精霊界であたしと握手!(対抗番組はプリ○ュアです(2)
それはまぁ別の話として横に置いておくとして…何故あたしの剣術が大きな要因を占めているのかと言うと、相手があたしの戦い方に戸惑いを見せているからだ。こちらの世界にも、剣の流派だとかは在るんだろうけど、それと比べたら大分異質なんでしょうね。
初めて目にするだろう動きなら、相手も慎重にならざるを得なくなってくるのは当然だ。特に、初手で様子見のつもりで突っ込んで、腕一本切り落とされてるんだから、あたしが逆の立場だったら殊更慎重になって、相手の手の内を探ろうと観察する。
そうなったら必然的に、相手の視線はあたしの左側面――彼から見てあたしの背後、刀を手にしていない側へと向くのは当然だ。そうなれば、この後の展開というのは実に読みやすい。
――ガキンッ!
「ッ!!」
タイミングを見計らっていた蟲人が、あたしの斬撃を弾く様にして払い除ける。遠心力によって加速した、謂わば斬撃の結界に僅かな綻びが生じて、その隙を突いてあたしの左側面――彼から見てあたしの背後に回り込む。
道着以外、防具も身に付けていなければ、盾や予備武器さえ手にしていない状態。そちらの面は、あからさまな迄にノーガードで、がら空きとなっているあたしの脇腹目掛けて、蟲人の拳が吸い込まれていく。
あたしだったら、十中八九何かあると警戒して然るべきだし、相手もきっとそう考えていた筈だ。けど、虎穴に入らずんば何とやらで、誘われていると解っていても、敢えて飛び込んでみなければ、相手の手の内を暴く事も出来無い。
だからきっと、同じ立場だったらあたしも同じ行動を取っていただろう。だからそれに敬意を払い、相手の思惑通りに手の内を晒す。
――ギィンッ!!
「giRY.W!」
その拳を、左手に持ち替えた茜丸の峰で叩き落とし、今度は左半身を相手に向けて対応する。空いている左腕を、胸に抱く様にして身体に引き寄せていたのは、瞬時に持ち帰られる様に待機させていたからであって、決して意味が無いわけじゃ無いのだ。
あたしの家の流派、武人一刀居合術では、どんな時でも刃筋の通った活きた居合を放てる様に、徹底した訓練を受けさせられる。それは極端な話、例え逆さ吊りの状態だったとしてもだ。
そんな訓練を受けてきたんだから、利き手以外での練習なんて初歩中の初歩、幼稚園の頃からやらされていたに決まっている。日用品の物は右利き用に作られている事が多いから、左利きの人が訓練して両利きに成るというのはよく聞く話だけれど、その逆は流石に珍しいだろう。
けど、うちの流派ではそれが普通で、門下生の多くが両利きの訓練を受けている。かく言うあたしも、元々は右利きだった口だし。
兎にも角にも、ノーガードと見せ掛けて相手をわざと回り込ませたは良いんだけど、期待していた予想よりも反応が薄い。この程度は相手も、想定の範囲内だったという事なんでしょうけれどね。
本当は、盾を目の前で突然召喚させて、トパーズ達の時にやって見せた様に目眩ましにでも使って、逆に相手の背後に回り込もうかとも考えてたんだけれど、相手が予想以上に踏み込んでこなかったから、仕方無く途中で切り替えた。
タイミングを見計らい、相手の懐に飛び込む大胆さがありながら、かつ慎重さも兼ね備えている厄介な相手だわ。邪蟲達の様な、考え無しに突っ込んでくる相手を、軽くあしらう万倍は難しいっての。
だからこそ、読み合いだとか駆け引きだとか、そういった分野で相手の鼻をあかした時の爽快感ったら、たまんなく最高なんだけれどね。
「ッ!Grlo.FF!」
なんて事を考えながら、思わず笑みを浮かべる。それを目ざとく見られてしまった様で、蟲人の意味不明な抗議の文句が飛んでくる。
「るっさい!良い感じでノって来たってだけなんだから、いちいち反応してんじゃ無いわよ!!そんな事より、ペース上げていくわよっ!!」
「DD$R,Poy!!」
抗議文句に対して、不機嫌ぶって鼻を鳴らしそう告げる。すると、まるで言葉が通じたかの様に、来るなら来てみろと言わんばかりの反応が返って来るでは無いか。
ならば、遠慮無しに行かせて貰おう。折角両の手が使えると暴露したんだから、本来の立ち回りを披露しようじゃ無いか。
「ハァッ!!」ブォン!!
