よそ者が首を突っ込むなって?じゃ腕か脚なら良いのかい?なんなら刀を突っ込むよ!(6)
「そう言う訳だから、エイミーさんの言う通り、冒険者に協力してもらった方が良いんじゃないかしら?
「それで奴等に逃げられでもしたらどうする。同胞達が奴隷として売り飛ばされた後に、助けに向かっても遅いのだぞ!」
あたしの言葉に、さっき程の勢いは無くなったけど、ベルトハルトが変わらない主張を上げる。まぁ、確かにそうなんだけどさ〜
「だからって、馬鹿正直に正面から乗り込むの?エイミーさん、相手の規模はどの位かは解ったの?
「それが…
「ふん!居場所さえ解ればもう奴等等用済みよ!
「…は?え、まさか…」
そのベルトハルトの言葉に、ハッとしてエイミーに顔を向けると、目をきつく閉じて眉間に皺を寄せ首肯してみせた。それは、あたしの考えを読んで、肯定された答えだった。
「殺したっての…?なんて馬鹿な事を。」
正直呆然となった。同時に、ほんの数分前の自分を、ぶん殴ってやりたいとさえ思っていた。
何がラノベみたいな世界よ。何がこの世界を旅行するのも悪くないよ。本当に間抜けね、あたしは…
昨日あたしが倒して、この里に連行されたあの3人は、人さらいなんてしていた悪党共だ。尋問が終わって殺されても、文句の言えない奴等だったろうし、別に同情する気もない。
だけど、そんなに簡単に殺すのか…用が済んだからと言って、そんなぞんざいに殺すなんて、それはもう、物を捨てる行為と等しいんじゃないのかしら?
そもそも、この世界は元の世界と価値観が180度違うなんて、わかりきっていた事なのに…最初に出会ったエイミーとジョンが良い人過ぎたのね。だから、そんな単純な事がボヤけてしまったのかもしれないわ。
いや…あぁだこうだと、理由付けはいくらでも出来るわね。そうやって目を背けるのは、あたしらしくないわ。
どんなに理由付けしようと、あたしは昨日捕まえた男達3人の処刑に、無自覚に加担してしまった。
この世界にいきなり呼び出され、訳も解らず戦う事になり、状況に流されていたあたしには、想像も出来ない所で起きた事にまで責任は持てない。けどあたしは、あの3人をエルフ達に殺させる為に、戦って無力化させた訳じゃない。
確かにあの時は、あたしは相手が死んでしまう可能性も、殺してしまう可能性も考慮していた。けどそれは、あくまでも戦いの中での事で、無意味に命を奪おうなんて思っていないわ。
古流道場の娘として、命のやり取りについては、身に染みて教わった。だから、自分に向けられた殺気を前に、思考を切り替えて冷徹に動く事も出来た。
けど、現代人としての倫理観が働いたのは当たり前の事で、だからこそ冷徹さの中に、冷静さを持ち合わせて、手加減する事が出来たのよ。
そう、あたしは別に殺したい訳じゃなかった。むしろなんだろうね、この『人の成果をあっさり無駄にされた』感は。
エルフ達の気持ちも想像出来るけど、やっぱり納得出来ないし、したくも無い。これが平和ボケだって言うんなら、別にそれで良いとさえ思うわ。
それに、正直気持ち悪いわね…倫理観が壊滅的に違うって、こうも嫌悪感を感じるものなのね。
「…本当に馬鹿よね、あなた達
「何!?
「だってそうでしょう。相手の規模も把握する前に、貴重な情報源をあっさり殺すなんて…おまえ等人間舐め過ぎ。」
そう言ってあたしは、嫌悪感を隠す事もしないで、冷たくベルトハルトを一瞥しながら呟く。
「くっ…人間の分際で
「エイミー。その盗賊団の規模って、どのくらいだか想像出来る?
「え?あ、どうでしょうか…昨日取り逃した3名だけという事は無いでしょうし
「おい!勝手に話を進め
「まぁ当然でしょうね。人質を見張る人員だって居るでしょうし
「貴様!私を無視する
「黙れ無能。」
ベルトハルトを無視して、話を進めていたあたしに対し、痺れを切らせて叫ぶ彼に、あたしが今最大限に出せる殺気を込めて、低く凄みを効かせて呟く。その瞬間、その場に居たエルフ達全員が、息を飲んで怯んだのが解った。
その中には、当然エイミーとジョンも含まれます。サーセン
「・・・どう言うつもりだ。」
暫くの沈黙の後、絞り出す様にベルトハルトが、あたしにそう問いかける。それにため息をつきながら、それまで出してた殺気を収め、彼に向き直った。
「別に、勘違いしないでほしいんだけどね。あんたらが束になって、無謀に突っ込み自滅する分には、あたしは何とも思わないんだけど…ただ彼女をその無謀な自滅作戦に参加させて、それで死なれたらあたしが困るのよ。当然でしょ?彼女には、あたしを向こうの世界に帰してもらう為に、手伝ってもらわないといけないんだから。ねぇ?
