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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第三章 精霊編
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必殺技を考えよう!(身体は剣で出来てません(4)

「…はい?あ、優姫!良かった、無事だったんですね!」


 あたしの声に気が付いて、見知った背中の彼女は振り返る。燃えさかる火柱を背にしているにも関わらず、あまりにも普段と変わらない自然な仕草を見せるエイミーに、あたしの思考が一瞬フリーズする。


 …あれ~?なんか、あたしの思っていた反応と違うぞ~?こんな状況だって言うのに、緊張感が無いと言うか、落ち着き払っているというか…


 別に、映画のワンシーンに出てきそうな、戦場で離ればなれになった2人が再会して、お互いの無事を確かめ合って抱擁するとか、そういった展開を期待していた訳じゃ無い。けれど、街で偶然すれ違って呼びかけられたから振り返りました、みたいな状況じゃ無いって言うのに、『無事が当然ですが何か?』みたいなその反応はなんぞ?


「…優姫、どうかしたんですか?呆けたような表情をして。私の顔に何か付いていますか?」


 未だ燃えさかる火柱を背に、不思議そうな表情で可愛らしく小首を傾げるエイミー。その仕草は、紛れもなく普段の彼女のそれなんだけれども、バックにしている背景が余りにも非現実過ぎて、違和感が半端ないっす。


 その可憐な仕草が、余りにも小動物チックでつい忘れがちになるんだけれど、その見た目とは裏腹に、エイミーってば戦争ガチ勢なのよね。今まで話の中でしか聞いてこなかったから、実際に目の当たりにしてギャップに驚いちゃったけど、この程度の邪蟲の侵攻なんてとっくに経験済みなんでしょうね。


 幾度となく経験してきて、その都度生き延びてきた正真正銘の英雄なんだ。精霊を同時召喚出来るようになった今、あたしが心配しなくても彼女は、自分の身と周りの人達を護る位の事、簡単にやってのけて当然なのよね。


「やはり、心配するまでも無かったようですね。」

「えぇっと、貴女は…」

「イザベラと申します。面と向かってお会いするのは、これが初めてですね。金色の精霊姫エイミー・スローネ様。」

「イザベラ…もしや先代の…」


 まるであたしの心中を代弁するかのように、エイミーの無事を確信しきっていたイザベラの言葉で、彼女達の会話が始まる。そして、イザベラの自己紹介を聞いたエイミーが、無意識だったんだろう、驚きにうっかり口走ったと言った感じで語り、慌ててその後に続く筈だった言葉を飲み込んだ。


「…すみません。」

「いえ、お気になさらないで下さい。」


 すぐさま非を認めたエイミーは、申し訳なさそうな様子で肩を縮め、謝罪の言葉を述べる。それに対しイザベラは、困った様子で苦笑しながらそう言って彼女を気遣った。


 それを横目に見ながら、エイミーが飲み込んだ言葉を勝手に予測して補完し、内心で1人納得する。かつて、神代戦争の引き金となった事件で処刑された3柱の大精霊の1柱、先代風の大精霊シルフィード。


 争いを拒み、平和を願った気高いその人物は、現シルフィードの母親であり、恐らくはイザベラの産みの親でもある人物――


 なんとなく、彼女に違和感を感じていたんだけれど、その理由はこれね…言われてみれば確かに、ガイアースに見せられた過去の記憶に出てきた、先代シルフィードにどことなく雰囲気も似ている。


 シルフィーとイザベラが並んでいる所を、実際に見た訳じゃ無いから想像でしか無いけど、その光景を見たらきっと、『母娘』と言うよりも『姉妹』のように思っただろう。イザベラが姉でシルフィーが妹に違いないわね。


「ママ~!!」


 不意に、聞き慣れた声に呼ばれて振り返ると、オヒメが空を飛んで抱きついてくる。それを胸で受け止めると、そこから満面の笑みを向けて興奮気味にしゃべり出す。


「ママ!ママ!!聞いて聞いて!!エイミー凄いんだよ!!たった1人で敵をやっつけちゃったの!!」


 鼻息荒くまくし立てるオヒメに苦笑しながら、その言葉に同意するように首肯する。こんなに興奮しているオヒメなんて、見た事無いから内心ビックリだけど、ともあれ変な空気になりかけていた場の雰囲気を、一気に変えてくれた事は素直にありがたい。


