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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第三章 精霊編
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間章・そして集った者達(3)

「ルージュさん!!」

「エイミー殿もお変わりない様で何よりです。」


 姫華に続き、エイミーも彼女の名を呼んで駆け寄って行く。こんな状況で、見知った顔を前にしたからだろう、それまで強張っていた表情が和らいだ様子だった。


 そんな彼女達を微笑みで受け入れたルージュは、ふと彼女達から視線を外して彷徨わせ、首を傾げながら元に戻した。


「優姫さんはどちらに?」

「あ~、優姫なら…」

「ママならシルフィーの所に向かったよ!」

「と言う事は前線に…?それは何と言うか、あの方らしいですね。」

「ウフフ、そうですね。」


 返ってきた疑問の答えを聞いて、苦笑を浮かべつつ納得すると、それはさておきと言わんばかりに、成長した姫華をマジマジと観察し始める。


「しかし、ついこの間別れたばかりで、もうこんなにも成長してしまったんですか?」

「えぇ、まぁ。」

「えへへ!凄い!?」

「あぁ、素直に凄いと思うよ。髪の色が同じだったら、きっと優姫さんだと勘違いしていたでしょうね。」

「本当!?ワーイッ!!」


 恐らくは、優姫とそっくりだと言われたのが嬉しかったんだろう、その言葉に無邪気にはしゃぐ姫華を見て、ルージュとエイミーの2人は、互いに顔を見合わせて苦笑する。


「どうやら、色々あったみたいですね。」

「えぇ、本当に…」

「あっ!?」


 色々察したらしいルージュの言葉に、エイミーが答えようとした瞬間、唐突に上がった姫華の声を聞き、驚きながら視線を移すと、更に驚く様な事が起こっていた。何の前触れもなく、突然彼女の周囲に緑色の微精霊が現れたかと思うと、それらが姫華の中へと吸い込まれていき、それに伴ってただでさえ急成長したその身体が、更に一回り大きくなっていったのだった。


「これは…」

「うん!ママがシルフィーの力を受け取ったみたい。これで姫華達、風の力も使える様になったよ!!」


 その光景を、驚きに目を丸くして見ていた周囲の者達に対し、しかし当の姫華はあっけらかんとした様子で、何時もの屈託無い笑顔を周囲に振りまきながらそう告げた。そしてすぐに、周囲にざわめきが起こるのだけれど、何故そんなに驚いているのかいまいち理解出来ていない姫華は、不思議そうに小首を傾げてきょとんとしていた。


 彼女は、自分達がどれだけ希有な存在なのか、正確に推し量れていないのである。高位の存在から、力を受けて成長していく精霊達にとって、精霊王が精霊王候補に直に力を分け与える事自体は、何ら不思議でもないし、力を受け取った優姫と見えない繋がりを持つ姫華に、その力の一部が流れ込んできたとしても、それ自体はあり得る事なので問題ない。


 彼女達にとって、聞き捨てならなかったのはそこではなく、それで()()()()()()()()使()()()()()()()()と言う彼女の発言だった。


 一部例外は在るものの、元来精霊とは核となる属性のみを扱い、それにのみ特化した存在だというのが、この世界での常識だった。火の精霊が水の力を扱う事は出来無いし、風の精霊が土の力を扱う事は出来無い。


 彼女達は、その膨大な魔力を利用して自然現象に指向性を持たせている為、起こそうと思えば災害クラスの威力を引き出せる。その反面、詠唱や術式の展開などの手順を踏む事で、用途や状況に応じて最適な力を発揮するという、魔術の様な利便性や応用性が無いのだ。


 とは言え、力の行使には魔力を必要とする為、精霊達が扱う力のメカニズムと魔術のメカニズムは、基本的には一緒だと考えられている。更に、魔術特有の手順である、術式の構築と詠唱を使用すれば、精霊達も他属性の魔術を使用する事が理論上可能なのだが、自身の属性に強い執着や誇りを持つ精霊達に、実験とは言え他属性の力を発現させる事は侮辱に値する為、今までそう言った事が行われた記録はなかった。


 そう言った事を踏まえて鑑みれば、彼女達から見て姫華――ヴァルキリーに連なる子供達の権能は、異質その物だと言って良い。先程の姫華の台詞は、正確には属性剣で風の力を発現する事が出来る様になったと言う事なのだけれど、その事を正確に聞かされていない者達からすれば、姫華達武具の精霊は、今までの常識にとらわれない精霊という事に成るのだ。


 現在、ヴァルキリーの権能について、イリナスから正確な情報を受けているのは、今の所各精霊王達とエイミーのみで、この風の谷に来るまで行動を共にしていたアクアにさえ、正確な事は何も教えていなかった。いずれは知れ渡る事だろうし、彼女自身聞かされた以上の事は知らないのに、そんな自分がしゃしゃり出て説明するのもおかしな話なので、ただ1人訳知り顔のエイミーは、周りの反応に対しただただ困り顔で苦笑するほか無かった。


