必殺技を考えよう!(身体は剣で出来てません(8)
「――『流星雨』!!」ヒュンッ、ヒュンヒュンッ――
技の名を声高らかに宣言すると同時、遙か上空から風切り音が聞こえたかと思うと、頭上に広がる分厚い邪蟲の群れに文字通りの風穴がつも開く。そしてそこから、今まで遮られていた陽の光が差し込み、それを浴びて七色に煌めく幾筋もの銀の軌跡が、あたしが指し示した目標に向けて雨のように降り注いでいく。
その光景はまるで、フェアリーテールの一説にでも出てきそうな光景だけれども、そんな可愛げの在る物でない事は、放ったあたしが一番よく理解していた――
――ドガガガガガガがガッ!!ガシャンッ!バキッバリンッ!!………
幻想的な光景の後に、辺り一帯には金属が固い物にぶつかる音と、ガラスが砕けるような音が、轟音となって響き続ける。その音は1分、2分、3分と続いてようやく収まった。そして、地面に打ち付けられた時の衝撃の名残か、地響きのような音と共に、巻き上げられた砂煙がもうもうと立ちこめ、少し離れた場所に陣取っているにも関わらず、あたしが居る場所にまで届いていた。
視界の範囲に人の気配はなく、一瞬シルフィーまで巻き込んだかと思ったけれど、その可能性をすぐに頭のから追い払った。知覚外から超高速で降らせようと、彼女のスピードならばきっと、認識してからでも回避出来る筈だ。
これは単純な過信とかでは無く、彼女のスピードを身を以て体験したからこそ言える、事実に基づい公正な評価だ。その証拠に…
「うわぁ~…エグ、エッグい事するなぁ~…」
突然背後に現れた気配に振り向けば、エメラルドグリーンの髪の少女が、恐ろしい物でも見るような視線で、地響きと土煙とを未だに上げている被爆地を見つめ、ドン引きした様子で呟いていた。予想はしていたけれど、その愛らしい姿に傷の1つ所か、汚れの1つも付いていないのは流石としか言い様が無い。
「優姫ちゃん、顔に似合わずおっかない事考えるんだね…」
「顔は関係ないでしょう!それにあたし、赤い人の技をちょこっと参考にしただけだし。」
「赤い人って誰さ?!」
そりゃ当然、あんりみてっとうんたらかんたら~な人の事よ。まぁ、金色が眩しい人でも良いけれど、そんな事言った所で彼女に理解されないだろう。
なので、ニコッと微笑んで――
「それは言わない約束よ、おとっぁん。」
「ボク女の子なんですけど!?どうせそれも異世界のネタなんだろうけど、そんな話振られても、ボクじゃ判んないからね!?」
笑って誤魔化すと見せ掛けて~からの、更にボケてみました。こんな状況で何やってんだって言われそうだけど、ずっと気を張ってるのも結構疲れるもんなのよ。
それに溜まりに溜まった鬱憤も、今の怒りゲージ3本消費技で大分スッキリしたしね!しっかし、こんなボケにも速攻で反応してくれる辺り、ほんとシルフィーってノリが良くって好きだわ~
「…まぁ、それは良いとしてさ。ほんとえげつない事思い付いたねキミ、正直ドン引きだよ。」
そう言って視線を再び、未だ土煙立ちこめる爆心地へと向ける。軽い口調のその言葉とは裏腹に、シルフィーの表情は真剣その物で、辺りを油断なく警戒しているのが見て取れた。
それにつられて、あたしも問題の場所へと視線を移す。巻き上がる土煙が濃い所為で、動く影は一切見えないけど、これで終わったとは流石のあたしも思っては居ない。
「あれだけの威力だし、相当魔力を使ったんじゃないかい?応援に来てくれたのは嬉しいけれど、もしそうならボクに任せて下がっててよ。」
「あら、心外ね。あたしが何の考えも無しに、大技ぶっ放したとでも思っているの?ちゃんと後の事を考えて、ペース配分しているから安心して頂戴。」
「へぇ?とてもそうには見えなかったんだけれど…いったいどう言う絡繰りなんだい?」
視線はお互い爆心地に向けたまま、油断なく辺りを警戒しつつも、世間話でもするかの様な気軽さで会話を続けている内に、ふとそんな風に聞かれて逡巡する。さて、ここで正直に答えるべきか、それとも否か…
あたしの言葉に嘘は無い。見た目はド派手だけれども、さっきの『流星雨』で消費した魔力と言うと、眷属のコピーを500本召喚した事と、それを目標に向けて打ち出した事に使った分だけだから、実際全魔力分の1割にも満たない位だ。
種明かしすると凄い単純な話なんだけれど、さっきの一撃に使用した眷属のコピーは、今し方必要にかられて複製して作った訳じゃ無くて、前もって用意していた分だった。何時から用意していたかと言うと、帝都で異世界の武器を眷属にしたあの時からだ。
『流星雨』のイメージ自体は、この世界に留まると決めた時、いずれ来るだろう邪神の軍勢との戦いを覚悟した時から、既に漠然とだけど出来ていた。その時点で、すぐに浮かんだ問題点の内一番の問題だと思ったのが、眷属の複製をその都度用意しないといけないと言う点だった。