「そうなんだ。ところでアクアはどうしたの?」

「私ならこっちですよ。」


 と、聞こえてきた返事に視線を向けると、今し方オヒメがやって来た方向の先、少し離れた場所の岩壁の付近で、十数体のフェアリー達を背に庇って立っているアクアの姿があった。それを目の当たりにしたあたしは、彼女の事を半眼で見つめる。


「…無いわ~。エイミー1人に闘わせるとか、ほんと無いわ~…」

「ちょ!!違いますって!!エイミーさんがイフリータ様の力を顕現させようとするのが解ったので、私の水の力でフェアリー達を保護してたんですよ!!」


 あたしの冗談を真に受けたのか、慌てた様子のアクアがそうまくし立て、それを見て思わず苦笑する。ゲームなんかでもお馴染みだけど、この世界にも属性の優劣という物がある。


 風精種であるフェアリー達にとって、イフリータの炎は天敵その物だ。なら他の精霊王の力を顕現させれば良いと思うかもしれないけれど、炎の精霊の力は問答無用で攻撃に特化してるし、彼女はイフリータから直々に加護まで貰っている。


 正にこのタイミングでこそ、その火力が遺憾なく発揮されるべき状況だろう。まぁでも、アクアがこの場に居なかったらきっと、エイミーはイフリータを召喚しようだなんて、微塵も思わなかったんでしょうけどね。


 アクアが居てこそエイミーが十全で戦えたと言っても良く、彼女の功績は実に大きい。けれど、この子からかうと反応が面白いのよね~


 全てそこの部分に尽きますね!いじめっ子気質な女でサーセン。


「冗談よ。ちゃんと解ってるってば~」

「…ほんとですか~?」


 あたしの言葉にふて腐れ気味の彼女が、訝しがるようにジト目になって聞き返す。それを見て、更にイジりたくなる気持ちを抑えながら首肯した。


 本音を言えば、もう少しからかっていたいんだけれども、流石にそんな事を悠長に言っていられる余裕は無いらしい。


『マスター!来ます!!』


 気持ちを切り替え、あたし達を標的に追いかけて、やっと追いついてきた邪蟲達へと視線を移す。落ち着いてキャッキャする為にも、あれをとっとと片づけなきゃいけない。


 そう思って一歩踏み出し、夜天と銀星を改めて構え直した。と、その時…


「良い機会です!私もやれば出来る子だって所、優姫さんにもちゃんと見せてあげます!」

「え、あっ!ちょっと!!」


 気が付いた時には既に、アクアは宙を滑るように飛んで、制止するあたしの言葉を振り切って、迫る邪蟲達へと向かっていく。彼女の通り過ぎた後には、まるでドライアイスを水に加えた時に出来るような白い冷気が、飛行機雲のように尾を引いていた。


 それだけに留まらず、彼女が飛び立ったと同時に周囲の気温がぐっと冷え込み、辺り一帯の空気中に含まれている水分が、一気に凝固し始めて地面に霜が降り始めた。明らかに、銀星の張った氷の結界の時よりも温度は低く、範囲も規模も数段上だと言う事が解る。


「行きます!!ママ直伝!『凍て付く世界』!!」


 そして、恐らくは技名なんだろう言葉と共に、アクアの進む進路上がバキバキと音を立てて凍り始める。その氷は、放射状に広がっていき、迫っていた邪蟲の群れに達したかと思った瞬間、まるでピタッと時が止まったかの様に、飛ぶ姿の状態で分厚い氷の壁に閉じ込めていく。


 意思を持っているかの様なその氷壁は、まるで鯉が滝を遡るかの様に、天へと続く黒い柱を飲み込んでいった。ある程度の高さに達した所で、ようやく氷壁の侵食は収まり、自重に耐えきれなくなったのか、止まったと同時に中程から瓦解し始め地面に降り注いだ。