「…本当に、色々あったんですよ。」

「えっ!?あ、あぁ!その様ですね。」


 軽くため息交じりに呟かれたその言葉に、驚きからハッと我に返った様子のルージュが、彼女と同じく苦笑しながら答える。そんな2人の様子を見ても、未だ解っていない様子の姫華は、ただただきょとんとするばかりだった。


『ほぉ~う!そいつが母君から加護を受け取ったって子か。成る程成る程、興味深い能力じゃね~か。』


 不意に、辺りに粗暴な口調の声が響いたかと思うと、ルージュの真横に先程彼女が現れた時同様、赤い微精霊が現れる。ただし、その数はルージュの時とは比べものにならない程多く、それらが集まって人の形を取るにつれて、周囲の温度が一気に上昇する。


「こ、この気配!まさか!!」


 何かに気が付いた様子のエイミーが、驚きに目を剥いて一歩後ずさる。同時に姿を見せたのは、黄金の甲冑を身に纏い、獰猛な笑みが眩しい美丈夫――もとい、美女だった。


「や、やはり!ククリ様!?」

「お~う!エイミー・スローネ。ひっさしぶりだなぁ~!!」


 エイミーの言葉に対し、彼女――ククリ・イフリータは、ギザギザに尖った歯をむき出しにして快活に笑う。その快男児然とした振る舞いでその身体が揺れる度、まるで鱗粉の様に収まりきらない微精霊が舞い上がっていた。


「ククリ、やはり貴女も来たのですね。」

「お~う!イザベラもひっさしぶり~!!お互い、こんな事(邪神の侵攻)でも無い限り、気軽に会え無くなっちまったなぁ~!!」

「そうですね。ですがそうだとすれば、私達(わたくしたち)が再開しないに越した事はないんでしょうね。」

「カッ!あいっ変わらず、生真面目な奴だなぁ~おまえ。」


 気安い感じのククリに対し、苦笑を浮かべながらイザベラが受け答えをしていく。見るからに性格もノリも合わなさそうな2人だったが、そのやり取りには目に見えた親密さが感じられた。


 それもその筈で、彼女達は精霊王を除いて在位一位の高位精霊で、それも神代戦争を生き抜いた精霊王に次ぐ最古の精霊――つまり、イフリータや先代シルフィードが、精霊王となった際に産まれて、その祝福の証として、精霊王達がそれまで名乗っていた名を受け継いだ個体だからだった。


 そして、もう1人――


「なぁ~あ?おまえもそう思わねぇ~か?」

「…へぇ?!」


 不意にそう問われ、その場の視線が一斉にアクアへと向けられる。それに気が付き、間の抜けた声を漏らしながら、自分で自分を指差して視線を彷徨わせる彼女だけれども、勿論ククリは彼女に対して呼びかけたのではなく、彼女のその背後に現れ始めた青い微精霊の群れに対してのものだった。


『それがイザベラの良き所ですわね。それよりも貴女、ちゃんと力を押さえ込みなさいな、全くだらしのない…』

「ぴっ!?ここ!この声は…」


 そして、先程と同じく辺りに声が響いたかと思うと、それに真っ先に反応したアクアが、奇声を上げて身体を強張らせる。そして、恐る恐るといった感じで、自分の背後を確認しようとした所、人型となった人物に両肩を取り押さえられてしまった。


 仕方無く、首だけでアクアが振り返ると、そこに立っていたのは彼女と同じドレスを身に纏った、ウェーブがかった青い髪の美しい、グラマラスな美女が笑顔でアクアを見下ろしていたのだった。


「カカ…カーラ御姉様…」

「2日ぶり…いえ、3日振りかしら?母上の代わりに、妾が様子を伺いに来ましたよ。どうしてそんなに怯えているのかしら?」

「カッ!そんなのぁ~おまえがこえぇ~からに、決まってるだろぉ~がよ。なぁ~?イザベラ。」

「…ノーコメントでお願いします。」

「それは、どう言う意味なのかしらねぇ?」


 カーラと呼ばれた彼女を、よく知るだろう2人にそう言われ、アクアに向けていた笑みを貼り付けたまま、顔を上げて問いただす。それに、意味深たっぷりな意地の悪い笑みを向けて返すククリと、我関せずと言った素振りで、わざとらしく目を伏せて視線を逸らすイザベラ。


「…まぁ、良いですわ。所でアクアマリン。どうして貴女、こんな状況だというのに、魔力が半分になっているのかしら?」

「ギクッ!あわ…あわわわわ、あわわわわ…」


 不意に、再び自分を見据えられて、姉にそう問われた彼女は言葉に詰まり、明らかに狼狽え始める。カーラの表情は笑顔のままなのだが、その肩に置かれた両の手が筈かに食い込んでおり、明らかに機嫌が悪いのが見て取れた。


