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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
二章 激突!武田vs徳川 三方ヶ原の戦い
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97前世での左近と信長の出会い(左近のターン)

「殿、明智家、斎藤利三様、お越しにござります」


「うむ、来たか通せ」


 謁見の間の上座に座る信長と、脇に控える木下藤吉郎(秀吉のこと)のもとへ、明智光秀が家老の斎藤利三が、現代の高校生時生カケルと魂が入れ替わった関ケ原の戦いに散った嶋左近こと、名を渡辺勘兵衛と改めた口元にそれらしくチョビ髭をつけた若武者、勘兵衛を伴って現れた。


 信長は勘兵衛を一目見るなり、


「そ奴は、何者じゃえらく若いの、内蔵助(斎藤利三のこと)そなたの家来か?」


 斎藤利三は、平伏してかしこまって、


「はっ、こ奴はそれがしが新しく登用いたしました渡辺勘兵衛にござります。これ、勘兵衛、大殿へ挨拶せぬか」


 勘兵衛は、いや、嶋左近は信長に会うのが初めてではない。現在いま(一五七三年)とは時間はづっとあとの信長が拠点を近江、安土に移したころ、大和の筒井家で家老を務めていた折に、臣従した主、筒井順慶とともに出会っている。





 その時の信長の印象は三十後半の脂の乗り切った頃で、裏切った浅井・朝倉連合軍を姉川の戦いにおいて撃退し勢いを増した絶頂期にあった。


 信長は、西洋式の鉄の鎧を真っ黒に塗り、肩には、赤いマントを翻していた。


(信長の異風好みは噂には聞いておったが、まさか、これほどまでとは……)


「お主が、あの松永久秀と五分にやりあっておる戦目付か、名をなんと申す?」


 信長は、臣従にやって来た主でまだ若い二十二歳の若造、筒井順慶の頭を越えて、脇に控える左近を戦目付と見て取り直接語り掛けた。


「はっ!」


 左近は、信長直接の質問を、一旦おいて、「答えてよいか」を主、順慶を見て確認を取った。


「左近、構わぬ。信長様に申し上げろ」


「はっ、某は、筒井家家臣嶋左近と申します」


 信長は、うんうん頷いて、


「おお、そなたが、噂の嶋左近か、あの戦上手の松永久秀のじいに、一歩も引かぬ戦器量を見せて、キリキリまいに、ことごとく跳ね返したそうじゃな?」


 左近は、戦働きの武骨者とは思えない涼し気な白い歯を見せて、


「某は、必死に戦ったまでのこと、松永殿に屈せなんだはただの天運にございます」


「ほう、お主が勝ったは天運ともうすか、しかし、その松永久秀奴が申すには、お主を、今楠公いまなんこう(鎌倉時代のゲリラ戦で名を馳せた武将、楠木正成くすのきまさしげのこと)だと、申しておるぞ」


 左近は、かぶりをふって、


「いやいや、信長様、あの老獪な松永久秀殿のこと、そのわたくしめの人物評も、策略やもしれませぬぞ。わはははは~」


 信長は、嶋左近という人物に興味をもったように身を乗り出して、


「おもしろい男じゃのう。聞けば、お主、若き頃、あの信玄坊のところに居ったそうじゃの?」


(来たか! さすが信長じゃすでにワシの過去の経歴まで調べ上げておる。簡単にとぼけてしらを切りとおせるものでもあるまい……ならば)


「いかにも、信長様、よくご存じで、確かに某は若き頃武田家へ一時的に仕えておりました。されど、それは真に一時期のものでたいした役も与えられぬ兵卒にござれば、なんということはござりませぬ」


 それを聞いた信長はギロッとした目を向けて、


「おかしいのうワシの聞いた話じゃと、お主は、あの武田の代名詞、赤備えの山県昌景の一番隊隊長として活躍しておったそうではないか」


「おお、よくご存じで、いかにも、某は、山県昌景の一番隊隊長を務めておりました。戦場においては風林火山、”風”の将として駆け巡りました」


「だろう、そして?」


「はっ、三方ヶ原にても徳川殿とも戦い申した」


「徳川の本多忠勝とはどうだった?」


(信長はそこまで知っておるのか、いっそ、すべてを話してしまおうか……)


「良くいえば五分。しかし、某には、山県昌景殿も、あのお館様(武田信玄の事)もご健在でありましたからな、真の意味では五分とはいえますまい。あの劣勢で、勢いをたった一人で跳ね返した本多忠勝殿の獅子奮迅の活躍には五分の条件なれば敵いますまい」


「謙遜するな左近よ。ワシはなにも、そのことを咎め立てて、そなたを処断しようというのではない」


「ならば?」


「左近よ、筒井を辞してワシに直接仕えぬか?」


「それは、信長様……」


 いきなりの信長の申し出に、左近よりも、主の筒井順慶が慌てふためいた。


 筒井家にとっては、左近はお家の柱石、戦はもとより、政治まつりごと、此度の外交においても、その判断する慧眼に並ぶものはいない。


(左近が筒井を去ってしまっては、お家は亡くなってしまう。それならば!)


 筒井順慶は、意を決して、左近を誘う信長との会話に割って入った。


「信長様の申し出はもっともにござる。この順慶恐れ入りました。しかし、この嶋左近は筒井家の柱石なれば代わりが利きません。なれば、筒井全軍の指揮権をこの左近に任せることにいたします。それなれば左近は信長様の直臣も同然いかがにござる?」


「順慶よ、そなた、自己から、左近の傀儡となると申すか?」


「さようにござる」


「ならばよし! 左近はそのまま筒井に在って、この信長に仕えよ」


 と、信長は納得して立ち上がって謁見の間を行こうとした。


「あいや待たれよ信長様、それでは、左近の面子が立ちませぬ」


 信長は立ち止まって、


「なに?! 面子とな?」


「左様にござります。信長様の言葉に従うと、某の臣としての忠義が立ちませぬ」


「臣としての忠義か」


「どうしても、信長様のおうせを押し通すならば、某も乱世の梟雄と渾名される松永久秀と変わりませぬ。それならば、ここで、腹を掻っ捌いて果てるまで」


 と、いって、左近は、肩を脱いで、短刀を抜いた。


「待て、左近! お主の忠義立てはわかった。お主を失うぐらいならば、そのまま、筒井に仕えよ。筒井は臣従したによって、ワシの家来じゃ。その家来のお主もワシに仕えておるのも同じこと、早まるな!」


 左近は、ゆっくりと、短刀を閉まって、脱いだ肩を戻し平伏した。


「さすがは、信長様、某の心を聞き届けてくだされた。かたじけのうござります」


 信長は、(力では思い通りにならぬ、小憎らしいやつめ)といった表情を浮かべて、


「うむ、左近あっぱれじゃ。筒井家の為、ワシの為に励めよ」


 そう、言い残してさっていった。


 それが、前世での左近と信長の出会いであった。




 しかし、今回は、姿かたちも違うし、仕える主も違うし、名も違う。


「渡辺勘兵衛とやら、聞かぬ名じゃが、どのような奴じゃ?」


 と、信長が尋ねた。




 つづく




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