「フフン!どうですか!?見直しましたか!!」

「え、えぇ。正直想像以上だったわ。」

「そうでしょうそうでしょう!」


 氷漬けとなった世界で、動く物がただの1つも無くなったのを確認した後、あたし達に背中を向けていたアクアが、うっすい胸を反らしながら得意げに振り返り、ドヤ顔で聞いてくる。たった一瞬で、目の前に広がる光景を、全て氷漬けにして見せた彼女の実力は、確かに凄いと思う。


 正直に言って、想像していた以上にとんでもなく、余りにも圧倒的な力だと感嘆した。例え今の一撃が全力で、あたしでも解るくらい彼女の魔力が減っていたとしても、それに見合った威力と効果で、今後の扱いを少し改めようと改心した位には驚いている。


「確かに凄くて見直しはしたんだけど…」


 そう言い淀みながら、余りの寒さに身震いしつつ、半眼になりながら後ろを振り返る。確かに高威力で圧倒的な力だったけど、それは同時に周辺に与える影響も同じぐらい凄いという事で…


「ア、アクアさん!いくら何でもやり過ぎですよ!?」

「マ、ママ寒いよ~!!」

「え~ん!「イザベラ様~!!」


 振り向いた先は、思った通りの阿鼻叫喚だった。思いっきり薄手のノースリーブを着ていたエイミーは、顔を青くしながらガタガタと震え、炎属性のオヒメさえ、余りの寒さにあたしの背中にひっついて離れようとしない。


 挙げ句、フェアリー達はと言えば、冬場の猿山で見られる猿団子ならぬフェアリー団子となって、その状態で器用に宙を移動しながら、イザベラに向かって助けを求めていた。そんなフェアリー達の言葉に反応して、イザベラでさえ少し慌てている様子だった。


「…あ、あれ?」


 一通り視線を巡らせた後、アクアの呟きを耳にして尻目にその姿を確認すると、さっきまでのドヤ顔は何処へやら、目を点にして固まっていた。どうやら、この状況は彼女も想定外だったらしい。


 人の事を言えた義理じゃ無いけれど、後先を余り考えない、なんともアクアらしいこの結果に、思わず吹き出しそうになりながら、やっぱり今後も変わらず彼女をイジっていこうと、強く心に決めましたとさ。


 それはさておき、改めてアクアが起こした現象に視線を向ける。彼女の居る部分を境界に、その先は見える範囲が一面完全に氷に覆われていて、何処まで続いているのか解らない。


 上位精霊だと思って、侮っていた訳では決して無い。トパーズの妹達と手合わせした時は、上位精霊の子達を翻弄して見せたけれど、あの時はかなり卑怯な手を使っていたと自覚しているし、何よりも完璧にあたしのペースだった。


 だから、あんなのが彼女達の実力だったとは、まるっきり思っていないけれども、同じ上位精霊であるアクアが、これだけの事が出来たんだから、きっと彼女達にも同じ規模の事が出来ると、そう思っていた方が良いだろう。


 とするなら、今や同じ上位精霊に位階が達したあたしにも、同等の事が出来ると言う裏付けでもある。だけど今後、あたしなりの力の使い方を模索する上で、余り参考にならないのが残念ね。


 それよりも、握りしめた柄から悔しそうな銀星の念が伝わって来るのが問題ね。同じ『水』属性の精霊として、格の違いを見せ付けられちゃったんだから。


 精霊としての位階は、未だ下位止まりの夜天と銀星だけれども、装備する事であたしの魔力サクセスする事が出来るようになる。つまり、一時的にだけど上位精霊と同等の力が行使出来る筈なのよ。


 けど現状出来る事は、アクア達のような自然災害級の現象の喚起ではなく、一般的な魔法の使用止まり。純属性精霊の彼女達とは、そもそも精霊としての在り方が違うとは言っても、目の前でまざまざと見せ付けられたら、誰だって思う所の1つや2つはあるって物よ。


 まして、真面目で責任感が強く、向上心もある銀星なら尚更ね。一方の夜天はと言えば、普段は怠そうにしているけど、あれで結構達観しているから、人は人で自分は自分って、あっさりと割り切っちゃってるみたいだけど。