「gUexi.!」
あたしは、茜丸を一際大きく振り下ろすと、あたしの身体の影に刀身が隠れて、相手から死角になった瞬間を見計らい刀を右手に持ち替える。
同時に、あれだけ大ぶりに振り下ろしたのだから、蟲人から見て今のあたしは隙だらけだろう。勿論それは、あたしがそう誘っているというのは、相手から見てもバレバレだろう。
つまりそれは、あたしからの明確な挑発。それに乗ってこないんだったら、こいつは玉無し――そもそも雄なのか知らんけど――確定だ。
そしてその挑発に、相手は物の見事に乗ってくる。3本残っている腕の内、左側の腕2本であたしの頭と胸の辺りを狙い殴りかかってくる。
それをギリギリまで引き付けつつ、右足を引いてその位置で固定し、軸にして身体毎回転してその攻撃を背中越しでやり過ごす。そして、その彼の熱烈なアプローチへの返事と言わんばかりに、回転の威力を右腕に載せての返し斬り――
「ア゛ァッ!!」
――ギインッ!
それも当然読まれており、残った右腕のガードに阻まれる。しかしそれであたしの攻撃は終わらない。
ガードされるや否や、すかさず腕を引いて今度は左手に持ち替え、そのままにしていた左足に一瞬で体重移動を行うと、姿勢を低くしながら腰のみの力で身体を回転さての逆凪。狙いは外骨格の繋ぎ目、左足の膝の関節部分――
「ッ!?Goi.!!」
――ブオンッ!!
けどその一撃は、残念ながら相手が慌てて飛び退いた所為で、一瞬遅れで空を斬るだけに終わった。しかし、相手はその一撃が予想外だったんだろう、左腕で追撃をしようとしていた所だったから、変な格好で後ろに跳ぶ事になった様だ。
あの体勢なら、上手くいけば有効打を入れる事が出来るかも知れない。元より、余り離れられたら飛ばれる可能性だってあるんだから、距離を置くという選択肢がそもそもあたしの中では無いのだ。
考えた瞬間には、身体が勝手に反応して次の行動に移っていた。体重移動させた左足を軸にして右足を瞬時に整え、腕を引いて刀を水平に構える。
構え終えると同時に、左足で一気に踏ん張って蟲人に飛びかかる。そして、突き放とうとした瞬間、その周囲に再び空間の揺らぎを感知して、忌々しく顔を歪める。
このタイミングで、デコイを召喚しようと言うのは流石だ。この一撃で確実に決められるのなら、無視して押し通るんだけど、流石にそこまで上手くいくとは思っていないので、対処するしか手が無いのを相手も解っているのだ。
――ドスドスドスッ!!
「Gue.!!」
「UroooGI.O!!」
再び、その空間の揺らぎの手前にあたしも眷属を召喚して、相手の眷属が姿を現す前に射殺す。またもや活躍の場を奪われた敵の眷属達が、悲痛な断末魔を上げるけれど、今のあたしにそんな些事は必要ない。
「ハアァッ!!」
「Booi!!」
――カァンッ!!