「は、はい!それはもちろん!!
「だから、このあたしが手助けしようって言うのよ。おわかりいただけあそばせたかしら?
「ふざけるな!貴様の様な者の手など
「あぁ、あなた達に手伝ってもらう必要は無いから安心してね?
「な!んだと…
「だってそうでしょ?こんな小娘1人の出した殺気に、怯む程度の連中なんて、物の役にも立たないじゃない?それでもあんたら×××付いてんのかしら?
「ちょ!ゆ、優姫さん…」
あたしの一言に、怒りに顔をみるみる真っ赤に染め上げるベルトハルト。ちなみにジョンきゅんは、別の意味で顔を真っ赤にして、もじもじしているね!
「い、言わせておけば…お前達!この娘を殺してしまえ!そうすればきっと、精霊召喚の邪魔がなくなり、スローネも元の状態に戻る筈だ!
「な!なんて事を言うのですか!あなた達止めなさい!そんな事をしても意味がありません!」
激情に駆られたベルトハルトの言葉を受け、周りに居たエルフ達がどよめきながらも、あたしを取り囲もうと動きはじめる。それに対して、エイミーは立ち上がって、動き始めた彼等を止めようと叫んだ。
まぁ、概ね予想通りの展開ね〜だけど殺せ…ね。本当に、この世界の倫理観とは、相容れないようね。
深くため息をついた後、新しく吸い込んだ酸素を燃料に、燃える様な怒りがこみ上げてくる感覚。それを吐き出す様に、深く深呼吸をして怒りを沈める。
…大丈夫。まだ大丈夫だ。あの時とは違う…怒りに任せて、我を忘れたりなんかしない。
そう自分に言い聞かせ、再びベルトハルトを睨み付け、同様に視線を動かして、迫るエルフ達にも視線で牽制する。
「…正気?言っておくけど、相手の力量も分からない連中が、束になっても負ける気がしないんだけど
「ふん!強がりだな、武器も無いくせに何を言う!
「や、止めなさい!」
なおもそう言って、あたしを庇う様に前に出たエイミーの肩を、あたしはそっと掴んで、その動きを止める。それに振り返ってくる彼女に、微笑んで返して心配ないと伝え、後ろに下がらせた。
さて、面倒だし全員多少痛めつければ、少しは大人しくなるでしょう。しっかしこのエルフ達は、本当に素人の集団ね…こんな狭い場所じゃ、数の利なんて無いどころか、かえって邪魔なだけじゃない。
それに…
「武器が無くてもあたし、結構強いんだけどね。それでもやる気なら、少〜し痛い思いしてみなさい!」
そう言って、典型的だけど、指の関節を鳴らして威嚇する。こうなった以上、後は出たとこ勝負でやるしかない。
とりあえず、あたしはこいつらとは違うから、まずは無力化した上で、その囚われたエルフ達を無事に救い出せば、これ以上文句も出ないでしょう。
可能な限り犠牲は出さない方向で!命大事に、ガンガン行こうぜ!うん、これで行こう。うん?
覚悟を決めて、いざ!と言う所で、視界に見知らぬ人物が写った。その次の瞬間…
「双方鎮まりなさい!!」ガツンッ!!
突然響いた轟音と叫びに、一瞬にしてその場の全員が驚いて振り向く。その視線の先に、彼女達が居た。
1人は浅黒い肌の長い金髪の大女。その背はあたしよりも高くて、恐らく190cmはあるでしょうね。
全身あたし以上に筋肉質で無駄な肉が一切無い。なのに胸は女性らしく豊満で、水着の様な布一枚で隠していた。
べ、別に羨ましくなんて無いんだからね!フンだ!!
それ以上に特徴的なのは、手にしたその武器でしょうね。彼女の身長と同じ位の大きさの戦斧を手に、仁王立ちしているんだから、これ以上の自己主張も無いってものよ。
そしてもう1人は、浅黒いと言うより、暗いと言った方が良い肌の銀髪の女性。背は小柄でその身を軽甲冑?と言えば良いんだろうか、胸当てと小手と足具に、腰にレイピアを差した剣士風の彼女。
その耳は、エイミー達エルフの様に長く伸びていた。
「シフォン!」
突然現れた彼女達の登場に、1人顔をほころばせて叫ぶエイミーに、呼ばれた銀髪の彼女は不敵な笑みを浮かべた。
「久しぶりですわね、エイミー・スローネ。貴女のお仕事を、引き受けに来ましたわ。」