなタワーシールドを召喚して、その影に身を丸めて潜り込む。


 ――ドカンッ!!「グゥッ!?」


 相手は構わず、その盾の上から蹴りをぶち当て、堪えきれずに盾毎小柄な彼女は、地面に向かって吹き飛ばされる。なんとか地面に激突するのは避けられたが、盾越しにも関わらず相当なダメージを受けたらしく、彼女はヨロヨロと地面に降り立つと、盾を地面に突き刺して杖代わりに寄りかかった。


『このっ!!』ヒュンヒュン!ヒュヒュン!!


 一方的にやられてなるものかと、銀星の意思によって打ち出された複製品(レプリカ)達が、追撃に迫る敵に向かって撃ち出された。しかし――


「GUraRaRA!!」バキンッ!!

『あぁ!(やっ)ちゃんの分身が!!』


 ――ただの拳の一撃によって、黒塗りの刃が1つ易々と砕かれ、残骸が魔力の残滓となって消失する。それでも残りの9本は、敵の追撃を妨げる様に、敵の隙を伺いながらその周囲を飛び交っていく。


 それに気を取られたらしいその蟲人は、追撃を一時中断し巨大な体躯で暴れ始める。


『夜天!』

「大丈夫…とは流石に行かないかなぁ~それよりも…」

「GuRooO!!」


 顔を顰めながら、暴れ回る巨大な蟲人を睨み付けて、姫華はフラフラになりながらも、なんとか立ち上がる。


『えぇ、最悪だわ…あの大きさ、あの低脳ぶり…間違い無くグラディエーター級よ。』

『グラディエーター級?』

『蟻人上位種のその更に上、戦闘能力にのみ特化した脳筋馬鹿よ。おつむが足りなさ過ぎて、厄介な眷属召喚はしないけど、強さで言ったらマスターが相手をしているかも知れない、ナイトタイプのパラディン以上!なんでククリ様の方じゃ無くて私達の方に来てんのよ!!』

「あっはっは~来ちゃった物はしょうが無いよぉ~それだけわたし等が後先考えず、ド派手に暴れ回ってたって事でしょ~」

『うぅ…ご、ごめんね!姫華の提案の所為で…』

『姫華が誤る必要なんて無いわよ。ゴーサインを出したのは私なんだから、これは私の落ち度よ。夜天、お望みの歯ごたえのある敵が来たわよ?なんとか切り抜けなさい。』

「イヤイヤ!無理無理!!解ってて言ってるでしょ~もぉ~ダメージだって残ってるし、それに何より…」


 魔力が尽きかけている――そう言いそうになって口を噤んだ。その事実は彼女がわざわざ口にしなくても、内に居る他の2人にもよく解っている事だ。


 仮に万全の状態だったとしても、グラディエーター級の蟲人を相手にするなら、女神・魔神教の守護者や高位精霊が、万全を期して複数で討伐に当たる様な化物だ。産まれたばかりのなんちゃって上位精霊が、タイマンで倒せる様な相手ではない。


 唯一の救いは、馬鹿だから動く物・襲ってくる物を優先して攻撃するという事だ。今は複製品(レプリカ)達に気を取られてくれているけれど、残りの魔力でいつまで保たせられるか解った物じゃない。


 かと言って、逃げよう動いた瞬間、標的を姫華達に移すだろう。万全の状態でも逃げ切れるかどうか怪しい相手に、今の状態で逃げ切れる訳が無い。


 この状況を打開するとなると、魔力が保つ限り複製品(レプリカ)達を操って、他の高位精霊達やシルフィードが、駆けつけてくれるのを待つほか無い。無いのだが…その場合問題は、高位精霊達が駆けつける前に、恐らくエイミー達がやって来るだろうという事だ。


 エイミーの実力は、疑う余地は無いけれど、疑いの余地があるのは一緒にやって来る冒険者達の方だ。都合良く守護者級の達人が居れば大助かりだが、そう上手く事が運ぶとも思えない。


 並みの冒険者達が束になっても、この相手は止められない。最悪、姫華とエイミー以下全員皆殺し、それだけは絶対に避けなければならない。


『ちょっと詰み掛けてるじゃ無い…まずいわね。』

「一か八か、囮になってククリ様達の所に向かってみる?」

「止めとけ止めとけ。辿り着く前に追いつかれて、首を括られるのが先じゃぞ。」

「だよねぇ~…」

「『『え?』』」


 唐突に、背後から声を掛けられて思わず振り返る。しかし、その先に声の主とおぼしき人物は居らず、気配も一切感じられない。


「今のって…」

『幻聴?』

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