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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第三章 精霊編
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間章・彼女達の戦場(8)

 爆発の衝撃波によって、粉々になった蟲人達の死体が雨の様に降り注ぐ光景を、当たり前の結果とばかりに彼女は薄く笑う。その冷静にして冷酷な姫華(銀星)の態度を前にエイミーは、改めて彼女の恐ろしさを実感し身震いする。


 彼女が最初には成った魔術『ディープミスト』は、ただの目眩ましにしか成らない様な、本当に初歩的な魔術でしか無い。濃霧に紛れ敵の背後に回り込んだり、或いは方向感覚を狂わせたりと、その用途は様々だ。


 彼女も目眩ましのつもりでその魔術を放ったのだが、それを利用して敵の背後に回り込むのが狙いでは無いのは見ての通りだ。だが、すぐに行動に移らなければ、蟲人達は霧の外側を目指して行動していただろう。


 そこで2つ目の魔術『クレイマン』によってデコイを複数作成し、霧の中に突入させて、蟲人達に奇襲を意識させ、霧の中に留まらせる様に仕向ける。時間にして10秒稼げれば良い方だろうが、それだけあればエイミーの召喚術を発動させるのには十分だ。


 おまけに、濃霧のお陰で距離を取っても狙いが定めやすい上、向こうからはこちらの動きは察知されにくいと良い事ずくめだ。更には、クレイマン()イフリータ(超高温)の合わせ技『水蒸気爆発』を誘発して、広範囲に広がる蟲人達も衝撃波で一網打尽にするという念の入れようだ。


 たった2つの下級魔術と召喚術の合わせ技で、個別では決して成し得ない効果と威力を発揮させて、20体以上居た蟲人達を一瞬で消滅せしめた。その発想は確実に、彼女達のもう1人の使い手である軍師の記憶を、引き継いでいる証だろう。


 猛将と知将――異なるそれぞれの才を引き継ぎ、更には精霊として自ら望んで昇華した彼女達は、確かに優姫が語った通り、彼女以上の潜在能力を秘めた存在だろう。そしてその能力を、十全に引き出す事の出来る能力が、姫華の固有能力『精霊結合』だと言う事も忘れては成らない。


 見た目こそ、まだ子供にしか見えない少女だが、世界の守護者の一角を担うに相応しい能力を、彼女達は有しているのだ。まぁ、見た目が子供(姫華)だからこそ恐ろしいと、エイミーは感じて居るのだが…


 彼女の能力は、同じヴァルキリーの眷属という制約はある物の、その身に他の精霊を宿すという行為だ。ならば姫華が今後『精霊結合』を繰り返し、いずれ自分を見失って、あの屈託の無い笑顔が失われてしまうのでは無いか――


 今の彼女を見ていると、そんな怖い想像をしてしまうのだ。その不安が、杞憂であればと強く願う。


 歴戦の冒険者であるエイミーさえ、畏怖する冷笑を浮かべる姫華(銀星)だったが、しかし唐突にその表情が崩れ、締まりの無い緩みきった表情へと変わる。


「相変わらず、搦め手が好きだよねぇ~銀は――」


 それまでの冷たい雰囲気が一変、今度は軽薄と言っても差し支えない雰囲気となり、主人格が夜天へと切り替わる。それまでの、見た目とは不釣り合いな言動に比べれば、今度は年相応とも言えなくは無い。


 銀星の醸し出す雰囲気に、若干の呑まれ気味だったエイミーからすれば、彼女には申し訳ないと思いつつも、正直言ってありがたい。けれどそう思ったのも束の間、緩みきった表情が一瞬で引き締められて、呆れ気味にため息を吐き出すでは無いか。


「――知略と言いなさい。私はあんたみたいに、泥臭い事をしたくないだけよ――」

「――えぇ~!?何さそれぇ~」


 かと思えば再び表情が緩み、ふて腐れた様に頬を膨らませ、自分自身に対して不満を漏らし始める始末だ。こうもコロコロ変わられては、全くもって落ち着かないし、先程思った様な不安を感じるのも当然と言えるだろう。