本来の予定よりも、一瞬遅れて放たれたあたしの突きは、その一瞬で瞬時に体勢を整えた蟲人によって弾かれる。解っていた事とは言え、こればっかりは舌打ちせずにはいられない。
気持ちを切り替えて、再び攻防を再開する。ただし今度は、さっき宣言した通りにペースを上げてだ。
基本的にはさっきまでと同じく、相手に対して半身になり片手で茜丸を振り回す。違いは、左右交互に入れ替えつつ、更に緩急まで付けてより一層太刀筋を読みにくくした、厭らしさMAX仕様でだ。
一見してあたしの方が圧している様に見えるけど、これは精霊界という地の利による恩恵と、あたしの最大の武器である集中力異常を、最大限に発揮しているからこそだ。このどちらかが欠けただけで、勝敗の目が一気に傾くと断言して良い。
それに、一見圧している様に見えるからと言って、だから優位に立っているとは限らない。相手はまだ手の内を隠しているし、力を抑えて居るのが解るし、それに…
一応聞かされてはいたけれど、蟲人族って言うのは本当に魔法を使わない種族なのね…
正確には、『使わないでは無く』ではなく、『使うだけの魔力が無い』らしい。種族的な問題らしいんだけど、蟲人族は基本的に生まれ持つ魔力量が少ない種族で、その魔力をほとんど身体強化に回しているらしい。
それでよく魔法を主兵力としている、この世界に攻め入れるなと真っ先に思ったんだけど、その辺は邪神手ずから、種族単位で加護を与えられているらしい。その加護というのが『魔力障壁』という、ゲームでもお馴染みのアンチ魔法能力だ。
アンチ魔法とは言っても、完全無効と迄はいかないみたいで、上位魔法以上ならその障壁を抜けてダメージが通るらしい。けど、威力がかなり削がれるらしく、上位魔法でも精々下位魔法位の威力にしか成らないそうだ。
精霊達の扱う様な、災害クラスの威力があれば話は別だけど、どんなに高威力な魔法もそう言った理由から、蟲人達を殲滅する決め手にはなりずらく、下手な魔法よりも原始的な物理攻撃の方が有効だったりする。だからあたし――ヴァルキリー・オリジンという、物理特化の精霊が新たに誕生したという訳だ。
ちなみに補足だけど、さっきから相手が眷属召喚を使用しているけど、あれも邪神の加護による物で、上位種以上の蟲人には必ず備わっている能力らしい。更に高位の蟲人――ジェネラルやクイーンと言った存在になると、個体の特性に応じた加護が更に与えられるそうだ。
まぁそれはさておき、相手が手の内を隠しているのと同様に、あたしも手の内を全て曝け出した訳じゃ無い。けど、身体面で言えば割と全力に近いあたしに対して、相手は余力を残している様子だ。
何より、相手の底がまだまだ見えないって言うのは、正直な感想めちゃやばい。恐らく、このまま行ったらジリ貧確定だ。
精霊界に戦いの場を移して、約25分が過ぎようとしている。本気で挑む時の過集中を、こんな長い時間維持してきた事は、正直言って今まで無い。
精々今まで15分位、まさかこんな所で自己ベストを更新するとは、夢にも思ってもみなかったわ。このまま自己ベストを更新し続けたい所だけど、残念ながらいつまでこの状態を維持出来るか、あたしにももう解らなかった。
本気で挑む時の過集中…それを解いた後は、たとえ5分間発動していただけだろうと、必ず激しい頭痛に襲われていた。発動時間が長くなればなる程、頭痛のする時間が延びたりする事を考えると、頭に相当な負荷が掛かっているんだと思う。
幸い、集中している時は頭痛がしないけど、それは単純に集中のし過ぎで、痛みを感じなくなっているだけだから、ハッキリ言って危険な状態なのよね。痛みって言うのは、身体が自我に向けて発信している、危険信号に他ならないんだから。
それがオフになっているって言う事は、例え危険な状態を通り過ぎたとしても、その事に気がつけないって言う事だからね。もしも急に、集中力が途切れたのなら、その時は覚悟が必要だろう。
そんな風にフラグを立てて、それを回収する事になるのは今から6分後――戦闘開始から32分を回ろうとしていた時の事だった。覚悟していた通り、その瞬間は何の前触れも無く、突然やって来た。