1本2本の眷属を複製するだけならまだしも、数十数百の眷属を1度に複製するとなったら、当然相当な魔力が必要になってくるし、その分の時間だって掛かってしまう。変身ヒーローの変身シーンを、律儀に待機して待ってくれる敵の様に、あたしの時も待ってくれるというのなら、それでも問題ないけれど、そんな事を相手に期待する程愚かじゃ無い。
だから実を言えば、思い至ってすぐに致命的なまでに非効率過ぎて、廃案にしようとした技だった。だけど、致命的とも言えるその欠点を、改善する方法を見つける事が出来た。
切っ掛けは2つ在る。1つはイリナスとの面会の後、宿屋でエイミーの帰りを待ちながら、兼定のレプリカを作成していた時だ。
あの時は、単純に自分の置かれた現状を整理しつつ、精霊としての能力『複製』についての検証を行っていた。その際、作成したレプリカに追加で魔力を込める事によって、重さや形状をある程度自由に変更する事が可能だと言う事に、その時初めて気が付いた。
そして2つ目の気掛けが、その翌日に赴いた王宮で、地球製の武具を眷属化して暫く経った後の事だ。あの時、銃火器を眷属化させて、一緒に銃弾や矢と言った所謂消耗品も眷属化させたのだけれど、それらがあたしの意思に反して勝手に増えている事に気が付いた。
増えた分は勿論コピーだったのだけれど、問題はそこじゃ無くて自動で増えるという点だ。何故増えたのかは、その時は判らなかったけど、仮にもし自動複製なんて能力を、レプリカとして作った武具に付与する事が出来れば、致命的だった問題が一気に解決するのでは無いかと考えた。
何よりも、これはゲーム脳だけれども、時間が経てば体力が回復するように、魔力も時間の経過で回復していく。ゲームのように数値表記が無いのが不親切だけれども、同じと考えて数値に頭打ちが在るとするのなら、回復の上限に達してしまったのなら、それ以上は回復しないのは道理だし、回復する筈だった分の魔力が勿体ない。
そう考えたあたしは、ダメ元で投擲に適した柳葉刀や西洋刀の中でも、重心が剣先に在る物を見繕って、それらのレプリカを作成して能力の付与に成功した。大体1時間に3本くらいのペーズで、増え続けるコピー眷属達は、あたしの狙い通り余剰魔力内で収まっている。
昨日のガイアース戦を経て、精霊としての位階が高まったと同時に、回復速度と回復量も増えている。抜かりなくその点も考慮して、その日の内に複製能力付きのレプリカを増やしていた。その総数はなんとビックリ、今や大体1万本以上。
馬鹿げた数だけれども、精霊界なんて異世界物でお馴染みの『アイテムBOX』みたいな空間が、イリナスの計らいで用意されているんだから、それを最大限に活用しない手は無い。これで、ネックだった複製時の魔力消費と複製時間が、両方一気に解決出来た。
それが解決出来れば、残る問題は粗悪な複製品故の強度と威力の問題だった。その2つの問題は、先程も語った通り召喚位置を遙か上空に設定して、力学を応用する事によって解決済みだ。
単純に投げつける様に打ち出すよりも、上空から打ち出した方が、自重で勝手に加速して威力が跳ね上がるし、何よりも魔力が少なくて済むからね。当初は追尾ミサイルの様な動きも考えたけど、それだと操作する為に余計魔力が必要になってくるし、何よりコピー眷属じゃ威力がそこまで期待出来ない。
問題点を1つ1つクリアしていき、今の形に落ち着いた結果、『流星雨』発動に要する魔力は、必要数の召喚に掛かる魔力と打ち出す為の魔力のみという、コスパ的にもかなり優秀な必殺技になったのは嬉しい誤算ね。まぁ、かなり上空から打ち出すから、発動から着弾までにタイムラグが発生するって欠点も在るけれど、それを物ともしない性能だと自負している。
それを得意げに語りたい気持ちは、少なからず在るのだけれど、素直に従うべきか悩む所だった。当然、今そんな事を悠長に説明している暇が無いと言うのも在るけれど、今後の事を考えれば、誰彼構わず手の内を明かす様な真似は、やはり控えるべきだろう。
別にシルフィーを信じていない訳じゃ無い。信用に足ると思うし、好感も持てる人物だけれども、全幅の信頼を寄せるには、流石に共有してきた時間が少な過ぎるからね。
なので結局、少し悩んだ末にあたしは…
「…それも聞かない約束よ、おとっぁん。」
「いやだから、ボク女の子だかんね!?せめてお母さんって呼んでよ!!」
心苦しいけれど、ボケて暗に説明を拒否する事にした。それを瞬時に理解したんだろうシルフィーは、持ち前のノリの良さから間髪入れずに突っ込んでくる。
そんな突っ込みで良いのかと思いつつ、警戒も忘れて思わず苦笑するあたしに対し、彼女はフンと鼻を鳴らして、少し緩んだ空気を吹き飛ばした。そんな風に、気を張りつつも馬鹿な事を言い合っていた、まさに次の瞬間――
「「ッ!!」」ズズズズ…