 しかし、きっとその不安は、やはり単なる考え過ぎの杞憂に終わる事だろう。何故ならば…


「さぁ~て姫ちゃん――」

「――すぐに全てを理解出来るだなんて、私も夜天も思っていません。けれど、何か感じる事くらいはあったのでは無いかしら?――」

「――うん。」


 彼女が1人で語り合う様は、やはりどうにも慣れないけれど、ひとまず姫華に主導権が渡されたらしい事を察して、エイミーは固唾を呑んで見守っていた。頭を過るは不安ばかり…


 そんな彼女の不安を笑い飛ばすかの様に、やや強張った表情で姫華は頷いた後、やや照れた様な表情で何時もの様に屈託無く笑う。


「よく解んないや!」

「…ぷっ!」


 それまでの2人(夜天と銀星)のやり取り所か、立ち回りや駆け引き一切合切含めて、全く付いていけなかったと言わんばかりに、困った様にしながらも悪びれた様子無く笑う彼女を前に、エイミーは思わず吹き出して笑いを堪える。


 蟲人達相手に大立ち回りをして見せて、凄惨な表情で笑ったかと思えば、今度は知略を駆使し僅かな損耗で、冷笑を浮かべて敵を一網打尽にして見せた。そんな姫華に似つかわしくない2つの異なる表情を前にすれば、厭な考えの1つだって過るだろう。


 けれど、彼女の変わらぬ笑顔が、ちゃんと其処に在ると解っただけで、エイミーの不安は一瞬で吹き飛ばされてしった。そんな不思議な安心感が、姫華の笑顔には確かにあるのだ。


 実際、エイミーの不安は取り越し苦労でしか無い。そもそも精霊は、位階が低ければ低いほどに、危険に対してもの凄く敏感になるのだ。


 確かに、自分以外の意識をその身に取り込む訳だから、エイミーの心配する様に、取り込んだ意識に自身の意識が引っ張られたり、お互いの意識が干渉し合い混ざり合う様な事は、十分に考えられるし有り得る事だろう。しかし、もしも仮に『精霊結合』に、自己の存在を脅かす様な副作用が存在するのであれば、そもそもその様な権能が発現する訳が無いし、現状下位精霊である夜天・銀星が気が付かない筈が無いのだ。


 それに姫華自身も、イレギュラーで中位精霊まで急成長を遂げているが、中身は生まれたばかりの微精霊と変わらない。それは空に穴が空く瞬間、その場に居た誰よりも早く、()()()()()()()()()()()()()()()事からも解る様に、彼女の危険察知能力は微精霊のそれと同等なのだ。


 そんな彼女が、己の存在を脅かす異物を体内に取り込む訳が無いし、逆に取り込む事を良しとする訳が無い。だからこその『共棲』であり、一重に彼女の器の大きさを示しているとも言えるだろう。


『あっははは!そっかぁ~解んないかぁ~』

『笑い事では無いでしょう夜天。姫華も全く…』

『まぁ~まぁ~銀だって、すぐに理解出来るような事じゃないって、そう言ってたじゃん~』


 姫華の反応を受け、夜天と銀星が彼女の頭に直接語りかける。夜天はしょうが無いと言った雰囲気で笑い飛ばし、銀星も呆れた雰囲気ではあっても、別段怒った様子では無かった。


 そんな2人に対し、申し訳なさは感じているのか、普段通り無邪気にとはいかない様子で、頭をさすりながら眉をへの字にして笑う姫華だった。しかし、その笑顔をすぐに消すと、真面目な表情で自分の両の手を開くと、そこに視線を落とす。