 それを、周りの者達は瞬時に察知したし、アクアだって流石に気が付いたからこそ、返答に困ってしどろもどろになっていた。それを見かねて、エイミーが助け船を出そうとするも、それよりも一瞬早く無邪気という敵が、アクアに対して牙を剥くのだった。


「あのねあのね!アクア凄いんだよ!!」

「オヒメちゃん!?」

「アクアがグワーッ!て蟲達に向かって行ったらね!!こうバキバキッ!!って全部凍って行っちゃってね!!」

「オヒメちゃん!!そ、そうね!凄かったわね!!解ったからちょっと落ち着きましょう!ねっ!?ねっ!!」

「えぇーっ!?何で何で??」


 興奮気味に、先程のアクアの活躍を語り始めた姫華だったが、慌てた様子でエイミーがその肩を押さえて窘める。しかし時既に遅く、姫華の言葉をしっかりと聞いていたアクアは、真っ青な表情のまま絶句して固まり、その彼女を押さえ付ける様に、目の笑っていないカーラの微笑みが其処には在った。


「あ…の…」

「何か言い残す事は?」

「…助けて下さい。」


 目の据わった笑みを浮かべるカーラの、有無を言わせない問い掛けに対し、言い訳は無駄だと悟ったアクアは、次の瞬間には顔をくしゃっとさせて滝の様な涙を流したのだった。そうなってようやく、カーラはアクアの肩から手を離し、表情を崩して呆れた様にため息を吐いた。


「全く貴女は…考え無しに大技を使う等、感心しませんね。」

「うぅ…ご、ごめんなさい、カーラ御姉様。」

「過ぎた事は良いです。今回は、あの子に免じて大目に見ましょう。えぇっと、貴女お名前は?」

「姫華だよ!!」

「そう、姫華さん。愚妹を褒めてくれてありがとうね。」

「えへへっ!うん!!」


 そう言って、先程までの冷笑ではなく、ちゃんと心のこもった微笑みを姫華へと向ける。その様子を見てエイミーは、ホッと胸をなで下ろすと同時に、なんだかんだで仲が良いんだなと羨ましく思うのだった。


「やぁやぁ!どうやらみんな集まったみたいだね!」


 そして、まるで話が一段落付くのを待って居たかの様に、彼女達の頭上から声が聞こえてくる。その声に、エイミーと姫華は別段気にする事もなく、視線を声のしてきた方角へと向けると、そこには予想通りシルフィードの姿があった。


 しかし、彼女達はそれで良いとしても、他の者達はそういう訳にはいかない。声が聞こえた次の瞬間、2人以外の精霊達は、膝を突いて傅き王の登場に敬意を払う。


「風の精霊王シルフィード様、イフリータ様の名代として第一位精霊ククリ・イフリータ、及び第十位ルージュ・イフリータ参上仕りました。」

「同じく、水の大精霊ウィンディーネ様に代わり、第一位精霊カーラ・ウィンディーネ。そして第二十五位アクアマリン・ウィンディーネ。身命を賭して代わりを務めさせて頂きます。」

「えっ!?わ、私もですか!?」

「…当然でしょう。貴女が居ると解っていたから、他の子を連れてこなかったのですから。だと言うのに貴女は、魔力を大幅に減らして…」

「アバババババ…」


 あくまでも傅いたまま、小声でそんな会話をしている水の精霊組を前に、シルフィードは音もなく彼女達の前に降り立った。勿論、その行為を咎める為に、わざわざ降り立った訳ではなく――


「アハハッ!まぁまぁカーラちゃん、その位でもう許してあげておくれよ。アクアちゃんは、ボクの代わりにフェアリー達を護ってくれていたんだからさ。ボクからしたら感謝の気持ちしかないんだし。」

「そう言って頂ければ幸いでございます。」

「アクアちゃんも、本当にありがとうね。」

「い、いえ!当然の事をしたまでです!!」


 感謝の気持ちと労いの言葉を掛ける為に、わざわざ降り立ったのだけれども、未だ傅いたままの2人に距離感を覚えて、シルフィードは苦笑を漏らした。礼儀は大事という事で、本来ならシルフィードも、それっぽい態度を取るべきなのだろうけど、どうにもそう言った堅苦しい態度が彼女は苦手だった。


 とは言え、自分の娘達が見ている手前、苦手だろうと何だろうと、少しは取り繕うべきだろう。そう思った彼女は、大股に足を開いて腰に手を当て、薄い胸板をこれでもかと張って見せた。


「みんな、よく集まってくれたね!状況は見ての通り、ウヨウヨと蟲共が押し寄せてきているけれど、ココにはボクが居るしキミ達だって居るんだ。こんなに心強い事はないよね。」


 そう言って、態度の他に不敵な笑みも浮かべるけれど、なまじ見た目が子供なだけに、どうしても今ひとつ締まらないのが玉に瑕だろう。だけど、そんな事は本人だって勿論承知の上だ。


 それでも、一生懸命に見栄を張っているのだから、ある程度の事は大目に見てやって欲しい。

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