 銀星も夜天のそう言った部分は、もう少し見習うべきかも知れないわね。向上心があるのは、もちろん良い事なんだけれど、上ばかり見ていると首が疲れちゃうし、何より足下がおそろかになったら意味が無いんだから。


『気にし始めたら、果てなんて無いよぉ~?気楽にいこうよ、気楽にさ~』


 そんなあたしの思いを感じ取ったのか、間延びした夜天の言葉があたし達にだけ伝わる。それに銀星は反応を返さなかったけれど、それが金言に聞こえたあたしは、自嘲気味に苦笑しながらため息を吐いた。


「…そうね。隣の山の頂が、少し高く見えるだけなのよ、きっと。」

『マスター…』


 夜天の言葉に賛同し、ため息と一緒に言葉を吐いて、そこでようやく銀星が反応を示した。確かに他人と比べ始めたら、自分に無い物ばかりが目に付いて、きっと果てなんて無いだろう。


 無い物を求めて努力して、それを手に入れたとしても、その時点でまた他人と比べて、また自分に無い物が目についての繰り返し。自分もそうだったから、今の銀星の気持ちは凄くよく解る。


「悔しいと思える気持ちは、自分自身を成長させる糧になるのは確かよ。だから、その気持ちが続く限り、前へと進む事が出来る筈。」


 負けん気が強いからこそ、あたしも高みを目指して今まで突っ走って来れた。目指す先が明確に見えているなら、そこを見据えて歩き続ける事もきっと出来る。


 けど――


「前を見過ぎて、肝心な事を見落としちゃ駄目よ?」

『肝心な事…ですか?』

「そ。あなた達はあくまでも武具の精霊で、アクア達とは違うんだから。そもそも、精霊として過ごした年月からして、何もかもが足下にも及ばないんだし。」

『そうかもしれませんが…』


 あたしの言葉に、不服そうな銀星の言葉が返ってくる。結果を出す事に夢中になっていた頃のあたしだったら、きっと同じ様な反応を示したんだろうなと思い、再び自嘲気味に苦笑を浮かべた。


「あなた達は、精霊としてまだ始まったばかりじゃ無い。在り方だってそうだし、戦い方だってまだ手探りの状態なのに、隣の芝生を羨んだって仕方無いわよ。アクアやイザベラ達の様な事が、今後同じように出来るとは限らないけれど、あなた達に出来て彼女達に出来無い事だって、今の段階でちゃんと在るんだし、それをこれから伸ばしていけば良いのよ。」

『そうだよ銀~悔しがる事なんて無いじゃない。』

「あなた達は、あなた達のままで良いのよ。そのままで長所を伸ばしていけば、自ずと結果がついてくるんだから。」

『そ~そ~』

『…はい。』


 2人がかりで諭して、ようやくといった感じで同意の返事を返してくる。その反応を見るに、理解はしたけど、納得は出来てないんだろうなと思いながら再び苦笑する。


 一見しっかりしているように見えて、実は銀星って凄く子供っぽいのよね。まぁ、そこが凄く可愛い所でもあるんだけどね。


 あたしも聞き分けが良い方じゃ無かったからね~ママの気持ちが、今になってようやく解った気がするわ。きっと、今のあたしと同じ様な気持ちだったんでしょうね。


 まぁ、それはさておき…余り考えたくは無いんだけれど、もしかしなくても現時点で一番火力不足なのって、実はあたしじゃね?


 高位精霊のイザベラは言うに及ばず、元々金等級だったエイミーの実力だって、疑う余地は無かったし、上位精霊のアクアの力に至っては、今目の当たりにして驚いてる真っ最中だ。比べるべきじゃ無いって、今し方思ったばかりだけれども、自分以上の力を持った人達に、こうも周りを囲まれたら、肩身が狭くて仕方ないじゃない。


 ガイアース戦を経て、あたしも大分チート臭くなってきたって思っていたけど、井の中の蛙とは正にこの事よね。召喚されたら、周りの人達があたし以上にチートだった件について。


 この内容で、小説が一本書けそうな気がするわ、割とまぢで…パワーバランスぶっ壊れの糞ゲーかってのよ、ほんと…

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