「けど…姫華に何が足りないのかは、なんとなく解ったよ。」

「オヒメちゃん…」


 どこか確信めいた様子で、開いた手を握りしめる姫華の姿を前に、真っ直ぐ応援したいけれど、それでもやっぱり心配だと言う気持ちが見え隠れするエイミーは、小さく彼女の名を呟いた。彼女自身、親になった経験は無いけれど、きっと親心とはこういう事なのだろうと、そんな風に思うのだった。


『…そっかぁ~まぁ、それが解れば最初としては十分かなぁ~』

『今更何を言ってるのよ、全く。足りない物ばかりで、気持ちだけはいっちょ前なんだから。』

『また銀はぁ~す~ぐそうやって、憎まれ口を叩くんだからぁ~そんなんだから、エイミーに言う事がキツいって、言われるんだよぉ~』

『うっさい!』


 頭に直接響く会話に笑顔で返した後、姫華は表情を引き締めて視線を空の彼方へと移す。先程起こした爆発の向こう側、空に開いた穴の方角――終え盛る小太陽から、こちらへと向かう蟲人の一団を見つける。


 更にその一団とは別に、周囲を偵察していたらしい蟲人達も、爆発に気が付きあちこちから集結し始めている様だった。


「やっぱり、さっきの爆発で奴等の気を引いてしまったようね。」

「うん――」

「――問題ありませんよ、エイミー。元よりそれが狙いですから。」

「え?」


 彼女に習い視線を動かし蟲人の一団を発見したエイミーの呟きに、冷静な姫華(銀星)の発言が被さる。その発言が予想外だったのか、驚きの表情で彼女を見つめるエイミー。


「単純な話ですよ。私達の第一の目的は、外の冒険者達と合流する事です。しかし放って置いても奴等は、姫華を狙って勝手に集まってきてしまう。そんな状態では、外の人達と合流するのも一苦労です。」

「まさか…」

「えぇ。だから敢えて姫華を囮にして、蟲人達を外周から遠ざけるんですよ。エイミーはその間に外周へと向かい、外の冒険者達を纏め上げてきて下さい。」

「待って銀星ちゃん!そんな危険な真似、あなた達だけにさせられる訳無いじゃない!!」


 事も無げに告げる姫華(銀星)に対し、エイミーは声を荒らげて窘める。しかし、そんなエイミーの反応に彼女は、怯む事無く平淡に対応していく。


「落ち着いて下さいエイミー。今はククリ様達が大半の蟲人を引き付けていますが、未だ亜空間の穴が健在で在る以上、蟲人達は次々と姿を現し続けます。穴の大きさから見ても、流石にジェネラル級やクィーンは出てこられないでしょうが、マスター級やパラディン・ロードが再び現れないとも限りません。」

「それは…」

「いくら高位精霊達と言えど、このままの勢いが続けばいずれ消耗し、奴等の勢いに呑まれるでしょう。それを少しでも防ぐ為に、今はとにかく戦力の補充が第一なのです。」

「確かにその通りですが、だからって…」

「大丈夫だよぉ~姫ちゃんには、わたし達が着いてるんだし、それに危険なのは最初から解りきってた事じゃない~」

「だけど夜天ちゃん!」

「エイミーが外の人達と合流して戻ってくる時間位、わたし達がちゃんと稼いでおくからさぁ~ちゃっちゃと行って戻って来てよぉ~――」

「――幾度となく死線をくぐり抜けてきたあなたなら、頭では理解出来ている筈でしょう。私達の身の安全よりも、何を優先すべきなのかを…」


 姫華(夜天・銀星)の説得に、いよいよ反論出来無くなったエイミーは、拳を強く握りしめながら歯を食いしばる。確かに姫華(銀星)の言葉は、理にかなっているし正しいという事は、彼女も頭では理解していた。


 しかし、だからといって納得など出来る筈も無い。姫華(夜天・銀星)は強い――それこそ下手をすれば、エイミーよりも強いかも知れない。


 けれどそうは言っても、昨日今日産まれたばかりの彼女達を、手放しに信用など出来る筈がない。優姫に彼女達の事を任されたと言う事も在るけれど、それ以前に大人として、子供を心配する事の何が悪いと言うのだ。


「エイミー…」


 なんとか姫華(夜天・銀星)を説得しようと思考を巡らせていたエイミーは、不意に姫華に呼びかけられて顔を上げる。すると、いつもの屈託の無い笑顔がそこに在った。


「姫華達の事、信じて?大丈夫だよ!エイミーの背中を、ちゃんと護ってみせるから!!」

「ッ!」


 彼女にそう言われて、最初に蟲人達に取り囲まれた時のやり取りを思い出す。姫華に自分の背中を任せると言ったのは、他の誰でも無いエイミー自身だ。



「…本当、そう言うずるい所は優姫にそっくりなんだから…」


 人の心配を考えないでに、本当に好き勝手する親子だと思いながら、何時もの様に困った表情で苦笑しながら、呆れながらにため息を吐く。きっと、自分の心配はちゃんと届いているんだろうけれど、それを解った上で信念を曲げないのだろうと、今更ながらにエイミーは悟るのだった。


「刃の様に折れない心なんて、本当によく言った物だわ。」

「えへへ…ごめんね?心配ばっかり掛けちゃって。」


 はにかんだ笑顔で申し訳なさそうに語る姫華に、エイミーは苦笑しながら微笑んで返す。けれど直ぐさま表情を引き締め、姫華の両肩を掴むと、真剣な眼差しで彼女の瞳を覗き込んだ。


「オヒメちゃん、これだけは約束して。貴女は――貴女達は、無理も無茶も絶対にしないって。私や優姫――ママが、悲しむような事は絶対にしないって。」

「うん…うん!!」

「夜天ちゃんも銀星ちゃんも、私が戻るまで絶対無事で居るのよ?」

「もちのロン~――」

「――こんな時くらいちゃんと返事しなさい!全く…しっかりと肝に銘じておきますよ、エイミー。」


 彼女達の返事に、無理矢理自分を納得させたのか、思い詰めたと言っても良いような表情でエイミーは頷くと、彼女の肩から手を離して身を翻す。


「すぐに戻るから!『契約に従いて、我が元に汝のその力、顕現させよ』『吹き荒れる風よ、我が身を包みて彼方へと運べ』シルフィード!!」


 そして、目的地である風の谷外周へと向けて走り出し、召喚術を発動させて一気に加速していった。その背中を見送り1人その場に残った姫華は、静かに押し寄せる蟲人の軍団に向き直る。


『やぁ~しっかし、随分沢山おかわりがきたねぇ~』

『それだけ、奴等にとって火の精霊が恐ろしいって言う事でしょう。それでも、姫華の精霊としての能力があれば、十分に渡り合える筈よ。』

「…うん。」


 頭に直接響く2人の声に頷きながら、彼女達の本体たる双剣を抜き放ち、夜天がやって見せたように逆手に持って構える。同時に、彼女の身体が重力に逆らいふわりと浮かび、ゆっくりと上昇し始める。


『まぁ~難しく考えなくて大丈夫だよ。いざって時は、わたし達がちゃんとフォローするからさ~』

『えぇ。この三位一体の状態も、歴としたあなたの力です。技術や経験が無くとも、あなたは十分に闘える。心のまま思うままに行動してみなさい。それがきっとあなたに相応しい戦い方の筈よ。』

『ふぁいっお~!姫ちゃ~ん!!』

「ありがとう(よっ)ちゃん、銀ちゃん。姫華頑張るね!!」


 2人の言葉に元気よく応えて、彼女は瞳を閉じて想像する。すると、彼女の身体を構成する、青みがかった銀色の微精霊が周囲にあふれ出し、彼女の思い描いた世界が現実に反映させる為、その姿を自ら変えて光り輝く。


 確かな手応えを感じ取り、姫華はゆっくりとまぶたを開いていく。それに併せるように、輝きが段々と収まっていき、そこに創造されて姿を現した物は…

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